【R18】学園有罪迷宮
生徒会室の豪奢な椅子に深々と背を預け、御神楽弥生――即ち俺は膝を組んで足を机の上に投げ出した。誰かに見られたならば、行儀が悪いと眉を顰められるのは必至。だが、俺には此処では、そうする権利を保障されている。
この生徒会室は、そしてこの鳳凰学園は、俺様の王国だ。
ばりばりと銀紙をはがして、板チョコを噛む。
静かな室内にバキリと音がこだました。口の中で固い物が熔けていく。甘い。
他の役員達が顔を出す前の早朝。
まだ午前五時だ。
誰もいない生徒会室、未だ薄暗いその部屋で、俺は今日も待つ。
ノックがしたのはそのすぐ後のことだった。
「いるのは分かっている、鍵を開けろ」
「これはこれは風紀の委員長様。見回りご苦労様」
座ったまま俺がそう言うと、扉越しに溜息の気配がしてから、鍵がまわった。
風紀委員長は教職員厳重管理の部屋以外の合い鍵を全て持っているのだ。
「御神楽こそ毎朝毎朝ご苦労だな。そんなに仕事が立て込んでいるのか?」
「は? 馬鹿にしてんのか? この程度の量三十分もかからずに終わる」
「じゃあどうして毎朝こんなに早いんだ?」
「眞田の顔を見に来てやってんだろうが」
「ッ」
率直に言った俺に、風紀委員長眞田一臣は息を飲み、あからさまに視線を背けた。
生徒会と風紀委員の仲は悪い。
それは周知の事実だ。
けれど俺は眞田のことが気に入っている。
「この俺様が貴重な時間を使ってやってるんだからな。感謝しろよ」
冗談めかしてそう言った俺は、実のところ、本当に多忙だったりする。
生徒会の仕事は激務だ。
溜息を漏らしそうになったが、そんな姿は見せたくないので噛み殺す。
そして何とはなしに疑問を告げた。
「それにしても生徒会室への見回りは、どうしていつも眞田なんだ?」
「――……別に」
「へぇ」
対して興味もなかったので、頷きながら、書類の束をひとつ取る。
三十分は、少し盛ってしまったかも知れない。
全部消化するには二時間前後はかかるだろうな。今日は風邪気味なのか、チカチカと目眩がするし、余裕を見て三時間という所だろう。
そんなことを考えていた時だった。
ピトリと後ろから額を触られた。
「熱があるじゃないか。顔色が悪いと思ったら」
「この俺様に気安く触って良いと思っている神経が信じられないな」
「保健室に行くぞ」
「まだ先生も来てないだろ」
「合い鍵がある」
「行ってもどうせ体温計が置いて有るくらいだろ。そんなもん、生徒会室にだってある」
「ならさっさと出して測れ」
普段よりも眞田の声が低い。こういう時面倒見の良い眞田、俺が気に入っている部分の一つだ。常時だったら、黙っていろ構うなで片づけてやる所だし、触ったことなど決して許してはやらないのだが、まぁ甘く見てやっても良い。
ピピピピピピと電子音が響いたのは、三分後の事だった。
――38.7℃。
咄嗟にその温度を掌で書くし、俺は微笑した。
「7℃ジャスト。微熱だな」
「見せてみろ」
「お前に指図されるいわれはない」
眞田の性格上、この熱を見せれば、今日は安静にしているよう要求される気がした。
無論それを守る義務など俺にはないが、生徒会の仕事を抜けることになる可能性を考えると気がひける。勿論他の役員に移すわけにはいかないから、書類だけ持って他の部屋に移動するのだが――そうだな、弟の部屋だとか。だがアイツも風紀委員だ。眞田にこの熱がバレれば、異動先として使えなくなる。
「見せろ」
その時眞田が詰め寄ってきた。俺は体温計を握りしめたまま、反射的に一歩下がる。すると真後ろは壁で、逃げ場を失った。
「こっちに来るな」
「だったら素直に見せろ」
「来るなって言って……っ……」
言いかけた時、唐突に胸が苦しくなって、大きな咳が出た。
何度も何度も咳が出て、喉からは変な音がする。
ひゅーひゅーと鳴る音に、不味い、ぜんそくの発作が起きそうだと、目で自分の鞄の在処を捜した。気づけば俺は、壁に背を預けたまましゃがんでいた。
体温計を取り落とす。
「御神楽!? 平気か!?」
「っ、く、は、か、鞄……鞄を……」
「これか!?」
それから眞田が取ってくれた鞄から吸入器を取り出して、俺は口へとあてがった。
気づけば俺の背を眞田が支えていてくれた。
段々胸が楽になってきてから、おそるおそる眞田を見れば、彼の視線は床に落ちた体温計に釘付けになっていた。
「誰が何℃だって?」
「うるせぇな。もういいだろ、出ていけ。見回りの仕事に戻れよ、風紀の委員長様――その、ちょっとは助かった」
「戻れるわけがないだろう。立てるか?」
「……床が冷たくて気持ちいいんだ。此処に座ってる自由くらいこの俺様にはある」
「馬鹿が」
「! ちょ、」
眞田は吐き捨てるように言うと、抵抗しようとした俺には構わず、抱き上げた。
俗に言う姫抱きという奴だった。
そのまま生徒会専用の仮眠室の扉を開けられ、寝台の上に下ろされた。
身長は俺より少し高いくらいだが、見目は兎も角実際の筋肉の付き方としては、眞田に軍配があがっているらしい。軽々と俺を抱き上げ腕は、よく引き締まっていた。
「夕方も、最後に見回りに来る。それまで大人しく寝ていることだな」
「眞田の言葉を守る必要なんて俺にはない」
「言い直す。心配だから寝ていて欲しい」
「……心配?」
「犬猿の仲の風紀委員長が心配したら悪いのか?」
眞田はそれだけ言うと、仮眠室から出て行った。
――心配。
俺様は俺様なのだから、こんな些末な体調不良であっても、心配されて当然だとは思う。
だがよりにもよって敵対している風紀委員長に、率直に心配していると言われる日が来るとは思わなかった。
最もその敵対というのも、俺が眞田を気に入っているから、遊ぶと面白いから煽っているだけである。
そんなことを考えながら天井を見ていたら、それが歪んだ。
そのまま俺は、皮肉にも眞田の言葉を守ることになり、泥のように寝入ってしまったのだった。
目が覚めたのは、仮眠室の扉が開いた音がした時のことだった。
「起こしたか?」
「……眞田?」
「ああ。見回りの時間だ」
まさか眞田に起こされるとは思わなかった。他の役員の面々はどうしたのだろうかと、締まったばかりの扉を見る。
「今日は休みだと伝えておいたからな。誰も仮眠室には入ってこなかっただろう? そもそも生徒会仮眠室は滅多に遣われていないと聞くからな。風紀とは違って」
「お前のせいで一日、仕事をするはずだったのに、棒に振ったって訳か」
「安心しろ、お前の弟に適正量を持って行ってやったからな」
俺が仕事が立て込みすぎている時に、代わりに弟にやらせていることを眞田は知っている。結果だけ見るならば、眞田の行為は有難かった。
「おい眞田」
「なんだ?」
「見返りは何だ?」
「見返り?」
「この俺様に服従していない珍しいお前のような人間が、何故俺にこんなに良くした?」
眞田が気の良い奴なのだろうと言うことを、俺は知っていた。
しかし俺は、俺様は俺様であり俺様だ。
この学園の支配者として当然、なにか相応の礼をしなければならないだろう。
「――いらん。俺はただ」
「ただ?」
「御神楽、お前のことが好きなんだ。ただそれだけだ。だから心配もするし、気にもなる」
眞田はそう言うと、俺が半身だけ起こしている寝台に、横に座った。
「眞田がまさか俺の親衛隊にいる連中――信者と同格だとは思わなかったぞ」
「同格じゃないだろうな、大半とは。俺はお前を恋愛対象として愛している。ただの憧憬じゃない」
「な」
「見返り、か。本当に下心なんて何もなかったんだけどな。くれるというなら、お前をくれよ、御神楽」
眞田はギシリと腕を寝台に着き、俺に詰め寄ってきた。
真正面から視線が合う。
「眞田、お前俺に抱かれたいのか?」
「逆だ、バ会長」
「俺はそんなに安くないぞ。見返りとしては過分すぎる」
「――違う。俺がお前のことを好きだと知って欲しかっただけだ。だからお前も、俺をそう言う対象の候補としてみて欲しいんだよ」
真剣な顔をしていた眞田が、そう言った後ふっと笑った。
以来俺は体調が万全になってから、ずっと眞田のあの言葉を気にするようになった。
――好きだ。
俺は眞田のことが気に入っていた。その気に入る≠ェ好き≠ネのだと、変わったのか、あるいは元々好き≠セったと気づいたのかは分からないが、現在の俺は、眞田のことが好きである。
だが、俺様は俺様だ。傅かれることにも、愛されることにも慣れているが、誰かを自発的に愛したことなど過去にこれまで一度たりとも無い。弟に対する家族愛を除いての話しだが。
それでも眞田は毎夕見回りにやってくる。
その日は、秋の終わり冬の息吹が届きそうな、寒い放課後だった。
放課後は俺が一人きりというのは、比較的珍しい。
そこへ眞田がやってきたのは、夜の七時を回った頃のことだった。
文字盤時計の秒針が、5の数字を通過していく。
「まだ残っていたのか」
「文化祭の後始末がまだあるんだよ、生徒会にはな」
「また体調を崩すなよ」
窓の鍵を確認しながら、何でもないことのように眞田が言った。
だが俺は、その一言に、以前のことを思い出し、耳の奥で「好きだ」というあの一言を反芻させた。眞田は、今でも俺のことを好きなのだろうか?
「眞田」
「ん?」
「やってもいいぞ」
「何をだ?」
「見返りを」
俺の言葉に、眞田が動きを止めた。それから地を見た後、ゆっくりと俺に振り返った。
それを見守りながら立ち上がり、俺は仮眠室の前に立った。
「それとも口だけか? 俺様が欲しいなんて言うのは」
「からかわれるのが嫌だ。真剣に考えて欲しかったんだけどな」
「この俺様が真剣に考えずにこんな事を言うと思うのか? 二度と機会なんて与えない」
少しだけ胸が騒ぐような不思議な心地がした。
それを押し殺すように、俺は扉を開ける。ギシリと軋んだ音が妙に大きく響いて聞こえた気がした。
中へ一歩は入り振り返ろうとすると、そこには音もなく眞田が立っていた。
驚いて息を飲んだ瞬間には、正面から乱暴に抱きしめられていた。
「煽ったのは御神楽だからな。後悔しても、俺は責任を取らないぞ」
「後悔? ははッ、俺は自分の選択に後悔したことなど、生きてきて一度もない。反省したことはあってもな」
そんなことを言っている間に、仮眠室のベッドの上に押し倒された。
両腕で体を挟まれ、じっと見下ろされる。
「いいんだな? 止める気はないぞ」
「良いけどな、好きにさせるつもりはない。俺が乗る」
「出来るのか?」
「俺様に出来なかったことは存在しない」
そう口にした時、乱暴に唇が降ってきた。
その性急さに顔がひけそうになった時、後頭部に手が回ってきた。
「っフ、ァは」
「慣れているようには思えないな」
「うるせぇな。お前はお堅い風紀委員長様のはずなのに随分と手練れ手いらっしゃる」
「やはり親衛隊を侍らせて、毎夜酒池肉林だなんて言うのはデマか」
「そんな事をする暇があったら、俺様は寝る」
シャツのボタンを乱暴に外されながら、俺は答えた。
正直緊張から、体が強張っていた。この学園では、男同士が関係を持つ事なんて良くあることなのだ。だが腐っても俺は大財閥の御曹司。迂闊に遊ぶわけにはいかないのだ。
「っ」
ピトリと鎖骨の上に掌を当てられ、違う体温を実感した時、俺は息を飲んだ。
骨張った眞田の指先が、それから俺の鎖骨をなぞる。
「綺麗だな」
「俺様を誰だと思ってるんだ」
「御神楽弥生。生徒会長様、だ。できれば――俺の恋人になって欲しい相手」
「リップサービスはいらない。これはただの見返りだ」
「そう言うことにしてやっても良い」
それからシャツをはだけられ、ベルトを外され、下衣を下着ごと取り去られた。
流れるようにそうされて、やはり眞田離れているのだろうと思った。
全ては俺の知る範疇にあって欲しいと思う、主導権は俺の手にあって欲しいと思う俺だから、なんだかそれが嫌だった。
「お前も脱げよ」
体を起こして俺は、眞田のネクタイを引っ張った。
それからぶちぶちと乱暴にシャツのネクタイを取っていく。
そして現れた首筋に噛みついてやった。
すると眞田が吹き出した。
「あんまり煽らないでくれ」
「あ? 誰が――」
「俺に触らせてくれ。これは、見返りなんだろう?」
「触らせてやること自体が見返りなんだからな。余計なことはするなよ。基本的に俺の指示に従え」
「ああ、分かったよ」
それから俺達は、ベッドの上で体勢を変えた。
眞田が望むから、俺は後ろから抱きかかえられる形で座っている。
眞田の指先は、先ほどから俺の胸の飾りの双方に触れていた。
羽を撫でるような優しさで、そんな部分で感じるはずがないと思っていた俺は――少しばかり後悔し始めていた。たまに強くはじかれるたびに、じんと甘い刺激が走って、体の中心が熱くなるのだ。その羞恥に顔が火照ってくる。恥ずかしくて泣きそうだった。
息が上がってしまいそうになるのを、必死で抑える。
「もうやめろ、そんなに胸が好きなら、その辺の女を捕まえろ。無い男の胸を触って何が楽しいんだ」
「性別の問題じゃない。御神楽の体だから、知りたいし触れたいし――感じて欲しい」
「だったらもっと感じる場所を触れ、分かるだろう?」
「どこだ?」
「言わないと分からないほどの馬鹿だとは知らなかった」
俺の言葉に苦笑を漏らすと、外気に触れていた俺の陰茎に、静かに眞田の手が降りてきた。
片手で包むように握られる。
そしてゆっくりと上下に動かされた。
初めて他者の温度を感じた底は、すぐに硬度を増していった。
すぐに先走りの液が漏れ始め、その先端を指の腹で眞田が刺激し始めた。
経験のない俺には強すぎる刺激だった。
「もういいやめろ」
「気持ちいいだろう?」
「ねちっこいんだよ、もうしつこい。やるんならさっさとしろ」
このままされ続けたら、俺は恐らく嬌声をあげてしまうと思った。
だから必死で余裕を保とうとそう叫ぶように口にした。
すぐその後、それを後悔した。
俺は今、うつぶせになってシーツを握りしめ、口でもシーツを噛んでいる。
膝だけ立てて、後ろを眞田に見せる形でだ。
いつから用意していたのか、嫌な想像だが持ち歩いているのだろう、ローションを眞田が指にとり、俺の後孔の中へといれてきた。
はじめは一本、そして現在では二本の指が入っている。
声を堪えるだけで俺は必死だった。どうしようもない異物感に涙が出そうになる。
痛みは不思議と無かったが――悪いことに、指のそれぞれが時折掠る場所が、俺に奇妙な感覚をもたらすのだ。声が自然と上がってしまいそうになる箇所があるのだ。
そこだけは触ってくれるなと俺は天にも祈る気持ちで、シーツを握りしめている。
しかし神は非情だった。
「あッ!!」
「やっぱりここか」
「や、やめろ、そこを触るな!」
「気持ちいいだろう?」
「ち、違う、へたくそ、さっさと、そこは止め――ッんぅ!!」
俺が、この俺様が止めろと言っているのに、感じるその一点ばかりを、二本の指でごりごりと眞田が刺激する。その度に俺の背は撓り、最早声を堪える術が無くなった。
「っ、フ……ぁ……ァ……ああっ、うア」
「前からもダラダラ汁が漏れてる。生徒会長様はとんだ淫乱だったんだな」
「なッ、てめぇいい加減に――……うああああああ!!」
反論しようと意識が少し逸れた瞬間、指を引き抜かれ、一気に貫かれた。
思いっきり叫んでしまった俺は、自分の腰が逃れようとしたのを自覚した。
ダメだ、このままでは、完全に向こうに主導権を……そんなことをどこかで考えつつも、若干この未知の状況が気持ち良くも怖くて、混乱が胸中で渦巻き始めた。
がっしりと腰を掴まれ、逃げることを許さないというように、眞田に抽挿を開始される。
俺は再びシーツをしっかりと掴んだ。
「ば、馬鹿っ、ぁ……」
「御神楽、少し力を抜いてくれ」
「ふざけんな、動きを止めろ、動かすな」
「最後まで入ってからな」
「ンあ――……!!」
それから根本まで入りきると、漸く眞田が俺の言葉に従い、動きを止めた。
「入ったな」
「……っ……下手に動かすなよ」
「上手ければいいのか?」
「なッ」
違うと言おうとした瞬間、眞田が腰を揺すった。
内部で眞田の陰茎が上下した、その途端、全体に溶け出していくように甘い快楽が広がった。
「っゥ……いいだろ、も、もう」
「なにがだ? まだ出しても何も知れいない」
「お、れが、うえにのる、って、いってんだろっ……はッ」
「!」
俺の言葉に、眞田がベッドの上で膝建ちから座る体勢になり、そうなる過程で俺を抱き寄せた。
「ああああ!!」
繋がったままで、俺は今度は、そそり立った眞田の陰茎を座っている状態で受け入れる形になった。後ろから抱きかかえられ、内部は深々と貫かれている。
「顔が見たいから、逆になってくれ」
「え、あ、ああっ」
その上反転させられ、俺は眞田と向き合う形で座ることとなった。
しかし俺にも維持がある。
眞田に主導権を渡すつもりは毛頭無い。
俺は拒否せず、それから眞田の肩に両手をのせた。
――だけど、上にのるってどうすれば良いんだ?
よく分からないが腰を浮かしたり下げたりすればいいのだろうか?
そう思って必死で腰を持ち上げるのだが、途中で力が入らなくなる。
「うあッ」
そして深々と置くまで眞田の物に貫かれるほど腰が落ちる。重力の馬鹿野郎。
それでも二度三度頑張って、ついに俺が断念しそうになって、力が抜けてしまった体で、奥深くまで眞田の形を味わった。
「ひいっ」
すると眞田がゆるゆると腰を揺さぶった。そして俺の両腕を急に取った。
「上下じゃなくて左右に動いてみろ」
「え、あ? お、俺に命令すんな」
「いいから」
「……ふ……っ……」
我ながら情けのないことに、俺は半泣きで、眞田の言葉に従うことにした。
誘導するように眞田が俺の手を伸ばしたりひいたりしてくる。
「あ、あ、あ」
すると先ほどまでとは異なり、甘い感覚が全身に広がるようになった。
時折先端が、先ほど覚えさせられた気持ち良すぎる場所を掠める。
それに気づいた時には、底にばかり当たるように、俺は自然と腰を動かしていた。
「う、あ、ああッ……は……うッ」
こめかみに髪が張り付いて、汗ばんでいることが分かった。
中に与えられる刺激に、初めて知った快楽に、俺の全身が震える。
それだけで結構限界だったというのに――眞田が不意に、俺の陰茎を片手で握り扱きあげ始めた。
「うああああああああああああああ!!」
思わず絶叫し、俺は呆気なく精を放ってしまった。
余裕などどこにもなくなってしまった。
体が弛緩し、ぐったりと眞田に体を預けようとしたのだが――その瞬間、再び押し倒されて、休息に激しく突き上げられた。
「あ、あ、あ、や、眞田、眞田、無理だ、やめッ――ヒぁ――!!」
「学園の王様のこんなに艶っぽい姿、誰かに見られたらどうなるんだろうな」
「あっ、は、あ、ゃ、気持ちい……気持ちいいッ」
「誰にも見せてやる気なんて毛頭無いけどな」
それから俺は理性を失い、意識を飛ばすまでの間、眞田に体を貪られたのだった。
以来俺と眞田は恋人同士となった。
「へたくそ、そこじゃない」
「ここを突かれるのが好きなくせに」
「……」
毎回毎回こんなやりとりをしている。
そして現在では、俺達の中を隠すために、二人で生徒会と風紀委員会の対立をあからさまに煽っていたりする。弟をだしに。
何でそんなことをしているのかと言えば、俺が恋の迷宮に迷い落ちてしまったからなのかも知れない。その点において、眞田は有罪で真っ黒だ。
この俺様を相手にしておいて……。
相手が眞田――恋人じゃなかったら、学園追放物なのだからな。覚えておけ。
そんなこんなで今日も俺様の王国は廻っていく。俺は王者として学園に君臨する。
だけど今はたった一人の王者ではない。
恋人が出来るというのは、そう言うことではないのだろうか?
ああ、俺は眞田一臣のことを、心底愛してしまったらしかった。