卒業式



 今日は、俺が生徒会長を務めたこの、麗峰学園の卒業式だ。無事に壇上で答辞を述べ終わり、一息ついて席に戻った。

 思えば色々な事があった。そりゃあそうだろう。ここは王道学園と揶揄される、典型的な生徒会に権力が集中した学園だった。そのTOPを務めていたのが俺だ。正直、疲れた。

 大学も付属があるが、俺は持ち上がりは断固拒否した。もうこの山奥の閉鎖的な学園のメンバーとは一緒にいたくなかった。それに、一応大財閥である実家の手伝いも、もうすぐ本格的に始まる。

 そんな事を考えながら、帰ろうと外へ出た。一度寮へと戻り、最後の荷物の確認をするからと、父とは途中で別れた。この学園の卒業生である父は同窓会があるようだった。本日母は、妹の卒業式に出ているから、この学園にはいない。あちらは女子高だ。

「やりきったな……」

 何が一番大変だったかといえば、『俺様』の維持だ。案外、俺様な性格の持ち主は少ない。しかし、腐男子である俺としては、王道生徒会の生徒会長はやはり俺様が良かった。残念ながら編入生は来なかったが、生徒会のメンバーは、腹黒副会長やチャラ男会計を始め、完璧だったと思う。

 うん。頑張った。俺は、自分で俺様を演じたのである。

 自分を労いながら廊下に出ると――丁度正面の部屋の扉も開いた。

「あ」
「これはこれはバ会長様か」

 出てきたのは、風紀委員長を務めあげた美作だった。黒い髪に黒い瞳、真面目そうにきちんと制服を着ている風紀委員長。実は――俺が唯一恋をした相手でもある。無論、腐男子的に、会長×風紀委員長やその逆はよく見る美味しいシチュエーションだ。しかしながら、俺は生真面目な美作とは、嫌味の応酬こそすれど、甘い会話など交わした事もない。

 美作の視界には、俺は生徒会長としてしか入っていないだろう。

「もうお前の顔を見なくて良いと思うとせいせいする」

 ニヤリと笑って俺が言うと、美作が腕を組んだ。

「大学が同じなのにか? その辺で会うと思う可能性がある。学科も同じだからな」

 冷静な美作の声に、俺は言葉に詰まった。俺が外部進学の先を決定したのは、実は美作の志望先を聞いてからだ。しかしストーカー気質だと我ながら思うから、無関心のふりをする。

「忘れていた。美作の進学先になんて興味がなかったからな」
「そうか。俺は、興味があったが」
「――なに?」
「てっきり持ち上がりで進学するとばかり思っていたから、意外だった」

 それを聞いて、確かにそうだろうなとは思った。ただ、興味があったと言われて喜びかけた自分に嘆く。

 美作は俺の理想の風紀委員長だったが、本当は、もっと色々話したかった相手でもある。見ている内に惹かれてしまったのだ。

「大学では講義もかぶるかもしれないし、連絡先を教えてくれ」

 その時美作に言われた。驚いて息を飲む。美作はスマホを取り出していた。いつものトゲトゲしさがない。それだけでも嬉しい。

「仕方ねぇなァ」

 俺はわざとらしくそう告げたが、緊張しながらスマホを取り出した。こうして連絡先を交換し、俺は幸せを噛み締める。美作と離れ離れになる卒業式は切ないが、新しくやってくる春が楽しみだった。