【第一話】白橡学園
私立白橡学園は、中高一貫制の男子校だ。
代々続く歴史ある名家や富裕層の家々の男子のみが入学できる、全寮制の学園である。
例外はごく一部で、それは偏差値やスポーツ技能の向上のために入学を許可された特待生や、高等部一年次に非常に難関な試験を突破したごく少数の外部編入生のみである。彼らの中には、一般家庭出身者もいて、そうした場合の多くは奨学金をもらっている。
生徒達の大半は、規模はどうあれ将来的に、会社を継ぐなど、一定の社会的地位を築く事が多い。
そのための教育として、白橡学園においては、生徒の自主性を非常に大切にしている。
最たる例が、生徒会である。
白橡学園において、生徒会は絶大な権力を誇っている。
「……選出方法だけが、異常だが」
思わず俺は、手元に届いた最新版の【抱きたい・抱かれたいランキング】を眺めて、呟いてしまった。
生徒会役員は、この不可思議なランキングの上位者の内、家柄と素行や成績に問題のない者から選出される。
現在の会長は、榛瀬財閥の御曹司である榛瀬学斗だ。
榛瀬は唯我独尊を地で行くような男だ……というわけではない。
実際に、優秀だ。
俺も榛瀬も現在高等部の二年生だが、学年首席はいつも俺か榛瀬か同位でお互いトップかのいずれかだ。そして榛瀬はスポーツもできる。俺もそれなりにできるが、体力ではわずかに負ける。
その上、眼前に広がるランキングでは、抱かれたい男No.1として堂々の単独首位を飾っている。
「どこがいいんだろうな? 顔か? 性格はいいようには思えないが」
ボソっと俺はまた呟いてしまった。
俺は榛瀬を、俺様な性格のバ会長だと思っている。
というのも、榛瀬は何かと俺と競い合ってくるからだ。成績や体育の結果からはじまり、些細な事でも俺に勝っているというアピールに忙しない奴なのだ。
まぁこれには理由もある。
生徒会は最高権力を保持しているが、唯一それに匹敵する、学生の自治組織――それが、風紀委員会であり、代々生徒会と風紀委員会はそれぞれを快く思っていない。
俺は現在、その風紀委員会を治める、風紀委員長をしている。
就任以後、俺はあのバ会長と何度口論したか不明である。
それ以前にも何かと絡んできていた榛瀬は、会長と風紀委員長という関係になった途端、以前にも増して俺にくだらない勝負を要求したり、たまたま同じ空間にいると、じっと俺を睨みつけたりするように変化した。
元々は生徒会役員に偏見のない俺だったが、この状況では心象は最悪だ。
なるべく顔を合わせたくないのだが、今日もこれから会議がある。
本日は会長と風紀委員長である俺達が、トップ同士で……一対一で話し合う事になっている。仲が悪いとはいえ、双方ともに学園のためには必要だからと、代々ホットラインとして一か月に一度はこの会談をしなければならないという校則が存在する。また、非常事態が発生した場合などにも、この会議は行われる。しかし非常事態などない。よって、話題も特にないのが実情だ。
「無駄な時間が空しいな」
俺は嘆息してから、風紀委員長の執務机の前から立ち上がった。
さて、会議に行かなければ。