【三】高萩の部屋(★)






 こうして俺は、初めて高萩の部屋に入った。生徒会長は特権があるから、一人部屋だ。巨大な私室に通される。書架と学習机、それから大きめのセミダブルのベッドがある。

 道中では、俺達が並んでいる姿、それも会長に俺が引っ張られている姿に、皆が目を丸くしていた。だが俺は、ついていくのに必死だったから、気にしないことにした。

「これを見ろ」

 高萩は書架の前に立つと、ごっそりとノートを抜き取った。それぞれに年月日と、『日記』という文字が見える。

「今も日記をつけていたのか?」
「おう。一日も欠かさずな」
「そ、そうか」
「読めよ。人に見せるのは、お前が初めてだ」
「? ああ」

 俺は、手渡された最初の一冊を見た。日付を見れば、俺は編入した日のものだった。

『ようやく再会できた。砂緒は約束を守ってくれた。覚えてくれていたのが嬉しい。俺は二つの約束を忘れたことは一度も無かった』

 俺はその言葉に、震えながら、別のページをめくる。

『まずい、惚れ直した。見てばっかりいるのがバレないように気をつけないとな』
『なんで風紀になんて入るんだよ、あいつは俺の事を嫌いになったのか? 俺は好きなのに』
『今日も砂緒と口論になった。俺の愛が伝わらない。初恋からバージョンアップしてる俺の思いが伝わっている気配が微塵もない』
『愛しすぎて苦しい、砂緒のことが好きだ』

 そんな、そんな俺に対する好意が綴られていた。

「こっちも見ろ」

 そして続いて渡されたのは――初めての約束をした、キスをした頃の日付の日記だった。確かにあの日、日記に書いておくと高萩は言っていた。俺は、恐る恐る日記を開く。

『今日、大人になったら砂緒が恋人になってくれると約束した。そうしたら、いっぱいキスする』

 その一文を見たら、思わず俺の涙腺が緩んだ。

「お前……きちんと約束を覚えていてくれたんだな」
「おう。俺の初恋はお前だし、再会して惚れ直した。ずっと俺はお前が好きだった。いいや、過去形じゃない。今、俺はお前が好きなんだよ。お前が花を見つけるずっと前からな」

 力強い声でそう言うと、高萩が俺を抱きしめた。
 俺は腕の中で、思わず額を高萩の胸板に押しつける。泣き顔なんて、見られたくない。たとえそれが嬉し泣きだからであっても、今、俺の情緒はごちゃごちゃだ。

「約束、覚えてたんだろうな?」
「……ああ」
「もう一度、告白の返事をくれ」
「……っ、そんなものは決まっている。俺だってずっと七彩のことが好きだった。いいや、今、俺も進行形で好きだ。愛してる。俺だって、片時もお前のことを忘れた事なんて無い」

 俺がそう言うと、強引に高萩が俺の顎を持ち上げた。

「ン」

 そして、深いキスが降ってきた。俺の口腔に忍び込んできた高萩の舌が、俺の舌を追い詰め、絡め取る。濃厚な口づけをした後、俺達は見つめ合った。

「俺達は、もう子供じゃない。そうだろ? 砂緒」
「ああ、そうだな」
「約束、守れよ」
「――ああ。ああ、そうだな。七彩、俺の恋人になってほしい」
「当然だ。お前の横に、俺以外が立つのは許さない」

 高萩の腕に力がこもる。抱き寄せられた俺は、涙が乾いてきた顔で、思わず笑みを浮かべた。心から、嬉しくてたまらなかった。

「ただな、大人になったんだから、キスだけじゃ、俺様は止まる自信は無いぞ」
「っ」
「ベッド、押し倒すにはおあつらえ向きだな」

 ニヤリと笑った高萩の顔を見て、俺は思わず苦笑してから、吹き出した。
 ――こうして、俺達は、お互いの制服を脱がせ合ってから、ベッドに移動した。

「っ、ん」

 高萩が、俺の首の筋に口づける。ツキンと疼いて、そこに痕をつけられたのが分かる。高萩につけられるなら、キスマークは大歓迎だ。そのまま舌で俺の肌をなぞってから、高萩は、俺の右胸の突起を唇で挟む。そして舌先でチロチロと舐め始めた。するとジンジンとそこから熱が全身に広がっていく。

「ぁ……」

 左手で、高萩が俺の陰茎を握りこんだ。そしてゆるゆると擦り始める。そうされると、すぐに俺のモノは反応した。

「一応確認するが、俺様が上でいいんだろうな?」
「俺はどちらでも構わない、それくらい、お前のことが好きだ。お前の希望に従う」
「従順だな。いつもそうしていろ、しっかり抱いてやる――いいや、愛してやるよ」

 笑みを零した高萩は、それからベッドサイドにあったローションのボトルに手を伸ばした。そしてローションを指にまぶすと、俺の中を解し始めた。最初は一本だった指が、二本に増え、それから三本になる。痛みはなかったが、押し広げられる感覚と、異物感が凄い。俺は何度も大きく吐息した。

「あっ」

 その時、高萩の指先が、俺の中のある箇所を掠めた。

「ここか」
「あ、あ、あ」

 そこを刺激されると、陰茎に熱が直結したようになる。知識だけは、俺にもある。きっと前立腺だ。高萩は、見つけ出したそこばかりを指先で嬲り始めた。そうされると出してしまいそうになって、俺は全身にびっしりと汗をかきながら、震えるしかできなくなった。

「な、七彩、いやだ」
「気持ちよすぎて嫌だってことか?」
「違う。出そうなんだ。でも――お前のモノで一緒にイきたい」
「っ、可愛いこと、言えるんだな。いつもそうしてろ、俺様の前では。可愛いお前は、俺だけが知ってればいいから、普段は今まで通りでもいいが」

 高萩がコンドームの箱から、袋を取り出し、口で封を切った。
 そしてゴムを取り出し、手際よく、装着した。既に高萩の陰茎も屹立しているのが見えた。俺に触れることで、反応してくれたという事実が嬉しい。

「挿れるぞ」
「ん……――ああっ、あア!! あ、ンあ」
「辛いか?」
「違っ、熱い、けどな……嬉しいんだ。やっと七彩と繋がれた。ずっと俺は、一つになりたかったんだ」
「反則だ、これ以上俺様を煽って何がしたいんだよ?」

 高萩が激しく打ち付け始めた。その度に、俺の口からは嬌声が零れた。

「んア――ぁァっ、ッ……あ! ア、ん……ンっ、ぁ」
「悪い、余裕がない」
「んぁ、あ、そ、そんなの俺には最初から無い……ひぁ、ひゃっ、あ、あ、あ」
「出すぞ」
「ン――!!」

 その時、一際強く高萩が俺の中を突き上げた。ゴム越しに、射精したのが伝わってくる。その衝撃で、俺も放った。はぁはぁと全身で息をしながら、俺は汗で張り付いてくる己の黒髪を意識する。

「全然、足りない。二回目だ」

 新しいゴムの袋を、高萩が手に取る。そして俺の中からずるりと引き抜いた陰茎に、新しいゴムを装着しようとした。俺は唖然としつつも――もっと高萩を感じたかったから、同意した。

 このようにして、俺と高萩は、その日散々交わった。恋人同士として。
 胸が満ちあふれた状態での情交は、俺に快楽と幸福感をもたらしてくれた。