【終】想現草の伝承の詳細









 こうして、俺と高萩は、無事に約束を果たし、恋人同士となった。
 その日、俺が自室へと戻ると、なんと想現草が枯れていた。花が咲いている内しか効果が無いという話だったが、一体、いつ枯れたのだろうか?

「前に見つけたという、荒潟先生なら、何か知っているか?」

 少なくとも、手に入れた花の状態は知っていると考えられる。
 そこで俺は、翌日保健室へと向かった。

「やぁ、風紀委員長。珍しいね、どうかしたのかい?」
「じ、実は――想現草についてお聞きしたくて」
「ああ、今回は君が手に入れたという噂は聞いたけど、そうなのかい?」
「はい。ただ、枯れてしまったんです」
「ふぅん。ということは、恋人ができたんだね」
「え?」

 にこやかな先生の声に、俺は驚いた。

「想現草はね、たくさんの伝承があるんだけど、前回見つけて僕が調べた結果、『学園内で、最も強くお互いを思い合っている、両片想いをしている者のどちらかの前に出現する』そうでね、それから、『恋が叶うと』即ち『両思いになると』枯れるんだそうだよ。アレを見た場合、相思相愛だから頑張れという合図、背中を押してくれる花なんだって。恋を叶える花というのは、キューピッドということなんだ。無論、告白と言った行動に移すのは、本人の意思だから、花の力じゃない。委員長は、確かに花を見つけたんだろうけど、きちんと相手に気持ちを伝えることができたんだね。さすがだよ。三年前の僕なんて、半年もかかったよ、告白するのに。その間、ずっと花は咲きっぱなしでねぇ」

 俺はつらつらと語る先生の言葉に、瞠目した。
 それから微笑した。

「背中を押してくれる、か。俺は勇気が出なかったんです、残念ながら。相手が、その……でも、恋を叶える花……キューピッドか。そう考えると、納得します」
「学園一の両片想いをしていたほどの相手なんだから、大切にするんだよ」
「言われなくとも。お話、伺わせていただき、ありがとうございました」

 こうして、俺は保健室を出た。
 そして――本日も、帰寮したら、高萩の部屋に行く約束をしていることが嬉しくて、思わず笑顔で廊下を歩く。早く会いたくて、たまらない。

 俺はもう、そこでは高萩と呼ぶ必要も無ければ、水理と呼ばれる必要も無い。
 存分に俺は、七彩の名前を呼んでいる。

 このように、俺は今幸せだが、だからといって学園祭の生徒会の企画を認めるわけには行かない。結局公の場では、俺達の激論は続く。けれど二人きりの瞬間は、いつだって甘い。それが幸せで、俺の顔は緩みっぱなしだ。

 さぁ、今日も七彩に会いに行こう。
 今日も俺は、愛しい人の顔を見る。


 ―― 終 ――