【序-D】プレゼント








 中二の冬休み、僕は結局通学は再開しないままで、通信制の学校の宿題を片付けながら、その日を迎えた。夏の一泊旅行で恋心が盛り上がった僕は、恢斗に会う日を緊張しながら待っていた。

 冬休みは、宝灘財閥のクリスマスパーティーに招かれていた。名門家は、持ち回りで夜会を催す事が多い。西洋の行事は、財閥系が担当する事が多いそうだった。

 会場入りする前に、宝灘家で合流する事になっていたので、僕は案内されるがままにそちらへと向かった。すると制服姿の恢斗が、一人でソファに座っていた。

「来たか」
「――遅くなりました」
「いや、時間通りだ」

 その言葉に、僕は笑顔を浮かべた。作り笑いだ。ド緊張していたのである。無駄に恢斗が格好良く見えた。

「どうかしたのか?」
「え?」
「座ってくれ。まだ時間がある」

 言われて初めて、僕はいつまでも立っていた事に気づいた。手で恢斗が僕を座るように促していたにも関わらずだ。

「これを」

 テーブルの上には、小箱があった。それを差し出されたので視線を向ける。

「クリスマスのプレゼントだ」
「! あ、有難うございます。僕からも……」

 ヴァレンタインの贈りモノの話を覚えていた事もあったし、恋に落ちたかもしれないという心地でもあったので、僕は今回、きちんとプレゼントを用意した。中身は、当たり障りのないボールペンであるが。学用品が良いだろうと思ったのだ。

 自分からのプレゼントをカバンから取り出して机に置き、代わりに僕は、恢斗からの品を受け取った。

「開けてくれ」
「は、い」

 相変わらず緊張しながら、僕は必死で作り笑いを浮かべていた。嫌われたくない。好かれたい。こんな事を考えているのだから、僕側は、やはり恋心が盛り上がっている。リボンを解いて包装をとく。すると中からは、腕時計が出てきた。

「大切にします」
「このペンも趣味がいいな。さすがは桐緋堂というか……こんな幻のごときブランドの特注品を……よく用意できたな」
「古くから付き合いのあるお相手のお宅で、ご厚意です」
「……ここと、付き合いか。スケールが違うな」

 そう言われてもピンとこない。僕はボールペンを贈りたいと述べ、執事が候補のリストを僕の前に運んできたので、その中から選んだだけであるからだとも言える。

 その後、僕達は会場に一足早く入った。そして、既にそこにいた宝灘家の方々に、まず挨拶をした。本日会場には、若年層は僕達二人だけだそうで、冒頭の挨拶をしたら、すぐに下がって良いと言われた。僕は、許婚としてではなく、友人の一人の顔をしている事で、挨拶の回避をして良い事になった。宝灘総帥と恢斗は、この場で公表しても良いと話していたが、僕の両親が全力で首を横に振っていた。僕の家族は、まだ破談になる可能性をかなり考えている様子である。

 さて――僕と恢斗は、そのような流れで、午後六時過ぎには、再びプライベートスペースへと戻り、二人きりになった。本日は、恢斗の部屋に宿泊予定である。案内されたのでついて行き、僕は部屋を見て小さく頷いた。寝室が三つある。確かにこれは、客間は不要だろう。

「好きな所で眠ってくれ。俺は少し、学園の仕事が残っているから片付ける」
「はい」

 頷いて僕は、寝室の一つに下がった。この夜、恢斗が僕の寝台へとやってくる事は無く、翌朝には、僕は帰宅した。

 非常にあっさりとしていた。
 恋愛感はあまり無かった。
 期待していた分、落胆してしまった。夏の事は、リップサービスだったのかもしれないと、僕はそこで改めて気がついた。まぁ、許婚とはいえ、険悪な仲よりかは良いか。

 その日から、僕はもらった腕時計を身につけて過ごし、この年のヴァレンタインには、チョコレートを学園宛に送付した。

 恢斗が通っている学園は、『北藤峰(きたとうほう)学園』というらしい。どんな学園なのだろう。というか、僕はあんまりそもそも学校に詳しくない。現在も通っていないに等しいと言える。それが僅かに劣等感でもある。

 気になった僕は――『男子』『中高一貫』『全寮制』『学園』というキーワードで、検索をした。すると『BL王道学園』という文言が多数、結果に出てきた。

「BL……?」

 なんだろうかと、興味本位で開いてみた僕は――……