10:親衛隊長、会議に臨む!





 翌日は、親衛隊長会議があった。
 これは、各親衛隊の隊長が集まって、お茶を飲むのだ。
 僕はそこで、運命の好敵手の姿を見つけ、目を細めた。

 生徒会副会長親衛隊、体調、東堂緋奈である。
 緋奈は、何かと僕に絡んでくる上、頭がぶっ飛んでいて、言っていることの八割が思い込みでできていると僕は思う。一言うと十にして話を広げるタイプだ。

 会長親衛隊の隊長の若月先輩がお茶を用意してくれた時、緋奈がニヤニヤと楽しそうな顔で僕を見た。

「毎日会計様と手と手を絡ませて、一緒に同じ部屋に入って行くって、知ってるんだよ、僕」
「照れますぅ」

 しかし否定するのもなんなので、僕は適当に答えた。今日の玉露は美味しいが、和菓子があんまり美味しくない。お菓子担当の茶道部部長の親衛隊長が、予算をケチったのだと思う。

「身も心も優しくドロドロに溶かされてるとか、あゝ、羨ましい! 僕も副会長様と、いつか……歌織体調が体を開発されているように、僕も甘く甘く触って欲しい……ゆっくりと丹念に後ろをほぐしてもらって」
「茶道部部長! 増えるワカメを購入する暇があったら、一番安い豆大福じゃなく、一番高い豆大福にして!」

 僕はビシッと指摘した。すると茶道部部長の親衛隊長が、苦笑していた。
 この人物は、増えるワカメ購入者の中でもその量が多かったと調べがついている。

「ワカメ……わかめ酒……!! 未成年の飲酒は厳禁です、が、そのまま……淡いピンク色の歌織部長の陰茎を、会計様の艶めかしい舌が……」
「下駄箱から溢れたワカメが下の下駄箱、さらにはその下の下駄箱まで、溢れかえっていたと聞いたよ! ワカメテロは、さすがに最低だ。同じ親衛隊長の一人として見逃せない」
「菊門から溢れかえった会計様の白液……」

 珍しいことに、運命にライバルが、僕に加勢してくれているようだった。
 内容はいまいち聞いていないが、「ドロドロのワカメがインケンに溢れかえって」と言った気がする。いつもは妄想して僕に因縁をつけてくるが、やはり副会長の親衛隊隊長、たまには頼りになる。

「心外です。責任を持って僕たちは、茶道部の部員がやったワカメテロを、親衛隊メンバーで片付けました! そちらこそ不純同性交遊です! 風紀委員会に訴えますよ」

 茶道部部長の親衛隊長は、苦笑したまま続けた。
 すると会長親衛隊の隊長が、やんわりと穏やかな声で言った。

「八割聞いてない歌織隊長と二割妄想の緋奈隊長が揃うと、十割緊迫感が消えて、真面目に釘をさせなくて困ります。茶道部親衛隊はとりあえず、状況を詳細に報告書にまとめて次の会議までに提出してください」
「は、はい……うう……やっぱり歌織隊長を敵に回すと、報告書五百枚地獄なんだ……」


 そんなこんなで、親衛隊長会議は幕を下ろした。今日の僕は働いた!



 次の週末、僕は綾斗様と出かけることになってしまった。
 金曜の放課後に教室に現れたら、みんなの前で「明日デェトしよぉ」とか言い出したため、僕は周囲の目を考えて「はぁい」とか言ってしまったのである。

 待ち合わせ場所は、学校の下に広がる街の、大通りにあるファストフードの前だった。
 意外とみんなここで待ち合わせをしている。
 眺めていると、モテ男がいっぱいいた。雰囲気イケメンとして、僕も気になる。

 そして、ふと考えた。
 ――どうして僕ってモテないんだろう?
 なんだか悲しくなったので俯いていると、黄色い悲鳴が聞こえてきた。

「ね、ねぇちょっと、あの人良くない?」
「うわあ、すっごくイケメン!」
「やばいやばい!」

 どんな奴がきたのかと顔をあげたら――綾斗様だった。
 男女問わず視線がバシバシ向いている。こうして見ると、確かに会計様は綺麗だ。
 やはり人間、顔なのだろうか? 雰囲気じゃダメなのかな?

 そう考えていた時、後ろから肩を叩かれた。
 振り返ると、ゴツい坊主頭のラッパー風の男が立っていた。
 サングラスをかけている。

「兄ちゃん、今暇?」
「?」
「遊び行かん? 俺、タイプすぎて……一目惚れやん。男の子やってわかってるけど、ちょっとお話だけでも……」
「へ?」

 赤面している坊主ラッパーに僕は首を傾げた。
 すると今度は、逆側から、誰かに抱き寄せられた。顔を向けると綾斗様だった。

「連れがいるので、他を当たってもらえます?」
「っく!! こんなイケメンには勝てない!!」

 坊主ラッパーが泣きながら走り去った。見送っていると、さらに強く抱きしめられた。
 頭を撫でられる。軽くセクハラだったが、動揺していたので僕はそのままにされていた。

「歌織ちゃんは可愛いんだから、もっと気をつけて」

 なんだったんだろうかと思いながら、その後綾斗様とはチーズバーガーを食べた。