陽なたのリズム




 俺はチャラ男会計なんて呼ばれている。実際、身持ちは別に固くない。

 ――これまでは。

 だけど恋に堕ちて、実は俺はちょっと変わった。前は人肌が恋しかったから、一夜限りをなんとも思っていなかったのに、好きな人が出来た途端、その人以外の体温に違和感を覚えるようになってしまった。

 俺の好きな人は、カイチョーである。

 今年の春、俺は生徒会の会計に選ばれた。それまでは存在は知っていたけど、あんまり絡んだ事のなかったカイチョ―は、実は働き者で真面目だって、俺は知った。一緒に生徒会室で仕事をする内に、気が付いたら好きになっていた。

 裏庭に出た俺は、大きな木の幹に背を預けて、上を見上げた。

 木漏れ日が降ってくる。ポカポカしていて温かい。

「何してんだよ、真織」

 その時声がかかった。愛しい人の声だから、聴き間違えたりしない。

「ん。カイチョーを待ってたんだよ。会議が終わったら、ここを通るかなぁって思ってさぁ」
「おう。なんか用事か?」
「ううん。会いたかっただけだよぉ」
「毎日生徒会室で会ってるだろうが」
「俺と二人は嫌?」
「そんなわけねーだろ。少し、二人でサボって帰るか」

 カイチョーが、ニヤリと笑った。俺はこの顔もすごく好き。

 俺の隣に並んだ会長の横顔を見上げる。

「ねぇ、カイチョ―」
「ん?」
「カイチョ―って、好きな人とかいないのぉ?」

 俺はちょっとだけ勇気を出す事に決める。

「いるぞ」

 そして速攻失恋した。

「そ、そっか」

 思わず俯いて、必死に笑おうとしたのだが、顔が引きつり、目が潤みそうになる。

 ポンポンと頭を叩くように撫でられたのは、その時だった。

「今、隣にいる」
「え……?」
「俺は、真織が好きだ。お前、頑張り屋さんだもんな? そういうとこ、俺様は気に入ってる」
「っ……そ、それ、本当? 冗談?」
「俺はこういう嘘はつかねぇよ」
「う、うん。じゃ、じゃあ、付き合う?」
「――最近はそうでもねぇみたいだが、お前、一夜限りの恋人以外いらないとかって、学園新聞のインタビューで答えてなかったか? なんでもここのところは、全員を断ってるって聞いてるが」
「お、俺……俺もカイチョ―がその……好きで、本気で好きで、だ、だから……そういうのやめたんだよねぇ」
「へぇ? いい心がけだ。俺様の恋人になるっていうんなら、二度と俺以外と寝るんじゃねえぞ?」
「っ、うん」

 俺は今度は、俯いたままで真っ赤になった。木漏れ日の下で、相変わらずポンポンというリズムで、カイチョ―は俺の頭を撫でている。

「ほら、そろそろ戻るぞ」
「うん」
「手、出せ」
「え?」
「恋人になったんだから、恋人繋ぎだ。常識だろ?」

 そう言って俺の手を取ったカイチョ―は、宣言通りに恋人繋ぎをすると、歩き始めた。俺もあわてて足を動かす。

 お日様はポカポカしているが、繋いだ手の温もりと、違和感を抱かない体温に、俺は嬉しくなる。恋が報われた俺の心も、ポカポカだ。

 生徒会室まで、もう少し。

 帰ってすぐ、みんなに報告したんだけど、それはまた別のお話。