【十二】相思相愛(★)
こうして、僕はエルトと一緒に過ごすようになった。
エルトは勇者パーティの医術師であり、旅をしている。だから最初は僕もひっそりとそこに加わった。そうしたら、なぜなのかいつしか、『魔族と人間をつなぐレーサイアの化身、アルバジルの神子』と呼ばれるようになったのだが、それはまた別の物語である。なぜ別かといえば、僕担当の秘書官が現れて、そういう物語らしき記録を取っているのだが、これが魔王様に人気らしいのだ。爵位をもらったと彼は喜んでいた。
僕は毎日、エルトの隣でカルテを書いている。
エルトが僕のカルテを褒めてくれた理由が、少し分かってきた。
既存のエルトのカルテは、文字が汚さ過ぎて、なんと本人にも解読不能だったりするからである……むしろ今では、エルト自身よりも、過去カルテの整理も担当した僕のほうが、彼の字に詳しいだろう。
それが終わると、同じ部屋に一緒に帰る。そして一緒に眠るのだ。
僕には、何よりもこれが幸せだ。
ただ、エルトはちょっと激しい。毎日疲れきっているはずだというのに、寝る段階になるといつも元気を取り戻すのである。そして僕を組み敷くのだ。
「今日も疲れたなぁ――癒されないと」
「……」
赤面した僕は、大抵の場合、言葉を失う。失っている内に、唇を塞がれる。
「ん」
最初は何度も優しく啄まれ、次第に深くなり、そして濃厚な口付けに変わる。僕は次第にエルトの体温に慣れてきた。そうしながら顎の下をくすぐられて、僕はびくりとした。緩慢に瞬きをしてエルトを見る。すると優しく微笑まれた。
ひとつずつボタンを外されて、今度は肌を指でなぞられる。
こうして夜が始まるのだ。
「ぁ……ああっ、あ」
両膝を立てた僕は、丹念に陰茎を舐め上げられて声を押し殺せなかった。
筋に沿って舌が艶かしく蠢き、それからカリ首を唇で咥えられる。そのまま今度は舌先で鈴口を刺激された。それだけで僕の腰は震える。僕を優しく優しく高めながら、エルトが香油の瓶を引き寄せた。それをタラタラと指にとり、今度は二本の指で僕の中を暴く。
「っ、ひぁ……ン、ぁ……ああっ」
「辛いか?」
「だ、大丈夫……んゥ……ぁっ」
ゆっくりと中をかき混ぜていた指が、次第に速度を増し、激しく突き上げ始める。感じる場所を指で嬲られ、僕の体はすぐに熔けた。
「あ、あっ、ああっ」
「気持ちいいか?」
「うん」
「――こんな時に聞くのは卑怯かもしれないが、聞いてもいいか?」
「え? ああっ、ン、ぁ……」
「俺は、お前が好きだ。お前は?」
快楽に震えながら、僕は必死に言われたことを理解しようとした。そういえば、僕はエルトに好きだと伝えたことが一度もなかった。エルトは、何度か僕に好きだと言ってくれたけれど、考えてみたら、僕からは一度もない。
だけど、本当にこんな時はずるい。急に指の動きが止まったせいで、全身がもどかしさに震えた。腰が勝手に動くのが止められない。
「……エルト」
「あ?」
「……っ、エルト、あ、ああっ、や、だめ、僕もう」
「……――答え次第では、ひどくする用意があるぞ」
「えっ、やあああああ」
僕が濁そうとした時、エルトの指が意地悪く、内部の前立腺を嬲った。そこばかりを激しく間断なく突いてきて、僕に呼吸する暇すら与えてくれない。僕は声を上げて快楽に泣いた。肩で息をしながら、何度も首を振る。するとエルトは、もう片方の手で、僕の陰茎をしごきあげた。だめだ。これは、だめだ。おかしくなってしまう。
「や、やああっ、やだ、なんで、どうして」
「お前が言ってくれないからだ」
「意地悪しないで」
「意地悪はどっちだ」
「……普段ですら恥ずかしくて言えないのに、こんな時には、もっと恥ずかしくて言えるわけがない!」
僕が叫ぶように言うと、エルトが動きを止めた。そして、笑みを吐き出した。
「じゃあ、終わったら言ってくれるか?」
「うん、うん」
「――終わらせないけどな、しばらくは。夜はまだ長い」
「ああああっ、あああ――!!」
エルトが僕の中に腰を進めた。圧倒的な質量に、僕は身悶える。エルトにしがみついて、ポロポロと涙をこぼした。気持ち良すぎて、目が潤む。ぐっと奥まで入ってきた巨大な陰茎が、僕の中をえぐるように突き上げた。腰を持たれて、激しく中送されると、もうそれだけで、僕は体が自分のものではなくなったように思えてくる。響く肌と肌が奏でる音、水音、二人の吐息、体温、そういったものが交じり合い、僕は一体感に満たされる。エルトと繋がっている感覚に、全身が歓喜していた。
「ああっ、あ、あっ、ン、ん――!!」
ひときわ強く突き上げられた時、僕は果てた。
エルトの飛沫も、体の奥で感じた。
ぐったりと寝台に頭をあずけ、僕は汗で張り付いた髪を自覚する。気だるい体、上がったままの吐息、そんな状態だったが――僕は意を決した。
「エルト」
「ん? まだ足りないだろ?」
「そ、そうじゃなくて」
「もうやめろって? 悪いが――」
「僕もエルトのことが好きだよ!」
「っ」
自分で聞いたくせに忘れていたのか、エルトは驚愕したような顔をしていた。
それから――頬を赤くした。僕は、こんな風に照れているエルトを初めて見た。
「……おう。ま、言われなくても知っていたけどな」
「なにそれ」
エルトは一度僕から体を引くと、隣に横になった。そして僕を抱き寄せた。
そうしながら額にキスをしてくれた。
「相思相愛だな」
「う、うん……」
「もう一度言ってくれ」
「す……っ、……好きだよ」
言うのは恥ずかしくて、今度は僕が照れてしまった。両手で顔を覆ったら、隣で笑う気配がした。
このようにして、僕はエルトと共に幸せな日々を送っている。
僕は自分が神子だと聞いても信じないが、エルトの運命の相手になれるのならば、それでも良いと思っている。僕は、エルトが大好きだ。