【11】★



 そのままバイルが腕に力を込める。夏色の風が吹いている。
 ――すると、ライスが動きを止めた。

「は、離してください」
「なんで?」
「恥ずかしいので」
「抱きついてきたの、お前だろ」
「……、……」
「ま、入れよ」

 揶揄するように笑ってから、バイルは中にライスを促した。
 ライスは実はど緊張しながら、その後に続いた。会いたいなんて電話を貰ったからだ。それだけでも意識しない方が無理だったというのに、家に来いと言われた。だから、無理にテンションを上げてみたが、失敗した。自分の挙動不審さを悟られたくなくて俯く。頬が熱かった。

「座ってくれ」
「失礼します」

 促された1Kの狭い部屋で、ライスは周囲を見渡した。よく掃除されている。几帳面なのだろうと判断した。まさか数時間前に掃除がなされたとは思っていなかった。

「元気にしていたか?」
「してましたよ。先生は?」
「毎日お前のことを考えてた」
「っ」
「きちんと歩いてるかどうか、気になってな」

 バイルのその声に、ライスは言葉を探した。自分のことを考えていたなどと言われて喜んだ直後に、それが勘違いだったと思ったのだ。バイルは、俯いてなんだか震えているライスを見て、首を傾げた。空調の温度を確認するが、寒すぎず暑すぎないと思う。

「寒いか?」

 念のためバイルが聞くと、ライスが首を振った。

「いいえ。むしろ外が暑かったので――落ち着きます」
「汗かいたならシャワー貸すか?」
「大丈夫です。もう魔術が使えますから」

 そう言ってライスが魔術を使った。ふわりと良い香りが広がる。これは、回復魔力を用いて浄化する魔術だ。ピシャリと一瞬水の膜が体を覆ったようになる。瞬間的にそれが乾く。だから髪も肌も洗いたてのようになる。

「――お前、やっぱり顔は普通にしてた方が絶対に良いな」
「あ。また塗らないと」
「今夜は良いだろ。泊まってくか?」
「いえ、帰ります」
「ダメ」
「え?」
「帰るな」

 バイルはそう言ってから、冷蔵庫の前に立った。缶麦酒を二本取り出す。そして一本をライスに差し出してから、隣に座った。

「麦酒、飲めるか?」
「飲めますよ。俺、飲めないお酒はありませんので」
「ふぅん。アルコール分解魔術か?」
「ええ、そうです」

 大量に飲める理由を分析していたバイルは、あっさりと返ってきた言葉に納得した。

「まぁ分解するにしろ、酔う前に言っておく」
「何をですか?」
「俺はお前が好きだから、俺と付き合ってくれ」
「!?」

 突然過ぎる言葉に、ライスが受け取った麦酒の缶を取り落とした。蓋を明ける前で良かったと思う余裕すら無かった。呆気にとられてバイルを見る。凝視した。何か言おうと思うのだが、言葉が見つからない。唇が震えた。

「え、あの……」
「ん?」
「……」
「嫌か?」
「い、嫌じゃないです! あ……え、ええと……だ、だから、その……」
「嫌じゃないなら何よりだ」

 バイルはそう言うと、麦酒を一口飲んでから、缶をテーブルに置いた。
 そしてライスに向き直り、そっと頬に触れる。真剣に見つめられて、ライスは硬直した。距離が近い。バイルがライスに顔を近づける。近づいてくるのを、ライスは眺めていた。唇と唇が触れ合いそうな距離で、バイルが動きを止めた。そしてじっとライスを見る。ライスは動けない。体の動かし方を忘れてしまった。

「好きだ」

 バイルのその声を聞いた時、半ば無意識にライスが目を伏せた。少しだけ顔を傾けて、そのままバイルは唇を奪う。二人は、触れ合うだけのキスをした。次第に、その口づけが深くなる。バイルはライスの体に腕を回して、抱き寄せてもっと激しくキスをした。


 寝台に移動し、服を脱いだのは少し前だった。
 一糸まとわぬ姿で、軋むベッドの上でライスはシーツを握っている。

「ぁ……バ、バイル先生……ッ」
「ん?」
「!」

 その時、バイルが挿入した。長く太い。ゆっくりと入っていく。亀頭部分が入った時、ライスが震えながら泣いた。――入るわけがない。そう呟いたのを聞いていたバイルは、喉で笑うと、そのまま腰を進めた。

「っ、ン、っ!!」
「ほら、全部入った」
「――、――」

 ライスが、声にならない悲鳴を上げる。別にそれは、このアパートの壁が決して厚くないからではない。ただ恥ずかしかったからだ。

「っ……」

 背が高く肩幅も広いと、陰茎までこんなに巨大なのかとライスは考えさせられた。熱く脈打つ肉茎が、中を押し広げていて、ビクンビクンと脈打つ。その度に、その振動だけでライスの中全部に響く。太い。太すぎるし、長すぎるし、何より硬い。ギチギチに押し広げられていて、奥深くまで暴かれていた。

「あ、ああ!」

 ついにライスが声を上げたのは、抱き起こされた時だった。前から抱きしめるようにされ、下から突き上げられた。より奥深くまで穿たれ、誰も知らない場所を暴かれ押し広げられ――突き上げられる。逃れようと腰を浮かすがすぐに力尽き、より深く刺さる結果となる。狙っているわけではないだろうが、陰茎が前立腺をえぐる。いっぱいだから、どこを動かしても当たるのだろう。

「あ、ああっ……あ……っ、っ、っ」

 唾液をこぼしそうになって、ライスが必死で唇を閉じた。声も頑張って飲み込むが、涙は出てきた。

「ぁ、ァ……ぁ……ぁ……」

 少し動かれるだけで、全身が揺れる。バイルが巨根なのは間違いない。締めつける意図など必要とせず、ギチギチに広げられているから、そうなる。

「ひっ」

 その状態で動かれると、グリと前立腺が刺激される。頭が真っ白になる。深く穿たれ、身動きが全くできない。

「あ、あ、あン、あ」

 バイルが動き始めた。あわせて勝手に声が出てしまう。ライスは震えながらきつく目を伏せた。目尻から涙がこぼれる――気持ち良かった。

「あ、ああっ」
「可愛いな」
「!」

 耳元で囁いたあと、バイルがライスの乳首を甘くかんだ。ジンと体全体が痺れる。そのまま胸を吸われて、ライスは次第にすすり泣きをこらえ始めた。ライスの前もそそり立ち、バイルの腹部にあたる。バイルが、それから押しつぶすように、前から押し倒した。

「ああ!」

 内部で陰茎の角度が変わる。ゴリと気持ちの良い場所をえぐられ、ライスの頭が白く染まった。バイルが抽挿を始めると、グチャグチャと音が響き始める。どんどん中が押し広げられていく。太いものの動きを覚えさせられていく。今度はバイルの体重で動けなくなった。

「あっ、あ、ああっ、もう、もう出る、ッ」
「いいぞ、イって」
「うああっ」

 ライスは前立腺を突き上げられながら放った。しかしバイルの動きが止まるわけでもない。

「あ、あああ」

 射精後も、中から快楽がずっと響いてくる。ダメだ、また出ると、そう思った時には果てていた。バイルはそのままライスを味わう。ぐぐっと深く付き入れて、体を揺さぶり、また引き抜く。ライスはその日、バイルが果てるまでの間、何度もイかされた。


 ――こうして二人は、恋人同士となった。




 その年の夏祭りも、二人はそろって花火を見た。
 さらに翌年も、その次の年も一緒だった。

 出会ってから五回目の花火大会には、子供を連れて、三人で出かけた。その時、バイルとライスの手にはお揃いの指輪が輝いていた。バイルは、扉を開けると好きな相手が出てくるようになって満足していたし、その後は愛妻家として名を馳せる。甘い物嫌いであるという逸話よりも、いかに家庭が大切かと豪語した姿を人々は記憶するようになる。








【終】