【十一】痛みと快楽(※/★)





 結局の所、風の国の兵士達とヴェルスの行為は変わらなかった。俺を抱き潰しては、戦場に出て行くのだ。俺は次第に無気力になっていった。だが――ある日、ヴェルスが机に置いた剣を見て、ゴクリと唾液を飲み込んだ。

 ベリアス将軍を手にかけた時の事を思い出す。魔力が無くとも、元々あまり魔術が使えなかった俺には関係無い。俺には、剣があるではないか。

 その日、ヴェルスが不在の時、俺は必死に体を起こして、部屋の外の気配を窺った。残っている兵士達が酒を飲んでいた。乱雑に剣が置いてあるのが分かる。俺は気配を殺して、その剣を奪った。そしてそのまま、地の国の砦を逃げ出した。

 ――もう、俺は性欲処理の道具としてなど、生きるつもりは無い。
 そうだ、まだ生きているのだから、これからの道を切り開かなければ。
 そのためには、この首輪をなんとかして外さなければ。
 黒薔薇の刻印は、どうにもならないのだとしても。

 そうして俺は走り抜け、近くにあった地の国の小さな街へと入った。

「やってくれるねぇ」

 肩を叩かれたのは、その時だった。凍り付いた俺に、いつの間にか後ろに立っていたヴェルスが残忍な笑みを向けた。

「剣はなぁ、一本でも戦場以外でなくすと怒られるから、全てに魔術がかけてあるんだよ。残念だったな」
「っ」
「まぁ良い。このまま、献上してやる。丁度、この街は公爵領地の一つなんだ。変態として有名なマーニラ公爵閣下の――歓楽街なんだよ。娼館だらけだ」
「な」
「もっと鍛えてもらうと良い」

 ヴェルスはそう言うと、俺の手首を引き、無理矢理歩き始めた。抵抗しようにも、首輪がそれを許さない。涙ぐみながら、俺は丘の上にある邸宅へと連れて行かれた。その城のような大豪邸で、俺は仮面を付けているマーニラ公爵に引き渡された。ニタニタと笑いながら俺を見ていた公爵は、ヴェルスが帰った後、俺の首輪に触れた。

「どうやらヴェルスは正確には気づかなかったようだが、これは風の国の王族のみが所持する奴隷の輪だな。王族にまで可愛がられたのか。相当出自が良いか、生贄だったか。もっとも、手の甲に冒険者印の痕跡があるのだから、どうせ貧乏で身売りしたような輩なのだろうな。外見が綺麗だというのも災難だな」

 そう言うと公爵は、俺の顎をきつく掴んだ。

「私は綺麗なモノが嫌いだ。戦でこの顔に火傷を負ってからな。貴様の体も、すぐに醜く変えてやる。まずは逃げ出せないように、足の指を切り落とすとするか」

 俺は戦慄し、恐怖から震えた。快楽以外でこれほど震えるのは、久しぶりだった。

「っく、冗談だ」
「!」
「麗人が恐怖で凍り付く顔が好きでな」

 俺から手を離すと、公爵が俺を抱き起こした。そして俺を、地下室へと連れて行った。そこには様々な、卑猥な玩具が並んでいた。それを見て目を見開いていると、強引に公爵が俺の服を開けた。

「ん? 黒薔薇の刻印だと? 火の国の縁者か?」
「……」
「随分と興味深い体だな。どれ、味見をするか」

 俺を寝台に座らせると、萎えている俺の陰茎を、公爵が握った。そしてねっとりと筋を舐めあげてから、チラリと俺を見た。

「甘い味が残っているな。魔力は空だが――この味は、神の味だ。王弟であるから、地の神の力を引く私には分かる。これは良いもらい物をしたようだ。ヴェルス団長にはあとで褒美を与えるよう、陛下に進言するか」

 そう言ってから、公爵が俺の陰茎を口に含んだ。

「ンん……っ、ぁ……」

 すぐに俺の体は熱を孕んだ。貫かれたい。そればかりが脳裏に浮かぶ。今度は快楽から震えていると、公爵が俺の中に指を進めた。

「あ、あ、ああ、ひ!」

 口淫されながら前立腺を刺激され、俺は声を上げた。すると暫くそうした後、公爵が口を離して、ペロリと唇を舐めた。

「敏感な体だ」
「あ、ああ……あ……ひい、ァ、かき混ぜないでくれ、やぁ」

 泣いていたその時、バチンと音がして、首輪が外れた。それに驚いた時、公爵が口角を持ち上げた。仮面越しに見える青い瞳が笑っていた。

「抵抗して構わないぞ。武勇で名を馳せた私が力負けする事などあり得ないからな」
「あ、あ、あ」

 自由になるようになった手で、俺はのし掛かってきた公爵の体を押し返そうとした。すると楽しそうに笑われ――直後、公爵が仮面を取った。右顔面のほとんどが、焼けただれていた。その相貌に思わず目を見開くと、綺麗なままの片方の唇を、公爵が持ち上げた。

「私は醜いだろう?」
「っ、ぁ」
「見にくいものに犯される綺麗なものを見るのがたまらない」
「ああ、ぁ」

 公爵が俺に挿入した。押し広げられる感覚に涙を零す。気持ち良かったからだ。俺は公爵にしがみついた。

「もっと、もっとしてくれ」
「――このように弱いのでは面白みがないな。私は清廉な者が好きなのだが」

 そう言うと、パチンと公爵が指を鳴らした。瞬間、俺の体を水のような何かが駆け抜けた。

「ぁ……あ、あ、あああ」

 途端、内部が明確に公爵の肉茎の形を覚えた。俺の菊門がギュウギュウに締まる。

「ひ!」

 その状態で乳首を摘ままれると――いつも走る快楽が無かった。

「ぁ……あ」
「地の神、砂の力で快楽を吸い取った。嫌がって泣け」
「う、うああ」

 ググっと最奥を公爵が突いた。露骨に押し上げられ、俺は怯えた。いつもなら、快楽が襲いかかってくるからだ。だが――訪れたのは、快楽では無かった。

「いやぁ、ァ、痛い、嘘だ、いや、いや」
「もっと苦しむと良い」
「嘘、ぁ……あああ、助けて、こんな――痛い、いやぁ」

 俺は号泣した。暫しの間そうして俺を嬲っていた公爵は、それからまた、パチンと指を鳴らした。

「!!」

 瞬間、今度は逆に、俺の中に快楽がなだれ込んできた。痛みから一転して、壮絶な快楽が俺に襲いかかる。耐えられない。もうダメだ。

「あ」

 ブツンと俺の意識が途切れた。
 次に目を覚ますと、俺は布をかませられ、椅子に拘束されていた。

「っ、う」

 正面の豪奢な椅子で、葡萄酒を飲みながら、じっと公爵が俺を見ている。
 汗で俺の髪が肌に張り付いてくる。
 ブルブルと体が震えているのは、俺の内側に張り型が入っていたからだ。ただの張り型では無く、魔導具のようで、振動している。

「う、う、っく」
「痛みと快楽、どちらにするか。虐め抜いてやらないとな」
「!!」

 魔導具からビリビリと何かが響いてくる。それが、もう俺には無い魔力だと気づいたのは、黒薔薇が反応したからだ。愕然としていると、黒薔薇の刻印から壮絶な快楽が広がり始めた。俺の眦から涙が零れていく。

 それから――再び、辛い日々が始まった。