【九】人払い
その夜、僕は国王になって初めて、この宮殿に来てから初めて、人払いをした。ただ一人、ジュードだけを残して。周囲は、筆頭の近衛騎士だからだと思っているらしい。だけど、理由は違う。ジュードと昼間、約束したからだ。夜、一緒に眠ろうと。
「ん」
二人きりになり、鍵をかけてからすぐに、甲冑を脱いだジュードに抱きしめられて、キスをされた。押し倒されたのはすぐの事で、一糸まとわぬ姿になった僕は、寝台の上で膝をつく。猫のような姿勢で、僕は緊張からシーツを握り締めた。
「あ」
香油をまとったジュードの指が、僕の中へ一本進んできた。ゆっくりと丁寧に挿入したジュードは、気遣うように僕へ聞く。
「痛くないか?」
「へ、平気……っ、ぁ」
「ここか」
ジュードが指先を折り曲げた時、全身にゾクリと快楽が走る箇所を刺激された。僕の口からは甘ったるい声が漏れる。ジュードがそこばかり刺激するものだから、僕は涙ぐんだ。気づけば僕の貧相な陰茎が、自己主張を始めていた。反り返り、先端からは透明な先走りの液がこぼれている。それを自覚し、僕は羞恥に駆られた。
「あ、ア」
ジュードが今度は二本の指を一気に挿入した。そしてまた、僕の感じる場所を、嬲るように刺激する。時折ほぐすように指先を広げては、また間断なく感じる場所ばかりを突き上げるのだ。僕は身震いしながら、襲いかかってきた快楽に耐える。
「挿れるぞ、悪い、限界だ」
「あ、あ、ああッ」
ジュードの陰茎が、僕を貫いた時、思わずきつく目を閉じた。自分の睫毛が震えているのが分かる。香油がぬちゃりと音を立てるから、それを耳にするだけでも恥ずかしい。
「ひゃ、っ、ぁ、あ」
感じる場所を、今度は巨大な陰茎で突き上げられて、僕は嬌声をあげた。頭が真っ白になっていく。
「あ、あ、ああ、あア」
「きつい、少し力を抜け」
「や、出来な……っ、ああ、ジュード、あ、ああ」
「好きだぞ、レム」
その後、ジュードが激しく動き始めた。香油の立てていた水音に加え、肌と肌がぶつかる音が響き始める。それが更なる羞恥を煽る。僕はギュッとシーツを握り締めて、必死で耐えた。するとそんな僕の背中に、ジュードが覆いかぶさるようにして体重をかけた。
「あ、あああ!」
感じる場所を押し上げるようにされたままで、僕は身動きを封じられた。そんな僕の首筋をぺろりとジュードが舐める。その感触だけでも、僕の全身はさらに熱を帯びていく。
「や、あ、あ、動いて」
「ああ」
「ゃ、ァ――っ」
僕が哀願しても、ジュードは緩慢に腰を動かすだけだ。次第にもどかしくなり、僕は震えた。自分でも、ジュードの陰茎を締め付けてしまったのが分かる。
「っ、レム。俺は幸せだ」
「あ、ハ……ジュード、も、もう僕……あああああ!」
その時ジュードが片手で僕の陰茎を握り、扱きあげた。同時に中の感じる場所を一際強く貫かれて、僕は果てた。肩で息をし、ぐったりした僕の腰を、ジュードが掴む。そして体を揺さぶった。
「あ、あ……」
穿たれ、力が抜けてしまった体では動けず、抵抗も出来ない内に、僕の体の奥では、再び熱が燻り始めた。
――気持ち良い。
全身が快楽に絡め取られていく。それは白い色をしていたが、雪のような冷たさはなく、どちらかといえば、灼熱のような温度を僕の体にもたらした。皮膚の内側を、達したいという欲望が埋め尽くしているような感覚で、僕は泣きながら頭を振る。
「あ、あ、こんなの知らない、やぁ、ジュード、もっと」
「いくらでも。夜は長いからな」
「ああああ!」
再びジュードが激しく打ち付け始めた。体を揺さぶられ、僕は快楽からボロボロと涙をこぼす。師匠を待って泣いていた時の、辛い涙とは全然違う。幸福感が流れだすように、僕の両目からは、温水が滴っている。温かい。ジュードが大好きだ。
この夜――僕達は、散々交わったのだった。
翌朝。
入ってきた侍従は、少し驚いた顔をしたものの、何も言わずに裸の僕達へ、服を差し出してくれた。その後僕は、入浴した。巨大な湯船に浸りながら、昨夜の事を考える。すると胸が満ち溢れてきて、僕もまた、幸せだなと感じた。
ただ――幸せは、脆い。僕は、師匠との一件で、それをこの身に焼き付けられている。
「いつか、ジュードがいなくなっちゃったら……僕は、どうしたらいいんだろう」
その時こそ、もう生きてはいけない気がした。けれど。
「幸せな日々は脆くて、でも――救いは必ずあるよね」
僕はジュードが助けてくれた事、そして師匠が無事だった事を思い返しながら、両手でお湯をすくった。そして師匠が教えてくれた水鉄砲をして遊びながら、今はただ、幸せに浸る事にした。このお湯とおんなじように、温かい幸せに。
入浴後、いつも通りの朝が始まった。少し気怠い体で朝食をとり、その後は謁見の間で臣下達の話に耳を傾ける。これが、これからの、僕の一生のお仕事だ。それは、ジュードが僕を護ってくれる限り、続けたいと思う。そして僕自身は、この王国を守りたいと感じている。例えばそれは、師匠が毎日笑顔でいられるような、そんな日々を創る事でもある。