1:最近の日常


俺のパートナーは兎に角働かない。いや、働いているのかもしれないが、姿が見えない。
例えばザイルやルツのパートナーは、みんなと協調性を持って、遺跡の攻略に行く。
一刻も早くこの≪閉鎖世界≫から抜け出すために、皆で頑張っているのだ。
だが俺のパートナーのエル……エルンストはと言えば、食事が終われば部屋に行く。
俺はと言えば朝食の後かたづけをした後洗濯機を回してから、噴水前にいって、ザイルやルツ達と情報交換をしている。俺がいなければ、我が家は、他の皆との縁が切れているのではないだろうか。
エルだって、その気になればすごいだろうと思うのだ。多分。
やる時はやると思うのだ。多分。

しかし最近思う。それはただの俺の願望なのかもしれないと。

「――おい、どうしたんだよそんな溜息着いて」
ルツの声に視線をあげた。
「……今夜はヒレカツにでもするかと思ってな」
「ヒレカツ……? ちょ、お前、何その豪華な感じ」
「カツぐらいで喜ぶな」
「違うわ馬鹿!! みんな雑草から食えるモノを必死で探して生きてるって言うのに、ヒレカツって……! この前も、すき焼きを食べていたよな!? どこから出てくるんだよそれ!!」
「は? 食材は冷蔵庫に入ってるだろう」
「だからそもそも冷蔵庫がないんだって! というよりも、家がないからみんな、木を切って手で小屋を建ててるんだろうが! 何でお前はさも一軒家が当然だと思ってるんだよ!」
「だってはじめからあったしな」
「羨ましすぎる……!」

ルツが怒っているが、俺は、きちんと遺跡の攻略に貢献しているお前のパートナーの存在が羨ましい。他の組の衣食住に関しては基本的に閲覧できないから実感がわかないだけかもしれないが。少なくとも俺は、ここに来て初日以降、ずっと二階建ての一軒家に住み、家電製品に囲まれ、食料がいつの間にか補給されている冷蔵庫のお世話になっている。水道もあるしお風呂もあるしトイレもある。だからそんなモノがないというルツの話が信じられないし、じゃあどうやって生活しているんだよとも思う。

「しかもお前そのピアス……!」
「これがどうかしたのか?」
「どうかって、それ、三時間前に攻略されたって公開された遺跡の報酬と同じだろうが! また非公開にしてたのか!?」
「……――なんだって!?」
「お前そのピアス一週間前くらいからしてるよな!?」
「ああ。丁度一週間前の手巻き寿司の日に、パートナー契約三週間記念日で貰った」
「ありえねぇ! ちょっとお前のパートナー俺によこせ! 遺跡の宝箱の宝石なんて一個も貰ったことねえわ!」
「悪いがそれは出来ない」

確かに俺も交換して欲しいところだが、あんなんでも愛着は出てきた。
とりあえず俺は帰ることにした。
そして勢いよく、部屋の扉を開け放った。
するとそこでは、エルが古文書を読んでいた。

「おかえり。もう昼食?」

食事を呼ぶ時以外は、基本的に部屋に入らないことになっているが今回は話が別だった。
「お前、遺跡の攻略をしていたのか?」
「まぁ、たまにはね」
「どうして、どうして……! それを日常的にやらないんだ!」
「ほら僕さ、一人で行動してるし。も、勿論ちゃんと回復が必要な時はコーガにお願いするけど」
「他の人間と行けばいいだろう!」
「ごめ、僕人見知りだからさ……」
「そんなんじゃいつまでたっても≪閉鎖世界≫から出られないだろうが!」
「う、うーん。いやけどほら、ね? みんな頑張ってるし、僕たちは応援していようよ。何も自分から危ない目に遭わなくてもさ……」
「腑抜け!」
「あ、うん。ごめん、否定はしないよ。それに、僕としてはコーガにも危ない目にあって欲しくないから、他の組とパーティ組んで君にもダメージが来たりしたら嫌なんだよ」
「俺を理由にするな!」
「ごめん、本当ごめん。とりあえず、もう少し古文書読むから、お昼ご飯が出来たら呼んでね」
「……」
謝っているというのに、続いた声に俺は脱力しそうになった。
お前は謝っていたのじゃなかったのか。ごめんという言葉は飾りか。

やっぱり今夜は、エルが嫌いなニンジンたっぷりのキャロットライスにしてやろう。
そんなことを考えつつも、ふともう一ヶ月近く経つんだなと思った。

――この≪閉鎖世界≫に閉じこめられてから。