3:三人の伴侶
考えさせられる事になったのは、夕食の時である。珍しく夜会が無いと聞いていたのだが……朝紹介された三名と、同席させられたのである。
その場で率直に切り出したのは、ロイドだった。
「それで、今夜は、誰を寝室に呼ぶんだ?」
「へ?」
驚いたキースが目を丸くすると、三人が虚を突かれたように息を飲んだ。
「まさか誰も呼ばないつもりだったのか……? 私の事もロイドの事もグレイルの事も」
ハロルドの言葉に、キースは無意識に首を振っていた。
「だ、だって……寝室? なんでだ?」
「結婚したら、私は寝室を共にするものだと思うが?」
「え……ハロルド男爵、それは、男女の場合だろう?」
「睦み合うのは同性でも可能だ」
「それは、そうかもしれないけどな……俺達が一緒に横になっても、何も生まれないだろ?」
キースが言うと、ハロルドが怪訝そうな顔をした。そして首を傾げた。
「生まれるだろう」
「何がだ?」
まさか、愛か? と、キースは混乱した。
「キース陛下、俺達は種馬としてここに呼ばれたんだ。勿論、子供を陛下には産んでもらう」
ロイドがナイフを置きながらそう口にした。ぎょっとしたキースは、思わず咽せた。
「俺は、男だぞ? 産めない……!」
すると三人が硬直した。その後、何やら視線を交わしあった。
「――まさかと思うが、陛下は、同性でも子供を作る事ができると知らないのか?」
「からかわないでくれ」
ロイドの言葉にキースが声を上げると、ハロルドが吹き出した。
「性交渉時に魔力を用いる事で受胎が可能だ。産む際も魔術で難なく産める」
「え!?」
ハロルドをキースは凝視した。そんな事実が本当にあるのだろうか。ロイドを見ると大きく頷いている。それからキースは、ここまでの間も一言も言葉を発していないグレイルを見た。すると、初めて目があった。彼は、二度小さく頷いた。グレイルまで嘘をつくようには思えない。
「ま、待ってくれ、だ、だとして……俺が産むのか? ふ、普通は伴侶が……」
「王妃という呼称であれば、その人物が孕む。わざわざ伴侶としているのは、婿となるからだ。次期国王父として、私達はそれぞれ権力が欲しい」
「ハロルドの言う通りだ。それに――キース陛下が産めば、確実に王族の子となるが、俺達が孕んだ場合、キース陛下の子供であるという証明が必要になるだろう」
ハロルドとロイドの言葉に、キースは唖然とした。
「よって今後は、子供ができるまでの間、私達三人を代わる代わる――あるいは固定で毎夜寝室に招いてもらう事となる。三人を呼んでも構わない。重要な夜会や外せない夕食会がない限りは、な。基本的には夕食を私達四人でとって、その日のお相手を選んでもらう形だ」
「え、それ、真面目に?」
キースはハロルドに聞き返してから、他の二名にも視線を向けた。全員が頷いている。
衝撃的すぎて、キースは半泣きになった。男同士の性交渉というのも未知の恐怖があるが、何より、妊娠出産と聞いて、もう頭が理解を拒んだ。
「で、今夜は誰にするんだ?」
ロイドが話を戻した。キースが震えを制しながら、改めて三人を見る。
「え、ルイド閣下を呼んでくれ……!」
「宰相閣下は伴侶では無いし、寡夫だが既婚者だ。それにさすがに宰相閣下がお相手では、権力の集中として批判される。確かに麗しいお方で私も興味はあるが」
「いやハロルド、そういう意味じゃなくて! 事実確認をしたいだけだ!」
こうしてその場にルイド閣下が呼ばれた。
面倒くさそうな顔をして現れたルイド閣下は、必死に状況説明を求めるキースに対し頷くだけだった。
「全て聞いた通りだ。取り敢えず一人選べ」
「ど、どうやってだ!?」
「好みのタイプはいないのか?」
「男に好みなんかない……!」
「――では、そこの三名は適当にアピールポイントをそれぞれ述べろ。キース陛下は、それを聞いて一番マシだった相手と今夜は眠れ」
ルイド閣下がおざなりに答えると、ハロルドが面白そうに笑った。
「私は、非常に巧みだと言われる事が多い。一度私と寝ると、皆やみつきになるそうだ。私の子供が欲しいという人間は非常に多い」
キースは目を細めて、涙ぐみそうになった。それは即ち……ヤリチン……? 反射的にそう考えてしまった。だが、理解できなくはない。キースから見ても、ハロルドは非常に端正だった。長い銀髪を後ろで束ねていて、紫色の瞳をしている。どこか中性的な顔立ちでもあるのだが、この中では一番見た目的には強そうでもある。
初めてなのだから、痛くないに越したことは無いだろう……産むのだから突っ込まれるはずだと考えながら、キースは両腕で体を抱いた。すると続いてロイドが言った。
「俺は、医者の資格を持ってるし、本業は医者だ。この国にも元々その関連で留学に来ていたのがきっかけだ。俺としては、キース陛下と結婚して永住権を得たいだけだ。性交渉は率直に言って健康的な運動だと考えている。俺の場合、医学的に痛みはなく傷つくこともない。安心していい。受胎後も任せてくれ」
それを聞いて、キースは再び泣きそうになった。内容はハロルドよりも安心できそうではあるが……非常に義務的な感じがした。それはそれで怖い。一発で子供が出来そうな恐怖がある。ロイドは、黒曜石のような瞳を輝かせている。どこか……学術的な興味を滲ませている表情に、キースには思えた。
最後に――グレイルに全員の視線が集中した。グレイルは俯きがちにナプキンで口元を拭ってから、視線を皿に向けたまま、ボソリと言った。
「俺は、避妊します」
「グレイル元帥、よろしくお願いします!」
キースは即答した。ハロルドとロイドはそれを見て、それぞれ腕を組んだ。
「決まりだな。さっさと行け」
ルイド閣下が宣言すると、グレイルが立ち上がった。つられてキースも立ち上がる。
こうして――キースの初夜の相手は決まったのである。