5:初夜(★)




 それからグレイルが左手でキースの胸の突起を弾いた。ビクリとした時、右側を唇で挟まれる。悲鳴を飲み込み、キースは奇妙な感覚に耐える事になった。男でも胸で感じるらしいという噂は、キースも聞いた事があった。しかしながら、キースはこれまでに恋人がいなかったので、真偽は不明だった。

 ――端正すぎて、周囲は中々キースに近づけなかったし、努力して近づいてもキースは非常に鈍かったのである。

「ぁっ」

 その時グレイルが、軽くキースの乳首を噛んだ。瞬間、震える声が出た。あんまりにも甘く高い声だったため、キース自身が狼狽えた。無意識に声が出た事が信じられなかった。少し気をよくしたグレイルだが、愛撫は止めない。図に乗るでもなく、淡々と続ける。

 実を言えば、ハロルドなど比ではないほどに、グレイルこそが玄人として浮名を流している。元々武官というのは、性的に奔放な血の気の多い人間が多いこともあるし、中でも男しかいない環境でもあったため、グレイルは抱く相手に困ったことはない。いつしかその傾向が、キースと同じ黒髪で青い目、細身の魔術師になっていったのだが、それは本人も無意識の選択だった。これに関しては、キースは聞いたことが無かった。

「っっっ」

 再び胸を甘く噛まれた時、キースが息を詰めた。次第に奇妙な感覚が、ツキンツキンと体に染み入るようになってきて、快楽に変換され始めていた。キースが小さく震えたのをグレイルは見逃さず、左手をキースの陰茎に下ろした。そして軽く撫で上げ、キースの目を見た。目が合いキースは、真っ赤になった。自分が反応しているのを自覚させられたからだ。

 それから反転させられ、寝台のそばに用意されていた香油を指につけたグレイルに、内部をほぐされた。そのヌメる感触が、最初は気持ち悪かったのだが――キースはすぐに悶える事になった。これは、香油に弛緩剤と微量の媚薬が入っていたからだが、キースはそれを知らない。

「ぁ……っ……あ」

 グレイルが挿入した時、キースは思わず切ない声を上げた。引きつるような感覚と――快楽が襲ってくる。猫のような体勢にされ、後ろから深く貫かれる。不思議と痛みは無かった。グレイルは根元まで埋めると、キースの前を握り、扱きながら左手では乳首を嬲った。

「あああ」

 内部では見つけ出していたキースの感じる場所を突き上げている。三ヶ所同時の刺激に、キースは震えながら声を上げた。全身が熱い。――思ったほど、怖くない。それに痛くない。何より……気持ち良い。そう考えながら、キースは、きゅっと目を閉じた。この時はまだ、考える余裕があったとも言える。

「!」

 グレイルが動きを止めたのは、キースが出ると思った時だった。思わず目を見開き、張り詰めた陰茎の根元を拘束するように止まった手と、内部で動きを止めたグレイル、乳首から離れて自分の上半身を抱きしめるようにした彼の腕を意識する。何がどうなったのか、何故止まったのか、キースはさっぱり分からなかった。

 そのまま――グレイルは動かない。
 逆に、キースは震え始めた。

「ぁ……」

 果てる寸前で止められた体が、解放を求めて暴れそうになる。

「ゃぁ……」

 キースの色っぽい声に、グレイルはメチャメチャにしてしまいたくなったが、もっと痴態を見ていたいという欲求もあったし、もう二度と機会がない可能性も考慮すると、まだまだ味わい足りなかった。

「やあ、あっ」

 キースの声に、涙が混じった。甘い嬌声は震えている。

「いや、いやだ、あ」
「――何が嫌?」
「ダメだ、もうだめだ、いや、あ、動いて、動いてくれ」

 キースの理性が倒壊した瞬間だった。グレイルがこの時初めて吐息に笑みを乗せた。キースの前で笑うのは、初めてのことである。

「あ……ああっ」

 グレイルが非常に緩慢に腰を揺さぶると、キースが大きく声を上げて涙を零した。それでは全く足りず、もどかしさが大きくなっただけで、逆に辛い。

「いやぁっ! ああ! あ、ああああ」
「どうして欲しい?」
「もっと、あ、もっと……もっと、頼むから」
「いいよ」

 グレイルは微笑したまま答えると、思いっきりキースの前立腺を突き上げた。
 しかし、前をせき止めている手はそのままだ。

「え」

 キースは目を見開いた。

「いやあああああああ」

 確かな射精感があった。だが、通常より長く、さらに全身が性感帯になったかのような快楽が走った。キースが、初めて中だけで果てた瞬間である。漣のように襲ってきてすぐに全身を侵した快楽は、全てを真っ白に染め上げた。長く響いた絶頂を、キースは息をするのも忘れながら、必死に乗り切った。そしてようやく呼吸ができるようになった時、グレイルがキースの前を撫でて出させてくれた。ぐったりとしたキースの蒸気した白い肌、朱く染まっている頬を見て、グレイルは、まだ足りないと思いながら生唾を飲み込む。キースの体を仰向けにし、涙を指で拭いながら、じっとグレイルはキースを見た。キースはまだ、肩で息をしている。――キースは、美しい。

「キース陛下、上に乗って」
「あ……」

 されるがままで、キースはグレイルの手で上に乗せられた。再び入ってくる感触に息を呑む。すると重力に従い、先程よりも深々と貫かれている気になった。グレイルがすぐに腰を揺らし始める。その度に、キースは声を漏らした。そうしてしばらくした時、グレイルがまた動きを止めた。しかし、キースは自分の体が動くのを止められなかった。

「あ、あああっ、あ、ン」
「気持ち良いですか?」
「やだっ、あ、動いてくれ」
「ご自分でどうぞ。気持ちの良いところを、俺に教えてください」
「ああああっ」

 無我夢中でキースは動いたが、上手く気持ちの良い場所には当たらない。グレイルがキースの細い腰に手を当てる。キースは涙をこぼしながら必死に動いた。体が汗ばみ、全身が朱く染まっていた。その姿もまた扇情的である。

 こうして夜が更けていった。