【五】初体験(★)
僕は、大学生だった頃も、童貞だった。別にそれを恥じた事は無い。
だが、平均で平凡なので、同性愛について深く考えた事も、一度も無かった。
その為、後孔を解されている現在、僕はびっくりしすぎて、半泣きである。
手に香油をつけたザイルが、先程から丹念に指で僕の内部を解している。
最初は一本だけ、第一関節までだった指。それが根元までは入りきり少しすると二本に増えた。痛みは無いが、違和感がすごい。嫌悪感が無いのは、相手がザイルだからだと思う。それと、僕は召喚獣になってから、どういう状態なのか分からないがトイレに一回も行っていないので、汚いというようなイメージが消えつつあるからなのかもしれない。
その時ザイルの指が、グリと僕の内部のある個所を刺激した。
「ひっ!!」
僕は思わず声を上げた。
「ここか?」
「あ……あ……」
「前立腺だ。人間とここまで身体構造が変わらないのだから、やはり淫魔……いいや、もうどちらでも良い。俺はお前が欲しい」
「っく、ぁ……」
ザイルが執拗に、僕の体がビクンと跳ねてしまう場所ばかり、刺激し始めた。そこを指で強めに刺激されると、驚くべき事に、全身に快楽が響いてくる。
「あ、あ、あ」
気持ち良い。段々、僕の体は熱くなってきた。頭がぼんやりして、息をする度に声が出てしまう。それが恥ずかしくて、僕は両手で口を押えた。
「ん――!! ぁ、あ……ア……」
「ハルの口から、食べ物と俺の名前以外が飛び出すと……嬉しいな」
「や、ァん……あ、あ、ザイル」
「――いやでも、このタイミングで名前を呼ばれると、俺の抑制が効かなくなりそうだな」
「あ、あ、あああああ、あ……あ、ア!!」
あんまりにも気持ち良すぎて、僕はポロポロと泣きながら、思わず口走った。
「ダメ、ザイル。ダメだ。あ、ああ、あア! ダメ、嫌! 止めて!」
「!? お前、言葉を……!?」
「ああああ、あ、あ、あ、あ……やっ、イきたい、イきたい……出したい……うぁア」
「待ってくれ、ハル!? お前、言葉が分かるのか!?」
「待てない、もうダメ、死ぬ。体が熱い。嫌だ、こんなの。早く出したい、そこ止めて。お願い、ザイル」
「っ」
「もう我慢できない、出る、あ、あ、イく……っ、ひう」
すすり泣きながら僕が言うと、ザイルが息を呑み、手の動きを止めた。急に刺激がなくなると、それはそれで辛くて、気づくと僕の腰が勝手に動いてしまった。
「いや、あ、あ、あああ、だ、ダメ、イキそうなのに、あ、あ、ああ……あー!!」
もどかしくて、何も考えられなくなってしまった。
「――話はあとだ。俺も限界だ。挿れるぞ」
「んア!!」
指を引き抜くと、ザイルが陰茎を進めてきた。熱く硬いもので実直に押し広げられた時、その衝撃で僕は放った。ガクンと僕の体が揺れて、力が抜ける。それを見計らうかのように、ザイルが根元まで挿入した。指とは圧倒的に異なる質量に、僕は震えながら体に力をこめる。繋がっている個所が熱くて、全身が蕩けてしまいそうになる。僕の呼吸が落ち着くまでの間、ザイルが動きを止めていた。必死で息をしていた僕の体は、次第に感じる内部に齎されている熱により、再び快楽を拾い始める。気づくとまた、僕のものは反応を見せ始めていた。
「動くぞ」
「ああああああ!」
ザイルが抽挿を始めた。最初は腰を揺さぶっただけだったが、ゆっくりと抜き差しをはじめ、その内に、激しく打ち付け始めた。そうされると指で見つけ出された僕の感じる場所が擦り上げられるように刺激されるから、訳が分からないほどの快楽が生まれる。思わず腰を引こうとすると、ギュッと腰骨を手で掴まれた。もう一方の手では太股を持たれているから、逃げられない。その状態で、より深く打ち付けられ、僕は大きく喘いだ。
「あああ、あ、ア!! ンあ――っ、ふぁ、あ、ああ!! やぁ――気持ち良い、あ、あ、ああ! ん、ひぅ……ひゃっ、う、うあ、あああ!」
太く長いザイルのものが、僕の中を容赦なく責め立てる。
「ん――!! ぁ、あ……ア、ああ、っッ、あああああ!」
気づくと前を触られていないのに、僕は最奥を穿たれた瞬間に再び射精していた。ほぼ同時に、内部に飛び散るザイルの白液の感触も知った。
事後。
僕から陰茎を引き抜き、僕を腕枕して、ザイルが寝台に横になった。その腕の中で、僕は先程まで散々喘いでいた事を思い出し、真っ赤になって震えていた。そんな僕をチラチラ見ていたザイルは、その後僕の髪を撫でた。
「可愛かった」
「……」
「が――色々と聞きたい。お前、喋れるのか? 言葉が分かるのか?」
「……」
「何故黙っているんだ? まさかSEX中だけ会話可能なのか?」
「ち、違うよ!」
「やはり喋れるようだな。言葉は分からないのかと思っていたが、違ったらしい。ならば直接聞きたい事がある」
きっと能力について問われるのだろうと、僕は考えた。
「俺の事を、どう思っている?」
「――え?」
「俺は、ハルが好きだ。ずっと、お前は聞いていないと思っていたし、聞いていても理解できないと思っていたから、かなり露骨にお前の真正面で呟いていた自信もあるから、気持ちは分かっているとは思うが、念のため、きちんと伝えておく。俺は、ハルが好きだ」
「!」
確かに、ザイルは僕を好きだというような趣旨の発言をよくしていた。だが、僕はその好きの意味を、肉体関係が伴う好意だとは認識していなかった。
その為、改めて言われたら、顔からボッと火が出そうになった。
どうしよう……。
嬉しい……。
考えてみると、僕だって嫌悪感は無いし、ずっと一緒に過ごしてきたザイルは特別だ。これまで考えた事が無かっただけで、改めてじっくりと考えてみると、僕はザイルの事と食べ物の事、あとは授業についてしか、毎日考えていない。それに、直観とでもいうのか、嫌ではないし、これってつまり、好きって事なのかなとすら思ってしまう。
「僕も……ザイルが好きだよ。多分」
「本当か?」
「うん」
「そ、そうか。良かった、嬉しい」
隣からザイルが、ギュッと僕を抱き寄せた。その温度が愛おしく思えたから、やはり僕が出した結論は間違っていない気がする。
――このようにして、僕とザイルは恋人同士になった。
以後、僕は溺愛されている。毎日唇にキスされるようになったし、夜はほとんど毎晩、体を重ねている。こんなに愛されて良いのかというくらいドロドロに甘やかされている為、僕はある日不思議に思って聞いてみた。
「ねぇ、ザイル? 僕には何の力もないけど、良いの?」
「そばにいてくれれば満足だ。それに召喚の儀は来年にもまたある。卒業後は、自分で自由に召喚する事も許される。俺は、ハルに危険な目に遭ってほしくないから、これで良かったと今では思う。お前は、俺のそばにいて、俺の恋人として、ずっと隣にいてくれたら十分だ」
……本当にそれで良いのかは、僕は知らない。
だけど、日増しに、僕はザイルの事が好きになっていくから、現在が幸せだ。
なお、僕は今も、ザイル以外とは話さない。しかしザイルは、それでも良いという。
「俺だけが知っていれば十分だ」
僕は優しいザイルに甘えっぱなしである。