01
僕は、バルティギア国王、ラック・ザン・=ダゥ=バルティギア。
僕の左右には、常に二人の人物が立っている。
右に立つのは、宰相閣下。
サイト・ディアス=デュ=ワルプルギス。
紫闇の髪に、紫紺の瞳をした侯爵家出身の宰相だ。
僕は彼を――素直クールと名付けている。
左に立つのは、近衛騎士。
クルス・ライト=ドゥ=ヴェルダンテ。
鼻梁の通った切れ長の瞳をしている。
伯爵家の出身の堅物だ。
「陛下、謁見のお時間です」
宰相の声に僕は、小さく頷く。
父が崩御して二年。十三歳になった僕は、幼年国王だ。
日々、二人に守られながら、何とか国政を行っている。
なんだけど……僕は、僕はさ、唯一止められないことがある。
どうしてもどうしても、近衛騎士×宰相の腐妄想をしてしまうのだ。
僕は――なんでなのだろうか。
自分でもよく分からないのだが、生まれた時から『やおい』という知識があるのだ。
ヤマナシ・オチナシ・イミナシ!
そんなボーイズラブ的な何かを妄想してしまうのである。
何となく前世の記憶があって、僕は”腐男子”という生き物だったような気がする。
それが具体的にどんな生き物だったのかは思い出せないんだけど。
僕は首元の赤いリボンを弄りながら、左右をそれとなく一瞥した。
――サイトをクルスが押し倒せばいいのに……!
あの白い首筋に噛みつかないかな。
体格差も萌えるんだよな。
サイトは決して背が低い訳じゃないんだけど、クルスの背が高すぎる。
『ぁ……』
きっと、押し殺すような嬌声があがるんだ。
それでサイトは目を潤ませながら、クルスを見上げる。
『こ、これ以上は……』
『悪い、自分が抑えられないんだ』
根が真面目なクルスの、抑えきれない熱い心情。
きっと思わず押し倒したクルス自身も辛いんだと思う。
うんうん。
そんな感じで、一つ、どうだろうか。
「――と言うことで、海路を一つ整備したいのですが」
サイト宰相の声で僕は我に返った。
まずいまずい、仕事中に僕は一体何を考えているんだか。
「良いだろう。僕は認める、好きにせよ」
大仰にそう告げ、僕は宰相を一瞥した。
それにしても何でこんなにサイトって綺麗なんだろうな。白皙の美貌というのはこういう事を言うんじゃないだろうか。
それからそれとなく近衛騎士のクルスに視線を流す。
こちらは問答無用で格好良い。
――くー!! いいなぁ、この二人! 萌え!!
いや、”萌え”なんて言葉じゃ表せない……!
「陛下、顔が少し赤いようですが」
「大事無い」
まずいまずい、クルスに気づかれた。つい、興奮してしまった。
まぁそんなこんなで、日々腐妄想をしながら、僕は国王業を行っている。
僕を常に守ってくれる近衛騎士はいるし、政治に関しては道しるべになってくれる宰相がいるから、何の不便もない。どころか、毎日美味しい食事は食べられるし、ベッドはふかふかだし、満足している。
それこそ、腐妄想が無かったら、父の死や、母の不在は堪えたかも知れない(僕は十三歳なんだよ!)。それに仲の悪い弟との事も結構辛かったかも知れない。だけど、だけど。
――僕には、や・お・い、が在る!
ただ、こんな毎日はさ、当然のことだと僕は思っていたんだよな。
だから、今後の騒動の事なんて、何一つ、この時点では知るよしもなかったんだ。