02


国王の仕事は基本的には、玉座に座っていることである。

一方、宰相のサイトの前には、長蛇の列が出来ている。文官達が、仕事の指示を仰ぎに来ているのだ。

他方、近衛騎士クルスは、他の騎士達に囲まれている。
きっと城のどこかの警備の見直し案でも話し合っているのだろう。

僕は二人が決定できないような案件だけ耳打ちされて、是非を答えるだけだ。
だからこの、白と黒のチェス盤のような床をした玉座の間に置いて、ぶっちゃけてしまえば、暇な毎日を送っている。そうすると――どんどん妄想が広がるのだ。

あ、今、サイトが部下から受け取った紙を見て、目を細めた。そしてその二つ折りのメモを、それとなくクルスに渡した。指先と指先が触れ合ったのを僕は見逃さなかった。
何の話なんだろうな、ただきっと今の瞬間、二人は互いを意識したはずだ。そうであってくれ……! と言うか、僕の中ではそう言うことになっている。それできっと彼らは、今のメモに記載されていた何らかの出来事について、僕が就寝してから深夜二人きりでひっそりと話し合うのだろうな。腐腐腐ッ。

『――という事情なんだよ』
『了解した』
『そう。それなら、今日の話し合いは終わりだね』
『ああ、仕事は終了だ』
『じゃあそろそろ僕は部屋に――』
『待ってくれ、サイト。もう少しだけ、一緒にいてはくれないか?』
『クルス、だけど……』
『お前の側にいたいんだ』

抱きしめるクルス、その温もりにあらがえないサイト。サイトもまた胸の内に、淡い想いを抱いているんだ。実際に二人は、『宰相閣下』『近衛様』と呼び合っているわけだが、僕の脳内では、二人きりの時は、名前呼びだ。ああ、じれったいな、甘いな。良いなぁ。

『んァ……クルス、クルス』
『もっと名前を呼んで欲しい』
『クルス……っ……焦らさないで、ぁ』
『煽るな。これでも我慢しているんだ』
『や、やだ、もう、挿れて、くッ……はっ』

思わず感嘆の息が漏れそうになったので、僕は口元に手を添えた。
危ない危ない、鼻血まで出しそうだ。自分の妄想で鼻血を出すって、流石に末期だろうけど。

「陛下、どうかなさったのですか?」

その時クルスに声をかけられて、僕は我に返った。

「なにがだ?」
「悩ましげなお顔をしておられるので」
「……少し憂いていてな」

僕は慌てて取り繕った。ま、まぁ、嘘じゃない。自分の腐った頭を憂いていたからね!

「まだまだ国政には、やるべき事が沢山ありますからね」

隣から、サイトにも声をかけられた。
二人は、僕のことを良く気遣ってくれている。
なんだかそんな二人を見て腐った妄想をするのは大変心苦しいのだが――だってだってだって、考えちゃうんだもの! 暇なのだもの! 十三歳の僕に出来る事なんてほとんど無いんだ。

「お前達二人を僕は信頼している。じきに憂いも晴れるだろう」

なんだかそれっぽいことを言って、僕は右の唇の端を持ち上げた。
すると二人はそろってお辞儀をした。
本当なんか、申し訳ない。

さて、妄想に戻るか。
今日は、他にどんなシチュエーションを考えようかな。うーん。
やっぱりまずは、さっきの続きだな。


『ァ、あ――ッ!! 深い』
『少しだけ我慢してくれ』

良く慣らした後――(クルスはきっと愛撫が丁寧だと思うんだよな)、ドロドロに溶けた後孔とトロトロに快楽に熔けた意識のサイトの中へと、クルスが楔を進める。
粘着質な音がして、最初に指で探り当てていた感じる場所まで、勢いよくクルスが陰茎を突き立てる。その感触で、サイトの前からは先走りの液が止まらなくなり、目は潤む。きっと白磁の肌は上気しているはずだ。その華奢な腰を掴み、中を揺さぶるようにクルスが動く。

『あ、ああッ!! イ、ァ、あ、も、もう僕は――』
『一度先にイくか?』

優しい声音で言ったクルスが、サイトの陰茎に手をかける。そして緩く扱かれた瞬間、サイトは果てる。飛び散った白い液が、二人の腹を汚す。

『や、待って、まだ僕ッ、ンあ――!!』

しかし余韻に浸る間も無しに、火がついたクルスの体が激しく動き始める。

『悪い、止められない。サイト……っ……愛している』


わーわーわー、良いな。良いな。それから二人は、一緒に果てるんだ。互いの愛を確認しあいながら。両片思いから始まった二人の恋が、紆余曲折を経て結ばれる。これが僕の思い描いている近衛騎士×宰相だ。

「陛下、お風邪を召しているわけではないのですね?」
「ああ。体調は万全だ」

再びかかったクルスの声に、僕は大きく頷いた。
自分の考えに興奮して、僕赤くなってるんだろうな。うわ、そう考えると恥ずかしい。

「陛下、隣国からの使者が参っております。事前約束はなかったのですが、火急の用件とのこと。お通ししても構いませんか?」

その時、サイトの声がした。視線をあげると、いつもよりも鋭い眼差しをしていた。
宰相がこういう顔をする時というのは、大概良くない話しだ。
クルスの方も一瞥してみると、思案するような顔つきに変わっていた。
剣の柄を握り直しているから、もしかしたら僕の身が危険にさらされることもあるのかも知れない。

「構わない。相応の礼をもって出迎えろ」

誰が来るのかはまだ分からないが、僕はそう答えた。とりあえず、威厳を装うのに必死である。――こんな僕が、腐妄想をしているってバレたら、どうなるんだろうな。
……うあ、だけど誰かとこの萌えを共有して語り合いたい……!
いやいやいや、今は、使者の話だ。僕は、これからの来訪者への対応について考えることにしたのだった。