<4>僕は謁見に行った!
謁見の儀は、第二大広間で行われることになっていた。
まだ少し早かったが、着替え終わった僕は、先に会場に入った。
会場に、子供は5名だ。僕を入れて。
一人目は、第一王子のフェリクス、八歳。僕の目的の人物の一人だ。
二人目と三人目は、第三王子と第四王子の双子である。
兄がソーマ、弟がシオン。この二人は、ボクと誕生日が三ヶ月しか違わない。
この二人は第五王妃様の御子息だ。
四人目は、第二王女のティリアで、四歳だ。
最後の五人目が、第一王女のイリナで十二歳。
それぞれ、ゲームに出てきたので名前は覚えている。
この兄弟で、メルファーレ神の再来と呼ばれていたのが、僕ことユーリだそうで、生まれる順番が違ったならばと言われて育ったらしい。そして現在の僕も、ここまでの記憶としてそう呼ばれている。
決して第一王子のフェリクスがダメな人物というわけではない。
多分。僕が、同じ年のソーマ&シオン兄弟と比べた時に出来すぎたのだろう。
そういう設定だっただけにすぎないはずだ。
僕が入ると、ソーマがまず僕を見た。大きな赤い目をしていて、髪の色も赤毛だ。双鎚のソーマと、ゲームでは知られていた。将来この人物は、王宮を飛び出して、冒険者の一人(NPC)となるのである……。筋骨隆々とした青年のグラフィックが頭をよぎった。今は全くそうは見えず、愛くるしい三歳児である。
その横で、シオンがため息をついた。赤紫色の瞳に、桃色に光る銀の髪だ。双子だが、全く似ていない。そして、黒縁のメガネをかけている。こちらは、これもまた僕の裏切りによりのちに死亡する【紫の大賢者】の後継者だった。そう――僕に記憶を取り戻させた魔導書の持ち主のあの好々爺も、僕の裏切りにより魔法に殺害されるのだ……そんな未来はこない事を祈ろう。ちょっと冷めた顔をしているシオンは、頭が良いという。
僕は、ここまでの記憶の中、算学だけシオンに勝てなかった。
だが問題を思い出した結果、あれは、引き算だ。
記憶が戻った今、僕には学習チートが備わっている気がしてならない……。
この二人に関しては、ソーマは誰にも気後れしない性格だし、シオンはプライドが高いから、僕に大して態度が変ということはない。態度が変なのは、そう、件の第一王子なのだ……これまでの記憶からして。
僕はチラっと見た。すると、その一秒前くらいに顔をそらされた。
……絶対こちらをじっと見ていたのに……。
もう一回チャレンジする。やはり目は合わない。
いつもなら僕は、気にせずスルーなのだが、今日からはそういうわけにもいかない。
少し、歩み寄ってみた。
結果――あちらが少し後ずさった。
その繰り返しで、あちらが壁際に退路を阻まれたところで、僕は声をかけた。
「兄上こんにちは」
「あ、ああ……元気そうでなによりだ、ユーリ」
フェリクスの声が震えていた。前は変な人だとしか思っていなかったが、シナリオを知った今は怖いので、何を考えているのか知りたいと思った。できるならば、少しは仲良くなっておきたい。母である正妃様は、「近寄ってはなりません」しかこれまで言わなかったので、これまでの間には、話そうと試みたことはないのだ。
「……今日、その」
「はい!」
「っ、そ、外にいたな? 馬車で出かけるのが見えた」
「小麦を見に行きました」
「そうか。具合はもういいのか?」
「大丈夫です」
「頭を打ったと聞いた。綺麗な顔に傷が残ったらと俺は不安で不安で不安で不安で死ぬかと――っ、あ、いや、なんでもない! なんでもないから!」
「?」
「ああ、頼む、ちょっともうちょっと、頼むから離れてくれ、俺お前の顔が好きすぎてマジ無理!」
「……?」
「緊張して何言ってるんだか分けがわか――」
「「まったくだ」」
なんだか真っ赤な顔で慌てだしたフェリクスを、やってきた双子が左右から叩いた。
僕は、フェリクスが何を言いたかったのかはさっぱりわからなかったが、『何言ってるんだか分けがわからない』部分には、双子と同じく同意である。
「ユーリ、兄上はご乱心だから、いつもどおり離れていたほうがいいんじゃないか?」
「ブラコンきもー」
「……」
「ちょ、違う! ユーリ、誤解だ! そこの性悪の双子に騙されないでくれ! 俺はただ純粋に弟として――」
そんなやりとりをしていたら、鐘が鳴り響いた。
国王陛下と正妃様の入場だった。
慌てて僕達は姿勢を正した。
入ってきた二人は、国王陛下はフェリクスそっくり、正妃様は僕そっくりである。まず、フェリクス達は、二人共茶色い髪で緑の瞳をしている。そして少し垂れ目だ。
僕と王妃様は、金髪だ。混じり気のない金糸の髪である。サッラサラだ。それで色白。瞳の色は、ブラッドルビーの色をしている。正妃様は、この国で一番美しいと言われているそうだ。実際、僕から見ても美人だ。それとそっくりなのだから、NPCだけあり僕も相当容姿が良いのだろう。自分では分からないが。もしかすると先ほど兄が言っていたのは、それか? 自分の顔は毎日見ているため、まったく分からないが。ショタの趣味もない。僕は、どちらかといえば、女神ユーティリスのようなNPCが好きだった。
そこから陛下が挨拶し、僕達も一人ずつ挨拶をした。
そして自由に会話することになると、国王陛下が僕を呼んだ。
今まで意識したことはなかったが、考えてみると、僕の呼ばれる頻度は一番多い。
「ユーリ! 怪我の具合はどうだ!? その顔、その顔、その綺麗すぎる顔に傷が付いたらと思ったらパパもう辛すぎて死ねる」
「――陛下、ユーリから手を離してください。ユーリ、父上の奇妙な言動を吸収してはなりませんよ」
「……」
「ユーリユーリユーリ! 愛してるその顔! マルティナと同じ顔! 小さいマルティナ! うわ――」
「気持ちわるいです陛下。ユーリ、下がりなさい。父上は危険です」
終身面倒くさそうな正妃様(母)と、僕にデレッデレな父である国王陛下を見て、僕は曖昧に笑った。母上、なんだか冷たそうだが悪そうな人ではない気がした。僕をずっと国王陛下からかばい続けている。
本当にこの人が、暗殺したのだろうか?
ふと思ったが、それはその内考えるか、忘れることにしようと決めた。
その後、食事に移り、僕は第二王女であるティリアの隣に座った。
「明日から剣の授業ね! 女だからって負けないんだから! 魔術では惨敗したけど、今度こそ!」
「――剣……?」
「そうよ! エルダー侯爵家の末っ子のウィズと三人でやる事になってるけど、私、ウィズと昨日特訓したんだから!」
「ウィズ=エルダー……」
僕は思わずつぶやいた。背筋が冷えた。伝説の勇者の名前だった……。
行きたくないが、チラ見はしたほうがいいと思うが、いいや、最初から近寄らないべきか……ものすごく悩んだ。うん。
君子危うきに近寄らず!!
「僕、剣はやめることにしたんだ」
「やめる? どういう意味?」
「やらない」
「え!?」
大きく何度も頷いてから、僕は席を立って母のもとへと向かった。
「お母様」
「正妃と呼びなさい。どうしました?」
「僕、明日から剣を手習いするはずだったのですが」
「ええ、そうですね」
「代わりに、例のアレを極めたいと思います」
「例のアレ?」
「ええ! ほら! アレです! アレ!」
「アレとはなんですか?」
「忘れてしまったのですか?」
「っ!?」
「またまたぁ! 僕、頑張ります! では!」
「え、ちょ、ちょっと――」
僕は、一応母に断り、その場を去った。アレが何かは僕も知らない。
頑張るのは生産だが、それを言うと面倒な気がしたのだ。
まぁ良いだろう。
それから食事の席へと戻ると、ちょうど帰っていく第一王女のイリナの姿が見えた。
非常なる美人だなと改めて思った。
王族、美形しかいない。すごい。
こうして、その後時間が流れて、謁見は終了した。