6:BADEND(★)



気づくと俺は、練習場に降りる階段を踏んでいた。
そうだ、それで、この後ルスに処女(?)を奪われたのだ。
コレは、階段を下りない方が良いんじゃないんだろうか。
そう思い、俺は慌ててきびすを返した。
一番上まであがり、とりあえず今日は寮に帰ろうと一人頷く。
「リオ?」
帰ろうとした瞬間、同級生であり、侯爵家のウルと遭遇した。
「今日は練習していかないのか?」
「ああ、ちょっとな、気分が悪くて」
「――顔色が悪いな」
そりゃそうだ。一瞬でセーブポイントまで戻ったとはいえ、俺の鼓動音はうるさいほどに騒いでいるのだ。
「!」
うつむきがちにそんなことを考えていたら、額と額を合わせられた。
「んー、熱はないみたいだな」
「……ああ」
「一応触ってみるから目を閉じてろ」
「分かった」
ゲーム内では罵詈雑言の嵐の二人だったが、案外優しいんだなんて俺は思った。
しかしてっきり額を触られるのだとばかり思っていた俺は、不意に唇に降ってきた暖かい感触に目を開けた。
「!?」
「隙だらけなんだな」
意地悪く笑ったウルを殴り飛ばしてやりたくなった。
「帰る」
いらいらしたので、俺は寮へと向かうことにした。

すると俺の部屋の前に、腕を組んだルス第二王子殿下がいた。
背を扉に預けて、腕を組んでいる。
前回のことがあるから、なるべく顔を合わせたくなかったのだが、彼にどいてもらえなければ、中へと入れない。
しかたがないので、正面まで歩み寄った。
「あの……」
「付き合っているのか?」
「へ?」
「ウル・カレンツァと」
「いえ。まぁ同級生なのでそれなりのつきあいは」
「お前は、誰が好きなんだ?」
緑色の瞳が細くなった。なんだか氷のような空気間を放っている。
「――俺がお慕い申し上げているのは、ルス殿下だけです」
あれぇぇぇぇぇえ!? また勝手に俺の口が動いちゃったよ!
「本心だな」
「え、あ」
「お前が俺のモノだと言うことを皆に知らせないとな」
そういうと、歩み寄ってきて、俺の手首を痛いほどルスがつかんだ。
そのまま歩き出す。

そこは第二体育館だった。

大勢の人々が集まっている。
俺を抱きかかえるようにして、ルスは座っていた。その陰茎が、俺の中を貫いている。彼の両手は、俺の乳首を弄んでいる。
「うあああん」
皆が見ている。先ほど俺に意地悪するようにキスをしたウルの姿もある。
しかしドロドロとした液体をまとった指を動かされ、深々と入れられた男根を揺さぶられると、俺は訳が分からなくなっていった。
――もしかしてこれって、『公衆の面前で恥をさらしたAのその後は誰も知らない』!?
快楽で混乱している体、赤く染まっている頬を自覚しながら、俺はそんなゲームの設定を思い出していた。
乳首から片手を話し、俺の陰茎を先ほどからルスが緩く撫であげる。
俺の腰が揺れるたび、そして突き上げられるたびにまたチャヌチャと音がした。
しかし、前回セーブポイントへと戻った時に教えられた気持ちの良い場所に、さらなる刺激が欲しくて、無我夢中で俺は腰を振る。
「ひゃ、あ、ああっ」
緩慢に前を扱く手の感触ももどかしくて、俺は大勢に痴態を見られながら、必死で首を振った。
「やだ、あ」
「どうして欲しいんだ?」
「出したい……ン」
「イかせて欲しいんだったら、相応の頼み方があるだろう?」
「やぁああっ」
言葉と同時に深く中を抉られ、必死で俺は考えた。
「お願いです、殿下、イかせて下さい」
「違うな――『淫乱な家臣の中を突いて下さい。そうしてくれたら何でもします。殿下の大きいモノじゃなきゃイけない』――だろ? 俺以外じゃ当然イけないんだろうな?」
せせら笑うようなルスの声に、悔しくなって俺は唇を噛んだ。
しかしどうしようもない射精感におそわれていて、気が狂いそうだった。
「い、淫乱な、家臣の中をッんァ……突いてっあ、下さい。何でも、何でも……っ、ううっア――!! 殿下のじゃなきゃイけないですッ」
必死に言い切る直前急に、俺の体から一度陰茎を引き抜き、ガンガンとルスが腰を打ち付け始めた。
俺は犬のように上半身を床へと向けられ、慌てて両腕を椅子に添える。
そして尻を突き出す形になるとパンパンと、皮膚と皮膚が重なり合う音がした。
そんな俺たちを、みんなが見ている。
屈辱と羞恥と快楽で、俺は訳が分からなくなった。
「あああ――!!」
けれどそのまま、前を弄られるでもなく、後ろだけで俺は、射精してしまったのだった。

涙が出てきた。
どうして俺はこんな目に遭わなきゃならないんだろう。
ゲームみたいに、イヤミなキャラなんかやってないのに。ただひたすら魔術の腕を上げているだけなのに。何よりもクラスメイトを始め、皆に見られているのが、本当に辛かった。
皆楽しむように、好奇心に駆られたように、俺を見ているのだ。
恥ずかしくて仕方がないのに、心は苦しくて、だけどどうしようもない悦楽で、俺は訳が分からなくなっていった。


その時だった。
『一つ前のセーブポイントまで戻りますか?』

YES/NO

俺の答えは当然、本当に当然、YESだった。
YESを選択するしかなかった。だって、だってだ。俺の痴態をみんなに見せてしまった『この現実』で生きるなんて辛すぎたんだ。そもそも、ルスは何で俺にあんな事をしたんだろう……。前回も今回もだ。どちらの時も、ルスはいつも切なそうな顔をしていた気がする。嘲笑したりもしていたが、何処かに苦しそうで優しい瞳が見えた気がした。それが頭に焼き付いて離れなかった。