5:ノーマルEND(★)
その日も一人でキヅナからもらった本で、勉強しながら魔法を放っていると、誰かがやってくる気配がした。一体誰だろうかと思い、杖を下におろして、俺は振り返った。
「何をしているんだ?」
見ればそこにはルス殿下が立っていた。
「え、あ」
見れば分かるだろうと思いながらも、一人で練習している姿を見られたのがなんだか恥ずかしくて、俺は顔を背けた。
「魔法の練習をしていたのか」
「はい、まぁ」
「今の魔法なら、こう放つと良い」
階段を下りてきてルスが俺の隣に立った。それから杖を出現させて魔法を放った。
その流れるような動作と強い威力に、感動して思わず俺は目を見開いた。
「すごい!」
「……世辞か?」
「いや、だって、今のって、コウサスク理論を応用してリリダルダの魔術書から援用して、放ったんですよね? ソレなのにあの精度――」
感動して笑顔で俺はつらつらと告げた。
すると何故なのか、苦しそうな顔をしたルスに不意に抱きしめられた。
「――え?」
「お前変わったな」
そりゃ、俺は現実からゲームの世界に入ってしまったようなのだから、変わっていて当然だ。
「昔のリオに戻ったみたいだな」
「昔の?」
「お前はコレまでの間、ここのところずっと俺には本音を見せてくれなかっただろう」
そんなことを言われても、俺は最近ここに来たばかりなのだから何も言えない。
「ずっと、俺はソレが辛かったんだ」
その言葉に、俺はなんと答えればいいのか分からなかった。
だが何故なのか心が疼いて、気がつくと唇が動いていた。
「俺はずっと殿下のことが好きだったから、距離を置こうと思っていたんです。叶わぬ恋心だから」
――って、ちょっと待て。今、俺の口、何を言った!
「本当か?」
「嘘です!!」
精一杯俺は否定した。だが、何故なのか俺は自分から、ルスに抱きついていた。
ちょっとまて、これは、これは、もしや……『Aの恋心は云々』とぼやかされていたENDじゃないのか!? え、嘘!? 嘘だろ!?
しかしそんな俺の腰に腕を回したルスに、力強く抱き寄せられた。
「俺も……今は、はっきりと分かった。多分お前のことが好きだったんだ。嫌、多分なんかじゃない。好きなんだ」
そういうとルスの唇が俺の口へと降ってきた。
「ン」
そのまま口腔をむさぼられ、舌を絡め取られた。
男と、男と、キスしちゃったよ――!!
もう頭の中が大混乱状態で、息継ぎをするのも忘れていた。
そのせいか唇が離れた時、俺は肩で息をしていた。
「きっとずっとこうしたかったんだ」
多分頬が朱くなった俺をぎゅっと抱きしめながら、耳元でルスが言った。
それから手を引かれ、何も言えないまま俺は、そばにあった備品室へを連れて行かれた。
そこはこの練習場で使う様々な品が置いてある部屋だった。
俺を先に中へと入れ、ルスが施錠する。
なんだかもう、嫌な予感しかしなかった。
「え、あの、殿下……」
そう呟いた俺を、奥にあった白いマットの上にルスが押し倒した。
そして右手で指を鳴らし、何かが浸る瓶を出現させた。
「酷くはしない」
呟くように言って、俺の首元にあるローブのリボンをルスがほどいた。
酷くはしないって、酷くも出来るって事なのだろうか。
ちょっと怖くなって身をすくめていると、下に着ていたシャツのボタンをはずされ、呆然としている内にベルトもはずされて、下衣もおろされた。ほぼ全裸になった俺の首筋にルスが口づけをした。強く吸われ、痛いほどだった。
そうしながら、両手で、はだけたシャツの合間から、それぞれの乳首を摘まれた。
「うっ」
何せ童貞の俺である。そんなこと誰にもされたことが無くて、困惑するしかない。
別段その刺激が、気持ちいいわけでも何でもなくて、不思議な感覚だった。
「あ、あの……ッ!!」
しかし止めろと言おうとした瞬間、急に体が熱くなった。
――そうだった、これはBLゲームの世界なのだ。
俺の知ってる現実世界とは異なり、ゲームの中で主人公は初めてされるのに快感を覚えていて、後の処理も何もないまま、中に出されていたではないか。初めてだって普通に悦楽に悶えていたのではないか! そして今の俺は、そういった体なのだ。
「ふ、ァ」
優しく乳首を擦られるたびに、今度は次第に俺の体は熱くなっていく。
「や、やめッ」
今度は、見知らぬ感覚から逃れたくて、声を上げた。
するとその瞬間、手が離れた。
安堵していると――今度は男根を口に含まれた。両手が両脇に添えられて、俺に射精を促す。
「ンぅ――あ、ああッ」
誰かに口淫されたのなど初めてで、背がしなった。ルスの薄い唇が、優しく強く、俺の自身を上下するように飲み込んでは、雁首の辺で止まり、舌で嬲る。その上指先が左右から射精を促すように動くのだ。
「あ、アアっフやぁヒ」
果てそうになってガクガクと震えた時、ルスが口を離した。
そして先ほど出現させた瓶から、甘い花の香りがする液体を指へと取った。
「悪い、我慢できない」
そういって、液体を絡めた二本の指を俺の菊門へと差し入れた。
「――、あ、ッ」
すんなりと指が入ってきた。それが液体のせいなのか、ゲームの仕様なのか、俺には分からない。両指を縦横無尽に動かされ、異物感に苦しくなるのに、次第に俺の体は弛緩していった。それから指が動くのが止まり、二本の指をそろえて、ある一点をルスが刺激した。
「ひゃッ」
瞬間、ゾクゾクと快楽が走り、俺は驚いて目を見開いた。何が起きたのか、まるで分からなかった。
そこを刺激されるとイきそうになるような感覚だった。
「や、あ、ああっ」
しばしそこを刺激されてから、ゆっくりと指が引き抜かれた。
「挿れるぞ」
「――、――!!」
声が喉に張り付いた。安堵する間もなく、続いて圧倒的な熱が俺の中へと押し入ってきた。
ルスが腰を揺らすたび、俺の体も震えた。
「あ、あ」
なんだこれ。俺はこんなの知らない。
ぐちゃぐちゃと先ほど指で塗り込められた液体の音がして、俺の中へとルスが腰を進めるたびに、肌と肌が触れて音を立てた。
ルスは俺の右足を押し上げてわずかに体制を変えてから、斜めに深くついた。
「ンァア――!!」
最も感じる場所を直接的に突き上げられて、視界がチカチカとしてくる。
気持ちいい……。
「出すぞ」
「ひゃッ」
そのまま俺は最も感じる場所を突き上げられ射精し、同時に中でルスが果てた。
弛緩した体をマットに預けていると、ルスが微笑した。
「俺は、多分本気でお前のことが好きだ。お前だってそうだろ? だったら、今後もすり寄ってくる必要はない。俺の体を求めてくれたら、それだけで少しは願いを聞いてやるから」
なんてこったい!
正直な感想はソレだった。もしや俺はこれからも、この王子様と関係を持たないとならないのか? 無理! 無理無理無理!
夕暮れの備品室でそんなことを思っていた俺の前に、急に透明なウィンドウが現れた。
『一つ前のセーブポイントまで戻りますか?』
YES/NO
俺の答えは当然YESだった。
っていうか、どこにあったんだよ、セーブポイント!