9:季節はずれの転校生
無事に高校生活に復帰した俺は、そろそろ受験準備をしないとなぁなんて考えていた。
その時だった。
季節はずれの転校生がやってきたのは。
「ルス・アーガスト君です。クオーターで、家庭の事情で転校してきました」
担任のそんな説明とルスの姿に、俺はあっけにとられてしまった。
放課後。俺はルスを捕まえて、屋上へと向かった。
「あ、あのさ、俺、よく似た人を知ってて――」
「本人だ、リオ」
「え」
予想外の言葉に、俺はポカンとしてしまった。
「お前が帰ってしまってから、どうしてもどうしても会いたくて、忘れられなくて、お前がいない世界なら死んでしまおうと思ったんだ」
「ルス……」
「そうしたら、キヅナという賢者が現れて――なんでも神々とも仲が良かったらしくてな。お前がゲーム世界に呼ばれたのも、俺がそれに惚れて自殺するのも、世界に歪みをもたらすと言われたんだ。気がついた時は真っ白な部屋にいた」
「そ、そうなんだ」
あれ、それって日本人が異世界へ行く時の定型句じゃなかっただろうか。
逆もあったのか?
「俺には難しいことは分からなかった。だからただ、お前と一緒にいたいと願ったんだ」
「それで、この世界に?」
「ああそうだ。王族でも何でもない一人のコウコウセイとして。それでも俺と話をしてくれるか?」
「そんなの、勿論だよ」
俺が頷くと、ルスが微笑した。
「有難う」
「こっちこそ、会いに来てくれて嬉しいよ」
だがハッとした。BLゲームの世界では当然のように同性愛が許容されていたが、現実は違う。きっと痛みだってあるだろうし。
「だけどね、この世界は男同士で付き合うって結構ハードル高いんだ」
「誰にも漏らさなければ良いんだろう?」
「うん、まぁ」
「迷惑はかけない。それに、俺は『ルス』という一人の人間のままなんだ。どんな世界であっても、お前を愛する自信がある」
「う、うん」
思わず照れくさくなってうつむくと、正面から抱きしめられた。
その体温が心地よすぎて、俺は泣きそうになる。
何となくルスとなら、何があっても大丈夫な気がした。
それが俺たちの恋人同士としての契機になったのだった。