19 幸せになった俺


俺は夢みたいに幸せだ。すごくすごく幸せだ。
俺の腕を枕にして眠っているナイを見る。ナイは初めてだって言っていたのに、俺は止められなくて、結局三回もしてしまった。俺は絶倫だったのか。いや、そうでもないはずなんだけどな……――ナイが可愛すぎて。思い出すだけでも顔がにやけてしまう。
――ナイは気持ちいいと言ってくれた。
POTを作っておいて良かった。瓶を出した時は我ながら照れたが、ナイのことを考えたら絶対に必要だったと思う。ただ俺の方に余裕が無くて、前戯を全然しなかった。折角裸にさせて、俺も服を脱いでいたんだから、もっとこう桜色の乳首とかいじって赤くしたかった。今度やろう。

こうして俺ははれて、ナイと恋人同士になった。

今後は二人での生活を守るために、俺は働こうと思う。ナイを幸せにしてあげたい。幸せは自分で手に入れるものかもしれないけどな。何せ俺はたった今幸せの絶頂にいるのだから。それでもやっぱり思うのだ、一緒にいて幸せだと感じて欲しいって。そもそもお金で幸せが買えるのかというと、微妙だけれど、俺は出来ることをしたい。
朝日が昇るたび、月が顔を出すたび、そう一日が巡る全ての時間、俺はナイのことを考えたいと思う。
そんなことを考えていたとき、ナイが目を覚ました。

「おはよ」
「おはよう……エース、今、鏡を見て」
「ん? ああ。だけどなんで?」
「見れば多分分かるよ……」

俺は鏡を見てみた。ごく普通の俺の顔をしていた。ちょっと顔を引き締めて鏡を見たのだが、やっぱり俺は俺だった。そして鏡に少しだけ映り込んでいるナイはやっぱり清艶で魅力的で、一言で言えば、綺麗だ。

「何が分かるんだ?」
「……もう格好良くなっちゃったから駄目だ」
「え、俺のこと格好いいと思うのか?」
「それは、その――……悪い?」
「いや。すごい嬉しい」
「……今、今だよ。鏡を……」
「俺は鏡よりも、ナイの事をずっと見ていたい」

俺がじっと見据えると、目に見えてナイの顔が赤くなって、視線をそらされた。
いちいち反応が可愛すぎて俺は抱きしめたくなる。躊躇なく今回も抱きしめた。

「エ、エース!!」
「何?」
「離して」
「嫌だ」

俺の腕の中で、ナイが目を伏せた。
ナイの後頭部に手を回し、引き寄せる。さらさらの髪の毛が心地良い。とっても柔らかくて、良い香りがした。同じシャンプー使ってるのに不思議だ。

「エース。僕、エースのこと、大好きだよ」
「俺もナイの事……」

好きとか大好きとか、そんな言葉じゃこの気持ちは表せない。愛だ、愛。確実に俺はナイを愛している。そして多分ナイも俺のことを想ってくれていると思うんだ。いや、確信している。ナイは間違いなく俺のことを好きだ。だって今も、大好きだっていってくれたしな。

「愛してる。だから、またヤろうな」
「……う、うん」
「もう毎日ヤりまくりたいよ、俺は!!」
「え……」

思わず衝動のままに口にして、俺は硬直した。事実なんだけど、なんか変なニュアンスになってしまった気がする。

「……――分かった」
「え?」
「僕も……エースのことを愛してるから」

俺は幸せすぎて、怖くなった。ナイも俺のこと愛してくれていたのか。
だけど、無理をさせてはいないだろうか? どうだろう。そんな気がする。
「嫌なときは嫌って言って良いからな? 命令じゃないしさ
「うん」
俺の言葉に、目に見えてナイが安堵した顔になった。細く吐息している。
やっぱりその唇に俺は目が釘付けになって、気づけば唇を落としていた。
「ン」
触れるだけのキスだったけど、不意打ちだったせいか、ナイが小さく声を出した。
本当に愛おしくて仕方がない。

「ヤりたいっていうのはその……本当に愛してるって事を伝えたかっただけなんだ」

俺は再びナイを抱きしめながら、そう告げて、額にも口づけをした。
もう俺は、ナイの全てが好きだった。
ナイは、俺のどこを好きになってくれたんだろう?

「なぁ、ナイ。ナイは俺のどこが好きなんだ?」
「……分からない」

え。分からないってどういう事だ……? うん、きっと全部好きなんだろう、俺と一緒で。そう言うことにしておこう。精神衛生上それが平和の鍵だ。

「だけど、エースのことを見ていると、ドキドキするんだ」

ポツリとナイがいって顔を背けた。俺は思わず目を見開いた。
俺だってドキドキする。胸が苦しくなる。だから絶対にナイのことを手放したりしない。
ずっとずっとずっと一緒にいたいと思う。

それにしても。

――ああ、奴隷チーレムへの道は遠かった。
というか、もうどうでも良い。どうでも良くなってしまった。

俺には――ナイがいるのだから。


こうして、俺の異世界での生活には、一区切りがついた。
神様にもらったステータスは最低最悪だったはずなのに、俺は幸せを手に入れたんだ。
おそらく俺達がこれから紡ぐ物語は、めでたしめでたしで終わるんだと思う。
俺はそうであることを願っている。

嗚呼、俺は、本当にナイの事が大好きだ!