18 初めての僕(★)


最初、エースは頭でも打ったのかと思った。
だから首を捻って、まじまじとエースをみたのだけれど、特に外傷はなさそうだった。
――好きだ!
と言われた。どういう事だろう。いきなりそんなことを言われても困る。僕は照れてしまいそうになった。僕は、エースに名前を呼ばれるのが好きだ。だけどその直後に『好きだ』なんて言われるとは思わなかった。そもそも意味が分からない。
僕だって好きだったからだ。
そうしたらヤりたいと言われた。殺りたいかと最初は思ったが――じっくりと考えてみたけど、そう言う意味じゃないと思った。実際そうで、『恋人』になって欲しいと言われた。
恋人……恋人とは、愛し合っている人がなるものだと思う。
それは、エースが、僕のものになって、エースは僕のものになると言うことなのだろうか。もっとも僕は、隷属のピアスと命令の指輪があるから、とっくにエースのものなんだけど。
――だけど、エースの告白は、命令じゃなかった。
要するに、僕が自分で考えて、自分で選択すると言うことなのだと思う。僕は、エースのことが好きだけど、この気持ちは恋なのかな。エースが他の誰かと話していると胸が苦しくなったり、顔を見るだけでほっとするこの気持ち。その正体は、やっぱり恋心であるような気がした。だけど僕は、エースのどこを好きになったんだろう……? さっぱり分からない。ただ、一緒にいたいと思うんだ。恋には理由なんてイラナイのかな。

僕は今、寝室にいる。エースは”しゃわー”を浴びている。僕は先にもう入った。

これから僕は、エースと体を重ねるのだろう。正直恐怖が募ってきた。絶対にいたいだろうと思うのだ。何せラプソティ様が時に初めて行為をする奴隷を買ってきたときは、寝台は血の海だった。本当にエースは、優しくしてくれるのだろうか。ラプソティ様だって、奴隷全員に、「私は優しいんだよ」と言っていた。どうしよう……。

「ナイ」

エースがお風呂から上がってきてしまった。
そして僕の名前を呼び、正面から抱きしめられた。そのまま座っていたベッドに僕は押し倒された。それだけで緊張して、体がかたくなった。やっぱり僕が、挿れられる方なんだろう……。

「キス、してもいいか?」
「ッ」

僕が恥ずかしくなりつつ、何かこたえようとしたときには、すでに口づけられていた。質問じゃなかったのかな。柔らかな感触と温度に、僕は自然と口を開いていた。すると口腔を舌で蹂躙された。熾烈をなぞられた瞬間、ゾクリとした。それから僕の舌を絡め取り、エースに吸われた。体がビクリとはねるのが止められなかった。口がようやく離れたとき、僕は息継ぎを忘れていたから、肩で息をした。そもそも、口をふさがれたら、どうやって息を吸えばいいのか分からない。鼻で吸えばいいって気がついたけど、そんなことは頭から吹っ飛んでいた。僕は間違いなく緊張している。唾液が、線を引いて僕とエースを繋いでいた。
それからポチポチと僕は、シャツのボタンをはずされた。
呆然とそれを見守っていた。
そのまますぐにベルトをはずされ、下衣を脱がせられた。下着もだ。
エースはと言えば、小瓶を手に取り、もう一方の手の指に香油を垂らしている。甘い香りが周囲に漂った。

「ちゃんと慣らすから。痛くないようにする。それにこのPOTは、痛みを半減させる霊薬と、あと、そそその……ちょっとだけ媚薬入りだから、初めてでも大丈夫だと思う。痛みを緩和する効果があるし。べ、別にこういう日に備えて作っていたわけじゃないからな」

エースは顔に出やすい上に、本心が口からも出やすいみたいだ。そういう時はかっこわるい。だけど、そんなエースのことも、僕は愛らしいと思うんだ。もう慣れたのかもしれない。

「ひゃッ」

その時不意に、菊門に触れられ、僕は声を上げてしまった。ぬめりのせいか、指がすんなりと入ってきて、確かに痛みはないのだが、僕は異物感に目を見開いた。ゆっくりと二本の指が進んでくる。いきなり二本の指をいれられて、僕はどうしていいのか分からなくなった。

「う、うう、ン……ぁ」
「大丈夫か?」
「……うん」

返事をした声が震えてしまった。寧ろ僕の全身が震えた。やっぱり怖い。どうしよう、やめてって言っても良いのだろうか。だけど、エースは僕とヤりたいって言っていた。だからどうせいつか体を重ねるのだと思う。すごく恥ずかしくて想像しただけで、恐怖の他に羞恥も募ってきたけれど、いつかヤるなら、今だって良いと思った。

「うあッ、あ、そこ変……ン……ん」

鼻を抜けるような声が出てしまった。僕は恥ずかしいから、声を堪えようとしたのだけれど、呼吸するたびにどうしても声が漏れてしまう。思わず利き手で口を覆った。

「ここ? 多分、その……気持ちよくなる場所だから」
「っ、うん……ぁ……フ」
「なぁ、声聞かせてくれよ。ナイの声が聞きたい」

それから指が縦横無尽に動き出した。背をしならせると、今度は先ほど変な感じがした場所を、指をそろえて刺激された。次第に体に力が入らなくなっていく。

「あ」

そして何故なのか、いきなり快楽が僕を襲った。
「ああっ、嫌だ、怖い、待って、待って、ねぇエース」
「ごめんな、無理だわ」
「え、あ――ッ、ん――!! あ、やッ」
エースがもう一方の手で、僕の前を握った。筋をなぞるように指の腹で撫でられ、それから先端を何度もこすられた。親指が鈴口にあたって、その度に僕は、自身の陰茎が立ち上がっていくのを自覚した。
「や、やだ、体が熱い……ッ、あァ」
前と後ろを同時に刺激され、気づくと僕は泣きそうになっていた。ただそれは怖いからじゃなくて、見知らぬ快楽が背筋を駆け抜けたからだった。頭が真っ白になっていく。ゾクゾクした。異物感がすぐに、快楽を与える刺激に変わって、僕は今度はそれに震えた。
「エース、僕変だよ、ッうンん……あ、うあ――!!」
指の動きが速くなった。こりこりと一点を刺激され、僕は喘いだ。
「――色っぽい」
「え、あ……ふ、ぁ、あああッ」
僕はその時、前を強めに扱かれ、果ててしまった。後孔の気持ちいい場所も同時に突かれた。エースに白液がかかった事実に、苦しくなってきて、何度も何度も肩で息をする。だけど内部の刺激はそのままで、もう僕は出したのに、エースは指を動かすのをやめてくれない。前からは手が離れたのだけれど、前と後ろを同時に刺激された名残なのか、中の刺激だけで、また僕の体は熱くなった。それに何にもしていないのに、エースのソレが僕の体に当たるのだ。大きくて固い。

「挿れていいか?」
「わ、わかんな……っ、い……ぁあ、ん――!! そ、それヤダ!!」
「嫌じゃないだろ? え、本当に嫌か? もう俺我慢できないから……その、ごめん!」
「ンあ――――!!」

エースは謝ったのに、僕の中へと体を進めた。その熱の暴力に、体が再びはねた。
僕は嫌じゃないって言いそびれた。衝撃に声が喉に張り付いてしまったのだ。
「あ、あ、ン――……ぁ」
「少し力を抜いてくれ」
「できなッ……あ、ンぅ……はッ、ああッ」
「ゆっくり息をしてみて。ヒッヒッフーって」
「え? ン――ああっ、あ、ァあ、や、ヤだエース」
「嫌じゃなくて、気持ちよくて嫌なんだよな? だったら、気持ちいいって言ってくれよ」
「……ァあ、エ、エースは? 気持ち良い?」
「ああ。すごく気持ちいいよ。絡みついてくるみたいで」
本当かな。そうだったら――なんだか嬉しい気がした。

「!」

その時、エースの陰茎が動き始めた。ゆっくりと腰を引いては、また入ってくる。
「アア――――!! あ、エース、僕多分気持ちいいッ」
「やばい、そんなこと言われたらやばい。うわ、出しちゃいそうだ」
「あ、あァン、ゥ……! あ、あああっ、待って、あ、そんなに動かないで……――!!」
エースの腰の動きがいきなり速くなって、皮膚と皮膚が奏でる音が周囲に響いた。恥ずかしくて仕方ない。その時、エースが僕の太ももを持ち上げた。別の角度からより深く内部を暴かれる。
そして感じる場所をひときわ強く突かれて、僕は再び果てた。エースも中に出したみたいだった。

――痛くなかった。気持ち……良かった。

終わったんだなと思ったら、ほっとして、僕はベッドの上でぐったりとした。
するとエースが言った。


「もう一回やらせて」