【7】本当にこれで良いのか?(☆)
「離……っ」
ザイドの腕を振り解こうとした時、シャツの上から乳首を摘まれた。ビクリとして俺は息を呑み込む。
「アニスとはまだだったんだろう? 初めてか?」
「ッ」
「今お前には既に許婚はいないし、大陸聖教でも同性同士の戯れは、不貞には当たらないと定められている。婚姻をすれば別だがな――珍しい事じゃあない」
「だ、だからって、誰がアニス姫を奪ったお前なんかと!」
「そう深く考えず、まずは俺に身を任せてみたらどうだ?」
「巫山戯るな!」
「俺は本気だ」
ザイドの右手が、俺の下半身に伸びてきた。服の上から陰茎をなぞられて、俺は思わず扉に手をついた。
「やめろ」
なんだこれは。一体どういう状況だ。振りほどかなければと思った瞬間、ベルトを引き抜かれたせいで、俺の下衣が足に絡まった。焦って振り返ろうとした時、ギュッと陰茎の付け根を握られる。初めて他者に触れられる感覚に(現実世界でも童貞だった……)、俺は混乱のあまり、泣きたくなった。
「じっくり愛してやる」
「お断りだ! 離せ!」
「――稀代の騎士なのだから、本当に嫌ならば抵抗しろ」
ゆっくりと俺の陰茎を扱きながら、ザイドが笑った。耳元で囁くように言われた瞬間、俺は思わず赤くなった。それは、その通りなのだが――……気持ち良い。軽く手で扱かれただけで、あっさりと俺の陰茎は勃起した。
「辛かっただろう? 寝取られて」
「寝とったお前が言うな!」
「その辛さ、快楽で塗り替えてやる」
「な」
俺が露骨な言葉に赤面していると、俺の陰茎から手を離したザイドが、香油の瓶を取り出した。そしてそれを手にまぶすと、俺の後孔に指を一本入れてきた。
「え、ちょ……本当にやめろ! ぁ……」
「きついな。力を抜け」
「やだって言ってるだろ……ンぁ……ッ!!」
その時、ザイドの指先が折り曲げられて、俺の内部のある箇所が刺激された。すると全身に電流が走ったようになった。
「ココが好いのか?」
「そこ、嫌だ、あア……ァ……あああ」
ザイドがそこばかり指で刺激してくる。体から力が抜けてしまいそうになって、俺は必死で扉に手を付いた。ジンジンと刺激される度に快楽が響いてくる。
ダメだと思うのだ。相手はアニス姫を奪った相手だ。
だが……俺の体は正直だった。気持ち良いのである。どうしよう。アニス姫も抗えなかったといっていたが、こういう事だったのか? 俺も優しさを前面に出すのではなく、もっとゲームよりに、ガツガツといっておくべきだったのか?
「考え事か? 余裕そうだな。指を増やすぞ」
「っ、あ……」
二本目の指が入ってきた。先程よりも強く感じる場所を刺激される内、俺の体が汗ばんできた。息が上がる。香油のたてるぐちゅりという音が卑猥に感じて、俺がギュッと目を閉じた。
「全部俺に任せておけば良い」
「――ッ、ぁ、ああ!」
もう一方の手で、ザイドが俺の陰茎を握る。前と中の気持ちの良い場所を同時に刺激されると、俺の太ももが震えた。
「ああああ!」
そのまま俺は呆気なく果てた。肩で息をしながら俺が倒れ込みそうになると、後ろからザイドに抱きとめられた。俺はザイドの腕の中で、情けない事に涙を浮かべた。
「なんてことをするんだ!」
「――気持ちが良かっただろう?」
「それとこれとは話が別だ」
「快楽を覚えた事は認めるのか。素直だな」
「っ……こ、こういう事は、愛がないとしてはダメなんだ」
「俺側には愛がある。あとはお前が俺を愛せば解決だ」
ザイドはなんて自分勝手なのだろうか。俺からアニス姫を奪っただけでなく、俺の事まで奪うつもりか? というか、本気なのか?
そう考えているとザイドの腕にギュッと力がこもった。狼狽えていると、俺の顎をザイドが掴んで、ザイドの方を向かせる。
「ん」
そうしてキスをされた。思わずギュッと唇を閉じると、何度も下唇を舌で舐められた。その感触に体がふわふわしてきた俺は、うっすらと唇を開けてしまった。
「っ」
すると深いキスが降ってきた。口腔を貪られ、舌を絡め取られる。
「っは」
唇同士が離れた時には、俺の息は完全に上がっていた。息継ぎの仕方など、俺は知らない。あんまりにも巧みなキスだったものだから、再び俺の体は熱を帯びた。
「嫌か?」
「……嫌っていうか、俺はお前が嫌いだ」
「嫌いでも、嫌ではないのか?」
「……」
俺は言葉に窮した。先程の行為は気持ちが良かったし、キスも嫌では無かったというのが本心だ。男同士だと理解しているが、嫌悪感もない。アニス姫もこういう心境だったのだろうか。強引さにやられてしまったのだろうか。俺は完全に現在流されている自覚がある。
正確には、ここ数日の日常が怒涛すぎて、上手く思考が出来ない。そんな中で、確かに何も考えなくて良いような快感を与えられた結果――なんだか様々な事柄がどうでもよくなってきたというのが正しいだろう。
アニス姫が浮気したから、俺もしてやろうという気持ちにはならない。だが、別に俺はもう誰に操を立てる必要もないわけであり、流されて一発や二発してしまった所で問題はないようにも思う。守るものは何もないのだ。
しかし相手がザイドって……元はといえば、ザイドが俺の幸せをぶち壊したんだというのに……本当に俺はこれで良いのか?