【二十四】残暑の季節(★)
――九月も三週目に突入した。まだまだ残暑が厳しくて、今年はまだ時折夏の虫の鳴き声が聞こえてくるほどだった。コーラル城の庭にも、まだ鮮やかな夏の赤い花が咲き誇っている。秋が深まれば、また別の風景が広がるのだろうとは思うけれど、僕は庭園の風景を、己の執務室の窓から見下ろす日々が、とても好きになっている。
今宵の月は、銀色の三日月だった。この形を、セレスの笑顔と、この土地では呼ぶことがあるらしい。月神セレスの逸話は王国中にあって、僕も王国で最初のSubであったというお伽話を耳にした事がある。
「ん」
寝台の上で、僕は背中に触れるクライヴ殿下の指の感触に、息を詰めた。もうすっかり傷は癒えていたのだけれど、跡が完全に消えてからも、九月も暫くの間は念のため魔法薬の軟膏を塗りこめるべきだと、クライヴ殿下が僕を諭した結果だ。ただ、それも、今日で終わる。
「今日からは、魔法薬はいらないだろう。もう大丈夫のようだ」
魔法薬は効果を発すると色が変わる。もう僕の傷跡に塗りこめても、軟膏の色は、変化しないらしい。僕は背後にいるクライヴ殿下へと首だけで振り返った。
「本当に、ありがとうございます」
「いいんだ。俺に出来る事は、全てやらせてほしい。それは、俺のためでもある。ルイスが幸せな毎日こそが、俺にとっての幸せでもあるからだよ」
クライヴ殿下はそう口にすると、後ろから僕を抱きしめた。その言葉が嬉しくて、僕は両手で、クライヴ殿下の腕にそっと触れる。
別段、僕には特別なきっかけが存在したわけではないと、今でも思っている。
ただ、日々こうして甘やかされる内に、僕はじわりじわりとクライヴ殿下の事が好きになっていく。毎日、ずっとぬるま湯に浸かって体を、いいや、心をいやしてもらっているような、そんな気持ちが強い。
けれどこれまでの僕は、人生で誰かを好きになった事が無かった。
だからまだ、僕は今抱いているクライヴ殿下への気持ちが、恋という名前をしているのか、自分でも分からない。クライヴ殿下の事が好きなのは本心だ。だから――。
「ルイスは、俺が好きか? 《教えてくれ》」
「好きです……」
――今では、僕は即答できる。恋か否かは分からないけれど、僕の心の中には確かにクライヴ殿下がいて、日増しにその存在感が大きくなっていく。
頷いた僕の顎の下を指先で擽ってから、クライヴ殿下が僕の耳元で囁いた。
「そうか」
「でも……僕は、恋をした経験がないから、その……応え方も分からなくて」
「嬉しい、が――焦る必要はない。ゆっくり俺を見てくれたら、それで十分だ」
クライヴ殿下は、決して僕を急かさない。いつも、僕のペースにあわせてくれる。
僕はクライヴ殿下に頭を撫でられながら、小さく頷いた。僕の髪を撫でる殿下の手つきは優しくて、胸が温かくなる。
そのまま後ろから、寝間着をゆっくりと開けられた。
されるがままになっていた僕を、クライヴ殿下は後ろから押し倒す。うつぶせになった僕は、それから後孔を香油つきの指でくちゅくちゅと解された。僕の体はだいぶ開かれていて、今では三本の指がすんなりと動く。
「ぁ、ァ……んン」
指をバラバラに動かされる内に、僕の陰茎には熱が集中し始めた。シーツに陰茎が擦れる。すぐに体が熱くなり、僕は大きく吐息して体から熱を逃がす。
「あ、ぁ……」
その時指が引き抜かれて、僕の菊門に、クライヴ殿下の先端が押し当てられた。
「すぐにでも挿いってしまいそうだな」
「ん、っ……」
「俺はルイスが欲しい。ルイスは? 《どうされたいか、教えてくれ》」
「早く、っッ……」
心地の良い《命令》が、少し掠れた声で飛んできたから、僕はもう我慢が出来なくなってしまった。《命令》されながら抱かれる時、いつも僕の体と意識は、ぐずぐずに蕩けてしまう。
「ああ、ァ!」
クライヴ殿下の陰茎が、僕の中へと挿いってきた。ぎゅっとシーツをつかみ、僕はその甘い衝撃に耐える。根元までこすり上げるように深々と貫かれた時、僕は背を撓らせて快楽に浸った。
「んァ……ぁァ、ぁ」
「動いてほしいか、それともこのままの方がいいか……《聞かせてくれ》」
「あ、あ、動いて、っ」
「最近のルイスは、きちんと言えるようになったな。《いい子だ》」
その声を聴いた瞬間、幸福感が僕の全身を埋め尽くした。
「あ、あああ!」
ほぼ同時に、激しい抽挿が始まる。
「ここが好きだろう? 《言ってごらん》」
「好き、ぁ、ぁ」
「ここも。《違うか?》」
「ンん――っ、ぁ、ぁ!! 好き、好きです」
ゾクゾクとした快楽に飲み込まれて、僕の体が震え始める。
「知っている。もう俺は覚えたぞ。ルイスも、俺の温度をきちんと覚えてくれ。《命令》だ」
「ああああ!」
そういって感じる場所を強く貫かれた瞬間、僕は射精した。クライヴ殿下の甘くかすれた声を聴きながら果てる度に、僕は最近意識が曖昧になる。今ではそれが、spaceという状態だと、僕は覚えた。今も、意識がフワフワしている。
そのまま僕は、幸福感に飲み込まれ、その後の事は覚えていない。