【六十五】家族




「――年末年始の二人を見て、ルイスには俺から相談すると伝えてあっただろう?」

 この夜帰還したクライヴは、僕が養子について切り出すと、苦笑しながらノアを見た。ノアは熱心に鶏肉を切り分けながら、自慢げに笑っている。

「僕は人生は自分で切り開いていくタイプなんだ。言われたのを待つだけでは寂しい」
「『マテ』を覚えろ。Subに転化した時、苦労するぞ?」
「僕を従えられるようなDomが出てきたら、その時は考えてあげよう!」

 自信たっぷりの少年の声に、僕は思わず喉で笑った。

「いい出会いがあるといいね」
「うん。ルイス様が励ましてくれたら、きっと大丈夫!」

 僕たちの会話を見ていたクライヴは、それから笑顔でゆったりと頷いた。

「まぁ仲良くなってくれたのなら嬉しい」

 その声に安堵しながら、僕は頷いた。それから、日中受け取った手紙に着いて思い出した。年末年始の挨拶状は、僕も生家のベルンハイト侯爵家に送っている。ただ最後の別れが別れであったから、儀礼的な文面となってしまった。父もまた社交辞令を僕に送ってきたのだけれど、他に、母と兄からの手紙もあった。母はいつもの通り、温かな日々の茶会についての話題だったが、兄からは違った。父からでは切り出せないような、用件が並んでいた。父の代わりにしたためたのだろうと思う。たとえば、王都における披露宴の準備の話など、しておかなければならない内容を、父は省いたが、兄はまっすぐに送ってきた。

 ――『年明けに一度、ベルンハイト侯爵家にも顔を見せてほしい』と。
 僕はそれを、クライヴに伝えるべきだと考えている。
 ただ、ノアがいるこの夕食の席では、そうする気が起きなかった。美味しそうに食べるノアと僕達は歓談し、そうして夜が深まっていくのを待った。

 湯浴みを終えてから寝室へと行くと、クライヴがソファに座ってウイスキーを飲んでいた。ノアがいる時は、僕達は葡萄酒を控えている。

「いうのではないかと思ってはいたが、本当に言うとはな」
「僕は、ノアが家族になってくれたら嬉しいです」

 家族、という言葉を口に出しながら、クライヴは僕の伴侶だと強く念じた。では、ベルンハイト侯爵家の両親や兄はと考えたとき、僕はやはり彼らもまた、大切だと考えている。

「あのね、クライヴ……」
「ん?」
「実は――」

 こうして僕は、兄上からの手紙の内容を語った。するとスッと目を細くして聞いていたクライヴが、僕が言い終わった直後、嘆息した。

「ダメだ」
「……クライヴが、僕の事を想ってくれているのは分かってる」
「ああ。実家に帰すつもりはないぞ」

 立ち上がったクライヴに抱きすくめられて、僕の頬が紅潮した。おずおずと両腕を回し返すと、後頭部に手を回され、強く抱き寄せられる。僕はクライヴの胸板に額を押し付けた。

「でも……クライヴときちんと家族になったお披露目をするお話だから、きちんと実家の兄上達にも伝えたくて……」
「そうか。では、ベルンハイト侯爵家に行くというのならば、俺もともに行く。二人で行こう」
「うん」

 僕が同意すると、クライヴが僕のあごを持ちあげた。そしてかすめ取るように僕の唇を奪うと、優しい眼をした。クライヴが額を、僕の額に押し付ける。

「俺がついている」