【七十三】看病
この日から、僕はクライヴの代わりに可能な執務を請け負い、使用人達への薬運びをする時間はそのままに――それ以外のほぼ全ての時間を、クライヴが横になっている客間で過ごした。寝台の隣の椅子に座り、濡れた布をクライヴの額に当てながら、悪夢にうなされているクライヴを見て、胸が苦しくてたまらなかった。
「ルイス……」
寝言で名前を呼ばれる度に、僕は揺り起こしたくなる。けれどそれは堪えて、自然とクライヴが目を覚ました時、その手を握って、頑張って笑顔を見せる事にしている。
「っん……」
少しして、クライヴが瞼を開けた。僕は魔法薬の入った瓶と、水の入ったグラスを載せた盆を手に取る。
「クライヴ、大丈夫?」
「――ああ。ルイスがそばにいてくれて、今では本当に良かったと思っている。うつしたらと思えば怖くてたまらないが、悪夢がしつこくてな」
苦笑したクライヴは、それから魔法薬を飲み干し、続いて水を飲んだ。
それから夕食の時間が訪れたので、僕はシェフが用意してくれたお粥を、スプーンで掬ってクライヴの前に差し出す。
「少しでもいいから、食べてね? 体力が落ちてしまうから」
「そうだな。早く良くならないとな」
頷いたクライヴにお粥を食べてもらいながら、僕は回復を祈った。
その後、王領中の紫月病が落ち着いたという報告が入ったその日、僕が安堵しながらクライヴのもとへ行くと、窓際に立っているクライヴの姿があった。
「ルイス、無事に熱が下がって、痣も消えた」
「!! 本当!? よかった……」
僕は嬉しさから涙ぐむ。
「《おいで》」
放たれたその《命令(コマンド)》を耳にする直前には、僕はすでにクライヴに抱き着いていた。僕を両腕で抱きしめたクライヴが、僕の後頭部の髪を撫でる。
「ついていてくれて、本当にありがとう」
「ううん。ううん、全然……クライヴが元気になってよかった……」
「もう存分にキスが出来るな。《キスしてくれ》」
「んっ」
僕はクライヴの首に腕を回し、つま先立ちで背伸びをして、触れるだけのキスをした。
するとクライヴが、僕を抱き上げた。
「愛している」
こうして、クライヴの病気も、王領での流行も、無事に終焉し――気づけば一月も終わりに差し掛かっていた。この夜、僕達は久しぶりにダイニングで食事をした。使用人達ももう全員が快癒している。シェフが元気になったお祝いだとして、張り切って夕食を用意してくれた。結局コーラル城では、僕とシェフのアロン以外の全員が罹患したのだったりする。僕は、本当に自分が健康体だと再認識した。