【第六十話】会話







「粕谷大尉。本当に機体とコミュニケーションが取れるのか、テストを」

 三月の指示により、葬儀の翌日、昼斗はエノシガイオスに搭乗した。パイロットスーツを見に纏うでもなく、梯子を上ってハッチを抜けて、座席に座る。球体に触れると、淡い緑色の光が、コクピットを照らし出した。いつもの通りのその光景に、細く長く吐息してから、昼斗は?自発的?に、声を出した。

「なぁ、エノシガイオス」

 すると一拍の間があってから、声が返ってきた。

《ん?》

 それに安堵しながら、昼斗が続ける。この声が、自分以外には響いていないなんて思ってもいなかったし、現在も考えていない。

「お前のはきちんと俺と話をしてくれるよな?」
《それが?》
「俺以外には、それが聞こえないらしいんだ。お前は、機体のAI言語プログラムだよな?」
《いいや。俺は、秘宝そのものだ。ラムダの騎士だ。騎士は、忠誠を誓わない相手に、話しかけたりはしない。俺以外の、?秘宝?が誰に従っていたのかを、俺は共有リンクで知っているが、人間――即ちパイロットと意思疎通を言語で図っているのは、俺だけだとも知っている》

 その返答に、昼斗は目を瞬かせた。

「ラムダの秘宝を返せば、争いは止まるらしい。お前には、この意味が分かるか?」
《ああ》
「どうすればいい? このままじゃ、地球は滅ぶ」
《簡単だ。ラムダの秘宝である俺を、返せばそれで済む》
「どういう意味だ?」
《お前の右手に、球体があるだろう?》
「ああ」
《それが、ラムダの秘宝だ》
「え?」
《この前、俺以外の秘宝の残滓は、全て回収されただろ?》
「っ」
《地球上に残るのは、あとは、俺だけだ》

 確かに保の期待は、?秘宝の残滓?を搭載しているという話だった。

《Hoopは、陸地を目指しているのに、人型戦略機が現れると、そちらを向いただろう? 正確に言えば、この機体をはじめとした、第一世代機を向いただろう? それは、?ラムダの秘宝?を搭載していたからだ。回収するためなんだよ。そして、最後の一体が、俺だ》
「つまりこの機体を返還すれば、もう地球は襲われないのか?」
《そう言う事だ》
「――保の期待が食い破られたのも、秘宝の残滓があったからなのか?」
《ああ、そうだ。その通りだ》

 その声に苦しそうな顔をしてから、昼斗が続ける。

「ラムダの人類と、和解は可能か?」

 すると機体が呆れたように吐息する気配がし、それから返事があった。

《そもそもあちらの目的は、ラムダの秘宝だ。それさえ返せば、地球など眼中にない奴らだ。自分達以外の人類は、下等だと信じている》
「……」
《ラムダの秘宝さえ返却すれば、地球に関わることなんて、無い連中だよ》
「そうか。じゃあ、返せばいいんだな」
《そう言う事だ》
「そのためには、どうすればいい?」
《一番簡単なのは、唯一残っているラムダの秘宝である俺を、宇宙に破棄すればいい。俺を、地球から放り出せば、それで解決だ》
「お前を……?」
《そうだ。俺は、別にどこにいても、俺のままであるから、昼斗がそれを望むなら、喜んで宇宙の藻屑になってやるぞ》

 冗談めかしたその声音に、昼斗は俯いた。