【9】刻印(★)




 ぐったりしていた俺は、目を覚ましてから入浴した。
 ユース様は、俺についていてくれたが、お互い露見してはいけないと分かっていたから、すぐに帰った。

 ――そして、俺は夜を待った。その日も八時丁度に、皇帝陛下は訪れた。

 バレるのではないかと、終始俺はヒヤヒヤしていた。
 もしも俺一人ならば、不貞を告白していたと思う。黙っていることが辛いからだ、自分のために話しただろう。だが、ユース様の未来を考えるとそれはできない。

 ここの所、人が変わってしまったように、ゼル様は周囲に冷たい。
 気に食わない人間は、すぐに命を奪うと、俺にまで聞こえてきていた。
 俺は、必死でゼル様の陰茎を咥え、いつもよりも必死に口を動かした。
 すると、皇帝陛下は非常に満足したようで――その日はいつもよりも、ねっとりと乳首を嬲られ、長い間首を絞められた。思えば、首を絞められて気絶したのは、この日が初めてである。


 以降だ。ユース様が俺の部屋に、人目を忍んでやって来るようになった。
 気づいている使用人もいるようだったが、皆、俺に同情的だった。
 監禁されている俺は、前々から欲求不満に見えていたらしい。

「ここは気持ち良いか? こうするのとどちらが良い?」
「あ、ああっ、最初の……ン」

 ユース様は、初めは幼くて、このように俺に聞いてきた。
 ――しかしさらに三年経ち、十八歳になった彼は、好き勝手に動いても俺を果てさせることができるようになった。荒々しい事もあるが、現在はどちらかというと勢いがあるというのが正しく、決して乱暴ではない。

「あ、あっ、待って、待ってくれ、ああああ、気持ち良い――!!」
「本当にここが好きだな」
「やァあっ、あ、あ、ああっ」

 その日も快楽に俺は泣いていた。扉が開いたのはその時のことである。
 聴き慣れた車椅子の音がした。

「え」

 俺は一気に我に返った。一瞥すれば、そこには皇帝陛下が立っていた。

「あ、や、ヤ、止め――うあああああああああああああああ」

 しかしユース様は気にした様子も無く、ニヤニヤ笑いながら腰を打ち付ける。
 どころか俺の太腿を持ち上げ、結合部分がはっきり見えるようにして、深々と突きさし、俺を揺らした。声を出さないのは無理だった。気持ち良すぎて、瞳が涙で潤む。こんな嬌声、ゼル様との情事では、もう何年も上げていない。もっと――俺は甘い声で、演技している。

「いやあああああああああああ」

 絶叫し、獣のように俺は喘いだ。グチャグチャと音がする。
 そのまま――ゼル様に見られたままで、俺は何度も中に出された。
 白液が伝ってきて、より卑猥な音を立てる。つま先に力を込め耐えようとしても、俺は中でイくのを止められず、むしろその快楽の漣に耐えるためにこそ力を込めていた。

 しばらく見ていたゼル様は――それから喉で笑った。嘲笑していた。

「首を絞めるともっと締まるぞ」
「!」
「父上も良い趣味をお持ちだな。不死鳥の王を毎夜殺すなんて」
「!?」
「――きちんと隔離し、見張っている。トドメもその度にさしていたんだが」

 ゼル様は、そう言うと立ち上がった。俺は、何が起きたのかわからなかった。

「あああああああああああ」

 そして――急に前から陰茎を挿入した。

「待ってくれ、壊れる、壊れ――」

 二本の陰茎に貫かれ、俺は目を見開いた。不可思議なことを言われた事実よりも、その衝撃で全身が凍りついた。二人は別々に動き、その度に俺の体はバラバラになりそうになった。二人にそれぞれの乳首を弄られ、左右の耳を嬲られ、俺は咽び泣いた。

「不死鳥の王は、行方不明なんじゃない」
「ああ。アスナ様の中に力を移して生きていた」
「それでお前の体は毎夜熱くなっていたらしい。お前の魔力だけが理由ではなかった。それを不死鳥の王が喰っていたからなんだ」
「やあああああああああああああ」

 そのまま二人に俺の体を貪られた。
 先に果てたユース様が体を引き、今度は俺の口に陰茎を押し込んだ。
 前後から突かれ、同時に射精された。そして――俺は、足だけでなく、首にも輪をはめられた。目隠しもされた。

「今貫いているのはどちらだと思う?」
「あ、あ、ああっ、あ」
「今、お前の淫乱な胸の突起を噛んでいるのはどちらだ?」
「は、あ、ああっ」

 その日から、昼夜問わず、俺はどちらかに、あるいは両方に犯されるようになった。

「俺が老けたのは、お前の中の不死鳥を封じるためだ。だが、もう良い。ユースが良い提案をしてくれたからだ。よってお前の【糧】を貰い、俺は不死鳥の王の力で若返る」
「――不死鳥の王を折角手に入れることができたのに殺すなど、父上が馬鹿げた事をしなくて良かった。せっかく捕まえたんだからな。俺は、不死鳥の王の力が欲しい。全ての不死鳥の力をアスナ様から奪い、俺が王になる」

 俺は朦朧とする意識で、親子のそんな会話を聞いたように思う。
 何を言われているのかは分からなかったが、実際その日から、どんどんゼル様は若返っていき、今ではユース様と変わらないほどになった。ユース様は――俺がいつか見た不死鳥の王によりそっくりになり、体格がもう異なるようにさえ見えた。

 そんなある日の事である。

「不死鳥の王が、アザレアの真の皇帝を愛するという意味が分かった」

 ユース様は、そう言うと残忍な笑みを浮かべた。
 何事か分からないまま、いつもの通りに、俺は押し倒された。

「その予知能力だけは、不死鳥の王には得られないからだ」
「っ、何を言って……? 俺には予知能力なんて――」
「父上から聞いたぞ。だから父上は、俺とアスナ様の関係を悟ったんだ。非常に昔にな――アスナ様。愛なんて無かったんだ、貴方をここに繋いだその日から」
「え?」

 喉で笑うと、ユース様が乱暴に俺の服を向いた。そして――

「!」

 鳥の化物の姿になった。何が起きたのか分からず目を見開いた俺の中に、凶悪な疣付きの陰茎が押し込まれた。いつも二本の陰茎で慣らされていたから、鳥の怪物の凶器も俺の体は飲み込んだ。しかし、鋭い爪で首筋を撫でられた瞬間、絶叫した。

「いやだああああああああああああ」

 俺は、不死鳥の王に貫かれていた。この時既に、ユース様は、不死鳥の王になっていたのだ。真っ赤な目が哂っていた。グリグリと陰茎についた突起が俺の内部を嬲る。だが俺は――恐怖よりも、確かに快楽を感じていた。

「待ってくれ焦らさないでくれ、もっとぉッ」

 自分から腰を振り、巨大な怪物に縋っていた。竜のようなその鳥は、ひどくゆっくりと俺の中で動く。

「『今度こそ』卵を孕んでもらう。俺の卵を孕むと言ったな? お前は、自分の余地の中で確かに。たっぷりと注いでやる」
「あ、あ、あ、あ」
「そして永劫、末代までアザレアの後宮で我が一族は、貴方の体を貪ろう。真の皇帝の一族は取って代わる」
「早く、早く」
「――父上と共に開発した甲斐があったな」
「うああっ」

 鳥の羽が、俺の全身を抱きしめた。蠢くそれに、俺は泣き叫んだ。もどかしすぎて気が狂う。皮膚の内側を直接快楽が撫でていく。


 ――気づいた時、俺は蔦の椅子に拘束されていた。蔓が巻きついていた。
 四肢を縛られ、何より首に絡みついていた。
 目の前には、ゼル様とユース様がいた。

「俺達の一族の奴隷印を刻ませてもらう」
「焼印は一瞬で終わる」
「え……? うああああああああああああ」

 直後、左の太ももに、巨大な丸い、焼けた鉄を押し付けられた。
 橙色に燃えていたその鉄は、俺の肌に、アザレアと剣の模様を刻印した。


 この日から――俺は、アザレアの後宮に気が遠くなるほどの時間、囚われる事になった。