【4】怒り――グレン
僕は緊張しながらコテージの二階に上がった。
階段はやはり足が痛むのが気になるが、そんなことを口にしたら空気が悪くなりそうだから秘密にしておいた。ただでさえ僕がいるせいで空気が悪いのに、これ以上の悪化を招いてはならない。
二階の奥の部屋に入ると、後ろを――グレン様がついてきた。
ここまで会話無し……! 僕は気まずくて、静かに唾液を飲み込んだ。
中に入り、二つのベッドを見たところで、ギギギと後ろで閉まる扉の音を聞いた。
僕は振り返って、グレン様に話しかけることにした。
「よ、ろ、しく、お、願いします」
そしてら、噛み噛みになってしまった。動揺したのだ。
「よろしくお願いします」
一方のグレン様は、相変わらずの冷静沈着そうな表情で、チラッと僕を見たあと、左側のベッドを選んで、そこに座った。ならば僕は右だ。窓のそばである。近くの棚に、カバンを置いた。グレン様ってすごく落ち着いた人みたいだなと、声の調子や表情から思った。
「今夜はカレーを作るんでしたよね」
「あ、は、はい」
「……――敬語じゃなくて良いですよ。俺の方が年下なんですし」
「あ、い、いや……そんな……グレン様」
「様も不要です。ところで、先輩って料理できるんですか?」
「全くできません……」
「そうですか」
大人びた表情のグレン様は、それから細く吐息した。呆れられたのかなと思った。
「あ、の、グレン様」
「……――はい」
「グレン様は、お料理できるんですか?」
「ひとり暮らしなので、それなりには」
「そうなんですか」
「ええ」
「……」
「……」
僕は頑張って会話を振ってみたが、結果、すぐに沈黙が訪れた。
やはりグレン様も、僕と同じ組は嫌だったんじゃないかなと考えた。
気が重い。僕は思わず俯いた。もう、ふて寝してしまいたくなった。