【4】飲みに行った先で、嫌な他人と遭遇した。(★)





 アスタに連れられて街に出た僕は、露店街を通り過ぎてから、飲食店が立ち並ぶ西区角に足を踏み入れた。このアエリアの暁都市は、東西南北の四区角から成る。中央を十字架状に水路が走っている。西区角が買い物や外食のためのエリアであり、数多の店が並んでいる。南区角は住宅街だ。僕の店兼家は、北区角の外れにある。北区角は、三分の二が王国指定魔術区域となっていて、魔術要素の強い武具店等は、その敷地内に店を開くようにと定められている。三分の一部分から東区角一体までが、俗に”暁の砦”と呼ばれる、対魔獣防壁設営地となっている。国から派遣されてきた、対策に当たっている第二騎士団の騎士達は、その砦で暮らしている。よって、東区角はほぼ騎士団の敷地のような存在だ。

 アエリアの暁都市は、そう歴史が古いわけでは無い。
 いずれかの時代に、魔獣被害が収まっていた頃、このリディアス王国が開拓した土地である。王国の中では辺境中の辺境だ。王国で最も綺麗に暁が見える都市――と、歴史書に出てくるのが最初である。

 東西南北を区切る水路を利用し、急ぐ時は、皆が船で移動する。
 それ以外は、徒歩だ。白石の煉瓦で舗装された道を、現在も仕事帰りの多くが歩いている。元々、危険な暁の砦から逃れるようにして、一番暁都市内部で遠い位置の南地区に居住地が生まれた。都市から逃げた者も多かっただろう。ついで、やって来た騎士達に食料を売ったり、隣接する南地区の住民に品を捌いたりしながら、西地区に商人の街が出来たそうだ。

 僕の場合は、父も、そして祖父も、おそらくはもっと昔から、父方が皆、あの東区角の工房で魔術武器を制作していたから、そのままそこで製作を行っているに過ぎない。本来は、僕にとっては場所などどこでも構わないのだ。

「何食べる?」
「……蒸し鶏」
「ああ、アルラ鶏の? 大好きだよね」

 アスタはそう言って笑うと、僕を連れてすぐに選び出した店に入った。彼は食道楽だ。
 区切られたテーブル席が六席、カウンター席が七席、奥に個室が二つ――そんな薄暗い店内で、僕とアスタは、右奥から二番目のテーブル席に通された。他のテーブルは、間仕切りの合間の布を上げなければ、客の顔が見えない作りだ。

 僕は先程希望したアルラ鶏を蒸したサラダの他には、コーラル麦酒を頼む事にした。コーラル麦酒は、普通の麦酒に比べて甘味が少なく、冷えている。酒を飲むのは、久しぶりだ。昨年成人し、今年で二十一歳になった僕は、まだ数えるほどしか、アルコールを飲んだ事は無いが。

 適当に料理を頼んだ後、アスタもまた、コーラル麦酒を注文した。先に運ばれてきたのは酒で、ジョッキを合わせてから、僕達は互いに喉を潤した。

「さっきの話だけどさ」

 料理が運ばれてきてから、アスタが言った。

「こうしてぱーっと飲んだり食べたりして、忘れた方が良いよ。ラストに足りないのは、気分転換だって。絶対そう」
「そうかな……」
「そう! たまには製作について忘れて、恋をするとかさ!」

 ――恋とは、人を好きになる事だ。
 他人が嫌いな僕に、恋など出来るはずがないだろうに。

「他人と永続的な関係を構築するなんて、考えただけで吐き気がする」
「――一夜の恋も、悪くないと思うよ?」

 僕の言葉に気を悪くした風も無く、穏やかにアスタが笑う。僕は彼のこの距離感が好きだ。自分が他人であると理解した上での、”友人”としての線引き。僕にとっての僅かなグレーゾーンだ。

 最後の料理が届いたらしく、間仕切りの布が開いた。

「ん?」

 すると――向かいのテーブル席から声がした。何気なく視線を向けると、そこには騎士が二人座っていた。片方は、僕が嫌いな他人の一人、マーカス団長だった。声を放ったのは、彼だ。

「――今日は店が休みのようだったから、心配していたんだ。具合でも悪いのかと思ってな。飲みに来る元気があって何よりだ」

 団長がそう続けたからなのか、僕達の席も彼らの席の布も、そのまま上げた状態で、店員達が下がっていった。

「一杯おごる」

 団長がそう言ったのを皮切りに、僕達は四人で飲む事になった。もう一人の騎士は新人で、アスタと友人だったらしい。僕は陰鬱な気持ちで、時折会話に頷いていた。これでは気晴らしも何も無い。やるせなくなって、麦酒を煽った。



 ――気づくと、僕は寝台の上で、シーツに沈んでいた。
 どうやら、酔いつぶれたらしい。
 見覚えの無い部屋で、僕は右手の大きな窓から見える月を眺めた。
 頭がツキンと痛む。

「目が覚めたのか?」
「――え?」

 声に狼狽えながら視線を向けると、真正面にマーカス団長の顔があった。
 何故ここに? そもそもここは、どこだ?
 そう考えながら、僕は、自分が何も着ていない現実に直面した。

 それだけでは無かった。

「……っ……嘘……」

 僕の体の中に、マーカス団長がいたのである。初めて知る熱い楔の感触が、僕の後孔の奥まで埋め尽くしていた。

「あ、あ、あ……」
「酔ってはいたが、同意は取った」
「ああっ」

 にやりと意地悪く笑ったマーカス団長が、僕の右の乳首を噛んだ。

 深く貫かれ、激しく腰を揺らされる。そうされながら、僕は胸の突起を舌先で嬲られた。腰骨を掴まれ、何度も打ち付けられる。圧倒的な質量による激しい熱の暴力に――次第に僕の体は熔けた。

「やぁっ、ン――!!」
「意外とスキモノだったんだな」
「あ、ああっ、あ、あ、ああっ」

 僕の根元を握り、緩く擦りながら、マーカス団長が動く。

「清楚な外見からは想像もつかなかったが」
「あ、っ、は……んン!!」

 その後、体勢を変えられ、何度も何度も貫かれ、僕はその日、抱き潰された。