【19】手当(★)






 俺は食欲が無いため、真っ直ぐに寝室へと向かった。
 この頃になると、体がゾクゾクとし始めていて、昨日よりは比較的マシだったが疲労も手伝い、全身から力が抜け始めていた。

 時計を見ると、既に夜の十一時だった。
 仕事に行ったというユフェルの姿は、まだ無い。
 体が、熱い。次第に、熱の事以外、何も考えられなくなっていく。

 ユフェルは、まだ帰ってこないのだろうか?
 涙ぐみながら震えていると、扉が静かに開いた。

「夕食を食べなかったそうだな? 大丈夫か?」
「あ、ハ……」
「カルネ?」
「熱い、熱いんだ……うう……」

 ユフェルの姿を視界に捉えた途端、俺の双眸から涙が溢れた。歩み寄ってきたユフェルは、ハッとしたように息を呑むと、俺の顎を持ち上げた。

「それほどまでに辛いのか?」
「うん、あ、ああ……」

 舌を出して呼吸すると、唇を近づけられて、舌を甘く噛まれた。その刺激だけで、俺の陰茎は勃起した。体から力が抜けてしまい、目を閉じて睫毛を震わせながら、俺はユフェルの腕の中に倒れ込んだ。

「やだ、ユフェル、俺……うああ、あ、熱い……助けてくれ、あ、ああ」
「……」
「ユフェル、ユフェル!」

 俺が繰り返し名を呼ぶと、ユフェルが俺の服に手をかけた。そして息を呑んだ。

「! 怪我をしているじゃないか」
「あ、あ……」
「すぐに手当を――」
「そんなの良い。あ、あ、熱い……体が熱い……うああ」
「良くない、ダメだ。こちらの痕は瘴気の酸だな。こちらはドラゴンの爪か?」

 ユフェルの手が、俺の肌を撫でた。それだけで果てそうになり、俺は号泣した。ユフェルの手の感触が、とにかく気持ちが良いのだ。

「少し待っていてくれ」
「やだ、あ、ああ! ダメだ、おかしくなっちゃうから、うああ」

 泣いている俺を残して、ユフェルが部屋を出ていった。俺は両腕で体を抱き、ガクガクと震えているしかなかった。すると包帯と魔法薬を持って、ユフェルが戻ってきた。俺が必死で呼吸をしていると、首元と腕の患部に、ユフェルが魔法薬を塗りつけた。そしてその上から包帯を巻いていく。その感触に、いちいち俺は敏感に反応した。泣きじゃくりながら、俺はユフェルにすがりつく。

「あ、あ、ああ!」
「ここまで効果が凄いとはな……辛いか?」
「う、ん」
「すぐに楽にしてやる――が、体に障るか」
「やだ、やだ、いやだ! 早く、あああ!」

 ユフェルはボロボロと泣いている俺の体を優しく横たえると、下衣を乱した。

「ん、フ」

 そして俺の陰茎を咥えると、指を二本挿入してきた。潤滑油は無いが、内部は解れきっていた。俺は指の感触に悶える。前への感触よりもそちらを強く感じた。

「あ、ああ」

 そのまま前からは放ったのだが、熱は収まらない。俺の吐精したものを、ユフェルが飲み込んだのが分かる。羞恥に駆られたが、体が熱くて、それどころでは無い。

「ア、んン――っ、は、あ、ユフェル! 早く、あ、あ」
「……」
「ユフェル!」

 俺が泣き叫ぶと、嘆息してから、ユフェルが挿入してくれた。その温度を感じただけで、再び俺は果てた。あんまりにも気持ち良くて、体がドロドロに熔けてしまいそうだった。ぬちゃりと音がする気がする。

「あ、あ、あ」
「っく、君の中は、本当に気持ちが良い。具合が悪いと分かっているのに、止められなくなりそうだ」
「もっと、あ、あ、ア!」
「煽るな、ん……カルネ。大丈夫か?」
「だめだ、おかしいんだ、体が、あ、あ、あああ!」

 ユフェルがゆっくりと動き始めた。その刺激が気持ち良すぎて、直ぐに俺は理性を飛ばした。


 目が覚めると、既に朝だった。
 俺はユフェルの腕の中で、緩慢に瞬きをした。体からは熱が引いている。
 カーテン越しに、朝の日差しを感じた。

「おはよう、カルネ」
「ん……」

 頬に口づけられながら、俺は頷いた。体は綺麗になっているようだった。

「考えたんだが、やはり解毒薬の手配は、俺もする事とする」
「本当か……?」
「ああ。辛そうなカルネを見ていると、俺の方まで辛くなる事に気がついた。俺が馬鹿だった」
「ユフェル……」

 その言葉が嬉しくて、俺は半ば無意識に、ユフェルに抱きついた。すると優しく後頭部を撫でられた。

「ただ、依頼するのは、王都の薬師のランスとなる。すぐに出来るかは不明だ」
「! それ、昨日俺が依頼した薬師だ」
「何? 行動が早いな。どの程度で完成する?」
「一週間はかかるって。それで俺、自分で素材を取りに行ってて……」
「怪我は、それが理由か?」
「う、うん」
「ならば俺も一緒に行こう。剣士の冒険者一人よりは、魔術が使える俺もいた方が良いはずだ」
「良いのか?」
「ああ。カルネのためだからな」

 ユフェルが優しく微笑んだ。それを見たら、俺の胸が疼いた。
 ――なんだかんだで、ユフェルは俺に優しい。ずるいと思う。これでは、嫌いになれない。

 その日は、朝食後、二人分のお弁当をイワンさんが用意してくれた。

 昨日ガゼルに貰った地図を片手に、俺はユフェルと並んで歩きながら、エリスの森へと向かった。ユフェルは深々とフードを被っている。第十七区画まで向かうと、ユフェルがフードを抑えた。

「すごい瘴気だな」
「そうか? 大根畑とそんなに変化は感じないけどな」
「一体カルネはどんな環境で育ってきたんだ……」

 呆れたように言われたが、事実なのだから仕方が無い。それから俺達は、共闘して、この日は十数体の魔獣を討伐した。

 思ったのだが、ユフェルは強い。魔術だけでなく、体術と剣にも秀でているようで、俺が庇うような場面は一切無かった。寧ろ――たまに俺の方を気遣うようにしてくれた。

「ユフェルも凄かったんだな」
「どういう意味だ?」
「大根に苦戦していたから、あんまり強くないのかと思ってた」
「――十分に部下達の安全確保をしながら戦うのとは、わけが違うだけだ」

 ユフェルが苦笑したのを見て、だけど今、俺の安全確保をしてくれている事を考えたら、俺の方まで苦笑してしまった。

「俺はもっと放って置かれても大丈夫だぞ?」
「そういうわけにはいかない。部下よりも大切な、俺のたった一人の伴侶だ」
「……紋があるだけだろ?」

 俺が言うと、ユフェルが神妙な面持ちに変わった。

「分からない」
「え?」
「俺は誰かを愛した事が無いから、この感情に名前をつけるのが難しいが、兎に角今は、カルネを大切だと思うんだ」
「……」
「失いたくない、傷ついて欲しくない、ずっとそばにいたい」
「ユフェル……」

 思わず赤面してから、俺は視線を逸らした。俺も同じ気持ちだったからなのかも知れない。何となく、隣にユフェルがいると安心するし、ずっと一緒にいたいという想いが存在するのは、俺にも分かり始めていた。