5:引っ越した……。(★)
こうしてその日の内に、俺はラスカの家に連れて行かれた。引越し作業は……本当に、俺がする事は、ほぼ何も無かった。自分の荷物をまとめたくらいのものであり、家具の運び出しから、手続きに至るまで、ほぼ全てをラスカがやってくれた。
俺は、いまだに信じられない。一体、俺のような平々凡々なおっさんの何が良いのだろう……? そもそも本当に、良いのだろうか……?
ぐるぐると思い悩みながらも初めて足を踏み入れたラスカの家は、俺の先程までの家と比べると、天と地ほど違った。さすがは凄腕の魔術師だ……。街の一等地に建つ五階建ての屋敷……俺から見ると、まるで城のようだった。屋根には規則正しく窓が並んでいる。
夜の庭を抜けて、玄関をくぐる。俺の部屋は三階に、既に用意されていた。
――寝室は、ラスカと共通。寝室を挟んで、向こうがラスカの部屋だと言う。
「必要なものがあったら、なんでも言ってくれ」
「あ、ああ……」
ここが、これから俺の部屋なのか……?
実感がまるで沸かない。しかし当然のごとく、クローゼットにラスカが俺の服をしまっていく。呆然としたまま、俺はそれを見ていた。大きな窓からは、月の光が入ってくる。
浴室は二階にあるとの事で、俺はその後、風呂を借りた。
借りたというのも変なのか……。俺は、今後、この豪奢な浴槽のお世話になるのだろう。体を洗いながら、夢を見ている気分になった。
外に出ると着替え――夜着が用意されていたのだが、この肌触りが、俺の知る服とは著しく違った。着心地が良すぎた。俺とラスカでは、生活水準が違いすぎる。俺なんて、今日のように暑い日であれば、上半身裸で寝て暑さを凌いだりするのが、普通だった。気候に合わせた服など持ってはいなかったのである。
「眠るか」
部屋に戻ると声をかけられた。
こうして――俺は、ラスカと同じ寝室へと向かった。
巨大な寝台は、二人で横になっても大きすぎる。二人で寝るには狭かった俺のベッドとはだいぶ異なる。ふかふかの枕に頭を預けた時、首の下にラスカの腕が回った。そして、ギュッと抱き寄せられた。
「ずっとこうして、バルトと一緒に眠りたかったんだ。これからは、毎日それが出来る」
嬉しそうな声で、ラスカに耳元で囁かれた。思わず照れた俺は、目を閉じて掛け布団に潜る。魔術で一定の温度に保たれた室内だから、この季節でも毛布をかぶれるらしい。
額にキスをされてから、俺は瞼を閉じて――眠った。
朝。
目が覚めると、横でラスカが、じっと俺を見ていた。一気に覚醒して、息を飲む。
「バルトの寝顔……私は、いつまでも見ていられる」
「や、止めてくれ……今、何時だ?」
「まだ朝の六時だ」
「クランに行く準備をしないと」
俺がそう口にした時、ラスカが俺の耳元に唇を近づけた。
「抱きたい」
率直なその言葉に、俺の頬が瞬時に熱くなった。
ラスカが微笑したまま、服の上から俺の陰茎をゆるく撫でる。ゾクと、甘い快楽が浮かんでくる。朝勃ちしていた俺は、息を詰めた。ラスカは、俺の首筋に唇を落とすと、軽く吸った。ツキンと痛んだ。
「ダメか?」
もう一方の手で、服の上から左の乳頭を弾かれながら、俺は聞かれた。
覗き込むように、ラスカが俺を見ている。
「け、けど、だな……これから仕事が……」
「酷くはしない。優しくするし、手早くする」
果たしてそういう問題なのだろうか……?
俺にはよく分からない。何が分からないかと問われたならば、まずもって、結婚した場合、どういう風に過ごすのかが不明だ。結婚したら、こういう事は、日常茶飯事なのだろうか? だとしたら、断るのは変なのだろうか? 結婚って、一体どうすれば良いんだろう。そう考えている内に、ポツポツとラスカに上着のボタンを外された。
「ン」
鎖骨を吸われ、這ってきた舌に右の乳頭を舐められる。ゾクっと快楽が過る。
左手が下衣の中に忍びこんできて、俺の陰茎を撫で始める。
胸と陰茎を弄られる内、俺は優しく這い上がってくる快楽に、全身を絡め取られていった。ラスカは、俺の上に乗り、唇を唇で塞ぐ。そのキスさえも甘く感じた。ラスカの既に硬くなっているものが、俺の下腹部に当たっている。
「ぁ、ぁぁ……」
陰茎で内股を擦り上げられた。陰茎同士が優しくぶつかる。
「挿れたい」
「あ、ああ……わ、分かった……」
俺は気づくと頷いていた。すると下衣を脱がされて、指を一本差し込まれる。根元まで入った指を振動させられて、俺は必死で声をこらえる事となった。指が二本になり、次第に動きが早まる。そうして慣らされた後、ラスカが中に入ってきた。
「あ、あ、あ」
「好きだ、バルト」
「ん……ああ!」
グリと亀頭で前立腺を刺激され、俺の体が蕩けた。魔力が混じり始め、俺の体からは力が抜け始める。ラスカがゆるゆると抽挿を始め、俺の感じる場所を突き上げては、ゆっくりと腰をひく。その切ない快楽に、俺の腰が震えた。
「バルト、私に掴まってくれ」
そう言われたので、俺は素直に、ラスカの首に腕を回した。すると喉で笑ってから、ラスカが動きを早めた。卑猥な音が響く中、感じる場所を何度も何度も貫かれる。しかし這い上がってくる快楽は、とても優しい。俺とラスカが一つになっているような錯覚に襲われる。
「ん、ァ、ア!!」
中にラスカの飛沫が飛び散った時、俺は前を優しく擦られて果てた。
肩で吐息していると、ラスカが、俺の目元の涙を拭った。
「可愛いな。止められそうにない、弱ったな」
ラスカは微苦笑しながら、俺の中から楔を引き抜いた。
そして――俺の右の太ももを持ち上げて、再び挿入した。
「えっ、お、おい……これ以上は……手早くなんじゃ……?」
「まだ時間はある」
「ひっ、ぁぁあっ!!」
斜めに突き上げられる。すると異なる角度から感じる場所を、ダイレクトに刺激される形となった。前立腺を突かれる度、全身に快楽が響いてくる。先程までとは段違いに早く、ラスカが動き始めた。
「あ、ああっ、ん、あ、あ、ああっ、あ、や、ン」
「気持ち良いか? もっと感じてくれ」
「んン!! ひ、ぁ、ァあ、ああっ、あ、あ!」
俺の陰茎も再び反応を始めた。白液のせいで、ぬちゃりと抽挿の度に水音が響く。
深く穿たれる度、俺の体が跳ねた。ギュッとシーツをつかみ、激しくなった刺激に耐える。しかし腰骨が熔けてしまいそうになり、俺は悶えた。
「あ、ああっ、あ、あ、ああっ」
出そうだった。また出てしまう。二度も出したら、絶対に仕事に差し障る。そうは思うが、もう俺の体も止まらない。
「う、あ、ああっ」
「ここが好きか?」
「……っ、ン、あ、そ、そう言う事を、聞くな」
「――バルトの事は、なんでも知りたいんだ」
「ああっ!!」
深く貫かれ、俺は再び放った。
その後――こうした朝は、日常的なものとなる事を、この時の俺は知らなかった。
だからただただ内側に飛び散るラスカの熱い飛沫を意識しながらぐったりとしているだけだったものである。