【4】お仕置きという名の壁尻(★)
なんだか散々な目にあった翌日の朝、俺は解放された。痛む腰を押さえて服を着て、仕事に行くという閣下と一緒に部屋を出た。本日も仕事である。俺は帰って休みたかった。
「訴えるなら好きにしろ、近衛騎士に引き渡せば良い」
「……俺が近衛騎士です」
「――では、俺を捕まえるか?」
「……」
俺は口ごもった。ひとつは、この国にとって閣下はいないと困る人だと思ったからである。もうひとつは、男に強姦されたと訴えるのがためらわれたのである。
「覚悟はある。法定で詳細に、お前がどこで感じて、どこでよく啼いたか語ろう」
「やめてください!」
そこで曲がり角になったので、俺は階下へ、閣下は上階へと別れた。
どうしたものか考えながら、俺は宰相府を出て、庭を進む。
昨日はあれほど綺麗に見えた花が、今日は色あせて見えた。体の節々が痛い。
思わずため息を漏らしたその時――後ろから方を叩かれ、ビクッとした。
「!?」
「近衛騎士のライナ=ライラックか?」
俺に声をかけてきたのは、宮廷魔術師のアーク様だった。燃えるような赤い髪を見て、俺は呆然とした。俺の名前が知られているとは思ってもみなかった。周囲を反射的に一瞥すると、羨望の眼差しが飛んできている。
「ちょっと個人的に話したいことがあるんだけど、今いいか?」
「は、はい」
断れるわけがなかった。緊張で覚醒した俺は、ニッと笑って歩き出した彼の後を追いかける。アーク様が向かったのは、王宮脇の迎賓館一階にある休憩室だった。初めて入ったが、昨日地図は見ていた。ここは、全ての部屋が個室になっているため、少人数で休憩をする場所で、仮眠用の寝台もある。中には入り、鍵を閉めると、アーク様が杖を振って、テーブルの上に冷たいお茶を二つ出現させた。このように、呼吸するように魔術を使うのを見て、俺は衝撃を受けた。
「まぁ座ってくれ。良かったら、お茶もどうぞ」
「あ、あ、ありがとうございま、す」
おずおずと俺が座ると、正面の席にアーク様も腰を下ろした。
無性に喉が渇いていたので、感謝しながら俺はグラスを手にとった。
「単刀直入に聞くけどな、お前、隣国からの間諜を探してるんだって?」
俺はむせた。お茶が変なところに入ってしまった。どうして知っているのだろうか?
「どうして知っているのかって顔だな。ま、宮廷魔術師の情報網を甘く見ない方が良いって事だ。特に王宮では、な。覚えておくと良いぞ」
「……そうなんですか」
「おう。それで――俺としても、協力したいと思ってな」
「協力?」
「怪しい奴がいるんだ、一人」
「え?」
驚いて俺はグラスを置いた。姿勢を正す。
「大神官府のグレン。グレン大神官」
「っ、え!?」
「あいつが討伐に来ると、タイミングよく弱い魔物が出現するんだ。新聞には書かれていないが、現場ではみんな疑念を抱いている。そして魔物召喚術は、隣国で普及している。俺には、繋がりがあるようにしか見えない」
「そ、そんな……」
「調べて欲しい。お前にしかできないことだ、よろしくな」
そう言って立ち上がると、アーク様は俺の横に立ち、ポンポンと肩を叩いた。
「期待してるから」
そして彼は出て行った。残された俺は、混乱したあと、仮眠用のベッドを見た。疲れた頭では、上手く考えられない気がしたので、寝台で少し眠ることにした。
午後になり、俺は少しグレン様について調べてみることにした。大神官府に向かい、敷地の中にある数々の神殿を眺める。時々この場所だけ一般開放されるので、俺も何度か写真で見たことがある建物があった。至る所に、俺にさえ分かる神聖な気配があふれている。泉が見えるたびに、その周囲に飛び交う妖精も見えた。薄い半透明な羽根が生えていて、とても綺麗である。
色々と見て回っていると、それだけで体が癒えた気がした。おそらく気のせいではない。敷地全体に神聖術がかかっているから、疲労回復効果などがあるようなのだ。
良い場所を見つけてしまったと思いながら、その後俺は大神官府の中央館へと足を運んだ。自分なりに、それとなく見回りの過程で立ち寄った感じを演出したのである。
どこにいるのだろうかと探しながら、回廊を歩く。
菖蒲の花を模した石が並ぶ床を進み、俺は大聖堂を目指した。
――誰かに手で口を塞がれたのは、角を曲がった時のことである。
パチンと音がして、硬直した俺の目の前で、小瓶の蓋が開いた。
鼻で息をしていた俺はそれを吸い込み……そのまま意識を落とした。
「ン……」
目を覚ますと、俺は見知らぬ場所にいた。
両手を左右の壁に拘束されている。目を見開き外そうとしたが、壁にはまった黒い鉄の輪はビクともしない。なのになぜなのか、尻だけスースーした。すっぽりと壁にはまっている感覚がする。壁は斜めになっているようで、俺は尻をつき出す形だった。俺はなぜなのか、薄い神官風の衣を纏っていたが、透けそうなその白い布の下は……全裸だった。え、なんだこれ?
「あ!」
その時、俺はヌチャリという音を聞いた。表面はぬめっているが、硬く熱い何かが、俺の背後から、俺の中へと入ってきた。俺は昨日、この感触を知ったばかりだった。
「あ、あ、あ」
ゆっくりと俺の中に挿ってきたのは、誰かの陰茎である。逃れたいが、俺は全く身動きができない。次第に動きが早くなり、ぐちゃぐちゃとした音が響きはじめた。
「うああぁ」
強く感じる場所を内部でこすりあげられて、思わず俺は声を上げた。
状況がわからないから混乱しているし、同時に……絶望的なことに気持ち良いしで、俺は涙した。あ、だめだ。
「もう出るッ!!」
一際強く突かれて、あっさりと俺は果てた。中にも熱いものが飛び散った。昨日あれほど出していたが、この大神官府の庭で体が回復していたため、俺は元気だった。中を暴いていたものが抜けたので、つま先を震わせ、俺が体を揺らそうとした、その時――
「ひあああっ!」
今度はまた、別のだれかのものを突き入れられた。今度の陰茎は、太かった。いやいやいや、冷静に比較している場合ではない。なんだこれ、逃げないと、でも体が動かない! 中の陰茎が揺さぶられ始めた。
「あ、ああっ、あ、あ」
律動に合わせて、俺は声を上げた。舌を出して必死に息をする。するとまた、体の中に熱い飛沫を感じた。そしてすぐにまた、別の凶暴なものが入ってきた。今度は長く反り返っていた。
「いやああああ」
泣き叫びながら、その後も俺は、ずっと尻を犯され続けた。何度も何度も出され、どれくらい経ったかわからなかった時、それまで暗くてよく見えなかった部屋に、灯りがついた。壁のロウソクが勝手についていた。神聖な気配がする赤い火だった。そして、コツコツコツと靴の音が響いてきて、俺の前に一人の青年が立った。
――グレン様だった。
「大神官府に、間諜捜査担当の近衛騎士が、一体何の用ですか?」
「あ、あっ」
「神官長様から、聞いてます。君が自白剤でよがり狂っていたところまで」
俺は、言わないって言っただろうと心の中で怒った。しかしそんなことを言える空気ではない。さらに、壮絶な美貌の持ち主のグレン様の冷たい顔というのは……大層迫力があって、俺は凍りつきそうになった。だが、その間にも後ろを暴かれていたため、結果として出てきたのは喘ぎ声だけだった。
「同性が好きだそうなので、本望かもしれませんが、大神官府を敵に回した以上、今後君には信徒の資格はありません。なので本来は生殖行為が禁止の神官も、貴方は人間扱いしなくていいので、堂々と嬲る事ができます。ちょうど新しい壁尻を探していたのでちょうど良かったです」
「な」
「元々大好きだという話ですし、転職でしょう。後ろだけで思う存分果ててください。一応敵対者への仕置なのですが、君は喜んでしまいそうで困る」
何を言われているのか分からなかった。壁尻って何? 聞きたかったが、その間にも後ろで人が変わり、またぐちゃぐちゃと音を立てながら陰茎が入ってきて、今度はかき混ぜるように動かれた。泣きながら嗚咽をこらえていると、グレン様が歩み寄ってきた。そして俺の顎を掴み、持ち上げる。
「近衛騎士団に絶世の美形が入ったと聞いて、みんなで庭に見にいき、一目で気に入っていたんです」
「!?」
「まさか自分から来てくれるとは」
「ふっ……ン……」
そこから唾液が溢れるまでずっと唇を貪られた。舌を噛まれると、体がツキンとした。解放されてから、思わず肩で息をしていると、不意に俺の陰茎をグレン様が握った。
「やぁああっ……あ、ああっ!!」
ゆるく擦られ、俺はあっさり放った。
「週休二日です。近衛騎士団には特別任務を頼んだと言っておきますので、明日からは朝の十時にここへ来てください。そして午後二時まで、聖なる壁尻のお役目を」
「!?」
「嫌だというなら奴隷印を押し、気が狂うまで今から永遠にここで犯します」
「わ、わかり、わかりました」
俺は泣きながら何度も頷いた。そして、その後三時間ほど後ろを犯された後、夜の八時ごろに解放された。帰り道、庭の神聖術のせいで俺の体は復活していたが……精神的には疲れ切っていた。何がどうなっているのか分からないが、今回のこれは犯罪ではないのか?
大混乱しながら近衛騎士団の寄宿舎に、俺は初めて向かった。
近衛騎士は、住み込みなのである。
部屋の鍵はもらっていたので、自分の部屋に向かうと……壁の前にヴォルフラム閣下がいた。嫌な予感しかしなかった。