【3】俺が積極的だと!?(★)



 部屋には窓がないから、どのくらい経過しているのかはわからない。
 俺は――震えが止まらない太ももを、なんとか閉じようと試みていた。閉じるというよりも、放ちたくて勝手に腰が揺れるのだ。俺の先端からは透明な液がタラタラ垂れている。

 ヴォルフラム閣下が言った通りで、次第に俺の体は熱を取り戻し、現在に至っては気が狂いそうなほどもどかしい。

「ぁ……ァ……」

 呼吸が苦しい。だから大きく吐息しているのだが、その度に嬌声が漏れてしまう。
 涙が乾かない。朦朧とする頭で、俺はヴォルフラム閣下の帰りを待っていた。最初こそ、なんとか逃れようと手首の拘束を揺らしたりしていたのだが、全く外れなかった。早く……早く帰ってきてほしい。

 そう考えていた時、やっと扉が開いた。虚ろな視線を上げると、ヴォルフラム閣下が戻ってきたところだった。

「待たせたな」

 まったくだ! 俺は叫びそうになった。だが――閣下が一人ではなかったため、困惑して言葉を止めた。恥ずかしかった。自分の姿を思い出したのだ。

「これは酷い」

 そこに立っていたのは、大神官長のベフェル様だった。癒しの神聖術の使い手で、グレン大神官よりも偉い人物である。四十路だと聞いた事がある。

「解毒前処理の、身体拘束および無接触六時間は終えています」
「さすがだな、ヴォルフラム閣下。すぐに解毒しよう」

 そう言って、べフェル様が、巨大な十字架を振った。瞬間、俺の体は白い光に包まれた。スっと体の熱がひいていった。自白剤(媚薬)が、体から抜けたのだと俺は理解した。

「ありがとうございました」
「何、閣下に貸しができて何よりだ。では、また。安心してくれ、俺の口は硬い」

 朗らかに笑い、べフェル様は出ていった。
 ――助かった。
 俺は安堵して涙をこぼした。それからヴォルフラム閣下を見た。

「勘違いは誰にでもありますよね」
「――そうだな」
「俺も誰にも言いませんから! 離してください」
「ん?」

 解放されると信じきっていた俺に対して、ヴォルフラム閣下が首を傾げた。

「俺は媚薬抜きでお前を抱きたかったから、解毒依頼をしただけだ」
「え?」
「人道的観点ではない。それとお前の家及び寄宿舎には、しばらく夜は帰れないと伝えておいた」
「は?」

 そう言うと、歩み寄ってきた閣下が、俺の顎を持ち上げた。そして深々と唇を貪ってきた。舌を追い詰められ、俺は目を見開いた。



「ぁ……ぁあっ、あ……」

 現在、閣下は、香油をたっぷりつけた細い棒を俺の中に押し込んでいる。球体がたくさん付いていて、突き入れられるたびに、俺の中を広げていった。ぬちゃぬちゃと音を響かせているそれは、緩慢に抜き差しされる。時折先端の球体が俺の中の感じる場所を強くえぐる。その度に俺は、全身を拘束している鎖を揺らして悶えた。

「あ、あ、っ、あ……ッ、ン……」

 ゆっくりとゆっくりと抽送を繰り返されて、俺の体は熱を持った。媚薬効果が切れているにも関わらずだ。だが、今度は果てられない。中だけの刺激では、俺の前は解放されない。そして、ヴォルフラム閣下は言う。

「後ろだけで果てられるようになったお前を見たいんだ」
「っっっ――ああっ」

 いきなり棒を手で振動させられて、俺は涙をこぼした。やばい、まずい、気持ち良い。俺は、こんな快楽を知らない。熱を逃がそうと息を吐くのだが、熱い体はどうにもならない。

「や、嫌だ、イかせてくれ」
「昔からお前にお願いされてみたかったんだ。イきたいなら、なんて頼めば良いか、考えてみろ」
「え……あ、あの、触って下さい」
「どこを?」
「前を」
「――回答のひとつとしては正解だが、俺の希望とは違う。『挿れてほしい』と言ってくれ」
「っ」

 その言葉に、俺は赤面した。確かに無機質で冷たい棒よりも、記憶にある熱い閣下の質量の方が――……媚薬があったとはいえ、段違いに気持ち良かった。俺は次第に快楽以外を考えられなくなりつつあったから、小さく頷いていた。

「挿れてくれ」
「誰のを?」
「ヴォルフラム閣下のものを」
「――ヴォルで良い。一度そう呼ばれてみたかった」
「ヴォルのを挿れてくれ」

 俺が必死に頼むと、閣下が棒を引き抜いた。俺は我ながら期待に満ちた瞳でヴォルを見てしまった。

「っン」

 しかし、入ってきたのは指だった。

「あ、や、違っ」

 それも一本だけ、棒に比べると段違いに細い指が、俺の中へと入ってきたのである。グチャリと音を立ててなかに進むと、それからかき混ぜはじめた。

「やだ、やだっ、あ!」
「もうドロドロだな」
「うあっ、お願いだから、早く!」
「っ」

 俺の言葉に、閣下が一度指を止めた。そしてまじまじと俺を見た。

「思っていたよりも積極的だな」

 断じて違うと叫びそうになった。体が辛いのと、早く終わって欲しいのとで、俺は口にしてしまっただけである。解放してもらえるならば、一人でトイレに行き抜いてくる自信がある。

 それから、ヴォル閣下が鎖を緩めてくれた。首輪以外は外された。そもそもこの首輪は拘束にはあまり意味をなしていなかったから、何故はめられたのかが分からない。ぐったりと俺が椅子に座っていると、閣下が歩み寄ってきた。

「あ、あ、あ」

 そしてそのまま俺にのしかかり、挿入してきた。グッと根元まで、ゆっくりとだが一気に突き入れられて、俺は喘いだ。やはり熱い。繋がっている箇所が熔けてしまいそうに思える。閣下が腰を揺らすたび、俺は声を漏らした。思わずヴォルの首に手を回す。体勢が辛かったからだ。すると動きの激しさが増した。

「うああああ」

 ヴォル閣下が俺の中に放った。その時、強く中をえぐられて、俺も果てた。催淫効果無しでも、後ろだけで果ててしまったのである。何度も大きく吐息してから、俺はそのまま眠ってしまった。