2:抱きしめられて眠る(☆)
――僕はこれでも王子様だし、男の子だし、パパだ。
だからお妃様になんてなれない。
性別を抜きにして考えても……猫獣人自治区と羊国では雨雫と海くらい国力に差があるし、とても釣り合わない。もちろん僕の目標は釣り合いが取れるくらいの強い国を作ることなんだけれども、現在の現実的に。
大混乱しながら陛下を見ていると、柔和に微笑まれた。
「ルクスは俺のことが嫌いか?」
「いえ……大好きだけど……」
なんだか頬が熱くなってくる。
シャーフ陛下は本当に優しいから、僕は大好きなんだ。だけど、ちょっとどうしていいのかわからない――ままでいたら、さらにギュッと抱きしめられた。これまでは暖かくて大好きだとしか思っていなかったのに、意識したとたん急に恥ずかしくなって、僕は硬直してしまった。
「良かった。もちろん、無理強いはしない。ルクスが怖がるようなことは何もしない」
「本当? だったら一度僕を、発情期が来る前に帰してください」
「それだけはダメだ。発情期が来ても、嫌がるのであれば指一本触れないと誓う。ただこの国で過ごしてくれればそれでいい。それで世界的にルクスは俺のものだという証明になる。その証だけでも欲しい」
すっぽりと腕に覆われた状態で僕はそんな言葉を聞いた。
なんだか真っ赤になってしまったから、その顔を見られるのが恥ずかしくて、額を陛下の胸に押し付ける。よくわからないけど、すごく嬉しい。
「正妃の件はじっくり考えてくれていい。ただ俺は、誰にもルクスを渡したくないんだ」
「どうして……?」
「ルクスのことを愛しているからだ」
愛……今度こそその言葉に真っ赤になって、僕は泣きそうになってしまった。なんだか胸の奥がポカポカしてきたのだが、少し苦しい。緊張で体が震えてしまった。
本当にシャーフ陛下は僕のことが好きなのだろうか? そうだったら、すごく幸せだ。
だけど――僕は、陛下のことをどう思ってるんだろう? 大好きだけど、それは、愛なのかな……? 僕にはそれがよくわからない。
「殿下、今夜はもう遅い――今日からは共に眠ろう」
「――え?」
「俺と同じ寝室で眠るのは嫌か?」
「そんなことないですけど……」
これまでにも何度か、陛下の寝室で一緒に眠ったことがある。たいていギュッと抱きしめられて眠るのだ。もしくは腕枕だ。僕はシャーフ陛下の体温が好きだ。なんだか安心してぐっすり眠れるからだ。正直他国に来て僕はどこかで緊張していたんだと思うけれど、陛下がいてくれると、それだけで心が軽くなった。だけど今は違う意味で緊張している。
――求愛されて、同じ寝台で眠る……?
――それって……――!
想像しただけで目が潤んできてしまった。そんなの絶対にダメだ。
「安心して欲しい、何もしないから」
すると静かに頭を撫でられた。そ、そうか、僕の考えすぎだったのかな……それはそれで恥ずかしい。それから陛下は僕の頬に手で触れると、僕の腰に腕を回した。
掌のぬくもりが心地いいのだが、腰を撫でられると、僕の発情しかかっている体はゾクリとしてしまった。
陛下には多分他意はないのだろうから、自分の体が恨めしい。
いや……陛下に触られるのが気持ちいいのかもしれない。そんな自分の思考にハッとして、一人で頭を振る。
それから僕たちは、陛下の寝室で眠ることになった。
「おやすみ、ルクス」
「……おやすみなさい」
チュッと陛下が僕の頬にキスをした。真っ赤になった僕は、体を固くしてしまった。すると抱きしめるようにされて、そのまま寝台の上に転がった。今日はぎゅっとされて眠るらしい。気恥ずかしい。
僕の髪に、シャーフ陛下の頬があたっている。
クラクラしてきた。なんなんだろう、この状況。昨日まではこんなの別になんとも思わなかったのに、今日は胸がドキドキして仕方がない。
シャーフ陛下が、僕のことを好きだなんて言うからだ。どうしよう、僕は眠れそうにもない。思わず吐息したら、思いのほか熱かった。もうすぐ本格的に発情期が来るから、今日の体はまた一段と熱くなった。
そんな状況で――ギュッとされている。
その事実に僕は目を見開いた。自覚した途端、陛下の体温に吸い付けられるようになり、息が上がりかけた。体が熱い……どうしよう。震えそうになる体を必死で沈めようと試みる。けれど努力むなしく、陛下の吐息が耳元にかかるたびに、僕の体は反応を見せ始めた。
ゆるゆるとたちあがるまでに、そう時間はかからなかった。
もどかしい。
一人で触ってしまいたくなったけれど、抱きしめられているし、起こして気づかれたら恥ずかしいしで、どうしようもない。
「――ん、ルクス……? 眠れないのか?」
「……あ、そ、その……」
その時陛下が目を開けたのがわかった。話した時に、首筋に吐息が触れ、僕は体を震わせてしまった。困ってきつく目を伏せたとき――不意に首筋を舐められた。
「ひゃっ」
「そんなに色っぽい顔をしないでくれ」
「ああっ」
今度は耳元で囁かれて、僕の体はそれだけで跳ねた。陛下の声が僕は好きだ。
だけどなぜなのか今日は、腰に響いてくる。
まだ本格的に発情期が来たわけじゃないのに、陛下に抱きしめられ、触れられているところが全部熱くなってきた気がした。
僕……僕も、陛下のことが好きなのかもしれない。
じゃなかったら、発情期じゃないのに、ここまで体が熱くなるなんて変だ。
だけど僕は王子様だから、やっぱりダメだと思う。
「――反応しているな。発情期が近いんだな、本当に」
「……」
羞恥で顔を背けようとしたら、顎を掴まれて、覗き込まれた。
涙がこみ上げてくる。本当に恥ずかしい。猫獣人は発情期になると我を忘れてしまうのだ。
そんなところ、仲良くなった陛下には見られたくないし、もしかすると僕も好きだから、見せて嫌われてしまうのが怖い。
「辛いだろう? その、嫌でなければ――楽にしてやるから」
「え」
「嫌か?」
「え、あ」
ら、楽に……? どういう意味だろうかと瞬きをした時だった。
「! うあっ、ひゃッ」
服の上から、僕のソレを陛下が軽く撫でた。それだけで、完全にたち上がってしまった。
「あ、あ……陛下っ」
だがすぐに手は離れ、腰のくびれを撫でられる。
「落ち着け。大丈夫だから。ひどいことは何もしない。嫌ならばもう触らない」
落ち着けるように脇腹から太ももの上くらいまでを手で撫でられる。だが、全然落ち着けない。逆効果だった。じわりじわりと熱がくすぶり始めて、どんどん中心が熱くなる。涙ぐみながら、僕はギュッと陛下の服を掴んだ。
すると猫耳へと息を吹きかけられて、背がしなった。
「ひあ!」
猫獣人は耳と尻尾も性感帯なのだ。目を見開き、ガクガクと震えてしまう。
気持ちのいい感覚が、全身を走り抜けた。
――陛下はそのことを知らないのだろうか?
それから今度は両手で猫耳の後ろを撫でられた。くすぐられるたびに、体から力が抜けていく。息が完全に上がってしまい、僕は半泣きで陛下を見上げた。
「そんな顔をするな……キスしたくなる」
「んっ」
そういった陛下が僕の唇に、唇で触れた。触れ合うだけのキスだったのだけれど、名残惜しくて、僕は口を開いた。
「陛下っ、僕……」
「どうしたんだ? 嫌だったか?」
「ヤじゃない」
「では、もっとキスをしてもいいか?」
すごく恥ずかしかったけれど、僕は小さく頷いていた。
すると先程とは全く違う、深いキスをされた。こんな口づけをしたのは人生で初めてのことだった。丹念に口腔を刺激され、舌を甘噛みされる。ドキリとして体を離そうとすると、後頭部に手を回された。
それから角度を変えて再び口づけられる。
僕は息継ぎの仕方がわからなくて、苦しくなった。ようやくそれが離れた時には、僕は完全に体の力が抜けてしまい、ぐったりと体を寝台へとあずけた。こんな大人のキスを僕は知らなかった。
キスされただけだというのに、僕の服が湿ってしまった。先走りの液がこぼれているのだ。体が熱いよ。するとそれに気づいたのか、再び陛下が服の上から僕のソレをなでた。
「ああっン!!」
「――辛いか? 本当に楽にしてやれるぞ?」
「あ、あ、あ」
ツツツと指でなぞられ、僕の体が反り返った。気持ちいい。もうそれだけで、出てしまいそうだった。目の前には苦笑するような、シャーフ陛下の優しい顔がある。こんな状況だというのに見とれてしまいそうになる。銀色の瞳をしっかりと見てから、僕は震えつつ、また小さく頷いた。そうしたら、陛下が僕の服に手をかけた。そして。
「あ、あ、ああっ」
何でもないことのように、僕のそれを陛下が口に含んだ。すっぽりと覆われ、付け根から先まで強く吸い上げられ、舌で先端を刺激される。優しく数度唇を上下され、僕は泣いてしまった。涙がこぼれ落ちてくる。
こんなに気持ちがいいのは初めてだった。
発情期は基本的に気が狂うほど気持ちがいいのだが、記憶が若干あいまいになってしまうのだ。だから意識が清明な状態でこんなふうにされるのは初めてだったし、それに僕はそもそも口でしてもらったことなんてないから、甘い快楽に怖くなった。優しい快楽だった。
純粋に気持ちがいい。
ただ、こんなことはいけないんだという思いだけが胸を辛くする。素直に身を任せてしまいたかったが、やっぱり僕は王子様だからダメな気がするのだ。王妃様になったら、猫獣人自治区を変えていくことができなくなってしまう気がする。
だけど、だけど……気持ちがいい。
「あああっ、んア――!!」
あっけなく僕は精を放った。するとゴクリと音がして、驚いてみれば陛下が僕の出したものを飲み込んだのがわかった。喉が上下したのだ。それから艶かしく唇を舐めた。僕の体からは、まだ発情期ではないので一気に熱が引いていった。
「楽になったか?」
「は、はい……」
「何もしないと言ったのに悪かったな」
陛下はそう言うと、静かに僕の頭を撫でてくれた。むしろ悪いのは僕の体なのに、陛下は謝ってくれた。すごく悪いことをしてしまった気分になる。
それから陛下は着替えと、ホットミルクを持ってきてくれた。
恥ずかしくてあまり話せないままに飲んだミルクは、とても美味しかった。
そして再び抱きしめられたが、今度は、体は熱くはならなかった。当然だ。これが正しい姿なのだ。その後すぐに眠気が来たので、僕は恥ずかしくてまともに陛下の顔が見られなかったから、陛下の腕の中で目を伏せたのだった。ドキドキした夜だった。