【四十四】初めての体勢(★)
丹念に指で解される内、俺の息が再び上がり始めた。
「シュトルフ、も、もう良いから……ぅ、ぁァ」
「俺も限界だ」
そう言うと、シュトルフが俺を抱き起した。
「乗れるか?」
「え? ぁ……あア」
慌ててシュトルフの肩に手を置きながら、俺は腰を支えられた。そしてシュトルフに跨る形となり、唾液を嚥下した。正面から向き合う形で、俺は腰を浮かせている。
「大丈夫だから」
「あ、ああ」
ゆっくりとシュトルフに手で誘導され、俺は腰を沈ませる。すると菊門に、シュトルフの陰茎の先端が当たった。
「んフ」
押し広げられる感触がして、シュトルフのものが挿いってきたのが分かる。
「あ、あ、あ」
ゆっくりとだが先端が入りきった所で、俺は涙ぐんだ。交わっている個所が熱くて力が抜けてしまいそうになるのだが、初めての体勢に緊張してしまう。対面座位なんて知識でしかない。まさか自分がする日が来るとは思ってもいなかった。
「ンぁ……ぁァ、ッ」
「少し力を抜いてくれ」
「無理、だ――……ァ!」
俺が涙ぐんだ時、シュトルフが少し強めに俺の腰を掴んだ手を動かした。すると奥まで陰茎が入ってくる。必死で息をしながら、俺はギュッと目を閉じた。
「ほら、もう少しだ」
「ひっ」
シュトルフが俺の右耳の後ろを指で撫でた。その刺激にすら感じてしまって、俺の全身から力が抜ける。するとシュトルフがほぼ同時に下から突き上げてきたので、根元までが俺の中に挿入された。
「全部入ったな」
「ん、ぁ……ぅ……」
「クラウス、自分で動けるか?」
「ぁ……あ、あ、出来な――っ」
俺は必死でシュトルフの肩に手を置きながら、大きく呼吸した。
「んぅ、ぁ……あア、ぁ!」
するとシュトルフが動き始めた。かき混ぜるように陰茎を動かされ、いつもよりも深い場所まで暴かれる感覚に、俺の全身が震えた。
「あ、ア!!」
ギチギチの中が、シュトルフの陰茎でいっぱいになってしまったような錯覚を受ける。震えたまま、暫く俺は動けなかった。だが、シュトルフが両手で俺の体を揺らすようにしたから、次第に少しずつ緊張が解け始める。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。平気だ……っ、ぅ……ひぁ!!」
俺が頷いた途端、シュトルフが俺の感じる場所を抉るように貫いた。
思わず喉を震わせると、シュトルフの動きが激しくなる。
「あ、ああ、ァ……あ、うああ、ぁ……深っ」
「俺はクラウスの顔がいつもより良く見えるから、こうして繋がるのが嫌いじゃない」
それを聞いて、俺は涙で滲む目をシュトルフに向けた。すると端正な顔が視界に入ってきて、俺は一理あるなと思ってしまった。背筋がゾクリとしそうになるくらい、獰猛な瞳をしているシュトルフには、独特の色気がある。
「っ、は」
その時、シュトルフが俺の唇を奪った。
「っ、ッ、フぅ」
深く貫かれた状態でキスをされると、クラクラした。上手く息継ぎが出来なくて、自然と俺の体から力が抜ける。
「んぅ」
するとより深く陰茎が俺を穿つ。ゾクゾクしすぎて俺の眦からは涙が零れた。
「クラウス、少し動いてみると良い」
「ぁ、は……」
シュトルフの肩に手を置いて、俺は必死で体を上下させようとした。シュトルフはそんな俺の腰を支えたままで、小さく笑った。
「前後に動けるか?」
「あ、ああ……っ」
手に誘われて、言われた通りに体を動かしてみる。次第に理性が飛び始め、俺の思考が上手く働かなくなり始めていく。
「あ、ああ……っ、シュトルフ」
「辛いか?」
「ち、違……あ、あ、あ……うう……うあ、あああ。ダメだ、動いてくれ、もっと」
「――ああ」
そこからはシュトルフが俺を甘やかすように、俺の感じる場所ばかり存分に突き上げてくれた為、俺は完全に理性を飛ばした。その後は夕食までの間、俺達は散々交わった。
その後お風呂を借りてから、食事をし、そして夜も二人で過ごした。
翌朝俺は、シーツをかぶった状態で、シュトルフの腕の中で目を覚ました。全身が気怠い。体は綺麗になっていたが、チラリと見ただけでもまたキスマークをつけられているのが分かった。だが抗議する気にもならなくて、俺は再び瞼を閉じた。
結果、二度寝した。
「……ス。クラウス」
「ん……」
シュトルフに揺り起こされたのは、日が高くなってからの事だった。
「来客らしい」
「え?」
その言葉に上半身を起こし、俺は慌ててシーツに潜った。扉が開いていて、そこにツァイアー公爵家の執事が立っていたからだ。見られてしまった羞恥に、俺は真っ赤になりながら、シーツの中で目を閉じた。
「一度私室へ戻ってから、先に応接間に行っている。火急の用件らしくてな」
「あ、ああ……」
平然としているシュトルフに声だけで頷いてから、俺は首だけをシーツから出した。シュトルフはちゃっかりと下衣は穿いていた。その後、シュトルフは執事と共に出ていったので、俺はシーツから外に出て、ソファの上に置いてあった着替えを見た。
確かにシーツをかえるのは使用人であるし、散々二人で寝室にこもっている以上、バレバレだとは思うのだが……気恥ずかしい。
そんな事を考えながら、俺は真新しい服の袖に腕を通した。
――その後、丁度俺の支度が整った頃に侍従が訪れた。どこかで見覚えがある顔だなと思っていると、一礼してから侍従が釣り目を僅かに細めた。
「クラウス殿下、ご無沙汰いたしております」
その言葉を聞いて、俺はハッとした。
「確か、マークだったな」
「お見知りおき頂き恐縮です」
エニラ男爵子息のマークは、バルテル侯爵家でデニスが紹介してくれた人物だ。俺専属の侍従になってくれるという話だった。
「もうツァイアー公爵家に勤め始めたのか?」
「はい、先週よりお世話になっております。クラウス殿下が降嫁なさる前より、環境を整えるなど、尽力させて頂きたい所存です」
「有難う」
心強いと感じて、俺は両頬を持ち上げた。
「ところで来客の件なのですが」
「今シュトルフが対応している相手か? 火急の用件だという話の」
「ええ。ファイアマギア王国のヴォルフ殿下がお越しです」
「――へ? ヴォルフが?」
ヴォルフ殿下の顔を思い出しながら、俺は首を傾げた。
「どんな用件なんだ?」
「それはクラウス殿下にしかお話しできないの一点張りです。ただ、クラウス殿下に関わる非常に重大なお話との事で、大至急お会いしたいと」
心当たりはさっぱりないが、俺とヴォルフの共通点を強いて挙げるならば、それは前世の記憶だ。
「直接伺ってみる」
俺が答えると、マークが一度思案するように瞳を揺らした。
「それと、ヴォルフ殿下に伴って、留学中の滞在先であるフェリルナ侯爵令息のダニエル卿がおいでになっておられます」
ダニエルは、俺の一学年上の先輩だった人物だ。フェリルナ侯爵家は、国内でも歴史があって、現在ファイアマギア王国にいるルゼフ叔父上の母君――俺の義理の祖母の生家でもある。縁もあるし、フェリルナ侯爵家にヴォルフ殿下が滞在するのは不思議ではない。
「そうか。ご挨拶しておく」
「……」
頷いた俺を見ると、再び瞳を揺らしてから、マークが嘆息した。
「エニラ男爵家で改めて調査したのですが、ダニエル卿は王立学院に在学中から、シュトルフ様に好意を抱いていたとの結果があります」
「え!?」
「またヴォルフ殿下は、クラウス殿下を調べるまでもなく好意的に想っておられるようです。日々、クラウス殿下に似せたお手製のぬいぐるみを寝台に置いておられるとか」
「は!?」
「ダニエル卿は、側近に『ヴォルフ殿下とクラウス殿下が結ばれれば良かったのに』と零した事もあられるそうです」
「な……」
「お気を付け下さい」
「分かった。マーク、有難う」
俺は初めて知った事実に呆然としつつも、マークの調査能力にもポカンとしてしまった。