【十三】ピクニック





 王都を見に行く事になったのは、それから数日後の事だった。僕とヨル様の前に、馬車が停まる。そこへアルとジェイクもやってきた。この馬車は、王宮の馬車らしい。

「乗れ」

 御者が扉を開けた時、ジェイクが僕の背中に触れた。そちらを見ると、背の高いジェイクがニヤリと笑っていた。アルとヨル様が先に乗り込む。続いて僕も乗り込み、その隣にジェイクが座った。テーブルをはさんで向き合う形で座ると、扉がしまって、少しして馬車が走り出した。

 王宮の敷地を抜け、王都の石畳の上に出ると、街路樹の緑が車窓からよく見えた。四季が無いというのがまだ不思議な感覚だけど、新緑らしい緑を見るのは心地良い。僕達が本日目指す先は、王都郊外の丘だという。街へ来る機会は幾度もあるから、まずは馴染むためにそこでピクニックをしようという話を聞いていた。

「わぁ」

 到着した丘の上で、僕は髪の毛を押さえた。春と夏の間に吹く風が、僕の髪を乱す。
 丘の上には四阿があって、ヨル様はその上に昼食用のパンやカップを並べている。
 僕の左右には、ジェイクとアルが立った。
 この位置からも、街の風景がよく見える。

「綺麗な街だね」

 率直な感想を呟くと、アルが誇らしそうな顔で頷いた。

「だろう? 父上が頑張って治めてきた街だからな」
「これからは俺が治める事になる街でもある。俺はさらに良くしていく」

 ジェイクはそう言うと、自信に満ちた目で僕を見た。

「そのためには、お前の力が必要だ」
「……そ、そう?」
「ああ。神子の力ばかりは、代える事が出来ないからな」

 まだ僕は、自分が神子である事を、受け入れてはいても実感はしていないから、曖昧に笑う事しか出来なかった。

「みんな座って。用意が出来たよ」

 ヨル様の声に、僕達は振り返って、それぞれベンチに座った。並んでいるのは、様々なサンドイッチだ。飲み物は紅茶である。手に取り噛めば、檸檬の酸味と黒胡椒がきいたスモークサーモンが美味だった。

「美味しいです」

 僕の言葉に、ヨル様が優しい顔をした。その場であれやこれやと雑談をしながら、僕は何度か遠くに見える王宮を眺めた。僕らは今、長閑にピクニックをしているわけど――バルトは今も仕事中なのだろうか? 不意に思い浮かんできた思考に、僕は不思議になる。なんとなく苦手意識があったと思うのだが、先日部屋まで送ってもらってからは、僕は時々、バルトが働いているというその事が気になるようになっていた。

「カナタ?」

 アルに声をかけられて、僕は顔を向ける。すると不思議そうな瞳と目が合った。

「何か考えごとか?」
「あ、ううん。ちょっと街を眺めていただけだよ」

 なんとなく僕は濁して、微笑した。