【七】◆大学時代 ―― 一年 5 ――
その後も、新入生歓迎会だけの参加もOKという誘い文句に惹かれて、俺はいくつかのサークルに顔を出した。そうこうしていたら、春は一瞬で過ぎ去った。すぐにGWが訪れて、俺は一人きりの部屋でぼんやりとしていた。
GWに二回目の歓迎会をするサークルも多いようだったし、逆に新入生は初の帰省をするパターンも多いようだった。俺の場合は、結局草野球サークルであるキャットスメルに居着いたわけだが、真面目に周囲は練習をするらしく、野球経験の無い俺は、練習が行われている球場には行かなかった。
帰省に関しては、予定が無かった。俺の両親は、俺が高校二年生の時に、二人揃って交通事故で亡くなってしまった。その後は、祖父の家で、伯父夫妻と従兄(いとこ)と共に暮らしてきた。仲が悪いわけではない。逆だ。だからこそ、あまり迷惑はかけたくない。温かい輪の中にいると、疎外感を覚える己が悲しくなるというのもある。
「久しぶりにガッツリと小説でも打つか」
一人でそう呟き、俺はパソコンの電源を入れた。俺はAO入試で大学が決まったから、高三後半の頃などは、ほぼ毎日小説を書いていたのだが、ここ最近は大学生活に追われ、中々腰を据えて書く事が出来ないでいた。
俺は昔――それこそ小学生の頃から、探偵と助手が出てくる小説に、どうしようもないほどの興味を抱いて生きてきた。今も、推理小説を書いている。ただ、致命的な欠点として、俺はトリックが全く思いつかない。
「好きと向いてるは、やっぱり違うんだろうな……いいや、でも! 好きこそ物の上手なれともいうからな」
この日、その後俺は食べるのも忘れ、朝から始めた執筆活動を空が暗くなるまで続けた。集中すると周囲の事が目に入らなくなるのは、昔からの俺の長所でもあり短所でもある。
「まぁ今日はここまでとするか」
腕を伸ばしながらそう口にした時には、窓の外には星が輝き始めていた。パソコンのモニターで確認すれば、時刻は既に十九時半を回っていた。さすがに空腹を覚えたが、冷蔵庫には発泡酒しか入っていない。一応自炊をしようと、ある程度の道具類や食器は揃えたのだが、まだ本格的にスーパーで買い物をした事もない。
「何食べよう」
俺は長財布をボトムスの後ろのポケットにしまい、玄関へと視線を向けた。
カードキーを片手にそちらへと向かい、しゃがんで靴を履く。
そうして外に出ると、三階のフェンスからは、唯見市の夜の街並みが見えた。
「ん」
階段を登ってくる足音が聞こえたのは、その時だった。顔を向けると、買い物袋を手に提げた相馬がやって来た所で、あちらも俺に気がついた。