【六】疲れを取る(★)






「んぅ……」

 青波に口づけられて、高良は鼻を抜けるような声を出してしまった。ベッドの上で向かい合って座っているのだが、高良はシャツ一枚で前を開けた状態だ。下は脱がされてしまった。首筋を舐め、甘く噛まれると、高良の体が跳ねてしまう。

「ふ、ぁ……ァっ……ん、ァ」

 それから高良の右胸の突起を、青波が噛む。その度に高良が体を震わせている。甘く噛んでは、強く吸い、舌先で乳首を転がされると、高良は喘いだ。青波は左手では高良の左胸の突起を弄んでいる。

 じっくりと高良を愛撫した青波が、中へと押し入ってきたのは、それから三十分ほどしてからの事だった。明日は平日だからと高良はいうのを忘れていた。

「あ、あああ! あ、あ、あああ!」

 青波がグッと陰茎を挿入した状態で、腰を揺さぶるように激しく動く。膝を折り曲げている高良は、必死で青波の体にしがみついていた。体がすぐに汗ばんできて、髪が肌に張り付いてくる。ギュッと目を閉じ、熱い吐息をし、体の中をめぐる快楽を逃がそうと試みたが、どんどん昂められて、訳が分からなくなっていく。

「や、ぁァ、青波! ああ!」
「今日はお前を感じていたいんだ」
「んン――!!」

 こうして高良は、激しく体を貪られたのだった。

 ――ただ、青波は約束を守ってくれて、一度射精すると陰茎を引き抜き、ぐったりしている高良の隣へと寝転がった。涙ぐんだままの目で、高良は青波の横顔を見る。そんな高良の頭を、青波が撫でた。

「青波……疲れは取れたか?」

 高良が呼吸を落ち着けながら聞くと、青波が目を丸くした。それから珍しく破顔した。

「ああ」
「そうか……それなら、良かった」
「無理をさせたな。少し眠れ」
「ん」

 高良は頷いてから、そのまま睡魔に飲まれた。
 そして次に目を覚ますと、既に青波の姿は無かったが、体は綺麗に清められていた。

 午前四時頃目が覚めた高良は、もう十分眠ったからと、シャワーを浴びる事にした。頭から温水をかぶり、体や髪を洗う。まだ肌には、青波の体温や手の感触が残っている気がした。

「嫌じゃないんだよなぁ……」

 そんな事を呟き、一人でポッと赤面したので、ふるふると首を振った。

「でも誰が、俺のふりをしたメールなんて送ったんだろうな?」

 入浴後、バスタオルで体を拭きつつ考える。
 青波は、周囲に自分の事を好きだと伝えていたのだろうかと考えてみる。何も知らない人が、高良の名前を出すようにも思えなかった。

 服を着てからキッチンへといき、冷蔵庫から取り出した麦茶をグラスに注ぐ。
 それをゆっくりと飲み込んだ高良は、再び赤面した。

「本当に青波は、俺の事を好きなのかな……」

 気づくとそればかりを考えていた。きっかけはともかく、現在青波に抱かれるのが嫌ではない。当初だって無理矢理ではあったが、痛みなどは全くなかった。最初から青波は優しかったと言えばそうだ。

「今日の昼も、一緒に食べるのか……でも、あの昼顔ラウンジはさすがに目立つよなぁ……」

 そう考えて、高良はちらりと冷蔵庫を見た。もし料理が得意だったならば、お弁当などを作る事が出来たかもしれないが、高良はお世辞にも得意ではない。冷凍食品ばかりを食べている。そういえばお腹が空いたなと思い、昨夜も食べていなかったことを思い出した。そこで本日も冷凍チャーハンの封を切る。

 こうして食事の用意をしてから、高良はリビングへと戻った。
 そしてテーブルの前に座り、ほぅっと吐息する。

「あんまり目立たないけど、二人でいられる場所ってどこだろうな?」

 職員食堂は論外だ。青波に視線が、一気に集中する事だろう。
 暫しの間思案しながらチャーハンを食べた高良だったが、いい案は浮かばなかった。


 結局、翌日の昼も、トークアプリで待ち合わせをしたのは、昼顔ラウンジだった。ただ今回は給料をきちんと、電子マネーとして持ってきた。現金での支払いも可能だが、持つのがちょっと怖かった。高良は節約家というわけではないが、あまり大金は持たない。

「今日は何を食べる?」

 青波に聞かれ、高良はメニューを見る。飲み物ばかりでもあれかと思い、今日はホットサンドも頼んでみる事に決めた。生ハムが挟まっている。青波も今来たばかりの用で、そちらは鶏肉の香草焼きを頼んでいた。注文してからは、主に高良が喋り、青波は頷きながら聞いていた。しかし昼顔ラウンジの人々も、この組み合わせを不思議に思うのではないかと高良は考えていたし、実際その通りだったりした。だが青波にそれを問いかけたりする勇気がある者は誰もいない。

 注文した品が運ばれてきたので、青波と高良は手を合わせて食べ始めた。

「なぁ、青波。青波は出撃していない時は、やっぱり書類仕事か?」
「ああ」
「書類、得意か?」
「普通だ」
「お前は何でもできるもんな。俺は……正直得意じゃないんだ」

 苦笑するような高良の声に、ナイフとフォークで鶏肉を切り分けながら、青波が瞬きをした。

「授業はタブレット資料が多いんじゃないのか?」
「まぁな」
「教員の資料は紙なのか?」
「ものによるよ。テスト用紙とかは、今も紙。宿題は本当場合によるよ」

 青波が小さく頷いた。
 端正な青波の顔を見ていると、高良は生徒だった頃の青波の顔を思い出して、懐かしくなる。勿論、あの頃よりはずっと大人びたが。時が経つのは早いが、それでもまだ、恋人というよりは、教え子だという思いの方がしっくりとくる。

「青波はいつも満点だったな」
「高良のテストで満点以外を取るのは、逆に難しい」
「うっ……確かに、俺の授業は、満点の生徒が多いけどさ……」

 そんなやりとりをしながら食べたBLTサンドはとても美味で、高良は満足した。