禁書庫の真実史には記載されない。
大陸の国々を支配下に置いたロワール帝国。
時の皇帝は残虐帝と恐れられていた。自分の意に添わぬ者の首は容赦なく刎ね、属国には人質として王族を捧げるように命じる。
この人質であるが、いつしかそれは、残虐帝に気に入られる為の品に変化していった。当初は色を好む残虐帝に侍女として王族の他に『捧げもの』を献上し、気に入られよう、取り入られようと、各国は競っていた。次第にその争いは苛烈さを極め、時代が下るに従い、今となっては人質という側面が薄れ、純粋に目をかけてもらう為だけに、各国は様々なものを献上するように変化した。
現在は、バルカス帝の治世である。
まだ若き十七歳の皇帝は、祖父であった残虐帝よりも、更に好色だった。
さて、そんな風に各国が競って美姫や特産品、宝物などを献上する中にあって、大陸のはずれにある最も小さな国――ナルシア王国に、ある知らせが届いた。それは前任の人質の訃報と新たなる捧げものを献上するようにという命令だった。十五年以内に献上せよという手紙が届いたのである。
今代のナルシア王家には、男ばかり七名が生まれたが、姫は一人もいない。
周囲は話し合い、まだ三歳になったばかりの第七王子に目を付けた。
「末王子を差し出せば、次の人質が育つまでの時間が稼げるだろう」
「しかし……バルカス帝は、男色家ではないと聞きますが……なんでも、己と同じ男根がある者を厭うのだとか。その上、胸の突起ばかり弄って捧げものを嬲るのがお好きだそうで……」
「ならば切ってしまえば良かろう。そして、乳首を開発しておけば良い」
父王の結論を、第七王子であるヨシュアは、紫色の瞳をまん丸にして、膝の上で聞いていた。意味を理解してはいなかった。茶色い髪が揺れている。今日も、同じ歳のバーレル伯爵子息と遊んだから、その疲れから僅かにうとうとしていたが、父王の膝の上だからと、それが嬉しくて、必死に目を開けていた。
こうしてその日の内に医官が招かれ、ヨシュアの小さな陰茎は切断された。
嫌だ嫌だと泣き叫んだ声は、舌を噛まない為の口枷に遮られて、外へは出なかった。
適切な魔法医療による処置であったから、痛みは無かったはずであるし、以後の排尿などにも支障は出ないとの事であったが、ヨシュアは翌日熱を出した。己の大切な部分が失われたという感覚にショックを受けたせいだ。
その熱が下がった後、ヨシュアは全裸で拘束された。
手首を頭上でひとまとめにされ、鎖に繋がれる。
口には輪っかを嵌められた。それ以後は、招かれた調教師により、ずっと桜色の乳頭を嬲られ、弄られ、開発され続けた。右足の付け根に焼き印をおされ、その魔法陣により、排泄も食事も入浴も不要な体に変化させられた。これ自体は、献上品の多くに施される事柄だ。人質となった先で、満足に食事が与えられるとは限らない上、後孔は常に受け入れる事が可能なようにという配慮だ。しかしバルカス帝は後孔を好まないという情報を頼りに、ヨシュアはひたすら、胸だけを開発された。
精通を知らず、教育も施されず、ヨシュアはただ乳首で快楽を覚える体を持つ捧げものとして、育てられた。服を纏う事も許されず、思考を占めるのは胸への快感のみである。十四歳で二次性徴を迎える頃には、白いしなやかな体を持つヨシュアは、胸に刺激を与えられると、その肌をはっきりと上気させ、緑の瞳を潤ませるようになった。
そして十八歳になった年、期限を迎えた為、黒い鉄格子つきの檻に入れられて、ヨシュアはロワール帝国へと馬車で運ばれた。バルカス帝が三十三歳となる祝いの席において、様々な果物や裸体の美姫達と共に、ヨシュアは捧げものにされた。
――バルカス帝は、飽き飽きしていた。
若い頃はそれこそ、夜毎女性を抱いて過ごしていたが、献上品達に咥えられても、最近は考え事をしてばかりだった。SEX三昧の日常は退屈であり、自分の上に跨って腰を振る女性達の痴態を見ても、気持ち良くはあるが、率先して愛撫してやる気分にもならない。
蒼い瞳を気怠げに揺らしたバルカス帝は、黒い髪に片手で触れてから、本日の生誕祭の場へと足を運んだ。扉を開けた近衛騎士達を一瞥した後、真紅の細長い絨毯の上を進んでいく。左右には献上品が並んでいる。人質や捧げものと呼ばれる女性達や金銀財宝、果実や特産品、そういった品々を見て、何か変わったものがあれば良いのだがと、内心で嘆息していた。しかしすぐにそれにも飽きてしまい、後はよく確認もせず、玉座へと向かった。
すると侍る者達が、即座にバルカス帝に酒を勧める。ワイングラスを受け取り、軽く飲みながら、退屈だなとバルカス帝は考えていた。
「皇帝陛下、今年も三十八人の新しい人質と多くの献上品が届いております」
「そうか。宰相、面白い人質はいるか?」
「皆、皇帝陛下に傅く者ばかりでしょうな。面白い……か、は、存じませんが、今年は一名、男子がおりますよ」
「男の人質? 女性王族がいなかったという事か?」
「でしょうなぁ。ただ――一風変わっておりますよ。男子ながらに、男根を持たないそうで」
「?」
「皇帝陛下への忠誠の証として、陛下が厭う男根を切除したと説明書きにありました」
「ほう。良い心がけではあるが……拒まなかったのか? その者は」
「拒む事も知らぬ幼子の頃に処置をしたとありましたな。精通も知らず、ただ一点。皇帝陛下に気に入って頂く為だけに、女性よりも敏感な乳首を用意したのだとか」
「何?」
そこで初めて、バルカス帝は興味を抱いた。
「その者は何処に並べてある?」
「七列目の奥の、巨大なパイナップルの隣に配置してありますな。弱小国の末王子です」
「連れてまいれ」
バルカス帝の命令に、それまで奥まった場所で相変わらず檻の中に繋がれていたヨシュアを、侍従が檻ごと台車にのせて、運んできた。ヨシュアは涙を浮かべ、頬を濡らしていた。ここに来るまでの十五年間、毎日調教師達に胸を弄られていたのに、その刺激が無くなり数日。快楽を求める体が熱くてたまらなかったからだ。口枷のせいで言葉を発する事は出来ないし、元々言葉をほとんど習っていないので満足に喋る事も出来ないのだが、体が快楽を覚えていたし、刺激を欲していた。
「これはまた、麗しい殿下であるな」
「ええ。小国ではありますが、前任の人質も、大層寵愛を受けていたと評判で、外見が麗しい王族が多い国からの献上品ですので」
淡々と宰相が述べると、バルカス帝が顎で頷いた。
実際、ヨシュアは非常に美しかった。しなやかな白い体、華奢な腰、朱く尖った乳首。潤んだ緑の瞳は宝石のようで、睫毛にのる涙の雫も煌めいて見える。
「気に入った」
バルカス帝が口角を持ち上げる。
この夜から、バルカス帝は後宮にヨシュア専用の部屋を用意し、その閨へと足を運ぶ事に決めた。
手枷と口枷を外されていた頃の記憶が、既にヨシュアには無い。
侍従達の手で入浴させられて、丹念に体を清められたヨシュアは、フカフカの寝台の心地すら初めて知るに等しかった。天蓋付きの巨大な寝台に横たわり、ヨシュアは疼く乳首に悶えていたが、己で刺激するという考えを持たなかった。それは繰り返し、調教師から禁じられていたからでもある。
朱く尖った乳首と、情欲で染まった緑の瞳、涙で濡れた頬を一瞥しながら、そこへバルカス帝がのしかかる。
「名は?」
「……?」
大陸共通語であったが、ヨシュアは長らく声を封じられてきた為、すぐには答えられなかったし、己の名前を思い出す事にも時間を要した。だが、調教師に繰り返し、『皇帝陛下の命令は絶対である』と聞かされていた事と、檻の中に入れられて以後、挨拶の言葉を繰り返し暗記させられた事を、おぼろげに思い出した。
「あ……ヨシュア。ヨシュア・ナルシア……です。バルカス皇帝陛下……?」
「そうか、ヨシュアか」
普段は献上品の名前など記憶しないバルカス帝であるが、少し高めのヨシュアの声が気に入ったので、覚えておこうかと考える。何より、過去には、男を抱いた事は無かった。女性は多数孕ませてきたものの、同性の後孔に吐精した事は無い。女性の後ろを暴いた事はあったが。そう考えながら、己が好む乳首に視線を落とし、まずはヨシュアの右胸の突起を、甘く噛んだ。
「あああ!」
すると甘い声をあげて、ヨシュアが脳イキした。荒い息遣いが、静かな室内にこだまする。それに気を良くしたバルカス帝は、唇はそのままに、左手ではヨシュアの左の乳頭を強く摘まんだ。常人であれば痛みを感じる程度の強さであったが、ヨシュアはその刺激に、すぐに陰茎をそそり立たせる。尖る胸の突起とは異なり、ヨシュアの陰茎があったはずの根元部分は、燭台の灯りしかない室内でもよくわかるほどに薄い色彩で、淡い色をしている。
「はしたない体であるな」
「あ、あ……はっ……」
「どれ、よく見せてみよ」
その後ヨシュアの両太ももを折り曲げるようにして持ち上げてから、まじまじとバルカス帝は、ヨシュアの菊門を見た。その窄まりは、硬く引き締まっている。過去にも男の人質が送られてきた事はあったが、このように拡張もされず、桜色の孔を持つ献上品はいなかった。臀部を押し広げるようにしながら、バルカス帝が舌先で、菊門の襞を静かに舐める。すると人生で初めて与えられる未知の刺激に、ビクンと体を仰け反らせて、ヨシュアが目を見開いた。
「や、ぁ、な、何……?」
「後ろは知らぬのだな、本当に。胸よりも、よほど気持ちが良いと言うぞ? 俺が教えてやろうではないか」
酷薄に笑ったバルカス帝は、指を一本、ヨシュアの中へと差し入れた。きつくしまる内部が、その指に絡みつく。圧迫感と異物感に、ヨシュアが体を震わせる。
「んン――!!」
その時、バルカス帝の指先が、グリとヨシュアの前立腺を刺激した。するとヨシュアの全身に快楽が響き渡った。過去、胸以外への刺激で快楽を得た事の無かったヨシュアは、混乱して涙を零す。若く瑞々しいヨシュアの白い肌全体が、すぐに朱く上気し始める。何度も、そう何度も、バルカス帝は、ヨシュアの前立腺を刺激した。ヨシュアの体がピクピクと震え始める。バルカス帝は、残忍な目をして笑うと、指を一気に二本増やし、合計三本の指を挿入した。そして指先をバラバラに動かす。もう一方の手では、ヨシュアの睾丸を揉みしだく。
「やぁ、あ、あああああ!」
開発され切った乳首へとは異なる、よりダイレクトではあるものの、未知で受け取りがたい刺激に、ヨシュアは何度も頭を振り、髪を振り乱しながら泣き叫んだ。
「あ、あ、あ」
右足の付け根にある魔法陣は、男性同士の性交自体も容易にさせる効果がある。その為、すぐにヨシュアの体は解れ、快楽を拾い始める。それを知っていたバルカス帝は、ある程度解してから指を引き抜き、ニヤリと笑った。既にバルカス帝の肉茎も、半分程度は勃起していた。その程度には、ヨシュアの痴態は凄艶だった。
「男に欲情する日が来るとはな。とくと俺を味わうと良い。その誉、悦ぶが良い」
「ひ、ぁ、あああああ! ア、ぁ、ン――!!」
バルカス帝が肉茎を挿入した。彼のものは巨大で長く、非常に凶暴だ。その熱に暴かれ、
硬い先端で深々と貫かれたヨシュアは、思わず逃れようと腰を浮かせる。するとその細い腰をギュッと左手で掴み、右手ではヨシュアの太股を持ち上げて、斜めにバルカス帝が根元まで突き立てた。最奥まで一気に刺激され、体格が違うため結腸を押し上げられる形となった時、ヨシュアの頭が真っ白に染まった。
そこに訪れたのは純然たる快楽で、直後ヨシュアの全身を漣のように快楽が染めつくした。初めてのドライオルガズムの感覚は鮮烈で、全身を震わせながら、ヨシュアは耐える。息が出来ないほどの快楽だった。
過去に知っていた脳イキ――概念だけで絶頂を得るのとは全く異なる、身体が確かに拾った快楽からの空イキに、ヨシュアの意識がグラつく。
「いやああああああああああああ、死んじゃう、あああああ!」
絶叫したヨシュアを見て、バルカス帝が舌なめずりをした。薄い唇を舐めてから、出した舌で、ヨシュアの頬を濡らす涙を舐める。その間もピクピクと、ヨシュアは快楽の残滓に耐えていた。
「初めてを奪うというのはいつであっても気分が良いが、ヨシュアは特に締まって具合が良いな」
愉悦を含んだ声音で述べてから、更にバルカス帝が腰を動かす。
連続で絶頂に導かれた後、ヨシュアは気絶した。
次に目を覚ました時、ヨシュアはバルカス帝の腕の中にいた。よく筋肉がついているバルカス帝に、抱き枕のようにされて、己は眠っていたらしいと気が付いた。
「目が覚めたか?」
「……は、はい」
「では、朝食とするか」
バルカス帝が微笑して見せると、ヨシュアが目を丸くした。もう何年も、食事をしていなかった為だ。勿論、礼儀作法も分からない。だから困惑していたが、バルカス帝が呼び寄せた侍従の手で、服を着替えさせられ、隣室に運ばれている朝食の前へと連れていかれた。
そこには目を惹くパンやスープ、サラダやハンバーグが並んでいた。
「僕は、これを食べても良いのですか?」
「うん? 朝は、帝国では食事をとるが?」
純粋に疑問だという風に、バルカス帝が首を傾げてから頷いた。正面に向かい合って座りながら、ヨシュアはフォークを手に取る。ナイフの使い方は分からない。
「……」
食べ始めたヨシュアの姿を、バルカス帝が眼を細くして見ていた。マナーが無い献上品は少ないのだが、ヨシュアの食べ方は、それこそ幼子のようだった。だが不思議と不快感が無い。小さく切り分けたハンバーグを食べながら、ヨシュアが涙ぐんだのを見た時など、胸を掴まれたほどだった。
「ヨシュア。お前は、好きな食べ物は?」
「分かりません」
「分からない? 自分の事だというのに?」
「僕はずっと牢の中で、皇帝陛下の為に『訓練』を受けていたので……」
「乳首の開発と調教の間違いだろう?」
「……分かりません。僕を鞭で叩く者達は、訓練だと言っておりました」
「ふぅん。そうか」
頬杖をついたバルカス帝は、献上品としての人質を求めたのは帝国であるのだが、それを棚に上げ、ヨシュアに対して不憫な王子だなと漠然と考えた。泣いて喜びながら、美味しい美味しいと繰り返し、ヨシュアが食事をしている姿を、憐憫の感情を抱きながら、バルカス帝は眺めていた。
「今日からは、俺が新しい快楽を教えてやろう。これは、栄誉だ」
実際、バルカス帝が自ら体を開くというのは、献上品にとっては『気に入られた』という証左でもあった。
この日の謁見の時間より、バルカス帝はヨシュアを膝にのせた。
「ああ……あぅ、ぅあああ」
そして根元までヨシュアの中に埋め、下から貫いた状態で、大臣達から朝の挨拶を受けた。傍らに立つ宰相や騎士団長は何も言わない。よくある風景であったし、女性や男性という概念――人権は、人質には存在しないからだ。
時折戯れにヨシュアの乳頭を弄び、腰を揺さぶりながら、バルカス帝は上機嫌で謁見を受けている。ポロポロと昨夜初めて知った快楽に涙を流しながら、赤い舌を出して、ヨシュアは必死に吐息している。
「ん、ン……ひゃっ、ぁ、ぁァ!!」
ギュッと乳首を摘ままれる度、ヨシュアは脳イキし、結腸を陰茎で突き上げられれば、ドライオルガズムの波に浸る。若い肢体が快楽に震える姿を、謁見に来る者達は、次第に見慣れていった。中には、謁見中に勃起し、バルカス帝に嘲笑された者も多い。
ヨシュアの内部は、バルカス帝の肉茎の形を覚え込ませられ、その菊門は巨大な縦割れに作り替えられていった。食事中にも貫かれるようになったのはそれからすぐで、快楽を与えながら、バルカス帝はヨシュアの口に銀の匙を手ずから運ぶように変わった。
「本当に初な。俺しか知らないその体、もっともっと開いてやらなければな」
「あ、あああ」
言葉を放つ事は特に求められない。ヨシュアの口から零れるのは、ひっきりなしに喘ぎ声ばかりだ。その声が止むのは、気絶した時と、眠りに落ちた時だけである。
バルカス帝の寵愛を一心に受けるようになったヨシュアは、片時も手放される事は無い。
「今日は贈り物を用意したぞ。最高の誉れだとわきまえよ」
ある日、バルカス帝が乳首にはめるリング状のピアスを持って訪れた。プツリと左右の乳首にピアスをはめられた瞬間、ヨシュアは快楽から泣き叫んだ。乳首に与えられる刺激は、それが痛みであれ快楽であれ、ヨシュアにとっては堪らない。
この日も後ろから抱きかかえるようにしてバルカス帝は貫きながら、ヨシュアの乳首に飾った二つのピアスを、時折引っ張って弄びながら、唇の両端を持ち上げていた。
そうした快楽による責め苦の日々が終焉を迎えたのは、ナルシア王国の国王であったヨシュアの父が没し、兄王子達が血で血を洗う王位継承戦を経て、皆が相打ちとなり絶命したとの一報が入った時の事であった。
小国とはいえ、国を滅する事に、理は無い。
この時、ヨシュアは齢三十を迎え、バルカス帝も既に老いの兆しがあった。
何より――バルカス帝は、飽きつつあった。より若き男の献上品を、噂を聞き付けた他国が送ってくるようになり、ヨシュア以外も抱くように変わっていたからだ。ヨシュアは胸だけではなく後孔からも消失した快楽に、夜毎熱い体をもてあましつつある。それを知ってもいたから、バルカス帝はヨシュアの後孔に、栓をしていた。魔力で振動する木製の栓で、普段は前立腺に固定している。それを戯れに振動させ、バルカス帝はヨシュアを満足させる日が増えていた。
「潮時だな」
ある日、バルカス帝はそう口にし、ヨシュアを帰国させる決断をした。
ヨシュアには生殖能力は既に無いが、ナルシア王家の遠縁の公爵家に、幼い子息が二人残されているのを知っていたので、王族の血は潰えないとも聞いていた。その内の片方を人質として召し上げ、もう一方を後継に立て、臨時でヨシュアに王位を継承させるという結論を、バルカス帝は導出したのである。
こうして馬車に乗せられ、ヨシュアは帰国させられた。
結局の所、バルカス帝には、愛情は無かったし、ヨシュアもまた、快楽以外は、感情も含めて刺激を知らなかった。
ヨシュアが帰国すると、代わりに十三歳となったばかりの公爵家の次男が、帝国へと人質として召し上げられる事になった。そしてその兄である十八歳の青年が、時期国王となるべく、教育を受けると決まった。ヨシュアにとっては、甥となるハナセという名の黒髪をした青年だった。
「よくぞお戻りになられました」
「あ……ぁ……」
木製の栓をはめられたままで帰還したヨシュアは、そのままの姿で玉座に座らせられた。今後は、ヨシュアが退位するまでの間、王族法でハナセの即位が許可される二十歳になるまでの間、ヨシュアが国王だ。
「……」
蔑むようにハナセはヨシュアを一瞥し、それから傍らにいた宰相に命じた。既に実権は、ハナセが握っている。
「国王陛下であるヨシュア叔父上は、体が寂しいご様子だ。専用の部屋に、専用の品を設けよ」
それは軟禁するという通達に等しかった。
「そして何より皇帝陛下から戻された貴き献上品だ。その味、我が国の精鋭の騎士達にも味合わせなければな」
ハナセの言葉に、宰相が首を垂れる。
そのまま地下の牢獄へと連れていかれたヨシュアは、幼少時と同じ場所へと戻されて、手首に枷を嵌められた。違いと言えば、口枷が無い事と、頭上で拘束されたのではなく、鎖が長い為、全裸で四つん這いにされた点であろうか。
そこへ、ハナセが屈強な騎士達を従えて訪れた。
「今後は報奨として、国王陛下が自ら、御身でお前たちの欲望を慰めて下さるそうだ。心して、満足させて差し上げろ」
ハナセの言葉に、ぎらつく眼差しで、騎士達が陰茎を勃起させた。
こうして、以後は凌辱の日々が始まった。後孔や口腔を複数人で犯され、はめられたままだったピアスを引っ張られ、そのようにして――ヨシュアは快楽に啼き叫んだ。足首の魔法陣のおかげで痛みは無い。ただ、食事もなくなった日々を、少しだけ寂しく思っていた。時には二輪挿しをされ、顔に白液をぶちまけられ、全身をドロドロにされ、それでもヨシュアは快楽に震える。
――それを、ただ一人哀れに思ったのは、ナルシアの時の宰相である、バーレルだった。バーレルは、二年の間、ハナセに従い宰相業務をしながら、時折牢獄を訪れて、名目だけの国王であるヨシュアを見ていた。幼少時に、二人で遊んだ記憶が確かにある。
そして、ハナセが即位する際、ヨシュアが処刑されるようだと耳にした。
そこでハナセに提案した。
「ハナセ様、お話がございます」
「申してみよ」
「人質であったものを処刑したとなれば、帝国に事が知れれば戦の火種となりましょう。かといって、この王城にあのままとりおく事も得策ではない。ですので、降嫁させ、別の領地に住まわせてはいかがでしょうか?」
「引き取り手がいるのか? あのように年嵩の男として役に立たぬ、ただの孔など」
「恐れ多くも、私めで宜しければ、領地の塔に迎えましょう」
「そうか。宰相の忠義、しかと受け取った」
ハナセは疑うでもなく、信頼しているバーレル宰相に、ヨシュアをすげ渡した。バーレル伯爵領地は、王都のすぐ隣であり、バーレルは領地から毎日登城している。
こうして牢獄から出されたヨシュアは、虚ろな瞳で馬車へと乗せられた。
今度は何処へ行くのだろうかと、曖昧になってしまった思考で考えていると、バーレルの邸宅へと到着した。そして連れていかれた塔には、大勢の使用人がいた。彼らに抱かれるのだろうかと漠然と考えていると、バーレルが跪き、ヨシュアの右手を取って、その甲に口づけをした。
「今後は、大切に大切にお守りしますゆえ」
「……?」
「私だけが、貴方を愛しましょう」
バーレルはそう述べると、ヨシュアの体を清め、食事を与えた。そして望まれればヨシュアに快楽を与えたが、それ以外の時分は穏やかに溺愛した。人間として扱われる日々が再開した事に、ヨシュアは涙を零す。
毎朝その後は、バーレルの腕の中で目を覚まし、唇にキスをされるようになった。
既に快楽に堕ちきっていた肉体に、愛を注がれる日々。
この生活が始まり、初めてヨシュアは、他者を愛するという気持ちも知る。
そんな小国の王族の物語は、禁書庫の真実史には記されたけれど、見る者は誰もおらず、その後の未来では、忘れ去られる。本日も乳首を愛され、内部を貫かれながら、ヨシュアは言った。
「愛している」
果たしてそれは、一体だれが覚えさせた言葉だったのか。少なくとも、バーレルでは無かったが、今、ヨシュアの心は、バーレルに在る。それだけが、紛れもない真実だった。
(終)