『俺には好きな人がいる。その人は死んだ。お前は正直よく似てる。俺はその人を忘れることはないだろう。それでもいいか? 俺はお前にその人を重ねるぞ』と言われましたが、俺は好きなので構いません!
世の魔術師には、いくつかの種類がある。
たとえば俺のように、魔術を用いて討伐するしか能が無い魔術師もいれば、トールのように武力もさることながら、魔術の研究に秀でいている者もいる。
「ラピス。まだ一昨日の報告書が出ていない」
俺が病室で手に貼った湿布をはがそうとしていると、トールがやってきた。
一昨日は、まさにここに入院するきっかけになった魔獣討伐があった。
「あ、悪い」
俺はへらりと笑う。ここ、魔術師が集う魔術師の塔においては、この程度の怪我で入院治療になる方が、劣っているといえる。
「すぐに書くよ」
「……怪我はもういいのか?」
「全然平気だよ。いやぁ悪いな、報告書遅れて」
俺とトールは同じ班なので、俺の報告書が遅れれば、トールだって連帯責任だ。
俺はトールが好きなので、そんな目には遭わせたくない。
「……」
トールは翡翠色の瞳で俺を見ている。無表情でなにを考えているかよくわからないが、仕事に真面目なのはわかる。今は、時空操作魔術の論文を書いているところだったはずだ。それを報告書を取りに来るなんて言う雑用をさせられて、きっと内心では嫌だろう。
――俺とトールは、付き合っている。俺は、トールの恋人だ。
ただ、ちょっとした条件付きである。
『俺には好きな人がいる。その人は死んだ。お前は正直よく似てる。俺はその人を忘れることはないだろう。それでもいいか? 俺はお前にその人を重ねるぞ』
俺が告白した時に言われたセリフだ。正直胸が痛くなったけれど、俺はいつか忘れさせられるんじゃないかと期待したし、それでも構わないくらいトールのことが好きだった。
「な、なぁ? それよりさ」
「――大丈夫なら、あとでまた取りに来るから書いておけ」
俺が話しかけようとしたら、トールは出て行ってしまった。俺はしょんぼりして布団を見る。実は一昨日、ちょっと焦って早めに倒してしまったのもそうだが、来週の水曜日に、トールの誕生日がある。その日に、一緒に遊園地に行こうと、半年前に俺達は約束した。
魔術師の塔の仕事は激務であるから、俺は必死に、苦手な書類仕事もかろうじて得意な討伐の仕事も片付けている。たった一日のお休みを作り出すために、もう半年の間、入院以外では、一度も休んでいない。でもそれも、来週のためだ。
こうして火曜日が訪れた。
なんとか一日の仕事を終えて夕暮れになった時だった。
「悪いんだけど、明日急な魔獣討伐を頼めるかな?」
そこへ俺とトールの師匠であるワーク様が入ってきた。
俺は言葉に窮した。明日は、遊園地に行く日だ。
「そ、その……」
「都合が悪いのか? だったら代わりに俺が行く」
トールが言った。トールが一緒じゃなかったら、遊園地に意味は無い。トールは半年前の約束など覚えていないのだろう。明日が自分の誕生日であることすら、きっと忘れているんだろう。
「……いや、平気です。俺が行きます」
こうして水曜日、俺は魔獣の群を討伐した。水曜日の深夜に戻ると、トールがまだ研究室にいた。せめて言葉だけでもと思って、俺はトールを見る。
「なぁ、トール」
「なんだ?」
「お誕生日、おめでとう」
「プレゼントは?」
「え」
そこまで考えていなかった俺は、焦って顔を上げる。するとこちらを見てから、ため息をついてトールが立ち上がった。
「今日はここまでで切り上げる。俺の部屋に来るか?」
「い、いく!」
これは、夜のお誘いだ。俺は嬉しくなって、俺の方がプレゼントを貰えた気になってしまった。魔導観覧車にはのりたかったが、それは来年だっていい。
こうしてトールの部屋へと行く。
寝室に直行したので、俺はいそいそと服を脱いだ。トールはローブを脱いで、シャツの首元を緩めている。二人で寝台に入ると、すぐに押し倒された。
「っ、ン……ぁ……」
いつもより――ということはないか、いつも通り性急に、あまり慣らすでもなくトールは俺に突っ込んできた。トールのものが反応しているだけでも俺は嬉しいから、多少の痛みはなんとも思わない。
「ぁ……あ……っ、んッ」
奥深くまで貫かれて、体を揺さぶられる。腰をつかまれた俺は、必死で息をした。
正直、気持ちいいかと言われるとよくわからない。でも、心は満たされる。
トールも、こうしている時だけは、誰かに俺を重ねているにしろ、ある程度は俺を見てくれていると思うからだ。
「んぅ……っ、ぁ……」
俺の感じる場所を突き上げて、トールが内部に放った。俺も淡泊な方だから、その刺激で十分で、白濁とした液を出した。
ずるりとトールが陰茎を引き抜く。俺はぐったりと体をシーツに預け、生理的な涙が浮かんだ目をトールへと向ける。ずっとここのところ疲れていたから、猛烈な眠気に襲われたけれど、それはトールも同じはずだ。
「……すぐ、帰るから」
俺はそう言うのが精一杯で、今にも瞼が落ちそうだった。
すると不意にトールが、俺の頭を撫でた。
「そうか」
トールはずるいと思う。こういうふとした時の優しさが好きすぎて、俺はどうしてもトールを嫌いになれない。愛している。
そのトールが、意識不明になったのは、三日後のことだった。
俺は病室で目を閉じているトールを見て、呆然としていた。
すると隣にワーク様が立った。
「どういうことなんですか!?」
「時空操作魔術の研究をしている他の魔術師が自白したよ。トールを妬んでいたから、自分側の論文で、過去に魔獣を送り込む術式は完成していたから、それを用いて幼少時のトールを殺害したって。そう遠くない内に、こちらの体は透けるように消えるはずだよ」
「えっ……?」
俺が目を見開くと、ワーク様が目を眇めた。
「放たれたのは魔狼だから、今の時代でなら一瞬で討伐できても、当時のトールには無理だ。勿論君にもね。君達が魔術師の塔に来る前の時間軸で事件は起きたみたいだから。花欧歴1810年の8月20日20時30分」
「助けられないんですか!?」
「今、こちらにあるのは、精神のみの逆行、つまり僕が僕の過去の体に入り込んで討伐することとなるけれど、それは魔術協定で禁止されている未来の改変にあたる。たとえ相手が未来を操作したとしても、それは変わらない」
「だけど――」
「魔術連盟の理事として、僕には無理だよ。最悪だな。これでもしトールが研究していて草稿まで出来ていた実体を保持した時空移動術が連盟に認められていたら、いいや、トールの体が消える前にそれが認められれば、こちらから人を送り込むこともできるけどね。ただし現状では、知見が少なすぎる。実体を伴った場合、移動した魔術師にどんな影響が出るかわからない以上、被害者が増えるだけの結果になる可能性も高い」
ワーク様はそう言うと、トールを見る。
「僕はトールに期待していたし、我が子のように思っているよ。それは君のことだって同じだ、ラピス。連盟とは僕も交渉はする。せめて精神のみの逆行だけでも認められたら、手が打てるかも知れないからね」
そのままワーク様は歩き去った。
残された俺は、呆然とした後で、ハッとしてトールの研究室まで走った。
トールの論文は、あとは実証実験のみで、理論は完成していると知っていたからだ。
俺は、どうなってもいい。トールを助けられるなら、この体がどうなろうと構わない。当時の俺に倒せないのなら、トールの理論を元に、この体で助けに行けばいい。
俺は論文を取り出して、術式を頭にたたき込む。
そして禁術といったたぐいの高度な魔術を使う際に使用する、結界がある地下へと向かい、魔法陣の上に、強く杖をついた。
「――ん」
次に気がつくと、俺は日の光の下、草原に寝ていた。
体を起こすと、遠くに領主の館が見え、近くの看板にはワイゼル伯爵領と書かれていた。トールはワイゼル伯爵家の次男だと話していたから、ここはトールの実家の土地のようだ。
おずおずと起き上がった俺は、きょろきょろしながら街へと向かう。
そこに売られていた新聞の日付を見て、今が、俺とトールが十三歳の年だと理解した。十三歳の頃の俺は、まだ村で生活をしていたから、なるほどここにはいないだろうし、魔狼を倒すなんて絶対的に無理だ。
「あと半年後にことが起きるのか……」
呟いてから俺は、まずはトールの実家へと向かうことにした。
トールの実家はさすがは伯爵家といった感じであり、護衛もしっかりしていた。だが魔術師の塔で学んだ俺にはどうということもなく、記憶操作魔術の初歩で暗示をかけて、俺は新しいトールの専任の護衛という立場におさまった。
「お前が俺の新しい護衛か? ルイといったか?」
挨拶に向かうと、トールは分厚い本を見ていた。顔を上げると、うさんくさそうに俺を見る。へらりと笑って、俺は頷いた。ルイは俺の偽名である。
「そうです。宜しくお願いします!」
「必要最低限のことをしてくれれば良いし、勉強の邪魔になるからあまり話しかけないでくれ」
なんともトールらしい返答だった。
しかし十三歳のトールは愛らしい。俺は、最初に言われた言葉など無視した。トールを助けた後の自分の体がどうなるのか不明なのもあったし、人生でトールとこうして一緒にいられるのはこれが最後かもしれないという思いもあって、ひたすらにトールを構い倒した。
「ほら、トール様! お星様の形のケーキ!」
「ケーキ? 不審物の毒味をするのはお前の仕事だとして、何故ルイが料理を作るんだ?」
「食べさせたいからです!」
「何故?」
「だって今日は、お誕生日でしょう?」
俺が満面の笑みを浮かべてそう言うと、虚を突かれたように目を丸くしてから、トールが頬を染めた。かわいい。
見ているとトールは勉強三昧で、子供らしいことは何一つしていなかった。
だから俺が構うと鬱陶しそうにしながらも、ちょっとずつ喜んでくれていたらしい。
「食べましょう!」
「……ああ」
二人でケーキを食べていると、トールが言った。
「ルイ」
「はい!」
「ルイはその……好きな人とかはいないのか?」
「トール様です!」
「っ、そういうことではなくて……恋人というか」
「……そうですね」
それもまた俺から見ればトールだが、今のトールは十三歳なので、さすがにその子に欲情したりはしない。俺は苦笑した。
「トール様は大人になったら、きちんと恋人を大切にして下さいね」
「俺は……その……俺が、大人になるのを、ルイは待っていてくれないか?」
「そうできたらいいんですけどね。それよりちゃんと、遊園地に連れていってあげたり、抱くときは優しく丁寧に甘く抱いたりですね」
「抱く?」
「あーっと、ちょっとトール様には早いお話でした!」
「? どういうことだ?」
トールは純情だ。そこもまた、かわいい。
こうして、トールが襲撃される日が訪れた。この日は両親と兄妹は出払っていた。
使用人達はいるが、それでも護衛の数もいつもより手薄だ。
ガタン、と、外の扉が破壊される音がした時、俺はトールとともにいた。
「なにごとだ?」
「トール様、大丈夫です。俺がいますから」
「だが――」
「ねぇ、トール様。約束して下さい。俺のこと、忘れないって」
「なにを言ってるんだ。俺がルイを忘れるわけがないだろう」
それだけで、その言葉と約束だけで、俺には十分すぎた。
俺は杖を軽く振り、トールを眠らせる。
そしてフードをしっかりとかぶり、手袋を嵌めて、杖を握りしめた。
あとは、魔狼を倒すだけ。
その仕事は、俺には非常に易かった。
「そんなことじゃないかと思ってはいたんだよ」
そこに声が響いてきた。コツンコツンと靴の踵の音を響かせてやってきたのは、ワーク様だった。
「っ」
「安心するといい。無事に連盟の許可が下りたから、僕自身は僕の体に精神だけ逆行移動してここに来てる。目的は、君と同じだと思うけど、どうかな?」
「ワーク様……っ、その……すみません、俺、どうしても……」
俺が俯くと、俺の頭をポンポンと叩くようにワーク様が撫でた。
「本当に謝ってほしいね。言ったよね? 僕にとってはラピスも同じように大切な弟子だと。僕は危うく、二人の愛弟子を喪うところだった」
「……」
「まず良い報告からだよ。ここから見れば未来において、無事にトールは意識を取り戻した。もう三ヶ月になる。そして代わりに、君がいなくなった。トールは君の体が無事に戻ってこれるようにと、寝食も忘れて時間操作魔術を完成させたよ」
「! トールは無事なんですね!?」
「そうだね、君のおかげで。そして君の体は貴重な時間操作魔術の実体を伴う移動をした被検体でもあるから、君個人へのおとがめもなしだ。さぁ、トールのことは僕が後を処理するから、一刻も早くラピスはラピスに戻るといい。君の名前は、僕が記憶している限り、ルイではないはずだよ」
「はい!」
「トールにはルイは死んだと伝えておくからね」
俺は頷き、それから一度振り返った。最後に十三歳のトールにお別れの言葉をいいたかったようにも思ったが、未来で無事ならば、いいだろう。死人は挨拶などしないのだし。
こうして魔法陣を展開し、俺は光に包まれた。
「っ」
「ラピス!!」
全身が気だるい。そう思って目を開けると、真正面にトールの顔が入ってきた。
「トール、無事でよかった」
「こっちのセリフだ! 馬鹿が」
感情を露わにしているトールというのも珍しい。上半身を起こした俺を、隣からトールが抱きしめた。
「俺のために、なんてことを」
「トールが無事ならそれでいいんだよ」
「いいわけがないだろう。目を覚ました俺が、お前がいなくなったと聞いて、どれほど、どれほど心配したか――っ、この、馬鹿!」
「ほ、褒めてくれとは言わないけど、そんな……」
俺は引きつった顔で笑った。勝手に論文を使ったからフラれるかもと言う覚悟もあったが、だとしてもトールが無事ならばそれでいい。
「遊園地ならいくらでも連れていってやる」
「え?」
「――前回だって忘れていたわけじゃないんだ。ただ、お前の体調がまだ悪いんじゃないかと思って、それで変わろうとしただけで」
「トール?」
「優しく丁寧に甘く抱けばいいんだったか?」
「あっ、え、あ……」
「これからはいくらでもそうしてやる。というより、お前がいつも疲れきっている様子ですぐに寝るから俺は我慢していたんだよ!」
「えっ」
「馬鹿だなぁ、本当に。いいや、俺が馬鹿なんだ。とっくに俺は、重ねてなんていなくて、お前を愛してた。でもな、その重ねていた相手が……ルイがお前だったとはな」
「!」
「お前は俺の初恋の相手だ。お前が言ったんだろ、忘れるなと。俺は確かに約束した」
その言葉を聞いて、俺は驚いて目を見開いた。
それから俺は、何度も検査をされ、やっと本日解放された。
「はぁ、なんだか自分の部屋が懐かしいよ、俺」
「そうか。俺もお前がお前の部屋にいる光景を見られて幸せすぎる」
ついてきてくれたトールの言葉に、俺は苦笑した。最近のトールは、完全に過保護としかいいようがない。
「トール? 俺はもう大丈夫だよ?」
「俺が大丈夫じゃないんだ。俺は二度も喪うところだった」
「喪いそうになったのは俺なんですけど……」
俺がそう言うと、トールが正面から俺を抱きしめた。ぎゅっと力がこもった腕の感触に、俺は思わず赤面する。おずおずと俺は腕を回し返した。
「キスしてもいいか?」
「うん……」
俺が目を伏せると、柔らかな唇の感触が降ってきた。トールの舌が俺の口腔へと忍び込んでくる。ねっとりと舌を絡め取られる内、俺の息はすぐに上がった。
トールがそのまま俺をゆっくりと押し倒した。
俺が見上げていると、今までとは違い、トールが俺の服を脱がせ始めた。いつも自分で脱いでいたから、逆に緊張してしまう。
一糸まとわぬ姿になった俺の、左の乳頭に吸い付くと、トールが甘く噛んだ。
「んっ」
今まで胸へと愛撫された記憶がないため、俺はさらに緊張してしまう。
もう一方の手では俺の右胸の突起を弾きつつ、何度もじっくりとトールが俺の体を開いていく。その内、体がじっとりと汗ばんだ頃、俺の陰茎は反応を見せた。
「ぁ、ぁっ……ね、ねぇ、トール? な、なぁ? もう……」
焦れったい。早く欲しい。
「優しく丁寧に甘く抱いていいんだろう? お前が言ったんだ」
「もうそれを繰り返すのやめてよ、恥ずかしいだろ!」
「何度でも繰り返してやる」
「トールの意地悪!」
思わず叫んだ直後、トールが香油を手に取り、指に絡めた。そして俺の窄まりから指を一本挿入する。くちゅりと音がしたと思ったら、それが少しして二本に増える。浅い箇所を抜き差しされ、軽く指を折り曲げられた時、俺の体がピクンと跳ねた。
「あっ、そ、そこ嫌だ……」
「お前は前から快楽をこわがるよな」
「だって、自分じゃなくなるみたいで……」
「だから俺も手加減していたんだ」
「ひゃっ、ぁ……あア! ああっ、待って、トール、そ、そこ嫌だ、いや、あっ」
「聞かない。許さない」
「あっ、ああっ、ダメ、出ちゃう、まって、出そ……ンん――っ」
俺が手でトールの体を押し返そうとしても、研究職のくせにびくともしない。俺の方が筋肉があるように思えるのに、現実は残酷で、昔からトールの方が体力はあった。俺なんて筋トレをしてやっと体を維持しているのに、それでも腰回りは全然細くて、食べないとすぐ痩せてしまうと言うのに、トールは違う。胸板がまずもう厚い。
「っは」
結局放ってしまって、俺が肩で息をしていると、トールが指を引き抜いた。
そして俺の息が落ち着くのを待ってから、陰茎を挿入してきた。
「んぅ……あぁ……あッ、熱い……んン」
体がどろどろに蕩けてしまいそうな感覚がする。じっくりと慣らされていたからなのか、痛みがないという部分以上に、交わっている箇所が気持ちよすぎて、頭が馬鹿になりそうだ。
「あ、あ、あ」
ぐっと雁首まで進められ、少しだけ動かれる。その内に抽送が始まり、浅く引き抜いてはより奥深くまで暴かれ始める。
「あっ、ン――っ、ぁ……あ、あ、ひゃっ、う、うあ……待っ、体変になる」
根元まで挿入された状態で動きを止められた時、俺は思わず髪を振り乱して泣いた。気持ちよすぎてそれが辛い。こんなのは知らない。
「だめ、だめ、イく、やぁああっ、イってる、イっ、待って、イっちゃった、あ、あ……」
「待つとするか」
「ひゃぁっ……やぁ、ずっとイってる、ン――っ、ダメこれぇっ」
ドライの波に飲み込まれてしまい、俺は咽び泣く。そもそもドライ自体、人生で数えるほどしか経験がないのだけれど、今回は初めて経験するほどに絶頂感が長く、ずっと快楽が全身に響いてくる。足の指先を丸めて、その漣に耐えようとするのに、それが上手くいかない。
「ひゃっ、うあああ――!!」
そこへ追い打ちをかけるように、強くトールが突き上げた。中に射精されたとわかった直後、あんまりにも強い快楽に、俺の意識はブツンと途切れた。
――事後。
起きると俺は、トールに腕枕をされていた。
「大丈夫か?」
「う、うん……っ、喉渇いてて……」
「ほら」
するとそばにあったグラスを、トールが取ってくれた。なんとか体を起こして、俺は水を飲む。そしてグラスを置いた時、トールに引っ張り込まれて、また寝台に入った。ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめているトールは、それから苦笑した。
「優しく丁寧に甘く、か」
「だからそれ言うのやめてくれよ!」
「いや、俺には無理だったと思ってな。ラピスを見ていたら、余裕が途中から消えていた」
「俺にはいつも余裕なんてないんですけど!?」
思わずそう告げると、トールが喉で笑う。
「なぁ、ラピス」
「なに?」
「俺は……お前に酷い態度を取っていたという自覚がある。ごめんな」
「トール……えっ、ぜ、全然! 全然!! 俺がトールを好きだっただけだし」
「俺だってお前が好きだ。だから、これから、それを帳消しにするくらい、お前に優しくするのを許してくれ。罪滅ぼしになるかはわからないが、少なくとも俺の自己満足にはなる」
「そんなの俺にとっては嬉しいだけじゃん!」
俺が思わずそう言うと、トールが俺を抱きしめたままで囁いた。
「一つだけ分かって欲しいことは、最初こそ俺は、まぁお前本人だったわけだが、ルイとラピスを重ねていた。でもな? 本当にとっくにラピスのことのほうが大切になっていたんだよ。俺が好きなのは、ルイじゃなく、ラピスだ」
「トール……」
「ただ、勉強以外なにも無かった俺に、ルイだけが子供らしいことを、様々な感情を教えてくれたのも事実だ。あの当時の俺は、ルイに救われたんだ。つまり、お前に」
トールはそう言って顔を離すと、俺の額に口づけた。
「俺はもう、お前を絶対に手放さない。だから、俺のそばにいてくれ」
俺は少し考えてから、笑顔で頷いた。
「勿論! こちらこそ宜しくお願いします!」
――世の魔術師には、いくつかの種類がある。そしてそのいずれにも、恋をする権利というものはある。俺は今、こうしてトールのそばにいられて幸せだ。
(終)