僕が凄腕魔術師になるまで
そっと扉に手を添えると、木の軋む音が響いた。
中に入ると正面に冒険者ギルドの受付がある。そこにはパイプをふかしている禿げ頭の受付のおじさんがいる。左手の壁には、依頼書が貼ってあり、右手は酒場となっている。
ここは、冒険者ギルド――梟の止まり木。
森都エーデルワイスにある唯一の冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドというのは、冒険者に冒険者証を発行したり、依頼を斡旋したり、報酬を支払ったり、ギルド銀行で金銭を管理したり、二階の宿には冒険者を泊めてくれたりする施設だ。各地に存在している。
僕はある日思い立って、この都市で冒険者ギルドの門を叩いた。そして冒険者証という身分証を手に入れて、腫れて冒険者になった僕のランクはB。冒険者には、S+、A、B、C、D、Eというランクがある。こう並べるとBは良さそうであるが、大体の人間は、元々の素質でB〜Dから開始だ。僕はDから開始だった。なおAランクになると凄腕、Sは神クラスで測定不能のため、S以上は全てS+と表記される。冒険者ギルド内にのみ、SSやSSSという内部測定結果が存在しているらしい。
このSとA、AとBの間には超えられない壁が存在するけれど、B〜Dの間は、比較的移動がしやすい。依頼を達成していけば、ランクは上がる。
そんな中で、僕はBランクの魔術師という職業についている。
冒険者の中には、いくつかの職業があって、多いのは剣士と魔術師だ。
どんな職業に就くかは、自分でも選択は可能だけれど、多くは冒険者証を作る時に測定される潜在能力と、この世界の人々が生まれ持つ祝福(ギフト)とスキルの組み合わせで選ばれる事が多い。僕の場合は、潜在能力として、魔力値が平均より高かったので、魔術師としての適性があった。なお、祝福とスキルは、あまり有用でないものも多く、僕の場合もあまり冒険者として役に立つものではなかった。僕の祝福は、『一日三回一分だけ透明になれる』というもので、スキルは、『針金を任意の形に変えられる』という代物だった。今のところ、どちらも冒険者として役立った事は無い。
ちなみに魔術師は非力だ。パーティならば後衛が多いから、一人で出来る仕事は限られている。そんな僕は、魔術師を探しているパーティに臨時で加わる以外は、簡単な仕事を引き受けて、数をこなしてランクを上げてきた。
十六歳で冒険者になって、早八年。
今年で僕も二十四歳になった。
なお、物心ついてから十五歳までの間、僕は……森都から西に抜けた先にある貧民街(スラム)エストワーレで暮らしていた。貧民街は、裏社会だ。主に盗賊(シーフ)や暗殺者(アサシン)の根城である。僕の祝福とスキルは、魔術師という職業の冒険者生活ではあまり役立たないが――闇稼業ではとても役に立った。だから僕は、捨て子だったけれど、早くに盗賊ギルドに拾われて、食べる物には困らない生活をしていた。けれど、日の下を歩きたかったし、きちんとした身分証が欲しくて、冒険者になった。
それでも……正直、魔術師としてだけの収入では、食べていけない。
だから今も、冒険者稼業の裏で、盗賊としての仕事も請け負っている。
――闇稼業には、冒険者ランクとは別のランクが存在する。
僕はローブのフードを取りながら、壁を見た。そこには、人相不明として、一枚の手配書が張りつけてある。冒険者の中で賞金稼ぎ系の依頼をしている人々の、最近の注目の的である盗賊……『ジョーカー』。これは、僕の盗賊名だ。盗賊ランクS+(暫定SSS)である。僕も思う、そちらの道で食べていくべきだと。才能の無い魔術師として生きていくよりずっと裕福に暮らせる、と。だけど、僕は日の下を歩きたい……!
「おう、帰ったのかナジェ」
ぼんやりとクエストボードを見ていた僕に、受付から声がかかった。
我に返った僕は頷き、この日も依頼を達成したと報告した。
報酬を受け取ってからは、僕は本日は宿を取っていたので二階の客室に荷物を置きに行き、再び一階へと戻って、酒場に向かった。そしてカウンター席の一角に腰を下ろした。
ここで僕は、可もなく不可もない。
平々凡々な顔立ちであるから、特に目立つ事もない。気配が薄いのが僕の特徴だ。悲しい事に、それすらも盗賊向きだと言われている……。
「よ。飲んでるか?」
そんな僕の肩を、ポンと叩いた人がいた。顔を上げると、僕の隣の椅子を引きながら、目を細めて両頬を持ち上げて、エフェルが笑っていた。オリーブ色の髪と目をしているエフェルはSランクの剣士で、ここを拠点に活動している冒険者だ。長身で端正な顔立ちをしている。僕にも気さくに声をかけてくれる、ギルドの人気者だ。
「今、麦酒(エール)を頼んだところだよ」
「俺も頼む。すみませーん!」
こうして僕の隣でエフェルが注文を始めた。他にもいくつかつまみを頼むのを、僕は見ていた。エフェルは僕とは異なり、本当に日の下を歩んできたように見える。出自はどこぞのお貴族様の三男で、騎士としての一代爵位も持っていたらしいけれど、剣技を磨きたいとして冒険者になったと聞いた事がある。
「ナジェ。ところで今夜は空いてるか?」
麦酒が届いた時、エフェルが僕をチラッと見た。思わず僕は赤面してしまった。
平々凡々な僕に、エフェルが声をかけてくれる事には、勿論理由がある。
あれは僕が二十歳になったある日……エフェルに『シたい』と言われて、僕は初めてを捧げたのである。以後、エフェルは時々、僕を誘うようになった。好きだとか愛しているといった事は言われた事がないし、恋人になろうというような口約束もないから、これは世に言う体の関係なのだと思う。そんな肉体関係が、もう四年も続いている。
エフェルは凄腕を超えた冒険者でもあるし、容姿も性格もいいから、とにかくモテる。だから僕は、とっくにエフェルの事が好きになってしまったけれど、時々肌を重ねられれば満足だと思って、今を生きている。
「うん、空いてる」
仮に空いていなかったとしても、きっと僕は空ける努力をするだろう。
「よかった」
エフェルは僕の言葉に、ホッとしたように吐息した。僕は赤面したままだ。
そこで改めて乾杯をしてから、僕は舌の上で麦酒の炭酸を味わう。
「ところでナジェ」
「なに?」
「――最近、ジャックと親しいと聞いたんだ」
「え?」
その言葉に、僕は首を傾げた。ジャック……それは、情報屋の名前である。ジャックだけは、僕ことナジェがジョーカーだと知っている。盗賊ギルドからの指令を持ってくる場合もある。だが、接触にはかなり気を遣っているから、後ろめたい仕事が露見するような事は無いと思う。寧ろこの酒場で会う場合などは、暗号でやりとりしているから、傍から見たら気さくに雑談をする冒険者同士に見えるはずだ。
「そう?」
それこそ僕とエフェルが話す光景と変わらないんじゃないかと思う。
「ああ。どうなんだ? 二人で二階の部屋に行ったのを見たとも聞いてる」
「うん? 確かに部屋で飲みなおした事はあるよ?」
なにせさすがに暗号を用いても、酒場のカウンターで、悪徳貴族の館へ侵入する算段は立てにくい。僕は嘘ではないからと頷いた。すると――何故なのか、エフェルの瞳に一瞬影が差した気がした。
「飲んだだけか?」
「? うん? うん」
「信じていいんだな?」
「なにを?」
まさか盗賊稼業について勘ぐられているのだろうか? エフェルくらい凄腕ならば、僕がジョーカーだと気が付いてもおかしくはない。そうしたら、僕はきっと捕らえられる。そう思うと、辛い。ここは、しらを切りとおすしかない。
「僕とジャックは、日々の依頼についての雑談しかしてないよ」
「雑談、だけだな? まさか別々に寝たんだろうな?」
「うん? うん。僕はジャックの寝顔とか見た事は無いけど?」
「ジャックもお前の寝顔を見た事はないんだろうな?」
「無いよ。僕達雑談をして朝には解散するよ?」
「言いなおす。ナジェの寝顔を知っているのは、家族を除いたら俺だけという理解でいいんだろうな?」
「うん」
尤も僕には家族はいないし、乳幼児期の記憶はないのだが。
僕の解答にエフェルが、心なしか安堵したような顔をして、吐息した。
そこへ酒の肴が届き始めたので、僕達は一緒に食事を楽しんだ。
そして食後――僕の部屋へと二人で向かった。
「ぁ……」
丹念に解されてから、僕は挿入された。硬いエフェルの陰茎が僕の中を深く穿つ。いつまでたっても、挿入時の押し広げられる感覚に、僕は慣れない。けれどエフェルの体温が僕は好きで、繋がっている個所からドロドロに蕩けてしまいそうになるのがたまらない。
「あ、あ、あ」
エフェルが激しく腰を揺さぶり始める。ギュッと目を閉じて僕が睫毛を震わせると、涙が零れた。
「ひぁ……! あ!」
ぐりっと先端で感じる最奥を突き上げられた瞬間、僕は身悶えた。頭が真っ白に染まる感覚に、思わず喉を震わせ、背を撓らせる。
「出すぞ」
「ああああ!」
一際強く突き上げられて、内部に放たれたのが分かった。その衝撃で僕も果てた。肩で息をしながら、僕は寝台に沈み込む。するとずるりと僕の中から陰茎を引き抜いたエフェルが、僕の隣に寝転んだ。涙が滲む瞳でエフェルを見てから、僕はそのまま寝入ってしまったようだった。
――本日は、盗賊関係の仕事だ。
悪徳貴族が領地の人から奪った、その人の恋人の形見を取り返すという仕事だ。僕の所属している盗賊ギルドは、別に義賊というわけではないが、ボスの気まぐれで時にこういう仕事も引き受ける。
なんでも守りが硬いらしく、難攻不落だとされているその館。
冒険者ギルドから護衛も雇っているらしい。
だが僕にかかれば大した事は無いだろうと考えて、肩を回してから、僕は攻略に臨んだ。悪徳貴族がいるという部屋は、二階の寝室。そこを目指して、僕は祝福とスキルを使うまでもなく進んだ。
確かに警備はすごいが、これでも僕は手慣れた盗賊だ。
あっさりと目的地まで進んだ僕は、寝台の上のシーツの盛り上がりを見た。悪徳貴族は眠っているのだろう。そう考えながら、奥の金庫の前に立つ。そして針金を取り出した。スキルで鍵の形状に変化させ、気配を殺しながら解錠を試みる。
殺気を感じたのはその時だった。
「っ」
慌てて振り返り、僕は金庫の中からは肩身のネックレスを手に取りながら、左手で短剣を構えた。相手は剣士だ、と、分かったのは、僕の急所ではなく、目深にかぶったローブのフードを薙ぐように払われた時だった。
「あ」
すると相手――エフェルが声を出した。目を真ん丸に見開いている。
僕も硬直しそうになったが、慌てて、祝福で体を透明にした。
……見られた? いいや、暗がりで一瞬なのだから、『似ている』と思われた程度だろうと判断し、僕はそのままその場を離脱した。
こうして僕は、盗賊ギルドがエーデルワイスに構えている半地下の酒場で、形見の品を無事に組織の人間に手渡した。ただしその間も、ずっと胸の鼓動は煩かった。
今日だけ冒険者ギルドに顔を出さなかったら怪しまれると考えて、僕はなるべくいつもと同じ時間に顔を出す事に決める。本日の依頼は、一応草むしりを引き受けていて、それは昼間の内に終わらせていた。ただアリバイはばっちりだと思う。
「おい」
するとそこにいたエフェルに声をかけられた。僕を待ち構えていた様子だ。やはり露見しているようだが、僕はなんとかして知らぬ存ぜぬを押し通したい。
「なに?」
「今までどこにいた?」
「? 草むしりの依頼をして、その帰りには街でぶらぶらしていたけど……?」
「――少し、二人きりで飲みたい。話がある」
「……いいけど」
いつもならばこんなお誘いは大歓迎なのだけれど、今ばかりは心が苦しい。
こうして僕は、依頼の達成印を貰ってから、二階に取ってある宿の一室に、エフェルを促した。扉に手をかけて、中へと入る。すると入ってすぐ、後ろから抱きしめられた。
「!」
「さっき、レイノルド伯爵家にいただろう?」
悪徳貴族の名前を聞いて、僕は腕の中で思わず笑顔を消した。僕は前を向いているから、その表情は見えていない事を祈る。
「いないよ」
「嘘を吐くな」
「……なんの話?」
僕の言葉に、エフェルの腕に、より強く力がこもった。これでは逃げられないと冷静に考える僕と、肘で後ろの急所を狙えば気絶させられるかもしれないという考えが同時に浮かぶ。
「俺の祝福は、『好きな人を見間違えない』というものなんだ」
「え?」
「スキルは、『人の匂いを判別できる』」
「……っ、それって」
「こんな形で伝えたくはなかったが、俺はお前が好きだ。だから決してナジェを見間違える事は無いし、ナジェの香りを間違える事も無い。愛してる」
突然の告白に、僕は目を見開いた。
エフェルが僕を好き……? つまり、相思相愛……? その事実に、胸の奥から歓喜の気持ちがこみ上げてくる。けれど、状況が状況だ。耳元で少し掠れた声を聞いた僕は、目を瞠るしかない。
「お前が、ジョーカーだったのか」
「……」
「ナジェ、それでも俺は、お前が好きだ。だから、本当の事を話してくれ」
それを聞いて、今度は僕は、心臓を手で掴まれたように、苦しくなった。臓物を撫でられたような嫌な感覚に、ひやりとしてしまう。
「……そうだよ、僕は……盗賊だよ。魔術師として生きていきたいけど、それは紛れもない事実だ」
「そうか」
「僕を捕まえる?」
エフェルの手にかかって終わるならば、それは案外悪くない気もした。いつかは僕の盗賊生活には終わりが来ると思っていたから、それが好きな人の手による終焉なら悪くないと思う。
「いいや。俺には、それは出来ない」
「え?」
「もう一度言う。俺は、お前が好きだ」
「それ、は。僕だって……けど……」
「本当にお前も俺を好きなんだな?」
「うん……ただ、僕達じゃ、住む世界が違うから」
なによりエフェルは日の下を歩いていく人だ。僕のように、後ろめたい事に手を染めていたりはしない。
「盗賊ギルドとは、手は切れないのか?」
「……無理だよ。だって、それじゃあ生きていけない。僕のランクじゃ、魔術師としてだけじゃ……毎日ご飯を食べるのもやっとだから」
「俺がいる。これからは、俺がそばにいる。だから、足を洗って、冒険者としてだけ生きていかないか?」
「それが出来たら、どんなにいいかなぁ」
「そう思うのならば、そうすればいい」
エフェルの腕に、より一層力がこもった。僕は泣きそうになってしまう。
ただ僕は、残念ながらエフェルの言葉や優しさを、完全には信じられない。僕は臆病だ。
「ナジェ……愛してる」
「……」
「お前が好きで、お前が話す相手にはすべて嫉妬してるくらいには、俺はお前の事しか考えられない」
「どうして僕なんかを――」
「俺の中では、お前は特別なんだ。気が付いたら、大切になっていた」
そう言うと、エフェルは僕の体を反転させた。そして少し屈んで、唇に触れるだけのキスをした。
「だから俺のそばにいて欲しい」
「っ」
「これからは、ずっとそばに」
その言葉が嬉しくて、僕は涙ぐんだ。信じてみても、いいのだろうか? そんな気持ちが膨れ上がってくる。そうだ、仮に裏切られても、それがエフェルの手ならば、いいではないか。そう思っていたら、気づくと僕は頷いていた。
――以後。
僕は盗賊ギルドには話をつけて、もう仕事を引き受けない事にした。周囲は、『どうせすぐに戻ってくるさ』と笑っていたけれど、今のところ僕は、関係者とは接触していない。
代わりに、毎日エフェルの隣にいる。
なんとこれまで固定のパーティを組む事が無かったエフェルが、僕とパーティを組むと宣言したからだ。これはちょっとした騒ぎになった。当初僕は、監視だろうかとすら思っていたけれど、今のところ本当に捕まる気配はない。
ランクは違えど、剣士と魔術師のパーティは定番であるから、その二名がいるパーティを募集している依頼は多い。僕はエフェルに連れられて、少し難易度が高い依頼をこなすようになった。
宿の部屋も、二人で同じ部屋に移動した。少し大きなセミダブルのベッドに、いつも二人で横になっている。
本日も二人で魔獣を倒してきた帰りだ。先に魔導シャワーを浴びた僕は、寝台に座っていた。すると魔導シャワーから出てきたエフェルが上半身裸の姿で、こちらへ歩み寄ってきた。よく引き締まった体躯をしていて、大柄だ。
「好きだ、ナジェ」
最近のエフェルは、僕に惜しみない愛の言葉を注いでくれる。僕は考えてみると、誰かに愛された経験がないから、いちいち照れてしまう。
「ナジェは?」
「ぼ、僕も……そ、その……す、好きだよ」
「知ってる。その顔を見れば分かる」
エフェルはそう言うと、僕を寝台へと縫い付けた。両手首を軽く握られて押し倒された僕が唾液を嚥下していると、僕の首の筋を舌でなぞってから、エフェルが僕の鎖骨の少し上に口づけた。ツキンと痛んで、そこにキスマークをつけられた事を理解する。
「ぁ……」
僕の右胸の突起を手で転がしながら、エフェルは左手で僕の服を乱し、陰茎に触れた。すぐに僕の陰茎は反応を見せ、緩く握られ扱かれると、先走りの液が零れ始める。それに気づいた頃には、すっかり脱がせられていた。
「あ、っン」
エフェルが僕の陰茎を口に含む。そしてねっとりと口淫を始めた。右手では僕の後孔を解し始める。二本の指で前立腺を刺激しながら、口で陰茎を刺激されていると、すぐに僕の体はぐずぐずになり始めた。我ながらとろんとした瞳で、エフェルを見てしまっているのが分かる。
「ゃ……あン……早く……」
思わず僕が求めると、獰猛な瞳をしたエフェルが指を引き抜き、巨大な屹立した先端を僕の菊門へとあてがった。そしてぐっと挿入してくる。
「あ、あ、ああっ」
ほとんど毎日繋がるようになってからは、僕はこの挿入の衝撃にも慣れ始めた。
思わずエフェルの体にしがみつきながら、僕は太く長い陰茎を受け入れる。最近僕の中はだいぶエフェルに馴染み、その形を覚え込まされている。縦割れになってしまった後孔の入口は、エフェルしか受け入れないと意思表示しているみたいだ。
「あ、動いてっ、ッ」
根元まで挿入したところで動きを止められて、僕は泣きながら喘ぐ。
すると僕の求めに応じて、エフェルが動き始めた。緩急つけたその動きに、すぐに僕の理性は曖昧になっていく。
「んア――っ、は」
「絡みついてくる」
「や、あ……恥ずかしい、言わないで」
「好きだ、ナジェ」
「僕も好き……ああああ!」
反射的に僕が答えると、エフェルの動きが荒々しく変わった。そのまま僕らは獣のように交わり、その夜僕は何度も何度もエフェルの白液を内部に受け入れた。
事後。
僕は目を覚ますと、エフェルに抱き寄せられるように腕枕をされていた。僕がぼんやりとしていると、微笑しているエフェルが、僕の髪を撫でた。同じ部屋だから、いつも行為後もそばにいる。
「今日も可愛かった」
「……」
その言葉に僕は覚醒し、照れた。恋人同士になってからのエフェルは兎に角甘い。
「今日も明日も明後日も、ずっと俺の隣にいて欲しい」
「エフェル……僕もそばにいたい」
思わず僕は、エフェルの体に隣から抱き着いた。すると僕の体をより強く抱きよせて、エフェルは僕の額にキスをした。その柔らかな感触までもが愛おしい。
このようにして、僕とエフェルは結ばれた。
エフェルと共に活動する内に、僕はたまに窮地になると、盗賊技能も駆使して依頼をこなすようになった。表向きは魔術師としてしか登録していない僕だけれど、その後、中衛も可能だと認識するように変わり、依頼達成率とその技能のおかげで――なんと、冒険者ランクがA、そしてS+へと変化した。エフェルの隣で僕は、エフェルの隣に並ぶに相応しいランクを得る事が叶ったのである。
今では、ジョーカーとしてでなく、『ナジェ』として、僕は冒険者として認められつつある。毎日が充実していて、本当にこんな幸せを僕が得てもよかったのか不安になるほどだ。それでも今は、僕は、僕自身の意思でエフェルのそばにいたいし、もうエフェルの事も心から信じられるように変わった。
だから、全世界の人に告げたい。生い立ちで諦める事は無い。愛する人に出会えば、世界には光が満ちるのだと。僕にとっては、最高のハッピーエンドを、エフェルはもたらしてくれた。僕はそんなエフェルを愛している。毎日が、本当に、幸せだ。
―― 了 ――