マダム・シレーヌの文房具




 巨大なコンパスに後ろから突き刺された僕は、ガクリと膝をついて武器を取り落とした。僕の武器は、こちらも巨大な定規である。痛みよりも、衝撃が僕を恐怖させたし、一番意識したのは、ゴポと口から溢れた血液だ。嘘みたいに真っ赤な血が、唇と服を汚す。慌てて抑えた右手もドロドロに濡れていった。

 僕の背中の左側から胸へと突き刺さっているコンパスの針は、大型犬の犬小屋サイズだ。僕の武器の定規は透明で、インテリアに丁度良い本棚サイズである。これらの巨大な文房具――マダム・シレーヌのクラフトで、僕達は戦っている。対人戦だ。文房具(クラフト)を持つ者同士で、殺し合いをしているのである。

 いいや、殺し合いというのは、正確ではない。
 実際には、僕達は死なないのだ。致命傷を負うと、【DEADEND】と表示されて、僕達は日常に戻ることができる。目が覚めるのである。そうすると、元々いた時間と場所に戻る。この対人戦には、日時場所を問わず、いきなり招かれる。そして現実には存在しない”マホロバの街”で、僕達は互いに殺し合いをする事になる。そこで勝つか負けるかすると、現実に戻ることができるのだ。それは、【HAPPYEND】に誰かが到達するまでの間、変わらない規則らしい。けれど、その条件は未だ分かっていないそうだ。確実なのは、皆殺しにして最後の一人になっても【HAPPYEND】にはならないという事だと聞いている。

 巻き込まれる条件は、文房具を持っている事だ。

 文房具は、本人あるいは両親、祖先――自分より前の世代の血を同じくする者が、マダム・シレーヌから直接受け取る事で宿る。死ねば、その子へと受け継がれる。僕の場合は、曽祖父が受け取ったらしい。

 ――なんで、定規だったんだろう。

 痛む胸を抑えながら、僕は目を伏せた。
 僕もコンパスのように強い武器を持っていたならば、勝利を目指していたかもしれない。だが、平べったい巨大な板に過ぎない定規では、振りかぶって殴る事しか出来ない。だから僕はいつも、殺されている。今では、早く死んで現実へ戻る事の楽さに気がついてしまった。

 次に目を開けた時――僕は、無事に現実へと戻り、ショウウィンドウの向こうに飾られた造花を眺めていた。

 全身に汗を掻いていた。冷や汗だ。生々しい死の感覚と痛みが、傷が消えた今も残っている。思わず深く吐息した。軽く胸に触れ、傷が無い事を確認してから、僕は歩みを再開した。巻き込まれている間は、現実世界の時間は止まる。だから周囲には、僕は単純に、店の中を覗いて立ち止まったようにしか見えないだろう。

 ショウウィンドウに映っていた、自分の薄茶色の髪と瞳を思い出す。これは曽祖父譲りだ。祖父は、異国の血――マダム・シレーヌと同じ国の血を三分の一程引いていたらしい。その国が何処にあるのかも、その国の名前も僕は知らない。子供の頃は、人と違うこの色があまり好きではなかった。けれど二十年も付き合っているから、今となっては受け入れる事も出来る。受け入れられないのは、僕の文房具が定規である事だ。

 ――最弱のペンケース。

 そう言って揶揄される、”ハズレ武器”が、世の中には三種類存在する。
 鉛筆、定規、シャープペンの芯だ。
 鉛筆は、巨大な槍という事が出来る。頑張れば戦える。僕の定規も、巨大な板だから戦える。シャープペンの芯は、巨大な板じみたケースと、折れやすい棒のセットだ。これも頑張れないことはない。であるのに、何が最弱かと言えば、全て”物理”だからだ。

 ペンケースというなら、消しゴムこそ入っていそうだが、消しゴムは非常に強力で、”相手の攻撃を消去可能”というチート能力を保持している。無効化の文房具だ。シャープペンも、鉛筆や芯とは異なり、芯を出す仕草をすると”時間を止められる”という謎の効果がある。尋常ではなく強い。ボールペンは、全ての空間を歪ませる事が出来たりする。だから彼らは、ペンケースにはくくられない。

 だがそんな彼らよりも、さらに強いのが、”ラベル”と呼ばれる文房具類だ。マダム・シレーヌの紋章入りの文房具の数々である。例えば、コンパスもその一つだ。鉛筆部分であらゆる座標を探り出し、針の部分で突き刺すのだが、遠隔攻撃も可能で、殺傷能力は最強クラスである。

 僕の定規が、最弱と呼ばれるように、逆に最強と呼ばれるシリーズもあるわけで、即ちこれは、人々――対人戦に巻き込まれている人々の中にも噂話などがあるという事である。やはり人気というものがあるのだ。僕などは常に馬鹿にされているわけだから、あまり聞きたいとは思わない。そうであっても耳に入ってきてしまうほど、ラベルと呼ばれる最強の文房具の所持者の人気は凄い。どこで聴くかといえば――多くの場合、僕は殺されている最中に聞く。例えば今日もそうだった。

 コンパスにはファンが多いから、みんなコンパスの戦いぶりを見に来るのだ。そして強い文房具というのは、僕のようにいかにして死ぬかではなく、『何人殺すか』を意識しているから、数を稼ぐために、僕のように弱い文房具を最初に狩りに来る。僕が殺されている間、観衆は安全である。そこで彼らはコンパスを絶賛し、ペンケースに入る定規の僕を馬鹿にする。毎回のことだから、もう慣れた。

 横にかけた鞄を開けながら、僕は溜息を吐いた。今は大学が終わった所で、これからバイトだ。僕は叔父が経営している古書店の店番をしているのである。明治や大正頃に翻訳された幻想文学や絶版になった魔術・魔女術書、占星術書などを扱っている。マダム・シレーヌの著作も置いてあるが、その稀覯本はガラスケースに入れて展示してある。

 足早に地下鉄のホームに向かい、僕は何とか現実感覚を取り戻した。



 ――客は、滅多に来ない。

 この日も誰も来ないだろうと、僕は椅子に座って天井を見上げていた。
 気配なく声をかけられたのは、その時の事である。

「定規?」
「っ」

 ビクリとした。反射的に視線を向けると、そこにはスーツ姿の青年がいた。見覚えは無い。だが、今確かに、『定規』と口にした。僕は青年を観察する。少し釣り目の瞳は黒い。短い髪の色も黒で、どことなく犬に似ていた。

「怪我は大丈夫か?」

 目が合うと、青年が小さく首を傾げた。やはりと僕は思った。彼は、先程の戦いを見ていたのだろう。だとすれば彼もまた、文房具の持ち主だ。僕はいつも死ぬ時、「何分で死んだ」「今日もよく死んだ」「早かった」「さすがはコンパス!」という言葉を聞いているため、誰かに心配をされたのは、初めての経験である。新鮮だった。

「大丈夫です。あの、貴方は……?」
「なるべく早く楽にしてやりたくて、手加減できず悪いといつも思っていたんだ。痛みもなるべく持続しないように、出来る限り即死を狙っているんだが――いつも罪悪感があってな」
「え?」

 その言葉に、僕は改めて青年を見た。首を捻る。言われてみれば、どこかで見たことがなくもない。けれど僕の記憶に、スーツなど無かった。マホロバの街に移動すると、勝手に衣服が変わるから、当然といえば当然なのだが。

「もしかして、コンパス……さん?」
「ああ。俺の文房具はコンパスだ。俺は紺野という。お前は? ここは遠坂さんの店だから、遠坂……」
「夏織かおると言います。遠坂夏織です。遠坂春人の甥です」
「そうか。実はマダム・シレーヌの手記の写本を見せてもらう約束になっていたんだ」
「すみません、叔父は昨日から出かけていて」
「――そうか」

 あっさりと頷くと、紺野さんは腕を組んだ。

「一度話がしてみたかったんだ。良かったら、店が終わってから食事でもどうだ?」
「え? ええ……良いですけど」

 僕は暇だったから曖昧に頷いた。特に何も考えていなかった。
 答えた僕を見て、紺野さんが、この時初めて微笑した。すると印象が全然違ったものになり、優しそうに見えた。先程までの仏頂面よりもずっと良い。


 こうして、十九時に店を閉めた後、僕は紺野さんに連れられて街へ出た。
 向かった先は小さな家庭風フレンチの店で、中に入ると素朴ながらも洗練された空気が漂ってきた。手馴れた様子で料理とワインを頼んだ紺野さんは、それから僕に向き直った。

「他に何か頼みたいものがあれば、好きに注文してくれ。ご馳走する」
「あ、いえ……僕、フランス語が分かりません」

 メニューには、フランス語とカタカナのルビがあるだけだ。カタカナからは、料理の内容は伝わってこないし、聞いたことのある料理は一つも無かった。紺野さんは頷くと、さらに二品ほど追加して注文を終えた。

「よく来るんですか?」
「いいや。前に一度だけ来たことがあってな――その時、いつか定規を連れてきたいと思ったんだ」
「へ? 僕を?」
「告白はこの店でと決めていた」
「告白?」

 どういう意味だろう。僕は思案しながら、水の入ったグラスに手を伸ばした。見守っていると、表情を変えずに紺野さんが続けた。

「あれほど毎回会いに行っているから、もう分かっていたとは思うが」
「ええと、何がですか?」
「俺の好意だ」
「ん?」
「好きだ。付き合って欲しい」
「――へ?」

 何を言われているのか、全く分からなかった。
 まず第一に、『好きな相手を殺すのか?』と、僕は思った。第二になってやっと、『僕は男であり、彼もまた男である』という事実を意識した。第三として、『今日初めて会話した』と考え、最後に『僕のどこが好きなんだろう?』と悩んだ。

「まさか……気づいていなかったのか?」
「え? 何にですか?」
「俺がお前を好きだという事に」
「はい、全く。初耳すぎて、今、頭が混乱してます……好き……好き?」

 僕が困っている前で、紺野さんが硬直した。一度唾液を嚥下した様子の彼は、それから一度大きく吐息した。

「夏織くんは、俺の事を現時点でどう思っている?」
「初めて自分以外の文房具の人と会ったので、ちょっと話がしてみたくて……話してみたいと思っています」

 本当は、『殺人鬼』という語が脳裏を過ぎったが、僕はそれは口に出さなかった。もし万が一、こちらの世界でも手をくだされたら、僕はもう生き返る事ができないからだ。実は文房具は、現実世界でも出現させることが出来るのである。

「話ができるということは、嫌いではないか?」
「はい」

 まだ嫌いかどうかすら分からない。それが正直な所である。

「十分だ。機会をくれ。これから、俺を好きになって欲しい」
「僕、あの……男ですけど……見れば分かると思うから……も、しかして、紺野さんの心は女性? いや、ゲイ? 付き合ってくれって、そういう意味ですよね?」
「少なくとも心的性別も男だが――分からない。同性を好きになったのは、初めてなんだ」
「どこを? 話したのも初めてなのに……」
「自分でも分からない。何度も殺しに行くうちに、いつの間にか目が離せなくなって、俺以外が定規を殺すのを見ると、その人物に殺意が沸くようになり、現実世界に戻っても定規の事しか考えられなくなり、ある夜定規の夢を見て夢精し、今ではネタが全て定規の顔だ――……性欲」
「え」

 淡々と表情を変えずに言われて、僕は呆気にとられた。性欲?

「俺の中で恐らく、殺人衝動と性衝動が結びついたのだろうとは思う」
「待ってください、僕そんなサディストはちょっとキツイです」
「安心してくれ、これは俺自身が恋心の理由に悩んで推測した動機に過ぎない。先に自覚したのは、愛だ。俺は、夏織くんの事が好きなんだ」
「どこに安心したらいいですか?」
「優しくする。大切にする。嫌がる事は、何もしない」

 紺野さんがそう口にした時、最初の料理が運ばれてきた。
 そうして食べ始めた料理の味を、僕は覚えていない。


 店を出ると、小雨が降っていた。天気予報が外れたから、僕は傘を持っていなかった。駅までには距離がある。どうしようかと考えていると、すぐに紺野さんがタクシーを拾った。促されて僕は乗った。てっきり店に向かうのだと思い込んでいた僕は、タクシー代を払えるか不安になってお財布を取り出した。声が聞こえたのはその時だ。

「港上場地区のライゼルタワーまで」

 僕は首を傾げた。いきなり飛び出した高級住宅街の名前と、その中で一番巨大で高級なマンションとして有名な建造物の名前に、何事だろうかと紺野さんを見る。

「俺の家だ」

 何でもないことのように紺野さんが言う。僕は息を飲むしかない。
 これは、まずいのではないか。そう思った時には、タクシーは走り出していた。

「あの、僕……家に……」
「心配はいらない。遠坂さんには、連絡を入れておいた」
「え?」
「もう少し、話をしよう」

 僕はなんと答えれば良いのか分からなかった。それからの車内は無言だった。
 そして――マンションにつき、最上階の部屋に当然のように連れて行かれた。桁が違う裕福さに、僕は物珍しくなって周囲を見渡す。黒い彫刻が飾ってあるエントランスを抜けてリビングに入ると、窓の向こうに綺麗な夜景が見えた。飛行機よけの赤い電気が、いたるところに見える。

「っ」

 後ろから抱きしめられたのはその時だった。僕はビクリとし、それから体の動かし方を忘れた。厚い胸板が、僕の背中に当たる。力強い腕は優しかったが、少し怖い。

「少しで良い、抱きしめさせてくれ」
「……けど……」
「ずっとこうしたかった」

 抱きしめられるくらい……良いのだろうか?
 僕はそう考えた。流されやすい、押しに弱い、これは度々言われる僕の欠点だ。
 ――そして、この選択は、やはり間違いだった。


「ぁ……ああっ」

 気づくとそのまま、僕はソファに押し倒されていて、愛撫され、結果現在貫かれている。ローション付きのゴムのヌメる感触に、僕は震えた。紺野さんの熱い陰茎は、僕に切ない痛みを与える。実際には、結構痛いのかもしれないが、殺され慣れている僕にとっては大したことは無かった。それよりも、痛みではない、人生で初めて感じる快楽を、体が拾い始める。意識はその虜になっていた。

「あ、ああっ、やッ……あ……」

 僕が震える吐息を吐くと、紺野さんが一度動きを止めた。じっと僕を見据え、それから柔和に微笑んだ。

「気持ち良い。想像以上だ」
「あっ……動いて……ン……」
「――ああ」
「ん――っ!! あ、ハっ、うあ……あ、ああっ」

 唐突に強く打ち付けられて、僕は泣きながら呼吸した。そんな僕の腕を引き、紺野さんが上に乗せる。そして今度は下から突き上げ始めた。腕と腰に手を当て、僕の体も揺らし始める。するとさらに奥深くの気持ちの良い場所を直接的に刺激される形になり、僕はさらに高い嬌声を上げた。

「あああっ、やぁっ、もう、もう駄目、駄目だよ、やっ」
「何が駄目なんだ? 何が嫌なんだ?」
「イきたい、ッ、ぁ……ああああっ……イきたっ……出したい、やぁっ」
「――今まで、毎回会うたびに、ずっとお前の泣き顔を見ていたと思っていたんだ。今は、それがかなって、俺は何より幸せだ。イけなくて泣いているのか? ならば、もう少しこのままだな」
「うああああっ、あ、あああっ、駄目ぇ、あっ」

 僕が自分で前に触れようとした手を、ギュッと紺野さんが握った。今度は僕の両腕を引くように体を揺する。僕の体に押し寄せた強すぎる快楽の波が、ゾクゾクと背筋を泡立たせた。僕はむせび泣きながら、声を震わせる。頬が乾かない。

「ひっ」

 その時、前立腺を押し上げるように紺野さんが突き上げた。ぐっと刺激されると、どんどん頭が真っ白に染まっていく。

「いやあああああ」

 思わず叫んだ時、僕は中を刺激されただけで果てていた。何が起きたのか分からず、あまりの快楽に怖くなって、声も失い、ただただボロボロ涙をこぼす。そんな僕を今度は押し潰すように紺野さんが押し倒した。

「あ」

 中で角度が変わる。

「やあああっ、待って待って、待ってぇ、まだ、まだ出来なッ――」

 その角度から、再び紺野さんが前立腺を容赦なく突き上げ始めた。僕は達したばかりだというのに、すぐに体を強制的に高められた。見つけ出されたその場所の快楽を、僕もまた見つけてしまったのだ。もう痛みはどこにも無かった。ひたすらの快楽に僕は喘いだ。

「あ、ハ」

 そのまま三度果てさせられて、もう僕の前からは透明なものしか出なくなった。その間に紺野さんも二度果てた。だというのに、まだ繋がっている。今、僕は後ろから抱き抱えるようにして、再度下から貫かれている。ゆるゆると乳首を嬲られながら。

「あ、あ、あ」

 僕の唇の端からは透明な雫が垂れ、もう何も考えられない。

「俺の恋人になってくれるか?」
「うん、うん……あっ……ア、ン――!! んぅ」

 紺野さんが激しく動き、僕は合計五回目の射精をし、そのまま意識を手放した。



 目を覚ますと、僕は紺野さんの腕の中にいた。寝室に運んでくれたらしい。体も処理してくれたらしく、綺麗になっていた。僕を腕枕している紺野さんは、起きた僕に気が付くと、困ったように苦笑した。

「悪かったな、あんまりにも無防備だったものだから――……抑えられなかった」
「いえ」

 拒否しなかったのは、僕である。正直、最初から生理的嫌悪が無かったのだ。

「もう一度聞くが、恋人になってくれるか?」
「……っ、あの……――はい」

 僕は頷く事にした。体がもう、快楽を覚えてしまっている気がした。
 あんなに果てたというのに、頭の中に欲望がよぎる。

「――殺される方は、殺され方と性欲は無関係なのかなって思いました」
「どういう事だ?」
「殺される時は、すぐに終わりたいって思うけど、なんていうか、気持ち良いのは、すぐに終わってほしくないなって、ふと考えて」
「じゃあ次は、もっと焦らしてやらないとな」
「そ、そういう意味じゃなくて!」

 慌てて僕が声を上げると、クスクスと紺野さんが笑ったのだった。


 ――こうしてこの日から、僕と紺野さんは、恋人同士になった。
 それは、定規とコンパスが付き合い始めたという事でもある。
 すぐにその噂は、マホロバの街にも広まった。広まってしまった。それというのも紺野さんが「恋人になった」と、翌日には宣言したからだ。なお、彼が最初に言った通り、僕以外は紺野さんの好意に気づいていたらしい。「おめでとう」と沢山の人に祝福された。

 その恋人宣言の日――なんと、文房具の持ち主は、皆が解放された。
 よって今では、マホロバの街は、交流の場に変わっている。突然巻き込まれることは変わらないし、殺し合いをした場合は、現実では生き返る。だが、殺し合いをしなくても、一定時間が経過すると、現実へと戻れるようになったのだ。

 理由は、【HAPPYEND】への到達者が現れたからである。
 その条件は、『文房具同士の恋の成就』だったらしい。
 こうして、コンパス――所持者の紺野さんは、英雄となった。

 僕は、本当に恋されていたんだと知って、幸せだったものである。
 めでたしめでたし。