レンタル奥様NTRサービス
俺の旦那は忙しい。
会社が激務だから、そのそばのホテルに泊まってばかりで、ほとんど帰ってこない。最近では、ホテルに住んでいるようなものだ。高給取りだから、宿泊費には困った様子もない。ただ困るのは、物理的に会えないから、俺の体が欲求不満になってしまうという事だ。
「んン……っ、ぁ……」
本日も俺は、バイブで自分を慰めている。ベッドにうつぶせになって膝を折り、より深くにバイブを受け入れるべく、手を動かす。
「ん、ぅ……あ……ンんっ」
正直俺が旦那の|馨《かおる》と結婚した理由は、体の相性が良かったからだ。それは馨も同じ意見だったらしく、初めてSEXしたその夜に、『俺達最高の相性だから結婚しよう』と言われた。巨根で絶倫の馨は、ギラギラした目で俺に笑いかけたし、俺も二つ返事だった。同性婚が整備されてだいぶ経つが、それでも男同士で最高の相性の相手に出会える機会は、まだまだ少ない。そうして結婚して三年目――俺は、二十七歳になった。
「あ、ハ……んぅ……ぁ、ア……ァぁん」
バイブが丁度良い具合に前立腺を押し上げたので、俺は甘い息を吐いた。ここで振動のスイッチを入れると天国が訪れると、悲しい事に俺はもう熟知しているが、いつもその瞬間は緊張する。頭が真っ白になるからだ。だが、迷わず俺はスイッチをONにした。
「あああああああああ!」
全身に振動が響いてくる。無機質な振動は、強制的に俺の快楽を煽る。俺は一瞬で達した。張りつめた陰茎から、白液が飛び散った。しかしバイブはOFFにするまで動き続ける。そのまま達して力が抜けているというのに、俺は強い刺激を受け止める事になった。
「いやぁ、ダメぇ、あ、あ、ああああ!」
慌ててスイッチを切る。そして俺は、振動が止まったバイブをそのままに、ぐったりと寝台に沈んだ。必死で吐息し、荒い呼吸を落ちつける。そうして暫くしてから、バイブを引き抜いた。ローションでテラテラと光っている。あー、気持ち良かった。
「でも、本物の方がいいなぁ」
俺は起き上がり、唇を尖らせた。やはり人工物の玩具と本物の肉茎では、温度と触感が全然異なる。基本的に週末しか帰ってこない旦那を恨めしく思いながら、俺はその後シャワーを浴びてから家事をした。専業主夫の俺は、クレジットカードを渡されていて、その限度額までがお小遣いだ。生活費も兼ねているが、かなりの限度額なので困った事は一度も無い。だが、長らく定職についていないので、たまに働きに出たいと思う事もある。
掃除を終えてから、一人で夕食を作って口にし、この日は寝た。
翌朝目を覚ましたのは、陰茎を口に含まれている感覚がしたからである。
「っ」
瞼を開けると、旦那が俺の陰茎を咥えて、ニヤニヤと笑っていた。
「か、帰ってきたんだ?」
「おう」
「ん、ぁ……」
頷いてから、馨はよりねっとりと俺の陰茎を舐め上げた。舌先で鈴口を刺激しながら、両手で俺の陰茎を扱いている。すぐに俺の陰茎はガチガチに反応した。そして零れ始めた先走りの液を、馨が舐めとる。
「んぅ、あ、ふぁ……あ、ぁア!」
俺の先端を咥えたままで、右手の指を二本一気に、馨が俺の中へと差し入れた。そしてかき混ぜるように動かしてから、口を離して楽しそうな声で言った。
「また一人でオナニーしてたのか? 柔らかい」
「あ、あああ! だ、だってぇ、馨が帰ってきてくれないんだもん……っ、うああン」
前立腺ばかりをグリグリと指先で刺激しながら、僕の声に馨が笑っている。
「|七緒《ななお》は溜まってると、本当に気持ち良さそうに喘ぐよなぁ。俺、そう言うとこ、好きだぞ」
「なっ、ば、馬鹿! 溜まりすぎて、俺きついんだからな! ンあ、ああ!」
「知ってる」
もう一方の手で、俺の乳首を摘まみながら、馨が笑っている。ツキンと疼いて、全身に快楽が広がっていく。それから陰茎を口に含まれ、三か所を一気に攻められて、俺は髪を振り乱して喘いだ。
「や、ン、やぁ、んン、あ、あ、気持ち良っ、あ、ア!」
やっぱり本物は違う。
「そろそろ挿れるか」
「んン、あ――!」
馨が俺の両方の太股を持ち上げて、挿入した。そして激しく腰を揺さぶる。馨の体に両腕をまわし、俺は快楽から背を撓らせる。あんまりにも気持ち良くて、頭が馬鹿になりそうだ。快楽しか考えられないし、体自体も気持ち良いという感覚しか拾わない。
「あ、あ、あ」
せり上がってきた快楽に、俺はどんどん体を昂められていき、その後大きく嬌声を上げた。
「あああああああああああああ!」
中だけでドライオルガズムに導かれ、俺は震えながら果てた。
――事後。
俺が寝転がっていると、シャワーを浴びた馨が戻ってきた。
本当にイケメンで、引き締まった腹筋をしている。細マッチョだ。黒い髪が少し伸びているのは、会社が忙しくてきりに行けないからだろう。だというのに、よく似合っていて格好良い。顔にも俺は惹かれた。
「そんなに溜まってたのか?」
「そりゃあ、二週間も出来なかったら、溜まるだろ?」
「夜の蝶でも呼んだらいいだろ。俺もそうしてるし」
……俺は、馨が『そういうサービス』をしている夜の蝶をホテルに招いている事を、容認している。夜の性的なサービスを行う人との性行為は、不倫ではないという取り決めは、結婚前にした。別段、嫉妬はしない。本妻は、俺だけだからだ。
「……そういう事いう? もー。本当に、俺、不倫とかしちゃうかもよ?」
「それでも良いぞ。俺、俺と会ってない時にお前が何してても気にならないしな。ただ遭遇するのはお断りだから、この家でヤらないでくれ。修羅場が面倒くさい」
「少しは返ってくる頻度を増やすとか、無理なの?」
「無理だな。今日も着替えを取りに来ただけで、この後また出る」
馨はそう言うと、不意に俺の頬に触れた。そして口角を持ち上げて笑った。
「じゃあな。再来週にはまた戻る」
「うん。お仕事頑張って」
俺はベッドに横になったままで、そう告げて見送った。
しかし……夜のサービスかぁ。
俺は翌日、久しぶりにパソコンを起動して、早速検索を始める事にした。旦那が本気で言っていたのは、よく理解している。俺達はお互いに性欲が強い。
「ん……?」
暫く検索していると、『レンタル奥様』というサイトが引っかかった。どんな内容なのかと、サイトを眺める。何気なく見ていると、家事代行サービスから始まり、不倫サービスやNTRサービスなどがあった。なんだこれは? 俺はまじまじと見る。
――奥様(男)に欲望を感じる貴方へ!
と、書いてある。(男)とあるのは、俺が同性愛系のサービスを探していて、そのワードで検索に引っかかったからだろう。さらにサイトの下部まで見ると、『求人情報』と書いてあった。俺は興味本位で、それを見た。
――時給四千円。
――指名制度あり。
――健康診断あり。
――条件一、心も体も男性である事。
――条件二、男性(同性)と戸籍上婚姻関係にある事。
――アナル経験者(受け身)優遇。
そんな情報が並んでいた。俺は目を見開いた。俺に、ピッタリじゃないか。夜のサービスを呼ぶのではなく、俺がサービスがわとして雇用されたら、お給料も入るし、一石二鳥だ。俺は最近、働こうかなと思っていたのだし、それで欲求不満まで解消されるなんて、最高すぎる! そう考えた俺は、その日の内にメールで応募し、数日後には、レンタル奥様サービスの会社にアルバイトとして採用された。こうして、俺の新しい日々が幕を開けた。一応心苦しいので、旦那には内緒とした。
「はじめまして、代表の|如月《きさらぎ》です」
健康診断も終えたその日、初めてオフィスに行くと、泣きぼくろが色っぽい男性に微笑された。緩く波がかかった長めの黒髪をしていて、俺と同じくらいか少し年上に見える。
「制服は説明通り支給します。裸エプロンですから、派遣先の家で着替えて下さいね」
「は、はい!」
「初回は、手ほどきを兼ねて、私も同行します。安心して下さいね」
「分かりました」
大きく俺が頷くと、笑顔で頷き返してきた如月さんが、静かに立ち上がった。
「では、早速行きましょう。常連のお客様なので、失敗があっても多めに見て下さいますし、事前に話は通してあります。リラックスして頑張りましょうね」
その言葉に励まされながら、俺は白いエプロンを鞄にしまった。
二人で電車に乗り、本日のお客様の家へと向かう。高層マンションの上の方の階に、目的地はあった。俺の家よりも富裕度が高そうだ。如月さんがインターフォンを押すと、すぐに扉が開いた。出てきたのは、三十代後半から四十代前半くらいの男性だった。馨よりは背が低いが、それなりに背丈がある。
「どうぞ、中へ。如月さん、これはまた可愛い新人さんだねぇ」
「ええ。期待の新人ですよ」
二人のやりとりを聞いてから、俺は頭を下げて、挨拶をした。
そうして中へと促され、俺はおずおずと服を脱ぎ、白いレースのエプロンだけを纏った。
「ああ、そうだ。ご希望がある場合は、着衣ですからね。事前にそれは、こちらからお伝えしますので」
如月さんの指導を受けながら、俺は大きく頷いた。本日は、家事代行サービスからの、肉欲解消サービスと聞いている。一番ノーマルなコースらしい。俺は裸エプロンで、まずは料理をする事にした。如月さんが、隣に立って、様々な意見をくれる。作り置き料理を作りながら、俺は何度も頷いた。その後完成した料理を、本日のお客様である|高階《たかなし》さんに確認してもらい、OKを貰った。俺は唾液を嚥下する。ここからが、本番だからだ。
「んっ、ふぁァ」
俺の目の前で、如月さんと高階さんの濃厚なキスが繰り広げられている。
俺が料理している最中から、指導している如月さんを、実はずっと高階さんは犯していた。俺は響いてくる嬌声にドキドキしながら料理をしていたのだったりする。初めて見る他者の性行為に、俺の陰茎は反応を見せていた。
「さぁて、そろそろ|枩原《まつばら》さんにも教えてあげないとねぇ、こちらも」
枩原というのは、結婚して変わった俺の名字だ。俺は緊張しながら頷いた。
「ベッドに行くよ」
「は、はい……」
如月さんから肉茎を引き抜いた高階さんが、恍惚とした表情の如月さんの腰を抱いて、寝室へと向かう。その後を俺はついていった。するとベッドの上で、再び高階さんが如月さんを抱きかかえるようにして貫いた。
「あ、ああン!」
「ほら、枩原さん。如月さんの淫らにそそり立っている悪い子を後ろのお口で飲み込んであげて」
「っ」
「如月さんのペニスで直接、枩原さんの可愛い窄まりの中の状態を確認してもらおうねぇ」
3Pだ。そんなのは、人生で初めてである。俺は、僅かに頬を染めながら、寝台に上って、如月さんの陰茎を見た。硬く張り詰めている。それに手をかけ、俺は上に乗る形で、ゆっくりと腰を下ろす。
「ひぁああああ!」
俺が後孔で如月さんの陰茎を受け入れると、如月さんが喘いだ。
「う、ぁ、ァっ、如月さんの、ぁ、か、硬……んぅ」
俺もまた、切ない声を漏らす。その時、高階さんが激しく動き始めた。高階さんが如月さんを突き上げると、如月さんの体が揺れるから、俺の体も激しく突かれる事となる。
「あ、あ、ああああン。とってもいいよ、枩原さん、ン――! あ、あ、高階さんのもすごく素敵!」
「やぁ、ああア、気持ち良いっ、如月さんのスゴイ……っんぅ」
「如月さんの中は相変わらず絡みついてくる。本当に気持ち良いよ。さぁ、二人とも。もっと腰を使って」
「あああああ!」
「やぁあああ!」
こうして如月さんを中央に、俺達はその日ずっと交わっていた。
何度か果ててから、サービス終了の時間が訪れたので、俺達は互いに射精し、寝台から降りた。浴室の使用許可は事前に降りているとの事で、それぞれ体を清めてから、俺と如月さんは制服の裸エプロンから普段着に着替えて、エントランスへと立った。
「ご利用ありがとうございました」
如月さんが優しい笑顔を浮かべている。慌てて俺も頭を下げる。すると優しい眼をして、高階さんが俺を見た。
「頑張りなさい」
「はい!」
俺も満面の笑みで、勢い良く頷いた。
このように、俺のアルバイトは開始し、数度の如月さんによる指導を経て、本日はいよいよ単独で派遣される事になった。
今回のお客様は、何度か利用経験のある方だそうだった。
指定された場所は、なんと教員住宅だった。体育教師らしい。本日は、着衣を希望されていて、NTRサービスのご利用だという。
「よく来たな」
対面したお客様の|繪上《えがみ》先生は、『先生』と呼ぶようにというご希望だった。父兄のNTRをイメージしたいそうだった。よく日焼けした浅黒い肌をしていて、ツーブロックの短髪の色は黒い。筋骨隆々としている。中へと促され、俺はリビングのローテーブルの前に座るように言われた。
「奥さん、お子さんの事なのですがねぇ」
するといきなり、ロールプレイがはじまった。イメージは、父兄だったと俺は思い出した。繪上先生は、いかに俺の架空の息子の成績が悪いかを語っている。作り話の空想なのか、実際に繪上先生が『抱きたい』と思っている父兄の設定を重ねられているのかは、俺には分からないが、妙にリアリティがあった。俺の仕事は、神妙な顔で頷く事である。
「奥さんのお返事によっては、俺が口をきいてやってもいいですよ」
「お、お願いします……」
俺は言うようにと事前に言われていたお返事をした。すると繪上先生が、寝台ではなく、そのまま絨毯の上に俺を押し倒した。そして服を引き裂くように脱がせた。ボタンがはじけ飛ぶ。だから、着替えを持参しろと言われたのか……。
「色っぽい体だ」
「……ぁ」
噛みつくように、首に吸い付かれた。ツキンと疼いたので、キスマークを残されたのが分かる。これは、規約違反だ。旦那にバレないように、基本的にキスマークは禁止されている。なお、旦那につけられるのは許可されている。これは奥様の演出となるかららしい。
「ぁ、あア!」
そのまま武骨な手で、左乳首を強く摘ままれ、右の乳首は舌で舐められた。強く右の乳頭を吸われると、ゾクゾクとしたものが、俺の背筋を這い上がっていく。俺は荒々しいSEXが決して嫌いではないので、逆に燃えてしまった。
「やぁ、ンん……ぁ、あハ」
先生の太い指が三本、一気に俺の後孔へと差し込まれた。
「ドロドロですねぇ、奥さん。もしかして、期待して解してきたんですか?」
実際、解してきたのは事実だ。これも、指示があったからだ。だが俺は真っ赤になってしまった。期待していたのも事実だからだ。
「ふぅん。いいですね、その顔。たっぷり可愛がってあげますよ」
「ああっ」
三本の太い指が、激しくバラバラに動き始めた。そして俺の中を広げていく。しかし前立腺への刺激はないし、最奥には届かない。もどかしくなって、思わず俺は腰をくねらせた。するとそれを目にとめ、ニタニタと繪上先生が笑った。
「淫乱だなぁ、奥様は」
「あぁ、言わないで、っ」
「旦那さんじゃ足りないんでしょ? 分かってますよ」
実際これも事実である。足りないというか、帰ってこないのだから。
そう考えた時、指が引き抜かれ、既にガチガチに勃起していた赤黒い肉茎を、根元まで挿入された。長さは旦那よりは短いが、すごく太い。押し広げられる感覚に、俺は仰け反った。すると両手首を掴まれ、絨毯にギュッと押し付けられた。
「もっと乱れていいんですよ?」
「んぅ、ぁ、ああ、ア!」
そのまま繪上先生は、種付けプレスの体位で、俺を深く穿ったままで動きを止めた。気持ちい場所をグッと押し上げられ、そのまま動きを止められた瞬間、俺の理性が吹き飛んだ。
「あ、あ、あ、あああ、や、ン、ん、ぁ、ァ! ああ、あ――!」
思わず目を閉じると、快楽由来の涙が零れていった。
「気持ち良いですか?」
「ええ、あ、ええ、す、すごい良い。先生の、すごく良いです、っ」
「だろ? 奥さん、もっともっと素直になっていいんですよ」
「ああああ!」
「しかし本当に淫らだなぁ。旦那さん以外のでもこんなに感じるなんて」
「ひぁ、ぁ、ァ、あ、あ、俺、俺ぇ」
「旦那さんと俺、どちらが良いです?」
「あああン!」
これは本音を言うなら旦那の馨だ。なにせ体の相性が良くて結婚したのだから。でも、今回は仕事だから、台詞は決まっている。
「やぁ、繪上先生、繪上先生のおちんぽが好き!」
俺が言うと、ドクンと脈打つ感覚がして、俺の中に精液が大量に注ぎ込まれたのが分かった。その衝撃で、俺も放った。
「良かったですよ。また今度、指名しようかなぁ」
そんな事を言われて、俺は玄関で見送られた後、静かにオフィスまで戻った。
初めての仕事をなんとかこなした俺は、キスマークについては誰かに指摘されたら旦那のものだと嘘をつく事に決め、派遣先のレポートを書いた。しかし、やっぱりバイブよりは人肌の方がずっと良い。お給料ももらえるし、欲求不満も解消出来るし、本当に最高のアルバイトだ。俺の天職かもしれない。その後、俺はほぼ毎日、アルバイトの予定を入れた。もう単独で派遣される事にも慣れてしまった。休日は自由に取得して良いとの事だったが、俺はシフトをとにかく埋めていった。というのも、この前『再来週』と話していたのに、その日に旦那が急な出張で帰れなくなってしまった事も大きい。国の規定による最低限のお休みを得る必要性により、働けない日は、俺はバイブのお世話になった。だがもう俺は、人肌の虜で、物足りなくてたまらない。やはり一番は馨の肉茎だが、そうでなくともバイブよりはマシだった。また、『旦那には秘密』というのも、なんだか背徳感を煽る。不倫をして良いとか、性サービスを呼んで良いとは言われていたが、まさか俺がバイトをしているとは、馨だって考えないだろう。
本日は、一軒家へと派遣された。実は、俺の初めてのリピーター客である。
俺より二つ年下の二十五歳で、在宅で仕事をしている|仲田亨《なかだとおる》さんは、薄い茶色に染めた髪に、洒落た黒縁眼鏡をしている。亨と呼ぶように言われている。彼の希望は、『奥様コース』で、疑似的な夫婦ごっこのご希望だ。ここで俺は、馨の奥様ではなく、亨の奥様の素振りをする事となる。
裸エプロンを着用し、俺は料理をした。本日は、ビーフシチューを作っている。おたまを片手に煮込みながら、俺はチラリとアイランドキッチンからリビングを見た。そこではパソコンに向かって、亨が仕事をしている。
その後俺はビーフシチューを完成させてから、付け合わせのサラダを作った。
それらが落ちついた頃、亨の仕事も終わったようだった。
「七緒、出来たの?」
「うん」
「そう」
「ご飯にする? お風呂にする?」
「……」
「それとも――俺?」
これも言うように指示されている台詞である。奥様コースに定められているものだ。
「勿論、君にするよ。七緒、おいで」
そのまま両腕を差し出されたので、俺はその腕の中におさまった。
そうして寝室へと促され、俺は押し倒された。亨の眼鏡が、お互いの吐いた熱い息で曇り始めるまで、そう時間は要しなかった。
「ん、ァ……」
ゆっくりと挿入してきた亨は、ギリギリまで引き抜いては、より深くまで陰茎を進めるという動作を繰り返している。少しずつ昂められていく、優しいSEXだ。本当に愛されているような気分になる抽挿に、俺は穏やかな気持ちで喘ぐ。
「んン、ン」
根元まで挿入した亨が、腰をかき混ぜるように動かした。気持ちの良い場所に刺激が響いてきて、俺は甘い声を上げる。
「ああ……っ!」
こうして俺は穏やかに絶頂に導かれ、射精した。
なお、奥様コースというのも、勿論人妻設定だ。しかしこれには二パターンあって、パターン一は、本妻だが不倫をしているコース、パターン二は、旦那との二重生活を送っているコースであり、亨の希望は、二重生活である。
「愛のない戸籍上の旦那にも宜しくね。レスが長いみたいだけど」
実際に、俺はレスに近いので、何も言えない。
「いつでも離婚するといい。俺は七緒が好きだから」
「……俺も、亨が好き」
ただしこの台詞は既定のものである。無論馨と離婚する気なんてない。俺は馨が好きだ。それは亨も承知しているので、コースが終わった時に言われた。
「今回も良かったよ。また指名するね」
「ご愛顧ありがとうございます」
俺は笑顔でそう告げて、この日の仕事を終えた。
その後も俺は、仕事を重ねた。このアルバイトは、本当に最高である。様々な肉茎の味を俺は覚えた。いずれも一長一短であるが、とても気持ち良い。バイブよりはずっと良い。だがバイブもたまにとなると悪くないので、俺は取らなければならない休日の時には、バイブの振動に身をゆだねた。
さて、本日の派遣先は――高級ホテルだった。
不倫コースだ。たまにある。不倫コースの場合は、お互いに既婚者設定で、不倫をしている風で体を重ねるプレイとなる。俺はエレベーターに乗り、目的の階へと向かった。そして指定された部屋に入る。先方も指定時刻に来るそうで、先に部屋に入っているようにと言われた。俺の会社では、事前に顔写真によるチェックはない。奥様のプライバシーが万が一にも旦那に露見しないようにという配慮らしい。代わりに、チェンジサービスがある。三回まで無料で、別の人間にチェンジが可能だ。
ベッドに座って待っていると、扉が開いた。何気なくそちらを見て、俺は硬直した。俯きがちに入ってきた今回のお客様――馨もまた、ゆっくりと顔をあげて、俺を見た瞬間、虚を突かれたように目を見開いた。
「七緒?」
「か、馨……そ、その、これは……」
「え、なんでここにいるんだ? 夜の蝶のサービスは不倫に当たらないって、約束してるだろ? これまでだって止めに来た事なんてないよな?」
「――え、えっと、その……止めないけど……え? 馨……不倫サービス申し込んだ?」
「な……――ん? もしかして七緒……お前……お前が今日の夜の蝶って事か?」
馨は頭の回転が早い。馨が後ろ手に扉を閉めると、自動ロックの音がした。
歩み寄ってきた馨は、硬直している俺の前に立つと、腕を組んだ。
「ほう。レンタル奥様で、働いていると?」
「そ、その……」
「ふぅん」
「……」
「いいじゃん」
「えっ」
俺は怒られて離婚を切り出されるのを覚悟していたが、馨は実に楽しそうに笑った。思わず俺の肩から力が抜けた。
「じゃ、サービスしてもらわないとなぁ」
「!」
そのまま馨は、俺を押し倒した。俺は当初困惑したが、すぐに馨の技巧に蕩ける目をしてしまった。やっぱり馨が一番巧いし、太いし、固いし、巨大だし、長い。しかも俺の体を熟知しているから、本当に気持ち良い。
「あ、ああっ、んン――ふぁ、ァ」
「トロトロだな。何人に抱かれたんだ?」
「やぁ、んン。わ、わかんない」
「へぇ。そんなにいっぱい咥えたのか。そうだよなぁ、欲求不満だったんだもんな?」
「あ、あ、ンんぅ」
「どんな奴が一番良かった?」
「へ? あ、あっ、ぅ、うあ……馨が一番」
「いい子だ。勿論、誰と何をしてもいいが、俺が一番じゃなきゃダメだからな? 分かってるだろうな?」
「うん、うん、ぁ、ぁ、あ、あ、あ、あっ、やぁ、動いて、動いて!」
馨の動きが焦らすようなものに変わった。俺の腰が勝手に蠢く。すると馨は吐息に笑みをのせてから、ゆっくりと腰を揺さぶった。じれったすぎて頭がおかしくなりそうだ。
「馨、馨! あ、あ、もっと!」
「しょうがないな」
「あああああ!」
そこから今度は激しく責め立てられ、俺は結腸を貫かれた瞬間、中だけで果てた。ガクンと俺の体が跳ねてから、力が抜ける。俺の頬を、涙が零れ落ちていく。その間も、長い漣のような絶頂感が、俺の全身を襲っていた。
この日、サービスが終了しても、俺はずっと馨と繋がっていた。
本来その場合は、延長料金がかかる。しかし俺は、ぐったりとベッドに横たわったままで、それは請求しない事にした。ベッドサイドに座っている馨は、俺の目が覚めたのを確認すると吹き出した。
「しかし七緒がレンタル奥様になるとはなぁ。笑ったよ」
「お、怒ってないの?」
「いいや? お前には天職だろ」
「やっぱり? 俺もそう思うんだ」
「ああ。これからも頑張れよ」
「うん!」
「が――そうだな、俺も一つ気づいた。俺が帰れないんだから、お前が来てくれたらいいわけだな。これからは、アルバイトが休みの日は、俺のホテルに来いよ。ここじゃない。俺が月単位で借りてる方」
「え、良いの?」
「ああ。やっぱりお前の体が一番いいしな。お前だけが、俺の奥様だ。他は全部、玄人だ。まぁ七緒も今は、一応玄人になったみたいだけどな。それはそれで良い。元々お前はマグロ気味だったし、色々覚えて、もっと俺を満足させてくれ。体の相性は最高にいいが、そんなお前がテクニックも身につけたら、俺はもっと惚れる自信があるぞ」
「頑張る!」
こうして、俺のバイトは、旦那公認となった。
背徳感が消えた代わりに、若干の寂しさが生まれたものの、それを打ち消すくらい幸せな事に、月に何度かは、馨のホテルにも行く事が出来ると決まった。完全に、バイブとはお別れとなった。俺は毎日、誰かに貫いてもらえると決まったのである。
リピーターも増え始めた。特に亨は何度も俺を指名してくれるし、繪上先生も二ヶ月に一度は俺を指名してくれる。また、実技研修がたまにあって、そんな時は、如月さんにオフィスで俺は貫かれている。そんな仕事の話をすると、馨は楽しそうな顔をする。
現在俺は、馨の上にのり、肩に両手を置いて、自分で動いている。
「それで? 昨日の客と、俺。どっちがいい?」
「ん、あぁ……っ、は、ん……ひ・み・つ」
「おい」
「――嘘だよ。馨だ。馨に決まってる。んア!」
下から激しく馨が突き上げてくる。俺は思う存分喘ぎながら、腰を動かし、快楽に浸る。
こうして俺の、欲求不満の日々は幕を下ろした。
毎日が、快楽でいっぱいに染まった。
―― 了 ――