エイリアン、おぱんつを穿く!






 ****、**********、*****、****、**。(俺の任務は、指定No.003に生息する二足歩行の生物と惑星環境を、潜入調査することである)。

「ふぅ」

 そのためにまず必要なこととして、俺は特別技術により、言語を習得した。
 どうやらこの星の言葉で、俺は『宇宙人(エイリアン)』と呼ばれるらしい。
 姿形は潜入前から、現地生物の高等(と、彼らは名乗っている?)知的生命体のものに変化させていた。これは、宇宙航行スーツが反射する光の近くを操作すれば、すぐにできたし、元々俺も二足歩行型で二本の手や頭部、胴体があるので、そう難しいことではなかった。最初から、俺の体は、ほとんど地球人と同じ姿だったのである。起源が同一なのかと考察していたほどだ。

 なんでも現地の言葉で、この惑星は『地球』というそうで、俺が降り立った場所は、『日本国』というそうだった。今の暦は、『令和』というそうだ。

 まず自然体だけど、現地の技術、歴史の知識を習得した俺は、いよいよ『地球人』という知的(?)生命体のリアルな生活や文化の調査を始めることに決めた。

「まずは、服を調整するか。実際に着てみるか。それには光知覚操作だけでは心許ないが……まぁ体格自体はそう変わらないからいいか」

 ブツブツ呟きながら、俺は、この国で発展しているスマートフォンという端末で、『服』と検索した。なんでも、人間は、パンツ・インナー・ボトムス・上着・外套・アクセサーなどの小物というような品々を身につけているようだ。

 この中で、俺には不明瞭なものがあった。

「おぱんつ? なんだそれは?」

 俺はとりあえず、上辺だけ似せることにして、一番上の外套を買った。首まで覆われているモッズコートで、足首付近まで長いため、これ一枚あれば、下に着ていなくても露見しない気がした。実際にこういう着こなしがあるのかと調べてみれば、『裸コート』や『変質者』という語がひっかかったので、きっと存在するのだろう。

 あとは現地人と実際に会話をしたい。言語は既に習得済みであるが、そのためには、なるべく他者に好感を持たれる顔がいいと判断する。それには、平均的な顔で埋没しながら、よく見るとちょっと良いというような+方向の平凡顔がいいと判断した。こういう顔を、現地では『雰囲気イケメン』というそうだ。俺は黒い色を選択した髪を、流行の通りの髪型に変えた。身長は元々のものから変化させるのが難しいため、現地のサイズでいうと、身長174cmほどとなった。

 なお『変質者』の挨拶は、二人きりになった相手の前で、コートの前をバッと開けることらしい。大変変わった文化だと思ったが、検索した結果がそうだった。

「早速会話にチャレンジするか」

 俺は満足したので、笑顔を浮かべた。
 変質者は駅にほど近い橋の上や裏路地、あるいは公園に生息しているそうなので、地図を検索し、とりあえず都心の二丁目と三丁目の間にある小さな公園へと向かった。飛行ポットを停めた場所から最も近かったからだ。

「よぉ」

 すると早速現地人に声をかけられた。
 観察すると、茶色いコート姿であったが、黒いスキニーのボトムスを穿いていて、コートの下にも服を着ているのが分かる。どうやら変質者ではない様子だ。随分と長身で、目測で189cmくらいはありそうな黒髪の男だった。顔立ちは整っている。

「相手探しをしてるのか?」

 俺は会話相手を探しているので、大きく頷いた。さて、初めての挨拶だ!
 俺は、モッズコートの前をバッと開けた。

「こんばんは!」
「!!」

 すると相手が、呆気にとられた顔をして、目を見開いた。
 特に俺の性器部分を直視している。俺の性器は、地球人の男性器に酷似している。だからエイリアンだと気づかれることはないだろう。凝視していた男は、たっぷりと沈黙をおいてから、ぼそりと言った。

「お前……随分小さいな……包茎か……いや、失礼。ええと……露出狂か?」
「ん?」

 俺にはない語彙だった。やはり、生の会話は新たな知識を与えてくれる。
 なにが小さいのかや、包茎というのがどういう状態なのか、俺には分からない。

「だがな、俺は、穿いているのを脱がすことに興奮するし、パンツを穿かないなんて冒涜だと考えている。ほら、穿け!」

 すると男が、鞄からおもむろに、パンツを取り出した。
 黒いレースのパンツだった。俺は首を振る。俺の調査によると、こういったレース付きの生地が薄い、紐付きのパンツは、女性型の地球人の下着に多かった。

「これは?」
「メンズランジェリーだ」
「めんずらんじぇりー?」
「俺はメンズランジェリーのデザイナーをしている。だからこそ穿かないのは許せない。下着の良さが分からないなど、人生で損をしている。他人の性癖をとやかく言うつもりはないが、お前が先に見せてきたんだからな。だから俺も俺の性癖をぶつけさせてもらう。穿け。お前は穿いていないことを除けば、俺の好みだ」
「はぁ」

 俺は現地人の指示に従うことにした。パンツを受け取り、いそいそとその場で穿いた。
 するとそれまでスースーしていた下腹部がなにやら落ち着いた。中々いいな、下着。俺は基本的には、長い間宇宙航行をするので、パイロットスーツを着ているから、こういうものは、初めて身につけた。

「よく似合っているぞ」

 男が満面の笑みを浮かべた。

「そうか」
「お前、名前は?」

 この質問はくると予測していたので、俺は用意していた偽名を名乗った。

「太郎(たろう)だ」
「随分と古風な名前だな」

 一昔前に一番多い名前だったはずなのだが、男は何故か生温かい眼差しに変わった。

「俺は大智(だいち)と言う。それで? 相手を探しているんだよな? すぐにヤれるか?」
「ああ、すぐに会話できるぞ」
「――会話?」

 すると大智が片側の眉を動かした。怪訝そうな顔をしていて、眉間には皺が刻まれた。

「俺はヤれるかと聞いているんだ。ここは男同士のハッテン場だが分かってきてるんだろうな? ヤり目的以外のノンケが来る場所じゃぁない」
「?」

 大智の言葉の意味が、ほとんど俺には分からなかった。これが生の会話、生の文化、さすがである。とりあえずは、全て大智に任せてみよう。

「大智のしたいようにしてくれ」
「――いいのか? 後悔するなよ?」
「ああ! 俺は、文化が知りたいんだ」
「へぇノンケのお客様が興味本位で来たってところか。俺は、ノンケを喘がせるのも大好きだから、いいぞ、相手をしてやる。早速ラブホに行くぞ」
「ついていく」
「おう」

 すると笑顔に戻った大智が、俺の腰を抱いた。そして歩き始めたので、俺も慌てて足を動かす。

 向かった先は、半地下まで階段を降りて入店する、ラブホテルという場所だった。普通のホテルとどう違うのか俺には分からなかった。タッチパネルで空室を選択し、エレベーターで向かった先の部屋には、巨大なテレビと巨大なベッド、椅子が二脚とテーブル、小さな冷蔵庫のような物が二個あり、窓はなかった。他には浴室とトイレがある。浴室はガラス張りだ。

「とりあえずコートを脱いで、ベッドの上にあがれ。そして下着を脱げ」
「? まだ穿いたばかりなのに、もう脱ぐのか?」
「ヤり目的だって言うっただろ。それからうつ伏せで、ひざだけ折ってろ」
「分かった」

 ここは大智に従おう。俺は言われたとおりにした。全裸となるが、今の体を地球人によせて変化させた状態ならば、よく分からない性器部分以外は地球人とそっくりだろうし、生殖器は元々酷似しているのだから、エイリアンだとはバレないだろう。

「は? お前ノンケなんだよな?」
「? ノンケとはなんだ?」

 分からないことは、聞くに限る。

「違うのか!? なんだということは、ノンケだと思われたのは心外だと……? まさかこの俺が騙されるとは」
「? 俺は、大智を騙したりしない」

 エイリアンでなく地球人を装っていることが早速バレたのかと、俺は冷や汗をかいた。

「じゃあこの綺麗すぎるアナルローズは、アナニーの結果と言うことか? お前、どれだけ酷使してきたんだよ……ま、まぁ、こちらで開発してやる必要が無いのはありがたいが」
「あなるろーず?」

 やはり地球人の性器とは、微妙に違うと言うことなのだろう。

「まぁ少し、中を確認して、とりあえず挿れさせてもらう」
「? あ、ああ。分かった」

 大智はなにをする気なのだろうか? よく分からない。
 なにやら液体が入ったボトルからタラタラと中身を手に垂らしている。

「ひっ!」

 大智はその指先を、俺の後孔に突っ込んできた。ここは、宇宙人にとっては、退化した未知の器官と呼ばれていて、俺達にもなにに使うのか謎の場所だ。ただ、孔がある。

「なんだ、中身も処理してあるのか。手間が省けるな」
「ぁ……」
「その上見つけやすい前立腺、敏感な体、ヤりやすすぎる」
「ああっ、ァ……!」

 大智が俺の中のある箇所ばかりをぐりぐりと指先で嬲った。すぐに指は二本に増えて、意地悪くそこを突いてから、かき混ぜるように動き始めた。その度に、俺の体に未知の感覚が湧き上がってくる。全身がカッと熱くなり、何故なのか、俺の前のペニスが反応する。

「あ、あ、あ」
「声も好みだ。俺も勃ったわ。挿れるぞ」

 そう言うと大智は、コンドームという避妊具の封をきり、自分のペニスに装着したようだった。それは地球人がSEXと呼ばれる繁殖行為をする際に用いるもののはずだが、本来は男女間で使う物だ。何故、男と男型の俺のこの状態で使うのだろうか?

「うっ」

 めり込むように入ってきた亀頭は巨大で、熱く硬かった。

「ああっ――!! ンあ!」

 しかし俺が疑問を投げかける前に、ぐっと奥深くまで、大智のペニスが挿いってきた。

「あっさり根元まで挿いったな。しかも中の具合も最高だ。締まるのにトロトロ。絡みついてくる」
「ンあ――っ!!」

 大智がゆっくりと腰を揺さぶる。それから激しく抜き差しを始めた。尖端で擦りあげるように、先ほどから嬲られている場所を突かれると、俺の体が、その度にカッと熱くなる。これはまずい。俺の思考能力を奪っていく。なんというか――気持ちが良い。俺は、今まで生きてきて、こんな感覚を知ったことはなかった。

「あ、ああッ、ン――!!」
「まだまだだからな」
「ひぁ――!!」

 散々大智に激しく打ち付けられる内、俺の前の性器から、白液が飛び散った。こんな経験も初めてだ。俺は自分の性器が反応することも、なにかが出てくることも、初めて知った。そしてこの夜、俺はずっと大智に打ち付けられていて、何度もコンドームを捨てては変えた大智に貫かれていた。大智も何度も俺の中で出したのだろうが、コンドームのおかげで、俺の体からそれが垂れることはなかった。その内に俺は意識を飛ばした。エイリアンには睡眠は必要ないから、こんな経験も初めてだった。

 次に目を覚ますと、俺は大智に腕枕されていた。大智は目を開けて、じっと俺を見ていた。

「すごくよかった、固定のセフレにならないか?」
「……あ……う、うん」

 俺はコクコクと頷いた。大智を見ていると、自然と頬が熱くなる。
 セフレがなんだか分からないが、よかったというのがきっと昨夜の行為のことだろうと思い、それが嬉しかった。俺も凄くよかった。

「連絡先を教えてくれ。交換しよう」

 大智が彼自身のスマートフォンを取り出した。
 その場で俺も、コートに入れてあったスマートフォンを取り出す。

「お前、メッセージアプリ、入れてないのか? 入れてやる」
「あ、ああ」

 大智は俺のスマートフォンを操作して、アプリケーションをダウンロードした。どうやらこれで、大智と連絡が取れるらしい。つまり、また会えるし、また気持ちよくなれる。

「次はいつ会える?」
「……み、三日後!」

 現地人と会話をするという目的を達成したので、一度俺は母星に帰り、報告しなければならないが、三日後からは休暇だ。

「そうか。じゃあその日の夜、俺も空ける。連絡する」
「わ、わかった!」
「ただ、俺が手持ちのランジェリーをたくさんやるから、今後はずっと身につけておけ」
「は、はい!」

 こうして、この日は、ラブホを出て、大智とは別れた。
 ランジェリーを履いて。


「*****、********(以上が、報告となります)」

 俺がランジェリーをしっかりと穿いた状態で上司に告げると、上司がそれを凝視しながら頷いた。

「***、****(つまり、地球という星の日本という国は、我々が退化しすぎて忘れてしまった器官の使い方を学ぶには良い場所と言うことだね)」
「****!(そうだと考えられます)」
「*******(勉強団を派遣しよう)」
「***(現地の言葉で『遣○使』と言うようです)」
「***(なるほど)」

 こうして報告を終えて、俺はウキウキしながら、プライベートで地球に向かい、大智と会った。大智とのSEXは最高に気持ちがいい。ぴたりとフィットしているおパンツを脱がされて、突っ込まれると、体が悦ぶ。

 なおその後、地球は日本で、『快楽』を学んだ勉強団の経由で、俺の母星で、地球の日本は大人気となった。みんな謎だった器官でSEXすると気持ちがいいと言うことや、下着を穿くという概念を学んだ。俺達エイリアンには、地球人でいうところの男型しかいないので、今では『同性愛者』と勘違いされていることなども知っている。俺の母星から見ると、地球の日本は、要するに『風俗』と呼ばれる観光地となった。

「なぁ、太郎」

 そんなある日、ラブホで俺がメンズランジェリーを脱ごうとしていると、大智が俺の肩をそっと抱いて、俺の動きを止めさせた。

「ずっと言おうと思っていたんだが、俺はどうやら太郎に惚れてしまったらしい。恋人になってくれないか?」
「! えっ、こ、恋人?」

 それは地球人の語彙として、『愛』する相手との関係性を指すはずだ。
 俺の頬がどんどん熱くなった。エイリアンは、愛情がある相手と添い遂げる文化がある。そして実を言えば、俺もとっくに大智を愛していた。

「俺、俺、大智を愛している!」
「おう。じゃ、両思いだな。これからは、恋人として宜しくな」
「う、うん。でも、俺言わないと……俺実は、地球人じゃないんだ」
「? まぁ、お互いのプライベートの話は、これからおいおいしよう。俺は太郎が何者でも、愛する自信があるぞ。お前の中身に今じゃぞっこんだからな」

 このようにして、俺は一つの愛を得た。俺の母星では、調査先の現地人と結ばれることは決して珍しくないので、報告すると上司は頷いていた。

 俺の生活は、おぱんつを穿くように変わり、大智はいつも新しいデザインのランジェリーを俺にくれるようになった。これが俺の、恋人を得るまでの顛末だった。俺は今、おぱんつを身につけ、幸せに浸っている。



 ―― 終 ――