猫(の日)とバレンタイン(強敵チョコ)





 もうじき、バレンタインだ。俺は幼馴染のシノに、毎年『強敵(とも)チョコ』と称して、チョコレートを渡している。なお、あちらから貰った事は一度も無いし、勿論ホワイトデーにお返しを貰った事すら無い。

 本来、女性が男性に贈る事が多いというのも知っているが、スポーツや勉強のライバルに渡すらしい――即ち、この男同士でも渡して良いという強敵チョコという概念と出会った時、俺は内心喜んだ。昔から、シノの事が大好きだからだ。恋心を抱いている。

 ちなみにシノは、シノと呼ぶなと俺に言ってくる。意外と照れ屋だ。なので人前では、月村(つきむら)と呼んでいる。月村偲(つきむらしのぶ)というシノの名前は、俺にとって呼ぶだけで特別な宝物である。俺の名前は青里悠大(あおさとゆうだい)という平均的な名前であるが、こちらもシノに呼んでもらえる場合に限って特別に変わる。

 初めて出会ったのは幼稚園、その後大学三年生になった現在に至るまで、俺とシノの進路は同じだった。これは別に、俺が追いかけた結果ではない。幸運な偶然だ。シノの偏差値なら他の大学への進学という選択もあったのだろうが、家から近いという理由でシノは進路を決めたらしい。ギリギリで合格した俺とは大違いだ。

 シノは運動神経抜群、頭脳明晰、高身長のイケメンという、無いものは何かありますかと尋ねたくなるくらい完璧な存在だ。あ、一つ無いものはある。シノの表情筋は、全然働かない。表情というものが無い。そこがまたクールで格好良いと老若男女に評判だ。

 一方の俺は、運動神経は短距離走と柔軟運動のみ得意、頭脳は人並(だと思いたい)、身長も顔面造形も平均的だ。なので、シノからすれば、俺は決して強敵とは言えないだろう。だが、好敵手でなければ、強敵チョコを渡す理由には弱いので、俺はいつも張り合うように頑張っている。万が一シノに、『男同士の恋愛なんて気持ち悪い』とでも言われたら、俺は小心者なので、きっと泣きくれる事だろうし、幼馴染というポジションですらいられなくなるのも辛い。

 まぁそんなこんなで、今年も俺は、バレンタインのチョコを手作りしている。とはいうが、俺には料理のスキルも無いので、毎年市販のチョコを溶かして、生クリームを入れて、固まってきたらココアパウダーをふりまき、百均で購入した箱に詰めるという作業をするだけだ。小中校の家庭科の調理実習で見た限り、シノは料理も上手い。

「よし、完成した!」

 二月十三日の夜。今年も無事にチョコレートを作り終えたので、俺は満足して眠った。
 ――その晩、夢を見た。

「久しぶりだにゃぁ」
「虎鉄(こてつ)!」

 見ればそこには、昨年二十一歳で虹の橋を渡った愛猫の姿があった。尻尾が二本あるオスの雑種で、見間違えるはずもない。喋っているのだから、これは夢で間違いないだろう。

「またシノにチョコレートを作ったのにゃ?」
「おう。明日渡す」

 俺は己の気持ちを虎鉄にはちょくちょく聞いてもらっていたので、それに夢というのも手伝って、笑顔で頷いた。すると虎鉄が少し考え込むように尻尾を揺らした。

「明日は家から出てはダメにゃ」
「へ?」
「じゃないと、一生シノに会えなくなるにゃ」
「どういう事だ?」
「猫神様に伝えていいと言われたのはここまでにゃ」
「ほ、ほう?」

 聞きたい事は山積みだったが、その時目覚まし時計のアラーム音が響いてきた。あ、やっぱり夢だったか。と、考えて瞼を開けた俺は、一瞬で朝が訪れた事に気が付いた。

「……」

 虎鉄は、時々夢に出てくる。そして謎めいた事を言うのだが――大体、当たる。とすると、今日は外に出ない方が良いのだろう。だが折角バレンタインのチョコを用意したのになぁ……。少し悩んだが、虎鉄もまた俺にとって大切な存在なので、俺は本日は自主休講する事に決定した。

 そもそも、シノは俺のチョコを待っていたりはしない。
 大学生になって以前よりさらにモテるようになったシノは、今年も大量にチョコレートを貰う事だろう。

「はぁ……」

 なんだか寝た気がしなかったので、俺は寝なおす事に決めた。
 ――唇に柔らかな感触がした気がしたのは、それからどれくらい経ってからだったのだろうか。なんだか眠いから目を開ける気にはならず、俺はそのまま瞼を閉じていた。

「起きろよ」
「……」
「青里、起きろ」
「……っ」
「ユウ」

 その時強く名前を呼ばれ、その声があんまりにも好きだったため、俺はやっと目を開けた。毛布を奪い取られたのもほぼ同時の事だった。

「! シ……月村」

 見るとそこには、シノが立っていた。事態が呑み込めず、驚いて俺は目を丸くする。

「どうしてここに?」
「今日、雪崩があったニュース、聞いてないのか?」
「雪崩?」
「ああ。それでいつもお前が徒歩で通ってる坂が埋まってる。死傷者はいないみたいだけど、行方不明者が一名だ」
「え!」
「安心しろ。それはお前だ。大学にいないから騒ぎになっていて、連絡をしても返ってこないから、隣だというのもあって俺が見に来た。全く、人騒がせな奴だな」

 シノが珍しく長文を喋っている。俺はやはり虎鉄の夢は正しかったのかもしれないと漠然と思った。するとシノがベッドに座り、じっと俺を見た。

「おじさんとおばさんも心配して俺に連絡をよこしたぞ」
「ああ、昨日から旅行に出かけてるからなぁ、あの二人」
「……」

 俺の言葉に、シノが目を眇めて沈黙した。慌てて俺は言葉を続ける。

「悪かったな、見に来てもらって。ただ寝てただけだ。ごめん」
「具合でも悪かったのか? いいや、それは無いな」
「うん? おう、元気だけど?」
「――毎年、高熱でもこの日は這ってでも登校してきてたもんな、お前」
「まぁな! バレンタインだからな!」
「……覚えてはいたのか」
「当然だろ。月村はいっぱい貰ってきたか?」

 笑顔で俺が尋ねると、シノが首を振った。

「いいや。で?」
「ん?」
「今年は無いのか?」
「え?」
「あるだろ、どーせ。今年も、強敵チョコとやらが」
「あ、あるけど……」
「腹が減った」
「今持ってくる!」

 俺は慌ててベッドから降りた。そして階下へ向かい、冷蔵庫から箱を取り出して、自室へと引き返した。偶発的にではあるが、今年も渡せる事に決まって何よりだ。

「ほら、これだ。今年も力作だ!」
「――ん。確かに」

 箱を受け取ったシノは、それを鞄にしまった。あれ? おなかが空いてたんじゃなかったのか? 不思議に思って眺めていると、シノが立ち上がった。そして――不意に正面から俺を抱きすくめた。え、え、何事だ……?

「無事で良かった」
「そんなに雪崩は酷かったのか……?」
「あの時間帯にはお前しか通らない私道だ」
「俺は、ほら、寝てただけだから」
「全く。どれだけ心配したと思ってるんだよ、本当。バレンタインなのにお前がいないから、今年は無いのかと……ついにお前が、俺の事を諦めたのかと思って、こんな事なら去年返事をしておけば良かったと俺は後悔して、そうしたらまさかの雪崩で……最悪だ」
「月村?」
「シノで良い。なぁ、ユウ」

 久しぶりに愛称で呼ばれて、俺の胸が高鳴った。こんなに心配してくれたなんて、シノは本当に良い奴だなぁ。おずおずとシノの背中に腕をまわし返してみる。厚い友情のハグなのだろうが、ちょっとくらい良いよな?

「ユウ。あのな」
「うん?」
「俺は毎年返事をしようと思ってたんだ、これでも」
「なんの?」
「チョコの」
「えっ」

 もしかして、俺の気持ちはバレていたという事だろうか。何という事だ。そう気づいたら赤面してしまい、顔をあげられなくなってしまった。

「ユウは俺の事が好きなんだろう?」
「ご、ご、ごめん! 好きでごめん!」
「どうして謝るんだ?」
「なんかごめん!」
「――俺も、ユウが好きだ」
「えっ?」
「ずっと伝えたかった」
「ま、待ってくれ。本当に?」

 ポカンとした俺は、目を見開いた。すると俺の後頭部に手を回したシノに、胸板へと額を押し付けられて、結果やっぱり顔をあげる事は出来なかった。シノの胸の鼓動が聞こえてくる。俺のドクンドクンと煩い動悸も聞こえてしまっているのだろうか……?

「本当だ」
「信じられない。そんな気配全く感じた事が無いし!」
「気づかれたくなかったんだよ。恥ずかしかったんだ、言わせるな」
「!」
「でも、死ぬほど後悔してた。もしお前に何かがあったらと思って、寝てるユウを見るまでの間、気が気じゃなかった」

 俺はまだ夢を見ているのだろうか?
 信じられない……嬉しくて顔が融解しそうだ。嬉しすぎて涙がこみあげてきて、目が自然と潤んでしまう。

「ユウ、俺と付き合ってくれるか? それで来年も再来年も、ずっとチョコをくれ。これからは、きちんと俺も返すし渡すから」
「う、うん……俺で良ければ、喜んで!」

 勢い良く俺が答えると、シノが俺の体をゆっくりと離した。そして俺の両肩に手を置くと、顔を近づけてきた。端正な顔が近づいてくるのを目を丸くしてみていると、そのまま唇に触れるだけのキスをされた。先程、瞼を開ける直前に感じた柔らかさと同じだった。

「――おじさんとおばさんに、連絡した方が良い。俺が大学には連絡するから」
「わ、分かった……!」

 慌てて俺はスマホに手を伸ばして、メッセージを確認した。すると沢山の心配の連絡が着ていた。シノからの連絡もあった。申し訳なく思いながら返事を終えると、電話をかけていたシノもまた、操作を終えてこちらを見た。

「おじさんとおばさんは、いつ帰ってくるんだ?」
「明後日」
「そうか。じゃ――今日は二人だな」
「うん? 泊まっていくか?」

 なんだか久しぶりだなと思いながら、俺は笑顔で尋ねた。
 するとシノが眉間に皴を刻んだ。

「お前、意味分かってる?」
「シノに貸せるジャージもあるし、ゲームあるし、冷蔵庫にもいろいろ入ってるぞ?」
「全然分かってないと理解した。ユウがそんなんだから、俺も言う勇気が出なかったというか……いいや、これは言い訳だな」
「?」
「俺はユウと寝たい。ダメだな、これでは伝わる気がしない。はっきり言う、ヤりたい」
「何を?」
「……SEX」
「!」

 驚愕した後、俺は再び赤面した。俺はシノの事が大好きだが、実を言うと具体的な事は全く考えた事が無かったのである。男同士でも可能だというのは知っているが、自分が挿れるとか挿れられるという事は、考えた事が無かった。叶わぬ片想いだと信じ切っていたので、なんだか妄想上であってもシノを汚すのが申し訳なく思えた結果だ。

「ユウを抱きたい。もうずっと、俺はそればかり考えてた」
「お、お、お、お、俺で、い、い、いいの……か? え? え?」
「焦りすぎだろ、舌噛み過ぎ」

 シノが珍しく吐息に笑みをのせて優しい顔をした。一方の俺は完全に真っ赤になってしまい、プルプルと震えている事しか出来ない。そんな俺の肩を、シノが軽く押した。結果、俺はベッドに倒れ込み、気づくとシノがのしかかってきた。真正面にある端正な顔を見て、俺は瞬きをする事すら忘れた。

 再び唇が近づいてきたと思ったら、今度は深く口づけをされた。口腔を貪られ、俺は呆然としてしまう。舌を舌で絡めとられ、追い詰められていく。

 気づくとパジャマ代わりのスウェットを脱がせられていた。すぐにその下のTシャツも脱がせられる。手際良く服を開けられた後、改めて訊かれた。

「抱いても良いか?」
「う、う、うん!」
「緊張しすぎだ」

 そう言ったシノの瞳が、いつになく獰猛に見えた。この状況で緊張しないなんて、俺には無理である。繰り返すが、俺は小心者なのだ。

「ぁ……」

 シノが俺の陰茎を口に咥えた。そしてねっとりと筋を舐め上げる。その後雁首の所を重点的に、唇に力を込めて扱かれて、俺はすぐにガチガチになってしまった。短距離走が得意な俺だが、持久力は無いし、我ながら早漏だと思う。

「シ、シノ! 出る……んンっ……ぁあ!」

 そのまま呆気なく放った俺は、肩で息をした。シノの喉仏が動き、俺が出したものを飲み込んだのだと理解する。恥ずかしくなって、俺は思わずギュッと目を閉じた。すると直後、シノの人差し指が俺の後孔へと挿いってきた。

「っく」
「辛いか?」
「平気だけど……っ、ッ……ぁ……」

 指はその後、二本、三本と増えた。縦横無尽に動くシノの指が、俺の内壁を広げていく。次第に俺の体がじっとりと汗ばみ始めた。

「あぁ!」

 内部のある個所を刺激された時、ゾクゾクとした感覚が、俺の背筋を這いあがった。

「ここか」
「んン――!」

 シノがそこばかり重点的に刺激し始める。そうされていると、すぐに俺の陰茎が再び張りつめた。中を弄られて前が勃つなんて、俺は知らなかった。はっきり言って、気持ち良い。

「そろそろ挿れるぞ」

 そう宣言したシノは、その後ベルトを引き抜き下衣を乱すと、俺の菊門に陰茎をあてがった。

「う、ぁ……ァあ! ああ!」

 グッと押し広げられる感覚がする。指とは全く違う存在感に、俺は思わず体を震わせた。交わっている個所が熱い。自然と腰がひけてしまいそうになったのだが、シノが片手で俺の腰骨を掴み、もう一方の手で太股を持ち上げている為、逃れられない。

「あああ!」

 そのまま貫かれて、俺は嬌声を上げた。

「力抜けるか?」
「む、無理……ぁ、ァ……あ、ああ! ぁン、ん……ね、ねぇ、シノ」
「ん?」
「気持ち良いか?」
「っ、当たり前だろ」
「良かった……ぁ、あああ!」
「ユウは?」
「あ、あ、俺も気持ち良、っ……んン――!」

 激しい抽挿が始まり、肌と肌がぶつかる音が響き始める。そうして今度は内部を何度も突き上げられて、俺は射精した。頭が真っ白になり、肩で息をしていると、ほぼ同時にシノもまた俺の中へと放った気配がした。

 ――こうして、俺達の関係は、幼馴染から恋人同士に変化した。
 一番の大きな変化は、講義が被っている場合、一緒に通学するように変わった事だろうか。シノは、ちょっと過保護だ。俺がたまに歩道の雪が凍っている所で転びそうになると、必ず抱き留めてくれる。隣を一緒に歩きながら、俺はいちいち照れてしまう。

 なお、あの日が嘘のように、シノのそれ以外の態度は以前の通りになり、口数は少なく表情筋もあまり仕事をしない。けれど今日で、付き合ってから一週間になる。本日は二月二十一日だ。隣にいるのが信じられないくらい幸せだと思いながら、帰宅して俺はシャワーを浴びて、この日は早めに休む事にした。

「幸せそうで何よりにゃ」
「虎鉄!」

 すると虎鉄が再び夢に出てきた。尻尾を揺らしている虎鉄に、俺は笑いかけた。

「この前、雪崩から助けてくれて有難うな!」
「きちんと伝わって良かったにゃ。明日は猫の日だからして、たっぷりまたたびをお供えして欲しいにゃ」
「任せろ!」
「シノと仲良くするようにするにゃ!」
「頑張る」

 とは言っては見たものの、実を言えば本当に俺でいいのか、すごく不安でもある。シノはあまり口に出しては好意を見せてくれない事もあり、もし一時の気の迷いだったらどうしようという不安が常にある形だ。俺の方が、圧倒的にシノの事を好きすぎる。重いと思われていたらどうしよう……。

「――そのためにも、明日一日だけ、シノの感情がよく見えるように、猫又の魔法をかけておくにゃ」
「へ?」
「応援しているにゃ!」

 その時アラームの音がし、この日も俺は目を覚ました。不思議な夢だなと思いながら、俺は本日は二限から同じ講義なので、ゆったりと準備をしつつ、夢の通りにまたたびをお供えした後は、シノの事を考えていた。インターフォンの音がしたのは、待ち合わせの時刻の通りで、俺は鞄を持ち、玄関へと向かった。

「!」

 そして扉を開けて驚いた。無表情で立っているシノはいつもと変わらないのだが――その頭部には二つの猫耳、後ろには一本の長い尻尾が見える。え、何だこれ?

「いってらっしゃい、いつも有難うね」

 そこへ母が顔を出したが、シノの姿に疑問を持った様子はない。どうやら、俺にしか見えていない様子だ。唖然としていると、シノが母に会釈した後、俺を見た。

「行くぞ」
「お、おう……」

 淡々とした声音を放って歩きだしたシノの隣に並ぶ。しかしついつい、耳と尻尾を見てしまう。表情は変わらないが、その尻尾は、俺が隣に並んだ瞬間、ピンと立った。これは、虎鉄の事を振り返る限り、非常に機嫌がよく喜んでいる時の状態だ。

「……シノ、何か良い事でもあったのか?」
「別に? いつも通りだ」
「そ、そうか」

 だとすると、自意識過剰かもしれないが、俺が隣にいるから喜んでいるのだろうか? いや、そんなまさかな。そう考えつつ、大学へと向かい、昼食も一緒に食べて、帰りはシノの家に帰宅した。シノのご両親は海外赴任中なので、最近は俺がシノの家に遊びに行く事が多い。

「ユウ」

 リビングに座っていると、シノが後ろから俺を抱きしめた。真横にシノの顔が見える。つまり耳も見える。

「明日は講義、無いよな?」
「うん」
「泊まっていかないか?」
「!」

 少しだけ掠れた声で囁かれた。
 そのお誘いに、俺は真っ赤になった。それから顔を向けて、チラリとシノの尻尾と耳の状態を確認すると、とても楽しそうだった。獲物を取る前というか玩具にじゃれる前というか、そんな臨戦態勢の気配も感じる。

「……泊まる」

 小声で俺が答えると、尻尾がよりピンと立った。とても嬉しそうである。耳も可愛い。なんだこれは、シノが可愛い……! 表情に出ない分、尻尾と耳の変化が顕著で露骨で、気恥ずかしくなってくる。俺はシノの腕に両手で触れながら、なんだか幸せな魔法だなぁと内心で考える。虎鉄は、本当に良く出来た猫だ。

 その後、俺は先にシャワーを借りた。
 出ると、シノが料理を作っておいてくれた。二人で食事をする最中も、俺はシノの耳と尻尾に釘付けだった。食後は俺がお皿洗いを買って出て、その間にシノがお風呂に入った。緊張しながら、俺は一人で赤面しながらお皿を洗う。もう俺は、『泊まっていく』の意味を正確に理解しているからだ。

 こうして――シノが出てきてから、俺達は少し早いが、シノの部屋で同じベッドに入った。正面から向かい合って座し、何度も何度も唇を重ねる。啄むようにキスされた後、シノが俺の顎を持ち上げて、より深いキスをした。猫耳がついているせいなのか、本当にシノの瞳が獰猛な猫のように見える。

「ん」

 舌を甘く噛まれると、鼻を抜けるような声が零れた。
 それから互いに服を脱がせあい、何度もキスをしてから、俺は押し倒された。
 どうしても頭部の猫耳に視線が向かってしまう。

「ぁ……」

 だが右胸の突起を唇で挟まれると、すぐにそんな余裕が無くなった。シノがチロチロと舌先で俺の乳頭を刺激する。もう一方の手では、陰茎を撫でるように覆った。そして指先で俺の筋をなぞっている。すぐに俺の体は熱を帯びた。

 そのまま全身を愛撫され、後孔を解されてから、不意にシノに抱き起された。

「今日は上に乗ってくれ」
「う、うん」

 俺はベッドの上に膝で立ってシノに跨り、ゆっくりと腰を下ろす。その俺の腰を両手で支えながら、菊門へとシノが陰茎をあてがった。挿入の衝撃に、俺は背を撓らせて、息を詰める。

「んン……っ、ぁ……」

 十分解されていたから痛みは無い。そのままゆっくりと先端を飲み込み、俺は必死に吐息した。両手をシノの肩に置き、その後も体を落としていく。そうして根元まで入り切った時、俺の全身は汗でびっしょりになっていた。

「ふ、深い……ぁ、ァ……ああ!」

 初めて知る最奥を暴かれ、体を揺さぶられた時、俺は声を上げた。まずい、気持ち良すぎて息が出来ない。グッと俺の深い場所を押し上げているシノは、相変わらず獲物を取るような眼をしている。

「あ、あ、あ」
「すごいな、絡みついてくる」
「ぁア……んっ、ぅ……ふぁァ」

 シノが突き上げ始めた。その度に、俺の口からは声が溢れる。体に力が入らず、俺は思わずシノにしがみついた。するとより深くまで抉るように穿たれる形となり、俺は震えるしか出来なくなった。

「ああ、ぁ……ア! ああ! んっ、ぅあ!」
「好きだぞ、ユウ」
「俺も、俺も好きだ――あああ!」

 そのまま激しく内部を責め立てられて、俺はその感触だけで果てた。飛び散った俺の白液が、シノの腹部を濡らしている。しかしシノの動きは止まらず、俺は涙をボロボロと零した。快楽が強すぎて、理性が飛んだ。

「あァ――! あああァ! あア!」

 そして連続で昂められ、今度は射精していないのに達したような感覚に陥った。足の指先を丸めて、快楽の奔流に耐える。震えながら、中にシノが放ったのを感じた。その後、俺はシノの胸板に体を預け、目を伏せた。涙で頬が濡れているのが分かる。あんまりにも気持ち良かったせいだ。

 この夜は、そのまま俺は寝入ってしまったようだった。そして翌朝、シノの腕の中で目を覚ますと、もう猫耳も尻尾も見えなくなっていた。珍しく微笑しているシノは、俺を腕枕しながら、じっとこちらを見ていた。

「ユウはもう少し体力をつけろ」
「シノが絶倫なんだと思う!」
「俺についてこれるようになってくれ」
「体がいくつあっても足りないだろ、それ!」

 思わず声を上げたが、頬が熱い。シノは、陰茎まで大きく長く、本当に欠点は何処にあるのかと聞きたい。そこを行くと、俺はこちらも標準的だ。

「もう一回したい」
「う……良いけど……」

 こうしてこの日は、講義がお休みなのを良い事に、散々交わった。
 そんなこんなで、俺とシノの関係は続いていく。
 思い返せば、虎鉄のおかげで叶った恋でもあるのかもしれない。多分虎鉄は猫又になったのだろうと、俺は考えている。元々尻尾も二本あったしな。きっと虹の橋の向こうから、俺達を見守ってくれているに違いない。そんな、色々あった二月の顛末。俺は今年の事を、生涯忘れなかった。隣には、ずっとシノがいたのだけれど、それはまた別のお話である。






     【終】