ドロップを舐めながら




 仏壇を拭いてから、俺は遺影を見上げた。

 俺の曾祖父は、第二次大戦中にどこかの島で戦死したと聞いている。幸い遺骨は戻ってきたそうだった。若い頃の曾祖父の歳と、現在俺は同じ歳で、二十四歳。大学卒業時、就活に失敗して地元に戻ってきた。今は実家の畑を手伝いながら、青年団などに入ってまったりしている。

「はぁ。青年団の仕事も忙しいんだよなぁ」

 思わず溜息を零したのは、八月のお盆の時期に、恒例の盆踊り大会が公民館の前で開催されるのだが、青年団のメンバーは全員がその準備と当日の屋台などに駆り出されると決まっているからだ。俺も色々な役割を割り振られている。

「……」

 俺は再び遺影を見上げた。歳も同じだが、俺と曽祖父は――なにより顔がそっくりだ。生き写しだと言われている。実際俺が見ても、よく似ている。

「悠斗(はると)、ご飯よー!」

 その時母の声がしたので、俺は仏壇の間を後にした。

 本日はキュウリの辛子漬けが幅を利かせている食卓で、俺は夏野菜を焼いたものを食べながら、肉不足を訴えたが、母は取り合ってくれなかった。父は本日は農協の会合だ。

 食後俺はシャーベット状のアイスを食べながら、ダラダラとテレビを見ていた。冷たい甘さがたまらない。もっとイチゴ味が欲しくなって、その後はドロップを舐める事にした。レトロな缶が俺は好きだ。

 この時期は、終戦記念日も近いから、過去の戦争関連の特番が増える。

 空襲についての報道特集を見ながらイチゴ味の飴を舐めていた俺は、この辺りは田舎すぎて疎開先にすら選ばれなかった過去があるという話を思い出した。俺の実家は、本当にド田舎にある。

 そんな風にテレビを見て過ごしたからなのか――俺は、夢を見た。

 夢の中で俺は、慣れない銃を持ち、上官を見上げていた。上官は、俺よりずっと背が高くて、整った顔立ちをしていた。スッと透った鼻梁をしていて、切れ長の瞳をしている。その薄い唇が、このままでは敗北すると、確かに言った。

 ……それはそうだ。

 日本は、第二次大戦で敗戦している。俺は夢の中ではリアルに上官の言葉を聞きつつ、一歩引いた部分では冷静に『これは夢だ』と考えて、史実の歴史を思い出していた。ただ、この夢の続きも知っていた。この上官の話が終わってすぐ、敵が攻めてきて、自害前に俺達は全滅するのである。そして、そうなった。

「――ッ!」

 俺は飛び起きた。既に夜が明けていて、時計を見れば、もう午前八時だった。
 夢の時間は一瞬だったようにも思ったが、十分ぐっすり眠っていたらしい。

「びっくりしたなぁ。また芳賀(はが)沼(ぬま)大尉の夢を見るなんて」

 呟いて、脳裏に上官の顔を思い浮かべてから、俺はハッとした。

「芳賀沼……? なんで俺、名前知ってるんだ……?」

 首を捻ってみるが、よく分からない。それはそうと、今日も青年団の集まりが昼からあるし、朝食を食べておきたい。俺は服を手に脱衣所へと向かい、その後シャワーを浴びて、根汗を流した。そしてデカデカと文字がプリントされたTシャツを来てから、キッチンへと向かった。母はパートに出かけているらしい。その場で俺は、なんとか卵焼きを作り、それをおかずに朝食とした。



 青年団の集まりが行われる公民館は、長鷹(ながたか)小学校の隣にある。

 俺が二階の大会議室に顔を出すと、既に多くの青年団のメンバーが集まっていた。夏祭りに限っては、男女別に別れてそれぞれが毎年担当するものを決めている。近年は男女平等と少子化で、一緒に活動する事が多いのだが、この土地の盆踊りは、もとを正すとその歴史は嘘かまことか縄文時代の祭祀と習合したものだそうで、『男がやる事』や『女の仕事』というのが、古くから決まっている。母なんかは、「古臭くていやよねぇ」と言っている。窓からは、スポーツ少年団に所属する小学生の声が聞こえてくる。俺は何気なくそちらを見て、見知った顔を見つけて歩み寄った。

「よぉ」

 俺の三歳後輩で、高卒でこの土地の建設会社に就職した箱崎(はこざき)が、俺の声に振り返った。

「悠斗先輩、どもっす」
「お前のとこの子も、もうすぐ小学生だっけ?」
「いやぁ、まだ保育所ですって」

 箱崎が笑った。それから窓の外に視線を戻す。

「甥っ子が小学生なんすよ。ほら、あそこでバット振ってる」
「へぇ!」

 つられて視線を向け、俺は職員玄関から出てきた人物に目をとめた。シャツ姿で、背が高い。既視感がある。切れ長の目、通った鼻筋、ええと……。

「なぁ、箱崎? 今出てきたの誰?」
「ああ。夏休みのちょっと前から非常勤講師で来てる芳賀沼先生ですよ。芳賀沼保(たもつ)先生」
「……え?」

 芳賀沼……?

 その名前を聞いた瞬間、夢の中の軍服姿の上官と、校舎から出てきた講師の先生の顔が重なって見えた。名前は俺の勘違いかもしれないし、夢の名前など何故知っているのかも不明だが……顔はすごく似ている。というのも、俺は戦争の夢を、毎年お盆が近づくと見るからだ。初めて見た時から、全滅すると知っていたから不思議なものだが。

「先生がお一人、急病で退職なさったから、大変みたいっすね」
「そ、そうか」
「確か大学院卒で二十四歳だったかなぁ。先輩と同じ歳じゃないっすか?」
「かもなぁ。今年の春卒業だったなら、多分タメだ」

 俺は何故なのか胸騒ぎがしていたので、そんな思考を振り払い、箱崎に向き直った。
その後少し雑談をしていると、本格的に盆踊りについての話し合いが始まる事になった。




 ――この夜も、俺は夢を見た。

 いつも夏に見る夢と、昨夜の夢と同じで、俺は軍服を着ていた。だが、いつもとは違う事に、海辺の砂浜に座っていて、隣には上官がいた。

 そうだ、思い出した。夢の中で思い出すというのも変だが、俺は、覚えている(?????)。

 上官の芳賀沼大尉と俺は、どちらも妻を早くに亡くし、実家の母に子供を預けていた。身の上が同じだったから、隊の中でも話を頻繁にするようになった。この三日月が海に映る夜も、俺達はヤシの木の下で、子供達は元気だろうかと話をし――その後、見つめ合った。お互い、連れ合いをなくしていたから、だけではない。いつの間にか、俺達は惹かれあっていて、人目を忍んで唇を重ねるようになっていた。

「んぅ」

 薄い芳賀沼大尉の唇が、俺の口を塞ぐ。入り込んできた舌で、舌を絡めとられる。
 何度も何度も舌を絡めあい、俺達は深々とキスをした。
 ドサリとその場で押し倒され、俺の後頭部の髪が白い砂に触れた。

「ぁ……」

 俺の首に芳賀沼大尉が吸い付いて、キスマークをつけた。するとツキンと俺の体が疼いた。そのまま服を乱されて、今度は胸の突起を吸われながら、片手で陰茎を撫でられる。

「んン……っ、ふ」
「愛している」
「あ、俺も……」

 そうしてじっくりと全身を愛撫されてから、芳賀沼大尉に挿入された。押し広げられる内側の感覚に、俺の背筋をゾクゾクとした快楽が走り抜けていく。根元まで入ったところで、荒く吐息し、芳賀沼大尉が腰を揺さぶった。

「あ、あ、あ」

 俺の口から声が漏れる。ドロドロに体が熔けてしまいそうだ。気候もあるが、快楽由来の灼熱が酷い。芳賀沼大尉と繋がれる喜びも大きい。次第に芳賀沼大尉の動きが早くなっていく。俺は思わず、芳賀沼大尉の体に腕をまわした。そんな俺の腰を掴み、一際強く打ち付けて、芳賀沼大尉が放つ。ほぼ同時に、俺も吐精した。

「正(まさ)悠(はる)、生まれ変わっても会いたいものだな」
「会いに来てください。待ってます」

 俺は自分の声で目が覚めた。

「……」

 目を開けると既に朝だったが、男と体を重ねたという夢の感覚が、はっきりと残っていた。そして俺のボクサーはベタベタだった。え、嘘だろ?

「……とりあえず、シャワー……」

 まさかの夢精に狼狽えつつ、母には隠れて浴室へと向かい、俺は頭から温水をかぶった。

「……正悠って、曾祖父(ひいじい)ちゃんの名前だよな……?」

 夢の中で、俺は曾祖父になっていたのだろうか。首を捻ってみる。

「『待ってる』か。皮肉だよな。還ってくる曾祖父ちゃんの魂をお迎えするのは、子孫の俺達だし。生まれ変わりなんてないだろうしなぁ。いや、でも、輪廻転生は仏教概念化……? 俺、宗教ってわっかんないんだよなぁ……まぁ、夢はただの夢だしな」

 ブツブツ呟きながら、俺はシャワーを終えた。



 今日は、俺の名目上の仕事の農作業がある。兼業農家の小さな畑なのだが、無職というのは体裁が悪いので、俺はここでキュウリやピーマン、トウモロコシなどを育てている。田舎では、まだまだ世間体を気にする。世の中では、リモートワークというのが導入されているようだが、生憎俺には、そうした仕事もない。

 トウモロコシを見ていると、誰かが車道を通りかかった。何気なく視線を向けて、思わず俺は息を呑んだ。そこに立っていたのは、昨日も夢に出てきた芳賀沼大尉――に、そっくりなので、夢の人物のわけはないから、非常勤講師の先生だろう。

 日に透けて、紙の色が薄い茶色に見える。元々色素が薄いのかもしれない。

あちらも俺に気づいた様子で、立ち止まるとこちらをじっと見た。そして目を見開いた。

「あの……すみませんが、この辺りに柚木(ゆぎ)澤(さわ)さんのお宅があると伺ったのですが……」
「あ、この辺りで柚木澤は、俺の家ですが……?」
「だろうなぁ」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」

 軽く手を上げ、先生が首を振った。

「俺は、芳賀沼保と言います」
「柚木澤悠斗です」
「少しお話したい事があるのですが、それと、柚木澤正悠さんのお仏壇にお線香をあげたくて。ご家族の方ですよね?」
「え? ええ。曾祖父です。ちょっと待ってて下さいね」

 俺は頷いてから、近くの水道で手を洗った。
 そして芳賀沼先生の前に立つ。

「曾祖父とは一体どういう?」

 歩きながら尋ねると、隣をついてきた芳賀沼先生が静かに言う。

「実は一昨年、俺の祖父が亡くなったのですが、遺言がありまして」
「遺言?」
「ええ。祖父が曾祖父から、手紙で、『柚木澤正悠さんに会いに行ってほしい』と頼まれていたそうなんです。曾祖父は戦死したのですが、部隊が一緒だったようです。それで俺に、代わりに会いに行ってほしいという遺言でした」
「……そ、そうですか。あ、どうぞ」

 すぐに家についたので、俺は家の中に芳賀沼先生を促した。
 そして仏壇の間に真っ直ぐ通した。
 すると座布団に座り、お線香を立てて目を閉じ、芳賀沼先生が手を合わせた。

 随分と長い事そうしていたので、俺は隣の居間に、麦茶と茶菓子の用意をパーフェクトに終えていた。

「よろしければ、お茶でも」
「ありがとうございます」

 漸く立ち上がった芳賀沼先生を案内し、俺は居間のローテーブルの前に座った。
 俺の正面に、先生も腰を下ろした。

「と、いうわけで、改めてご説明すると、会いに来たわけです」
「な、なるほど」
「――睡眠時も、何度も『会いに来てほしい』と言われた夢を見たものだから、なんというか……変な話をしても構いませんか?」
「どうぞ」
「貴方にそっくりな、いいや、曾祖父さんにとなるのか、とにかくその顔で、その声の、軍服を着た青年が、俺の夢には頻繁に出てくるんです。そして砂浜で、『会いに来い』と、夢の中で俺に言うんです」
「そ、その……ものすごく似たような夢を昨夜見て、俺は、俺の顔をしている、曾祖父と同じ名前の人物の視点で夢を見ていて、芳賀沼先生にそっくりの上官の方に、『生まれ変わったら会いに来てほしい』というような事を言っていました」

 俺が素直に答えると、麦茶のコップに手を伸ばしながら、芳賀沼先生が片目だけを細くした。そして静かに頷いた。

「貴方を一目見た瞬間に、『あ、正悠だ』と、頭の中で思いました」
「今、俺は、悠斗という名前なので、そう呼んでください。芳賀沼大尉」
「俺も保という名前だから、そう呼んでくれ。いや、あるものなんだな、輪廻転生なんて」
「ですね。本当、びっくりだよ」

 俺達は顔を見合わせた。当時も同じ歳だった事も思い出した。
 この時、完全に俺の頭の中に、前世の記憶が蘇った。

「それで会いに来たわけだが、その……」
「その?」
「……まだ、俺を好きでいてくれたりはするのか?」

 不意にカッと頬に朱を差して、保先生が言った。昔から照れ屋だった上官の事を、俺は思い出して気分がよくなった。いつも男前なのだが、意外と可愛い。

「勿論! 保先生は?」
「俺は、気持ちが変わらない」
「って事は、今も俺達は、相思相愛ですね!」
「あ、ああ」
「しかも平和な世界だし!」
「お前は変わらず元気だな……」

 保先生が微苦笑した。俺はクスクスと笑ってしまう。当時も良く、元気が取り柄だと褒められた記憶が蘇ってきた。

「先生って非常勤なんですよね?」
「ああ。なるべくここに長くいられる職を探した結果がこれだった。赴任期間が終わったら、そこで終わりとなるが」
「折角再会できたのに、遠恋かぁ。でも、今って交通手段も発達してるから余裕ですよね? アプリで通話も出来るしな?」
「ポジティブさも変わっていないんだな、なによりだ」

 保先生が嬉しそうな顔に変わった。若干、生温かい目をしているようにも見えた。なんでだよ?

「明後日の盆踊りは来られますか? 俺、それまではちょっと忙しいんだ」
「ああ、公民館前でやるそうだな」
「ですです。俺、ワタアメ屋さんやるんで、来てくださいね!」
「分かった。とりあえず今日は、再会できてよかった」
「俺も同じ気持ちです。じゃあ、次は、盆踊りの日の、お祭りの後に待ち合わせで。俺、約束があるって言って、青年団の打ち上げ抜けるんで」
「それは抜けたいから俺と約束を取り付けていないか?」
「ダメですか?」
「べ、別に構わないが」

 そんなやりとりをし、暫くは思い出話に花を咲かせた。



 こうして、盆踊り当日が訪れた。俺は沢山の子供や大人に、ワタアメを振る舞った。そうしていると、花火が始まる直前になって、保先生が顔を出した。

「はっぴ、似合ってるぞ」
「保先生も浴衣すごい似合ってる」

 俺達がそんなやりとりをしていると、隣でイチゴ飴を売っている箱崎が驚いた顔をした。

「あれ、お二人って知り合いだったんすか?」
「まぁそんなとこだ。箱崎、保先生にもイチゴ飴を一つわけてくれ」
「あいよー」

 箱崎が頷くと、柔らかな表情で保先生が笑った。

 花火が始まったのはその時の事だった。夏の夜空に、様々な色の花が散る。大輪の花火が、いくつもいくつも打ち上げられて、至近距離まで火が落ちてくるような錯覚にとらわれる。これは近くの河原であげている。

「綺麗だな、悠斗」
「うん、そうだな。保先生」

 本当に、平和だ。俺は保先生と、この世界で再び巡り合えて心底嬉しい。
 それから少しして、祭りは閉幕し、一時間ほどは後片付けに追われた。

 保先生は車の中で待っていてくれるとの事だったので、俺は『待ち合わせがある』と大きな声で言って、駐車場へと向かった。

「お待たせしましたー!」
「お疲れ様」

 俺が助手席に乗り込むと、保先生がシートベルトを締めた。

「俺の家に来ないか?」
「行く」

 こうしてすぐに行先は決定した。

 一軒家を臨時の教員住宅として借りているという保先生は、よく掃除された部屋に、俺を案内してくれた。昔から几帳面な性格をしていたこ事も、記憶に甦ってくる。

「悠斗」

 畳の部屋に入ってすぐ、保先生が俺を抱きしめた。俺は視線で、隣の半分ほど空いている襖の向こうに、布団が敷いてあるのを確認した。

「布団……俺達、いっつも砂浜だったから……」
「ああ、そうだな」

 俺達はそれから唇を重ねて触れあうだけのキスをした後、隣室へと移動した。保先生が迷いなく俺を、布団の上に押し倒した。

「んぁ……ァ……」

 右胸の乳頭を甘く噛まれて、思わず俺は声を上げた。昔から俺は、右胸が弱い。
 左側の乳首は、指と指の間に挟まれて、振動するように動かされている。

「ぁ、ぁ、ぁ」

 ツキンと、両胸から快楽がしみ込んでくる。触れられているだけで、俺の陰茎はすぐに反応を見せた。愛撫しながら手際よく俺の服を開けた保先生は、乱れた浴衣姿で俺にのしかかっている。

「っく、ひぁァ……ん、ぅ」

 二本の指をしゃぶり、保先生が俺の後孔を解し始めた。最初は一本、それから二本と指が増え、それが押し広げたりかき混ぜたりするように、俺の内側で動く。

「ああ!」

 前立腺を刺激されたのは、だいぶ解れた時の事だった。その刺激で、俺の陰茎はより一層張りつめ、先走りの液が垂れ始める。

「ここが好きなのは変わらないんだな」
「ん、ぁァ……そ、そこばっかり、は、ゃ、あ、あ」

 意地悪く前立腺ばかりを刺激されて、俺は涙ぐんだ。頭が真っ白になる暗い気持ちいい。その後指を引き抜き、保先生が俺の菊門に先端をあてがった。そして、一気にそれが挿いってくる。

「あ、ああっ、んァ!」

 雁首が挿いりきった時、一度荒く吐息してから、そのまま根元まで保先生が俺の中に挿入した。硬い楔で穿たれて、俺は喉を震わせる。

「あ、ァ……ひ、ぁァ……あ、あ、保先生」
「ん?」
「好きだ」
「っく、俺もだ。愛してる」

 保先生の動きがいきなり激しい物へと変わった。唐突に抽挿が始まったものだから、俺は先生の体にしがみつく。

「んン――ああ!」
「悪い、一度出す。持たない」
「ああああ!」

 保先生が俺の中で果てた。俺の陰茎もよく引き締まった先生の腹筋と擦れ、勢いよく白液を放った。俺が肩で息をしていると、陰茎を引き抜き、先生が俺の横に寝転がった。

「あんまりにも悠斗が好きすぎて、持っていかれてしまった」
「気持ち良かったです」
「そ、そうか。お前は昔から素直だよな」
「それも取り柄だろ? 昔、言ってくれたと思いますけど?」
「ああ。言ったな」

 優しい顔で笑う保先生が愛おしいのは、俺も同じ気持ちだ。
 その後この夜、俺達は何度も何度も交わった。平和な世界で、布団の上で。



 ――以後。

 俺と保先生は、恋人同士となった。

 お盆には、祖霊が帰ってくるというが、俺と保先生の場合は、既に人の体に生まれ変わっているので、当てはまらないと考えられる。俺達がたまたま同じような夢をそれぞれ見ていたのでない限り、輪廻転生してしまったのは確かだし、俺はまた巡り合えて嬉しい。

 不思議なもので、保先生と恋人同士になってからは、お盆になっても戦争の夢を見なくなった。代わりに、毎日のように実物の顔を見ている。俺はほぼほぼニートだったため、保先生の赴任期間が終わり、一次的に大学院へと戻ると聞いた時、思いきって一緒に暮らす事に決めて、家を出た。現在俺達は、ルームシェアという名の同棲中である。

「悠斗」
「あ、おかえり」

 俺が茄子ときゅうりをカゴに入れて洗っていると、大学院から保先生が帰ってきた。今夜は野菜炒めの予定だ。俺が作るので、肉が幅を利かせる予定である。

「そろそろ付き合って一周年だな」
「ああ、そうだな。またお盆の時期が来た」

 俺が頷くと、柔和な表情で、保先生が笑った。今の俺も、そして曾祖父だった俺も、保先生のこの表情が、一番好きだ。転生しても、変わらない気持ちだ。

「今夜はベランダから、近くの夏祭りの花火が見えるはずだ」
「楽しみだな、保先生」

 そんなやりとりをし、さらに俺達は笑いあう。幸せだなと思いながら、俺は静かに目を伏せる。そして祈った。今度こそ、平和な時が続きますようにと。


 ―― 了 ――