大スカとはなにか?


「はぁ。今日の会議も疲れたなぁ」

 とはいえ、リモートなので、大分気楽だ。俺は、須藤洋平と入力し、専用会議アプリからログアウトした。そして――開いたのは大手電子同人販売サイトである。最近の俺は、仕事が終わるとこのサイトを見ている。

 主にBLを見ている。別に俺は腐男子というわけではないのだが、さくっと読みたい時から特濃な感じを求める時まで、BLは幅が広いので探しやすいからよく読む。

 きっかけは、ルームシェアをしているゲイの友人、三笠紡の紹介だった。三笠は現実と空想は別だけどBLは楽しいよと俺に勧めてきて、俺は興味本位で最初に買った。

 さてそんな俺であるが、本日の気分は……ドがつくシリアス。
 でも最後には救いが欲しい。

「なんかないかなぁ」

 こうしてサイトを閲覧していると――「ん?」

【大スカ短編集〜シリアスから溺愛まで〜】

 という電子同人書籍の広告が出ていた。なんだこれは。いいじゃないか。シリアスって書いてあるし、大スカってあれだろ? 浣腸されて泣きじゃくって出ちゃって、みたいな?

 と、俺は意気揚々とカートにその作品をいれ、すぐに決済をした。


 ***


 ――僕が生まれた貧民街は、本当に酷い有様だった。食べるものがなく、ふらふらと僕は今日も道を歩く。ついに、ガクンと体から力が抜けた。最早、涙すら出ては来ない。両手を地についた僕の視界には、大便が入った。貧民街には満足にトイレもないから、垂れ流されていることも珍しくはない。僕は……空腹が限界で、両手で少し柔らかなその大便を持ち上げた。ぽたり、と、指の間から大便が零れていく。嫌な臭いがする。けれど、僕は死にたくない。震えながら、僕は手を口に運んだ。


 ***

「なんか違う! 違う! 悲しい話だけど、そーじゃねぇ!!」

 思わず俺は、目次に戻った。シリアスはシリアスだ。詐欺ではない。それに大スカ……? 食糞も含まれるのかもしれないが、俺のイメージとは著しく異なる……!!

「……気分を変えよう。こっちの溺愛なら、いいかもな。きっと初々しいカップルが、初めての行為の前にするとかそんなんだろ」

 俺は目次からその作品へと遷移した。


 ***


 ――僕は兎獣人だ。今日もふわふわタウンで、みんなと遊んでいる。主食は人参だけど、僕の大好物は、自分のうんちなんだよ。えへへ。

 ***

「違ぁぁぁぁあう! 確かに兎は食べるっていうけど! これも違う!!」

 俺は電子書籍じゃなかったら、壁を本に投げつけていたことだろう。唇を尖らせた俺は、不満で不満で仕方がない。

「ただいま」

 そこへ三笠が帰ってきた。大学の同期の三笠は、今は外資系の会社の営業をしている。大学時代は男を取っ替え引っ替えしていたが、なんでも『本命が出来たから』とのことで、この部屋でルームシェアを初めて三ヶ月くらいしてから、それがピタリと止まった。連れ込まれたら適わないので、俺としてはありがたい。だが俺は知っている。三笠の部屋の掃除を頼まれた時に見た。あいつのクローゼットの中には、拘束具だのローションだの浣腸だのが入っている。極太のバイブとかも。本命さんは、きっと苦労することだろう。

「おう、おかえり。なぁ、聞いてくれよ!」
「どうしたの?」
「あのな? お前、大スカってどう思う?」
「なんの話?」
「いや、だから、ん……性癖? BLで今、見てたんだよ! そしたらさぁ」

 俺はかくかくしかじかと三笠に鬱憤をぶちまけた。スーツジャケットを脱ぎ、ネクタイをほどきながら、三笠は俺の話を聞いているのかいないのか、いつもと同じすました顔をしている。蕩々と嘆きを語った俺は、それから肩を落として溜息をついた。

「俺はドシリアスな浣腸から開始するBLがよみてぇんだよー!」
「ねぇ、須藤」
「ん?」
「じゃあ、ちょっとやってみようか。自分の身体で。実践大事」
「――へ?」



 それが、三十分ほど前のことである。唖然としていた俺は、ネクタイで両手首をまとめて縛られて、ぼけっとしている内にベルトを引き抜かれて、下半身を露出させられた。そして、ずぶり――と、容赦なく浣腸を挿入された。「うっ」と、生ぬるい水が入ってくる感覚に俺は涙ぐみつつも、ネクタイが椅子に固定されているせいで身動きが取れない。変に動いたら椅子が倒れて、俺は頭を打つだろう。

 ぐるぐるとお腹が痛くなってきた俺は、情けない顔で三笠を睨んだ。

「頼むからトイレに行かせてくれ!」
「大丈夫だよ。下にピクニックシートを敷いたし。その上にはゴミ袋も敷いたし。猫の砂とペットのトイレシートも敷いたし」
「なに一つ大丈夫じゃない! 頼む! 出る! 出るからぁ!」
「それが目的でしょ? 第一、これ以上のシリアス展開、ないじゃないか。いやなのに自分の体で〜なんて」
「いや、そこはほら? 最終溺愛っていうの? 本当は三笠の本命は俺で、思いあまっちゃって、からの相思相愛みたいなさぁ! って、出るから!」
「――それは、俺の願望だけど、意外と鋭いんだね。いつも鈍くてどこに頭脳をおいてきたのかって思うほどなのに」
「そんなことはどうでもいいから……っ、うあっ」

 ちょび、っと、出た。俺の背筋が粟立つ。出た。確実に今、水のようなものが出た……出てしまった。なんということだ。

「頼む、頼む、頼む! 三笠、お願いだ。おい、なぁ、出る! ってか、出た!」
「まだ出てないよ。浣腸の中身がちょっと漏れただけ」
「冷静に言うなよ! 俺にとっては、それはもう、出てるんだよ!」

 泣き叫んで俺はかぶりを振った。俺の黒い髪が揺れたのが分かる。
 三笠は薄茶の瞳で、そんな俺を眺めている。忌々しいほどにいつも通りのイケメンだ。

「ぁ……ああっ……あ! 出……――うあぁああ」

 その時、水音がした。俺の尊厳が破壊された瞬間でもある。
 俺の後ろの孔から、ぶしゅっと大が出た。出て行った……。ちらっと見たら、まだ出ていた。下痢っぽい開始だったが、それは次第に固形に変わった。これはもう号泣していいだろう。俺は、泣いた。

「結構出たね」
「っく、ひっく……うわぁぁん、見るなー!」
「さて、もう一回」
「――は?」
「なに?」
「も、もう一回?」
「うん。一回じゃ綺麗にならないからね」
「はぁあああ!? お前バカなの? バカだな? バカだろ!? 無理だ! 出来な――ぐ」

 すると容赦なく三笠が、また俺に浣腸した。ギュッと目を閉じて、俺はその感覚に耐える。眦から涙が零れ落ちていった。

 そしてまた、暫くの時が経った。

「三笠ぁ、三笠ぁ、あ、あお腹痛い、なぁ!」
「しかし以外と綺麗な色だね」
「は?」
「臭いもそんなにしないし。これなら――」
「おい! おいまさか! うんこ味のカレーとカレー味のうんこの比較をするとか言い出すなよ!?」
「――しないよ。食糞の趣味は俺には特別にはない。ただ、そうできるくらいに須藤のことは好きだけど」
「お前今、さらっと告白混ぜてきたけど、さ? あのさ? この状況で言うのか? 空気読めよ!」
「はいはい、ちゃんと最後は溺愛してあげるから――嫌がっても溺愛させてもらうから、ほらそろそろ限界でしょ? 出しなよ」
「うわぁぁああ」

 三笠が俺の腹を押した。鬼過ぎる。俺は、またもや出してしまった……。今度はほぼ水といえる状態の大が、俺の後ろの孔から出て行った……。本当、なんだこれは。興味本位で大スカを読んだのが悪いのか? いいや違う、あれは大スカではない。大スカとはなにか? まさに今の俺のような状況だ――けれども! なにが実践大事だよぉっ!

 その後。
 三度目、四度目と俺は浣腸されては出し、ついに五度目になると完全な水が出てきた。最早涙が乾きはじめ……たのと、ちょっと絶望的なことがあった。俺の排出をじっと見る三笠の理知的な目、見られている事実……ちょっと、本当にちょっとだが、俺はなんと興奮してしまった。さらには……大は昔から俺はすっきりするタイプで、あの出て行く感覚が若干気持ちいいと思うことがあったのだが……それもあって大スカを読もうと思ったというのもあるのだが……五度目を迎えた今、出て行くのが明確に気持ちよかった気がした。最悪である。なんてこった。こんな所で自分の性癖と向き合いたくは無かった。

 三笠は俺の汚物の処理をし、トイレに捨てに言った。そのほかは生ゴミの袋に入れて、超高性能生ゴミ用ダストボックスに捨てていた。俺は虚ろな瞳でそれを見守る。

「さて、本番」
「はっ? まだするのか? お前今、綺麗にしただろ! また汚れる!!」
「そうじゃなく――溺愛の方だよ。今夜は、眠らせないからね」
「へ……?」

 俺の手からネクタイを解いた三笠が、俺の腕を引いた。
 その後の三笠の動きも早く、俺は三笠の私室に引っ張り込まれ、気づくとベッドの上に押し倒されていた。辛うじて羽織っていたシャツのボタンを完全に外されて唖然としている内に、ベッドサイドの上にあったローションを、指に嵌めたゴムの上に垂らした三笠が、俺の中? 内側? なんだ? 孔の中へと、それを挿れてきた。

 指だ! 指が入っちゃってるよ!

 呆然とする内に、ゴムをつけた二本の指先で、俺は内部をぐりっと刺激された。

「ひゃっ!」
「意外と可愛い声出すんだね。ここかぁ、須藤の前立腺」
「ぜ、前立腺? 前立腺って、前立腺か?」
「どういう意味?」
「いやほら、BLで受けが気持ちよくなる場所って言うか」
「そうだね。いっぱい気持ちよくしてあげるから」

 そう言うとトントンと三笠が俺の前立腺を刺激した。そうされる内に、俺の体がピクンと跳ねた。自分の意思ではないから、びっくりした。かつ、実際に気持ちがいい。なんということだ。俺は自分の体の神秘を知った。

 こうしてじっくりと慣らされてから、俺は三笠が奴の巨大なブツにゴムを装着したのを見た。見てしまった。

「な、なぁ? まさか、挿れるのか?」
「ここまできて、それ以外の選択肢って逆にあるの?」
「あああああ!」

 逆に質問しながら三笠が俺に挿入した。ぐっとカリまで挿いってきて、俺が背を反らすと、一息ついてから、三笠がさらに奥へと進めた。あんなに慣らされたのに、俺の内側はギチギチに広げられている。三笠がデカいのか、俺が狭いのかは不明だ。きっと両方だ。

「あっ、ぁ……あ、ハ……ッっ、待って、動かないでくれ……やぁァ」
「ごめん、我慢できそうにない」
「あ、あ、あ」
「っく、須藤のナカ、気持ちいいな」
「ああっ……やっ、そんな奥、挿いらな――やぁああ」

 次第に三笠の動きが速くなっていく。俺は咽び泣いた。だが――若干切ない痛みがあるものの、ぐりっと内側を擦るように動かれると、正直気持ちがいい。気づけば俺のムスコも反応していて、俺は大混乱した。たらたらと先走りが垂れてる。

「あ、ああっ、ン」
「っは、出すよ」
「ん、ぁ……俺も出る。出……んア――!」

 こうして三笠が一際激しく動いた時、俺は射精した。


 ――事後。
 俺は三笠のベッドでぐったりとしている現在、隣で肘をベッドにつき、俺を見ている三笠に対して、目を据わらせた。

「おい」
「どうだった? 実践は」
「……言葉にならねぇよ! そ、それより!」
「うん?」
「お前の本命俺なの?」
「そうだよ?」
「なんで言わねぇんだよ、いや、あのタイミングで言ったんだよ!」
「だってねぇ? せめて愛がある方が、本当は嫌でも、須藤は優しいから耐えられるかなと思って」
「べ、別に嫌じゃなかった……」
「あ、そう? じゃあ明日もやろうね」
「それは嫌!」

 俺が唇を尖らせると、珍しく笑った三笠が、俺の頭を撫でた。優しい手つきだ。

「これから、いっぱい――それこそ溺愛するから、よろしく。ただの同居人じゃなく、恋人として」
「俺の気持ちは聞かないのか?」
「とりあえず言質からと思って。一応聞くよ? もう離さないけど」
「……とりあえず、そ、そう、とりあえず! 嫌ではないけど、一つだけ言っておく」
「なに?」
「クローゼットの中の凶悪なバイブとかを使うとだけは言い出さないでくれ」
「そうだね。須藤が俺の逆鱗に触れてよっぽど怒らせて調教が必要だと判断しない限りは、きちんと同意を取ってから使うよ」
「使うなって言ってんだろうがー!」
「――でも。これからも俺とシてくれる気でいるのが、嬉しいし答えだと思ってる。ありがとう、恋人になってくれて」

 こうして、俺は三笠に丸め込まれたようにも思うが、三笠の恋人となった。
 その内に、俺の方が三笠を意識しっぱなしになり、挙動不審になり、それを隠すべく距離を置こうとしたら、逆鱗に触れてしまったらしく、大人の玩具を使われる日も来るのだが、それはまた別のお話だ。



 ―― 終 ――